44 / 46
邪教との戦い
しおりを挟む
「クルエル様をお守りしろ!」
誰かが言ったのを皮切りに、魔法攻撃が一斉に三人へと飛んでいく。同時に、誰かが召喚したらしいゾンビのようなモンスターたちが距離を詰めていく。
危ない、俺も助けに入らなければ──そう思って身動ぎせど、縄が手へと食い込むばかりだ。
膨れ上がった火炎が攻撃を切り裂く。掻き消えていく炎の向こうで、剣を構えたロイの紅い瞳が真っ直ぐにこちらを見据えていた。
もしや酔いがまだ残っているのか、ロイの目はいつもよりなんだか──据わっている。それと同時に、なにかぎらぎらとした光が宿っていた。
「……うお、どんな魔力してんだよお前……」
「あはは、つよーい。僕も頑張りますね」
引き気味のクレッシタさんの横で、プロタくんは軽やかに飛び出した。燃え盛る炎に苦しむゾンビたちを、次から次へと切り伏せていく。それらはぐしゃりと地に伏せたかと思うと、塵になって消えた。しかし教団側の勢いも負けておらず、詠唱とともに続々と傀儡が襲いかかる。
「うざったいなあ」
冷めた目だ。俺はあの目を見たことがある。初めて会ったとき。故郷で人を殺したと話していたときと、同じ冷酷な瞳で──
「ップロタくんダメ!!」
反射的に叫べば、黒い瞳はいつもの調子に戻った。ふう、と小さくため息をついたのが遠目でもわかる。
「……もう、調子狂う。わかりましたよ、約束ですもんね」
笑って、ゾンビをまた横一文字に切り裂いてから。彼は教団のひとりを、剣の柄頭で気絶させた。……どうやら、殺しまではしないようだ。ふ、と胸をなで下ろしたとき──強烈な違和感が走る。
何か、妙だ。その違和感は──ずっと静かな、教団のリーダーだった。はっとそちらの方を向く。彼は魔導書のようなものを開き、下に描かれている魔法陣が呼応するように薄くぼんやりと光っていた。
「……──るい、む──、く──」
ぶつぶつと何かを呟いている。直感的にまずい、と嫌な予感がした。焦りとともに口を開く。
「みんな、気をつけて!!」
「っははは、もう遅い! いでよ我が下僕!! 冥府の番犬、ケルベロスよ!」
突如、目の前に現れたのは──三つ首の、黒い毛皮を纏った人間よりもふたまわりほど巨大な犬のような獣だった。ぐるる、と低く威嚇する恐ろしい音は、空気を振動させる。
「潰せ!」
指示が飛ぶ。振り上げた前足が、ロイを踏み潰さんと下ろされる。間一髪で避けたが、もし下敷きになっていたら──ぞっとした。
「っおいおい、んだよこのバケモン……!」
ゾンビを倒したクレッシタさんが、ケルベロスへ目を向けて顔を顰めた。
「……──と、すと──、お──……」
横ではまた何か呪文を呟いている。ケルベロスと呼ばれたモンスターへ、禍々しい光が集まっていく。直感的に、魔法で強化しているのだと感じた。彼を止めなければ、勝機は見えない。
どうしよう、どうすれば皆を助けられる?
パニックになりそうな頭を必死に回転させたとき、後ろ手に衝撃が走った。
「っぐ……!!」
教団のひとりが飛ばした魔法攻撃が、流れ弾のように手にあたったらしい。激痛が走り、血が垂れた感触がしたが──好都合だった。手を縛っていた縄が、解ける。
せめて、詠唱を止めれば良いのだ。そうすれば、ケルベロスの強化はされない。椅子から跳ね上がり、背の高い体躯に体当たりをするように飛び込んだ。
「っやめろ!!」
「っへ、ふぁ!?」
存外可愛らしい声が飛び出す。魔導書は床へ転がって離れた。押し倒す形にはなってしまったが、これでもう詠唱はできないだろう。
床を背にした顔は、やっと現状を把握したのか──焦ったものに変わっていく。
「どっ、退け!」
「詠唱するつもりでしょう! 俺はこんなことしかできないけど、絶対退かない!!」
「い、いや、そうじゃ、……うう……!!」
顔を逸らし、苦しそうな声を出している。どうやら効果てきめんのようだ。体重全部をかけて、彼の体を床へ縫い止める。
「……絶対逃がしませんからね」
「~~~ッ!?」
少しでも時間稼ぎができればいい。その間に、ロイたちが周りを片付けてくれることを祈って、彼の体を押さえつけていると──ずんと鈍い音がし、建物が大きく揺れた。
なにかと思いそちらを見ると──黒い巨体が、倒れていて。
修羅のようなロイが、こちらを見ている。
え、俺も殺される?
