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ダークエルフの双子②

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「簡単に言えば──君は、私たちみたいな忌み者にだって優しくしてくれる人だから」

「……忌み者?」

 不穏な単語。対面へ座るふたりへ、思わず繰り返していた。それに、優しくしてくれる、だなんて。いったい、彼らは何を根拠にしてそう確信しているのだろうか。

「エルフとダークエルフはわかるか」

「ええと……そういう種族がいることくらいは」

 弟さんに問われ、頷く。ファンタジーもので、よく見るものの通りなら。多少──いや、ろくな知識は無いけれど、存在くらいならわかる。
 答えれば、そうか、と弟さんが頷いて口を開く。

「どちらもエルフ属に所属しているが──俺たちダークエルフは希少だから、名称を分けてつけられた。加えて長命で、比較的高度な魔法を使えるな。エルフは光魔法に特化し、ダークエルフは闇魔法に特化しているのが大きな違いだ」

「エルフは色白だけどダークエルフは褐色なのも大きいね~」

「なるほど……」

 彼らは、エルフの中でも特別な存在らしい。

「俺たちダークエルフは古臭いエルフには嫌われているんだ。災いを引き起こすだのなんだので散々な言われようでな。全て謂れもない流言飛語だが」

 ……酷い話だ。元の世界でもそういうことは遠い国であったようだが──異世界でもそれは変わらないらしい。
 重苦しい表情を浮かべて、彼は俺の目を真っ直ぐ見つめた。


「とうとうふたつの勢力がぶつかった。とは言っても小さな村同士の抗争だが、……当然、エルフの圧勝だったさ。向こうからいきなり仕掛けてきたのだからな」


「で、私たち兄弟以外は誰も生き残らなかったんだ」


「そんな……」

 言葉を失う。凄惨なそれに、返す言葉も見つからなくて。
 どうして──異世界はこうも、世知辛いのだろう。なまじっか、魔法やスキルなんてものがあるせいだろうか? もっと夢がいっぱいで、理想通りで。みんなが幸せに暮らせる場所ではないのか。
 プロタくんのこともあって、自分の中の生ぬるい幻想ががらがらと崩れていく音が聞こえた。



「いっそのこととエルフを皆殺しにする計画を練っていたところで見つけたのが、悠斗。お前だ」



「みっ」

 聞き間違いでは、ないだろう。
 間抜けな反応を返した俺へ、お兄さんはにこりと微笑んで。また、何も無い空間から大きな鏡を生み出した。

「皆殺しにしたって良い方法が思いつかない。だから、私のスキル──『千里眼』でこの鏡に向こうの世界を映し出して見ていたんだ。弟のスキルで向こうにあるのを持ってくるのはかなり魔力の消費が激しいから、上手く技術を使えないかと思ってね」

 つまりは──文明の発達した元の世界から、流用できる技術を探していたのだ。彼が持っているらしいスキルで、俺が住んでいた世界を映し出して。
 しかし今、鏡面は酷く曇っていて、周りの風景すら満足に映さない。その様子に、彼にスキルを使う意思が無ければ元の世界は見られないのだろうとわかった。

「まあ、それもいつの間にか、お前を見るためにスキルを使うようになっていた」

「……なにがそんなに……俺なんかが良かったんですか」

「言ったでしょう。優しくて、平凡で、非凡だから。それだけ」

 言い切って、笑う。それだけ。探るようにふたりの表情を見つめても、本当に他意は無いようで。

「結局のところ、愛されたかったんだよね。愛に飢えて、飢えて、飢えて……それを奪った奴らを殺しちゃおうってなったから」

「兄貴も言ったが──お前は平凡だが、見ていて飽きなかった。その甘さが、確かな優しさが、俺たちを惹き付けて止まなかったからだ」

「ねえ、ここで暮らそう? お願い……君から愛を貰えれば、酷いことなんてしないから」

「……悠斗、お前に愛して欲しいんだ。俺たちを、救ってくれないか」

 ふたりから次々とかけられる言葉。その響きは、切実で。迷子になった子どものようで。俺より何年も、何十年も生きているはずなのに、幼子を見ているようだった。
 選択を、迫られる。
 緊張で早くなる鼓動と、上手く回らない頭。カラカラに乾いた喉。唾を飲んで、口を開いた。



「……貴方たちの境遇は、すごく、聞いているだけで辛いです。どんなに苦労してきたのか、想像もできないほど」



「けど……俺と旅をしたいって言ってくれる友だちを裏切ることはできません。だからごめんなさい、ここにはいられません」
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