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ダークエルフの双子①
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目の前にあったのは、大きな家。モーリス家に勝るとも劣らない、豪邸だ。周りはひっそりとしていて、王都の喧騒からは隔絶されたようだ。
俺を連れ去った張本人は、柔らかい笑みを崩さず口を開いた。
「ああ、こんな悠長にしていては弟が怖いな。独り占めするなって怒鳴られてしまう」
「おとうと、」
「うん、君を呼ぶのに協力してくれたんだ。見つける仕事は私が、膨大な魔力を使って干渉して連れてくる仕事は弟が。反動でしばらく動けなくなっちゃったけど」
彼ひとりの仕業ではなかったのか。ぽかんとする俺を見てまた笑ってから、彼は扉に手をかけた。
「ただいまー。今帰ったよ」
「悠斗!!」
名を呼ぶ低い声。目にも留まらぬ速度で飛びついてきた長駆に俺は固く抱き締められていた。回る男らしい腕に篭もる力は強く、決して離すまいという意思が感じられる。
「……っと、熱烈だね。兄の出迎えより先とは」
「悠斗、本物の悠斗か……! ああ!」
この人が、弟さんだろうか。抱きつかれているため、あまり容貌はわからないが──精悍な体つきは線が細い兄とは正反対だ。出会い頭に抱きついてくる点は同じだけれど。
俺は腕を回すわけにもいかず、みっともなくわたわたと慌てながら抗議した。
「うわわわわ、あ、あの……!」
「ああ、すまん……苦しいな。嬉しかったんだ、許してくれ」
力は緩めても、離されることはない。
「体調は? まだあんまり良くなかったでしょ」
「もう問題無い。ポーションも飲んだし、魔力も完全に回復した」
「うーん、体力バカだねぇ」
腕の中で、思考回路が停止しながら応酬を聞く。弟さんは、明朗とした声に期待と喜びを滲ませながらまた言葉を続けた。
「それに、悠斗がこれからここで生活するというのにおちおち寝てもいられない!」
「えっ」
今なんて。
「生活するって、え? 俺がここに住むってこと、ですか?」
訥々とした調子で疑問符を連ねると、驚いた様子で弟さんが絡めた腕を解く。助かった。ずっと抱きつかれていては、緊張で心臓が持たない。
「……兄貴、説明をしていないのか」
「しようと思ったんだけどねぇ。お喋りしすぎちゃったから帰ってからにすることにしたんだよね」
「……予想はしていたがな」
はあ。
呆れを孕んだため息が落ちる。しかしそこには、とうに慣れた、というような感情も感じ取れた。
「予想してたんですか」
「昔からこうなんだ。こういうところはポンコツでな」
「はは、実の双子のお兄様にそれ言う?」
気にした様子もなく、へらりと笑った。
双子、なのか。なんというか──タイプが違うため、そうは見えなかった。二卵性双生児、というやつだろう。……詳しくはないからわからないけど。
「じゃあ、まずは……うん、なんで君を連れてきたかってことからかな?」
立ち話もなんだし、少し座ろうか。
そう言った兄へ頷き──俺は足取りがどこか軽い弟さんに手を引かれるまま、家の中へと足を踏み入れたのだった。
俺を連れ去った張本人は、柔らかい笑みを崩さず口を開いた。
「ああ、こんな悠長にしていては弟が怖いな。独り占めするなって怒鳴られてしまう」
「おとうと、」
「うん、君を呼ぶのに協力してくれたんだ。見つける仕事は私が、膨大な魔力を使って干渉して連れてくる仕事は弟が。反動でしばらく動けなくなっちゃったけど」
彼ひとりの仕業ではなかったのか。ぽかんとする俺を見てまた笑ってから、彼は扉に手をかけた。
「ただいまー。今帰ったよ」
「悠斗!!」
名を呼ぶ低い声。目にも留まらぬ速度で飛びついてきた長駆に俺は固く抱き締められていた。回る男らしい腕に篭もる力は強く、決して離すまいという意思が感じられる。
「……っと、熱烈だね。兄の出迎えより先とは」
「悠斗、本物の悠斗か……! ああ!」
この人が、弟さんだろうか。抱きつかれているため、あまり容貌はわからないが──精悍な体つきは線が細い兄とは正反対だ。出会い頭に抱きついてくる点は同じだけれど。
俺は腕を回すわけにもいかず、みっともなくわたわたと慌てながら抗議した。
「うわわわわ、あ、あの……!」
「ああ、すまん……苦しいな。嬉しかったんだ、許してくれ」
力は緩めても、離されることはない。
「体調は? まだあんまり良くなかったでしょ」
「もう問題無い。ポーションも飲んだし、魔力も完全に回復した」
「うーん、体力バカだねぇ」
腕の中で、思考回路が停止しながら応酬を聞く。弟さんは、明朗とした声に期待と喜びを滲ませながらまた言葉を続けた。
「それに、悠斗がこれからここで生活するというのにおちおち寝てもいられない!」
「えっ」
今なんて。
「生活するって、え? 俺がここに住むってこと、ですか?」
訥々とした調子で疑問符を連ねると、驚いた様子で弟さんが絡めた腕を解く。助かった。ずっと抱きつかれていては、緊張で心臓が持たない。
「……兄貴、説明をしていないのか」
「しようと思ったんだけどねぇ。お喋りしすぎちゃったから帰ってからにすることにしたんだよね」
「……予想はしていたがな」
はあ。
呆れを孕んだため息が落ちる。しかしそこには、とうに慣れた、というような感情も感じ取れた。
「予想してたんですか」
「昔からこうなんだ。こういうところはポンコツでな」
「はは、実の双子のお兄様にそれ言う?」
気にした様子もなく、へらりと笑った。
双子、なのか。なんというか──タイプが違うため、そうは見えなかった。二卵性双生児、というやつだろう。……詳しくはないからわからないけど。
「じゃあ、まずは……うん、なんで君を連れてきたかってことからかな?」
立ち話もなんだし、少し座ろうか。
そう言った兄へ頷き──俺は足取りがどこか軽い弟さんに手を引かれるまま、家の中へと足を踏み入れたのだった。
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