かけがえのない大切な仲間だが、思わずそんなことを思ってしまうくらいには──その目は、冷たい色を孕んでいた。
誰かが言ったのを皮切りに、魔法攻撃が一斉に三人へと飛んでいく。同時に、誰かが召喚したらしいゾンビのようなモンスターたちが距離を詰めていく。
危ない、俺も助けに入らなければ──そう思って身動ぎせど、縄が手へと食い込むばかりだ。
膨れ上がった火炎が攻撃を切り裂く。掻き消えていく炎の向こうで、剣を構えたロイの紅い瞳が真っ直ぐにこちらを見据えていた。
もしや酔いがまだ残っているのか、ロイの目はいつもよりなんだか──据わっている。それと同時に、なにかぎらぎらとした光が宿っていた。
「……うお、どんな魔力してんだよお前……」
「あはは、つよーい。僕も頑張りますね」
引き気味のクレッシタさんの横で、プロタくんは軽やかに飛び出した。燃え盛る炎に苦しむゾンビたちを、次から次へと切り伏せていく。それらはぐしゃりと地に伏せたかと思うと、塵になって消えた。しかし教団側の勢いも負けておらず、詠唱とともに続々と傀儡が襲いかかる。
「うざったいなあ」
冷めた目だ。俺はあの目を見たことがある。初めて会ったとき。故郷で人を殺したと話していたときと、同じ冷酷な瞳で──
「ップロタくんダメ!!」
反射的に叫べば、黒い瞳はいつもの調子に戻った。ふう、と小さくため息をついたのが遠目でもわかる。
「……もう、調子狂う。わかりましたよ、約束ですもんね」
笑って、ゾンビをまた横一文字に切り裂いてから。彼は教団のひとりを、剣の柄頭で気絶させた。……どうやら、殺しまではしないようだ。ふ、と胸をなで下ろしたとき──強烈な違和感が走る。
何か、妙だ。その違和感は──ずっと静かな、教団のリーダーだった。はっとそちらの方を向く。彼は魔導書のようなものを開き、下に描かれている魔法陣が呼応するように薄くぼんやりと光っていた。
「……──るい、む──、く──」
ぶつぶつと何かを呟いている。直感的にまずい、と嫌な予感がした。焦りとともに口を開く。
「みんな、気をつけて!!」
「っははは、もう遅い! いでよ我が下僕!! 冥府の番犬、ケルベロスよ!」
突如、目の前に現れたのは──三つ首の、黒い毛皮を纏った人間よりもふたまわりほど巨大な犬のような獣だった。ぐるる、と低く威嚇する恐ろしい音は、空気を振動させる。
「潰せ!」
指示が飛ぶ。振り上げた前足が、ロイを踏み潰さんと下ろされる。間一髪で避けたが、もし下敷きになっていたら──ぞっとした。
「っおいおい、んだよこのバケモン……!」
ゾンビを倒したクレッシタさんが、ケルベロスへ目を向けて顔を顰めた。
「……──と、すと──、お──……」
横ではまた何か呪文を呟いている。ケルベロスと呼ばれたモンスターへ、禍々しい光が集まっていく。直感的に、魔法で強化しているのだと感じた。彼を止めなければ、勝機は見えない。
どうしよう、どうすれば皆を助けられる?
パニックになりそうな頭を必死に回転させたとき、後ろ手に衝撃が走った。
「っぐ……!!」
教団のひとりが飛ばした魔法攻撃が、流れ弾のように手にあたったらしい。激痛が走り、血が垂れた感触がしたが──好都合だった。手を縛っていた縄が、解ける。
せめて、詠唱を止めれば良いのだ。そうすれば、ケルベロスの強化はされない。椅子から跳ね上がり、背の高い体躯に体当たりをするように飛び込んだ。
「っやめろ!!」
「っへ、ふぁ!?」
存外可愛らしい声が飛び出す。魔導書は床へ転がって離れた。押し倒す形にはなってしまったが、これでもう詠唱はできないだろう。
床を背にした顔は、やっと現状を把握したのか──焦ったものに変わっていく。
「どっ、退け!」
「詠唱するつもりでしょう! 俺はこんなことしかできないけど、絶対退かない!!」
「い、いや、そうじゃ、……うう……!!」
顔を逸らし、苦しそうな声を出している。どうやら効果てきめんのようだ。体重全部をかけて、彼の体を床へ縫い止める。
「……絶対逃がしませんからね」
「~~~ッ!?」
少しでも時間稼ぎができればいい。その間に、ロイたちが周りを片付けてくれることを祈って、彼の体を押さえつけていると──ずんと鈍い音がし、建物が大きく揺れた。
なにかと思いそちらを見ると──黒い巨体が、倒れていて。
修羅のようなロイが、こちらを見ている。
え、俺も殺される?
