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訪問者──暴露と幕引き

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 どこかわからない、家の中。そこは、使われてからもう随分と時間が経っているのか──あまり生活感がなく、こざっぱりとしていた。

 俺を抱き抱えたままで、プロタくんはけらけら笑っている。

「あははっ見ましたか、あいつらの顔! 傑作でしたよ!!」

「……プロタ、くん」

「あれ──ああ、ふふ。怒ってます?」

 瞳が眇られる。俺は、わなわなと唇を震わせて──大声を出した。

「相手に!! 無理やり!! こういうことしたらダメ!!」

「っぷ、あははは! 怒ってるかと思ったらそこなんですか!?」

 また、声をあげて笑いだした。今まで育ってきた環境もあるのだろう。俺に執着しすぎて、良くないことまでしてしまっている。それに友人間の距離もわかっていない。唇に、触れるとかは。しないはずだ、絶対に。

「……駄目だよ。勝手に遠くまで連れ去ったりして……」

「別に、そんな遠くまで行ってないです。魔力使いすぎたら疲れちゃいますし」

「そういうことじゃないの。それに、あんな……友だちならしないし……勝手にキス、とか……」

 話している最中、どんどん顔に熱が集まってくるのを感じる。モテるやつとは違って、俺はそういうことに慣れていないんだ。ちくしょう。

「なら、許可を取ればいいんですか? じゃあ──キスしても?」

「っいやちが、友だちはしないんだって!」

「うーん……なら友だちじゃ嫌です。もっと貴方をぐちゃぐちゃに依存させたいし、僕以外見られないようにしたい」

「ひい……」

 引き攣った声が漏れる。どうすればいいんだ、この子は。俺は健全な友人関係を築きたいだけなんだ。

「……ん、あー……来ちゃうか」

 ぽつりと呟いた瞬間。ぐい、と強く体が引かれた。ひゅん、と何かが風を切る音がして──低い声が聞こえた。

「邪魔をしないでくれと、言っただろう」

「ふふ。怖いなあ」

 ──ロイ。彼のものだ。
 酷く冷徹な響きを持っている。プロタくんが居た場所を横切ったそれが、彼の大剣だったことにワンテンポ遅れてから気づいた。

「見つからないように、妨害したんだけどな」

「ああ、だからか。『千里眼』でもはっきり居場所がわからなかったのは」

「それでもバレちゃうかあ」

 片手で腰を抱いたまま。

「エーベルの能力で目星をつけて、カトラさんの人形たちが探してくれた。リュディガーの能力で連れて来るには、魔力が足りなかった」

 淡々と言いながら、大剣を振るう。それを避ける勢いのまま、外へプロタくんと飛び出した。
 なんだか、酷く気が立っているようだ。まるで、獣のような──

「っろ、ロイ! 落ち着いて!!」

 いくら叫んでも、声は届かない。喉が擦切れるほど叫んで、潰れてしまいそうだ。炎を纏ったそれが、プロタくんめがけてまた振られる。

「無駄です。あの人、同属相手だから余計キレてる。本気で殺す気かも」

「は……、どういう……」



「ああ、まだ言ってないんだ。──貴方の相棒も人殺しですよ」



 時が止まったようだった。人を、殺した? 誰よりも優しく、仲間思いな彼が?
 笑いを噛み殺して、プロタくんは顔を覗き込む。

「どういう経緯かは知りませんけど。──っくく、軽蔑しました? 見限ろうと思いましたか? ……なら、あの人と離れて俺とどこかに行きましょうよ。貴方となら面白いはずだから」

 耳から入り、脳を侵すように言葉がまとわりつく。

 わからない。正直に言えば、驚きはした。しかし、それだけで判断するのは──軽率に思えた。もっと事情をきちんと聞くこともしないまま、プロタくんのところへ行くなんて。きっと、どちらにも不誠実だ。
 そんな俺は、とんだ能天気野郎なのだろうか。だけどそれでも構わなかった。重苦しく、口を開く。


「……何があったのかは、わからないから。俺は、相棒の話を聞いてから判断したいよ」


 プロタくんだって、追い詰められてそうしたでしょう。

 そう言えば、驚くように目を見開いて。呆れの滲む声で続けた。

「……ここまで来ると、お人好しも怖いな。だから面白いんですけど」

 はあ。
 小さくため息をついて、プロタくんは「降参です」と呟いた。攻撃を避けるうちに気が付けば、木を登って高所に居たようだ。


「おーい、ロイさーん。この人、ぜんっぜん靡かないから一旦諦めまーす」


 ぽい。

 投げやりな言葉とともに訪れたのは、浮遊感。

「っお、落ち……!! 死……!!」

「ッユウト!!」

 死ぬ。もうだめだこれ。

 固く目をつぶって覚悟を決めていれば──抱きとめられた。恐る恐る目を開ければ、ロイが大剣を放り出して受け止めてくれていたらしい。

 酷く狼狽した、紅い瞳と目が合う。



『貴方の相棒も人殺しですよ』



 脳内で、プロタくんの声がリピートした。

「……ロイ」

 彼には、俺に話してない過去があるらしい。だけど、無理に聞き出そうとするのは無神経だろう。いつか、彼が話そうと思ってくれたら。話してくれなくても、それでいい。彼の友人でいられたら、俺は満足なのだから。


「俺は、どんなことがあっても離れないよ」


「……ユウト、それは……」

「……それだけだから、ね」

 今は、いいのだ。微笑みかけると、泣き出す子どものような顔で、唇を一文字に結んでいた。


 ***

「いやあ、お騒がせしました。とりあえず満足したんで、もうしないし許してくださいよ」

 カトラさんのアトリエの中。警戒した視線をいくつも向けられながら、プロタくんはへらりと笑った。

「ここ、貴方の家とかですよね? すみませんでした、ああ……俺はプロタといいます」

 握手を求めて、手を差し出す。カトラさんは、物言いたげに見下ろしてから──覚悟したようにその手を取り、眉間の皺を深くした。

「……貴方、ユウトのこと……上手くいったら監禁しようとか思ってるの」

「はい」

 なんて。

「しかも、その内心をスキルで隠そうともしないの」

「ふふ、はい。あえて、俺の本気度を知らせておこうかなと」

「王都から騎士団呼ぼうよ!! あの有望そうな子ならすぐ動くから!!」

「やはり一度痛い目を見せた方がいいか」

 エーベルさんが俺を抱きしめたまま叫び、リュディガーさんが顔を顰める。そして、ロイは──また剣に手をかけようとしていた。

 ……なんやかんや、一件落着、なのだろうか?

 がやがや騒がしくなったアトリエの中、その賑やかさに俺は人知れず息をついた。
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