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夏だ!遊園地だ!⑤
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絶叫して、笑い声をあげて、広いパーク内を満喫していれば──とうに、もう日は暮れ始めていた。最近、一日が終わってしまうのが早い。それは、彼らと過ごす時間がどんなものよりも充実して思えるからだろうか。
手を取って、楓真が笑う。
「観覧車乗ろーよ」
「……うん、いいな」
帰る前には、うってつけだろう。ゲートに向かい始めた人々の流れと逆向きに、俺たちは観覧車の方向へと向かった。あっという間な愛おしい時間を、少しでも延ばすために。
「お次のお客様どうぞー」
回ってきたのは、やたらとハートがあしらわれたピンク色のゴンドラだった。……これは、男四人でのるものでは無いんじゃないのか。
「……これカップルが乗るやつじゃない?」
「あははは! いいじゃん、乗ろ乗ろ!」
「うーん。じゃあ、俺と茂部くんが付き合ってるっていう設定でいく?」
「なんでですか。普通に乗ればいいでしょう」
陽真くんがため息混じりに軽くいなす。メリーゴーランドのときといい、優真さんはナチュラルにそういうことを言う癖があるようだ。……どう反応すればいいのか、こっちが勝手に気恥ずかしくなってしまう。まあ──反応するもなにも、笑って流せればいいのだろうが。
ゆっくりと。しかし確実に、地上からゴンドラが離れていく。下を見れば、人の影はもう顔が見られないほどに小さくなっていた。
地平線の向こうで、夕日が沈んでいく。窓に手を添えた、対面に座る楓真が感嘆の息を漏らした。柔い茜の光が手の縁どって、彩る。
「綺麗……」
「だね。久々に乗ったけど、こんなに見晴らし良かったんだ」
「小学生のとき以来ですね」
俺も、それくらいだろうか。観覧車なんて、なかなか乗ろうと思わないから。陽真くんの口ぶりからして、小学生のときも三人で乗っていたのかもしれない。彼ら兄弟は、ずっと仲が良いから。
窓の外へ目をやったまま、楓真は静かに言葉を紡いだ。
「もう、夏休みも終わるね」
「……うん」
嫌だ、と思ってしまう。駄目だ。なにかがひとつ終わる度に、こうして憂鬱になってしまうから。……だが学校が始まれば、文化祭だってすぐにやってくる。彼らと学校のイベントを楽しめる機会もあるのだ。それを思えば、落ちる気持ちも少しは晴れる気がした。
「受験もあるし、忙しくなるだろうなあ」
「そうですね。僕も兄さんと同じところに入れるよう、今のうちから頑張らないと……」
「ふたりともすごいなあ。はー……俺ももっと勉強しよ」
俺の隣に座る優真さんが呟いた言葉を皮切りに、三人が勉強の話を始める。俺も当然、他人事ではなくて。
そうだ。それに──この夏休みで、ひとつ目標ができた。彼らのように、とはいかないかもしれないが、彼らに僅かでも近づきたい。だから、目指す大学のハードルをひとつ上げるのだ。少し、いやかなり厳しいだろうが、隣に居ても胸を張れるようになりたい。今は、それくらいしか方法が思いつかないから。
「──俺も……」
ぽつりと発せば、三人の視線がこちらを向いた。
「……優真さんを見習って、もう少し頑張ろうと思います。あの……楓真と陽真くん、後で勉強とか付き合ってくれないかな」
「……! 勿論だよ、そんなの」
「はい。いつでも手伝いますよ」
優しい友人たちだ。快い返事に頬を緩ませていると、ふと頭に手が乗せられる感触がした。
「よしよし」
「……へ」
優真さんの声。横を見れば、優しい顔をした彼が俺の頭を撫でている。
「茂部くん、頑張ってるから。偉いね」
そんな、褒められるようなことなどしていない。本腰を入れて頑張るのはこれからの話で、あくまでハードルを上げただけだ。慌てて口を開く。
「も、目標をちょっと上げたくらいですよ。まだそれくらいしかしてなくて……」
「でも、それもなかなかできないよ。すごい」
手放しの褒め言葉に、言葉を返せない。
「朝は断られちゃったけど、撫でたくなっちゃった」
ああ。朝、そういえば弟たちの頭を撫でていたっけ。まるで俺も家族の一員になったようで、なんだか胸がむず痒い。
「……う、ええと……あはは。なんか、やっぱり照れますね……」
笑ってなんとか言葉を発する。ふと手の動きが止まったかと思うと──
「……なにそれ、可愛い!」
感極まったように彼が叫んだ。わしゃ、と髪を搔き撫でられる。
「可愛くはないです!!」
「いーや、可愛いの! お祭りのとき言ったでしょ、もうこれからは誤解が無いように言葉にして伝えるからって! 茂部くんは可愛い!」
なんだこれ。もしかして俺、弟たちと同じような扱いを受けているのか? ……いや、まさか。それは流石におこがましい。
なんだこの時間は。俺はどんな顔をすればいいんだ。それ以上に、どうして俺は──可愛いと言われて少し嬉しいんだ!!