かけがえのない大切な仲間だが、思わずそんなことを思ってしまうくらいには──その目は、冷たい色を孕んでいた。
160
お気に入りに追加
728
あなたにおすすめの小説
なんで俺の周りはイケメン高身長が多いんだ!!!!
柑橘
BL
王道詰め合わせ。
ジャンルをお確かめの上お進み下さい。
7/7以降、サブストーリー(土谷虹の隣は決まってる!!!!)を公開しました!!読んでいただけると嬉しいです!
※目線が度々変わります。
※登場人物の紹介が途中から増えるかもです。
※火曜日20:00
金曜日19:00
日曜日17:00更新
影の薄い悪役に転生してしまった僕と大食らい竜公爵様
佐藤 あまり
BL
猫を助けて事故にあい、好きな小説の過去編に出てくる、罪を着せられ処刑される悪役に転生してしまった琉依。
実は猫は神様で、神が死に介入したことで、魂が消えかけていた。
そして急な転生によって前世の事故の状態を一部引き継いでしまったそうで……3日に1度吐血って、本当ですか神様っ
さらには琉依の言動から周りはある死に至る呪いにかかっていると思い━━
前途多難な異世界生活が幕をあける!
※竜公爵とありますが、顔が竜とかそういう感じては無いです。人型です。
異世界転生してハーレム作れる能力を手に入れたのに男しかいない世界だった
藤いろ
BL
好きなキャラが男の娘でショック死した主人公。転生の時に貰った能力は皆が自分を愛し何でも言う事を喜んで聞く「ハーレム」。しかし転生した異世界は男しかいない世界だった。
毎週水曜に更新予定です。
宜しければご感想など頂けたら参考にも励みにもなりますのでよろしくお願いいたします。
神は眷属からの溺愛に気付かない
グランラババー
BL
【ラントの眷属たち×神となる主人公ラント】
「聖女様が降臨されたぞ!!」
から始まる異世界生活。
夢にまでみたファンタジー生活を送れると思いきや、一緒に召喚された母であり聖女である母から不要な存在として捨てられる。
ラントは、せめて聖女の思い通りになることを妨ぐため、必死に生きることに。
彼はもう人と交流するのはこりごりだと思い、聖女に捨てられた山の中で生き残ることにする。
そして、必死に生き残って3年。
人に合わないと生活を送れているものの、流石に度が過ぎる生活は寂しい。
今更ながら、人肌が恋しくなってきた。
よし!眷属を作ろう!!
この物語は、のちに神になるラントが偶然森で出会った青年やラントが助けた子たちも共に世界を巻き込んで、なんやかんやあってラントが愛される物語である。
神になったラントがラントの仲間たちに愛され生活を送ります。ラントの立ち位置は、作者がこの小説を書いている時にハマっている漫画や小説に左右されます。
ファンタジー要素にBLを織り込んでいきます。
のんびりとした物語です。
現在二章更新中。
現在三章作成中。(登場人物も増えて、やっとファンタジー小説感がでてきます。)
人生イージーモードになるはずだった俺!!
抹茶ごはん
BL
平凡な容姿にろくでもない人生を歩み事故死した俺。
前世の記憶を持ったまま転生し、なんと金持ちイケメンのお坊ちゃまになった!!
これはもう人生イージーモード一直線、前世のような思いはするまいと日々邁進するのだが…。
何故か男にばかりモテまくり、厄介な事件には巻き込まれ!?
本作は現実のあらゆる人物、団体、思想及び事件等に関係ございません。あくまでファンタジーとしてお楽しみください。
BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている
青緑三月
BL
主人公は、BLが好きな腐男子
ただ自分は、関わらずに見ているのが好きなだけ
そんな主人公が、BLゲームの世界で
モブになり主人公とキャラのイベントが起こるのを
楽しみにしていた。
だが攻略キャラはいるのに、かんじんの主人公があらわれない……
そんな中、主人公があらわれるのを、まちながら日々を送っているはなし
BL要素は、軽めです。
チャラ男会計目指しました
岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように…………
――――――それを目指して1年3ヶ月
英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた
意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。
※この小説はBL小説です。
苦手な方は見ないようにお願いします。
※コメントでの誹謗中傷はお控えください。
初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。
他サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる