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邪教との戦い

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「クルエル様をお守りしろ!」

 誰かが言ったのを皮切りに、魔法攻撃が一斉に三人へと飛んでいく。同時に、誰かが召喚したらしいゾンビのようなモンスターたちが距離を詰めていく。
 危ない、俺も助けに入らなければ──そう思って身動ぎせど、縄が手へと食い込むばかりだ。

 膨れ上がった火炎が攻撃を切り裂く。掻き消えていく炎の向こうで、剣を構えたロイの紅い瞳が真っ直ぐにこちらを見据えていた。
 もしや酔いがまだ残っているのか、ロイの目はいつもよりなんだか──据わっている。それと同時に、なにかぎらぎらとした光が宿っていた。

「……うお、どんな魔力してんだよお前……」

「あはは、つよーい。僕も頑張りますね」

 引き気味のクレッシタさんの横で、プロタくんは軽やかに飛び出した。燃え盛る炎に苦しむゾンビたちを、次から次へと切り伏せていく。それらはぐしゃりと地に伏せたかと思うと、塵になって消えた。しかし教団側の勢いも負けておらず、詠唱とともに続々と傀儡が襲いかかる。

「うざったいなあ」

 冷めた目だ。俺はあの目を見たことがある。初めて会ったとき。故郷で人を殺したと話していたときと、同じ冷酷な瞳で──

「ップロタくんダメ!!」

 反射的に叫べば、黒い瞳はいつもの調子に戻った。ふう、と小さくため息をついたのが遠目でもわかる。

「……もう、調子狂う。わかりましたよ、約束ですもんね」

 笑って、ゾンビをまた横一文字に切り裂いてから。彼は教団のひとりを、剣の柄頭で気絶させた。……どうやら、殺しまではしないようだ。ふ、と胸をなで下ろしたとき──強烈な違和感が走る。
 何か、妙だ。その違和感は──ずっと静かな、教団のリーダーだった。はっとそちらの方を向く。彼は魔導書のようなものを開き、下に描かれている魔法陣が呼応するように薄くぼんやりと光っていた。

「……──るい、む──、く──」

 ぶつぶつと何かを呟いている。直感的にまずい、と嫌な予感がした。焦りとともに口を開く。

「みんな、気をつけて!!」



「っははは、もう遅い! いでよ我が下僕!! 冥府の番犬、ケルベロスよ!」



 突如、目の前に現れたのは──三つ首の、黒い毛皮を纏った人間よりもふたまわりほど巨大な犬のような獣だった。ぐるる、と低く威嚇する恐ろしい音は、空気を振動させる。

「潰せ!」

 指示が飛ぶ。振り上げた前足が、ロイを踏み潰さんと下ろされる。間一髪で避けたが、もし下敷きになっていたら──ぞっとした。

「っおいおい、んだよこのバケモン……!」

 ゾンビを倒したクレッシタさんが、ケルベロスへ目を向けて顔を顰めた。

「……──と、すと──、お──……」

 横ではまた何か呪文を呟いている。ケルベロスと呼ばれたモンスターへ、禍々しい光が集まっていく。直感的に、魔法で強化しているのだと感じた。彼を止めなければ、勝機は見えない。
 どうしよう、どうすれば皆を助けられる?
 パニックになりそうな頭を必死に回転させたとき、後ろ手に衝撃が走った。

「っぐ……!!」

 教団のひとりが飛ばした魔法攻撃が、流れ弾のように手にあたったらしい。激痛が走り、血が垂れた感触がしたが──好都合だった。手を縛っていた縄が、解ける。


 せめて、詠唱を止めれば良いのだ。そうすれば、ケルベロスの強化はされない。椅子から跳ね上がり、背の高い体躯に体当たりをするように飛び込んだ。

「っやめろ!!」

「っへ、ふぁ!?」

 存外可愛らしい声が飛び出す。魔導書は床へ転がって離れた。押し倒す形にはなってしまったが、これでもう詠唱はできないだろう。
 床を背にした顔は、やっと現状を把握したのか──焦ったものに変わっていく。

「どっ、退け!」

「詠唱するつもりでしょう! 俺はこんなことしかできないけど、絶対退かない!!」

「い、いや、そうじゃ、……うう……!!」

 顔を逸らし、苦しそうな声を出している。どうやら効果てきめんのようだ。体重全部をかけて、彼の体を床へ縫い止める。

「……絶対逃がしませんからね」

「~~~ッ!?」

 少しでも時間稼ぎができればいい。その間に、ロイたちが周りを片付けてくれることを祈って、彼の体を押さえつけていると──ずんと鈍い音がし、建物が大きく揺れた。

 なにかと思いそちらを見ると──黒い巨体が、倒れていて。
 修羅のようなロイが、こちらを見ている。


 え、俺も殺される?


 かけがえのない大切な仲間だが、思わずそんなことを思ってしまうくらいには──その目は、冷たい色を孕んでいた。
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