顔が赤くなっているのが自分でもわかる。それに気づいているのかそうではないのか、優真さんは撫でる手を止めない。対面の楓真たちに助けを求めるように視線をやれば──
「俺も! 俺も撫でさせて!」
「……僕も撫でていいですか」
ふたりとも、うず、と手をこちらへ伸ばしている。
楓真はともかく──陽真くん、君もなのか。兄弟が楽しそうだから混ざりたくなったのだろうか。
ものすごく、恥ずかしい。……けど、それ以上に、嬉しい。
ゴンドラが地上に戻るまで。八乙女兄弟から頭を撫でられて過ごすという、謎の時間を過ごすことになったのだった。
かくして夏休みは、幕を閉じた。ひと夏の様々な波乱を巻き起こして。
最後の日。俺は──こっそり撮っていた皆との写真を見返して、寂しくも幸福に満ちる眠りについた。明日から戻る日常に、愛おしさを覚えながら。
手を取って、楓真が笑う。
「観覧車乗ろーよ」
「……うん、いいな」
帰る前には、うってつけだろう。ゲートに向かい始めた人々の流れと逆向きに、俺たちは観覧車の方向へと向かった。あっという間な愛おしい時間を、少しでも延ばすために。
「お次のお客様どうぞー」
回ってきたのは、やたらとハートがあしらわれたピンク色のゴンドラだった。……これは、男四人でのるものでは無いんじゃないのか。
「……これカップルが乗るやつじゃない?」
「あははは! いいじゃん、乗ろ乗ろ!」
「うーん。じゃあ、俺と茂部くんが付き合ってるっていう設定でいく?」
「なんでですか。普通に乗ればいいでしょう」
陽真くんがため息混じりに軽くいなす。メリーゴーランドのときといい、優真さんはナチュラルにそういうことを言う癖があるようだ。……どう反応すればいいのか、こっちが勝手に気恥ずかしくなってしまう。まあ──反応するもなにも、笑って流せればいいのだろうが。
ゆっくりと。しかし確実に、地上からゴンドラが離れていく。下を見れば、人の影はもう顔が見られないほどに小さくなっていた。
地平線の向こうで、夕日が沈んでいく。窓に手を添えた、対面に座る楓真が感嘆の息を漏らした。柔い茜の光が手の縁どって、彩る。
「綺麗……」
「だね。久々に乗ったけど、こんなに見晴らし良かったんだ」
「小学生のとき以来ですね」
俺も、それくらいだろうか。観覧車なんて、なかなか乗ろうと思わないから。陽真くんの口ぶりからして、小学生のときも三人で乗っていたのかもしれない。彼ら兄弟は、ずっと仲が良いから。
窓の外へ目をやったまま、楓真は静かに言葉を紡いだ。
「もう、夏休みも終わるね」
「……うん」
嫌だ、と思ってしまう。駄目だ。なにかがひとつ終わる度に、こうして憂鬱になってしまうから。……だが学校が始まれば、文化祭だってすぐにやってくる。彼らと学校のイベントを楽しめる機会もあるのだ。それを思えば、落ちる気持ちも少しは晴れる気がした。
「受験もあるし、忙しくなるだろうなあ」
「そうですね。僕も兄さんと同じところに入れるよう、今のうちから頑張らないと……」
「ふたりともすごいなあ。はー……俺ももっと勉強しよ」
俺の隣に座る優真さんが呟いた言葉を皮切りに、三人が勉強の話を始める。俺も当然、他人事ではなくて。
そうだ。それに──この夏休みで、ひとつ目標ができた。彼らのように、とはいかないかもしれないが、彼らに僅かでも近づきたい。だから、目指す大学のハードルをひとつ上げるのだ。少し、いやかなり厳しいだろうが、隣に居ても胸を張れるようになりたい。今は、それくらいしか方法が思いつかないから。
「──俺も……」
ぽつりと発せば、三人の視線がこちらを向いた。
「……優真さんを見習って、もう少し頑張ろうと思います。あの……楓真と陽真くん、後で勉強とか付き合ってくれないかな」
「……! 勿論だよ、そんなの」
「はい。いつでも手伝いますよ」
優しい友人たちだ。快い返事に頬を緩ませていると、ふと頭に手が乗せられる感触がした。
「よしよし」
「……へ」
優真さんの声。横を見れば、優しい顔をした彼が俺の頭を撫でている。
「茂部くん、頑張ってるから。偉いね」
そんな、褒められるようなことなどしていない。本腰を入れて頑張るのはこれからの話で、あくまでハードルを上げただけだ。慌てて口を開く。
「も、目標をちょっと上げたくらいですよ。まだそれくらいしかしてなくて……」
「でも、それもなかなかできないよ。すごい」
手放しの褒め言葉に、言葉を返せない。
「朝は断られちゃったけど、撫でたくなっちゃった」
ああ。朝、そういえば弟たちの頭を撫でていたっけ。まるで俺も家族の一員になったようで、なんだか胸がむず痒い。
「……う、ええと……あはは。なんか、やっぱり照れますね……」
笑ってなんとか言葉を発する。ふと手の動きが止まったかと思うと──
「……なにそれ、可愛い!」
感極まったように彼が叫んだ。わしゃ、と髪を搔き撫でられる。
「可愛くはないです!!」
「いーや、可愛いの! お祭りのとき言ったでしょ、もうこれからは誤解が無いように言葉にして伝えるからって! 茂部くんは可愛い!」
なんだこれ。もしかして俺、弟たちと同じような扱いを受けているのか? ……いや、まさか。それは流石におこがましい。
なんだこの時間は。俺はどんな顔をすればいいんだ。それ以上に、どうして俺は──可愛いと言われて少し嬉しいんだ!!
顔が赤くなっているのが自分でもわかる。それに気づいているのかそうではないのか、優真さんは撫でる手を止めない。対面の楓真たちに助けを求めるように視線をやれば──
「俺も! 俺も撫でさせて!」
「……僕も撫でていいですか」
ふたりとも、うず、と手をこちらへ伸ばしている。
楓真はともかく──陽真くん、君もなのか。兄弟が楽しそうだから混ざりたくなったのだろうか。
ものすごく、恥ずかしい。……けど、それ以上に、嬉しい。
ゴンドラが地上に戻るまで。八乙女兄弟から頭を撫でられて過ごすという、謎の時間を過ごすことになったのだった。
かくして夏休みは、幕を閉じた。ひと夏の様々な波乱を巻き起こして。
最後の日。俺は──こっそり撮っていた皆との写真を見返して、寂しくも幸福に満ちる眠りについた。明日から戻る日常に、愛おしさを覚えながら。
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