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夏だ!祭りだ!⑤
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「花火、綺麗だね」
赤、青、緑、黄色。空に咲く大輪の華。極彩色のそれに、俺たちは揃って目を奪われる。楓真の言う通り本当に、綺麗だ。毎年やって欲しいくらいだが──そうでないからこそ、希少で美しく思えるのかもしれない。
彩っては、ぱらぱらと消えていく。数秒遅れて、どん、とどこまでも深い振動が鼓膜と腹の奥を揺らした。代わる代わる咲くそれは切ないが、酷く晴れやかな気持ちで見ることができるのは──彼ら兄弟との関係をようやく認識することができたから。
ふと、手を掴まれる。そちらに視線を寄越せば、楓真がなんとも言えぬ表情で俺の手をとっていた。なんだか、彼の手のひらは俺のものよりも熱いような気がする。
浴衣姿のせいだろうか。華に照らされたその顔は、いつもよりもずっと大人びて見えた。夜風が頬を撫でて、彼の髪を揺らす。どう、したのだろう。僅かな緊張が走り、押し黙ってその口から発される言葉を待った。
「……ねえ、茂部くん。俺とも、改めてよろしくね」
──え。
真剣な顔をしているから、何かと思えば、兄弟に倣ってか改めての挨拶だった。警戒を解く。もう彼の兄弟たちに怒られる可能性も考えなくていいのだ。
「はは、なんだよいきなり」
「兄さんたち見てたら、なんか焦っちゃった。……茂部くんが、取られちゃう気がして」
「ええ?」
すごいことを考えるな。
彼らと仲良くはしても、兄弟に俺が取られるなんて、ありえないことなのに。楓真とは変わらず遊んでいくし、関わる機会だって減らすつもりは当然無い。だって、親友なのだから。
「別に、取られもしないし。変な心配するなよ」
安心させるために、言い聞かせるような口調で話しかける。楓真は──俺の目を、数秒見つめて。視線を落とす。手を寄せるように、両手で包み込んだ。
「……うん。あのね、もちろんふたりとも仲良くして欲しいんだけど……」
言い淀んでから。覚悟を決めたようにまた視線を上げ、目を合わせて口を開く。いつもよりも、凛とした声色と表情で。言葉を失う。
大きな瞳には、空に咲いた牡丹と、間抜けな顔の俺が映り込んでいた。
「俺とも、仲良くしてね。もっともっと、茂部くんとずっと一緒に居たいから」
「……当たり前、だろ」
あまりにストレートな物言いと、見たことのない表情に。顔に熱が集まりそうになる。
「っはは、あー、暑いしかき氷でも買ってこようかな。ええと……すぐそこだし、行ってくる!」
ぱっと手を離して、踵を返す。心臓がうるさい。楓真の顔は、よく見ることができなかった。いつも好意を口にしてはくれるけれど──あんなに、真剣に伝えられたことはなかったから。
屋台へ向かう。自然と早足になる。早く、かき氷が食べたい。頭が痛くなるほどにかき込んで、この熱を冷まして欲しい。まとわりつく熱気とはまた別に。胸から込み上げる熱さが、体を火照らせて仕方がなかった。
数口食べて、すっかり頭も冷えて。彼らのいたところに戻った頃。
「ひと口ちょうだい?」
「……僕も、食べたいです」
「ああ、はいどうぞ──え、なんで口を開けて……」
「食べさせて。その方が楽だから、ね」
「……仲のいい間柄なら、普通でしょう?」
今度は雛鳥のように口を開けたふたりに慌てさせられるのは、別の話となる。
***
「随分積極的だね?」
「ふたりにばっかいいとこ見せらんないでしょ。たまにはしっかりしてるとこ見せないと」
「……ようやくスタートラインに立った感じはありますが」
「大丈夫大丈夫。まあ……ダメージを負わなかったわけではないけど」
「遊園地も行くし、チャンスはあるし。いっぱい楽しもうね!」
「……はい!」
赤、青、緑、黄色。空に咲く大輪の華。極彩色のそれに、俺たちは揃って目を奪われる。楓真の言う通り本当に、綺麗だ。毎年やって欲しいくらいだが──そうでないからこそ、希少で美しく思えるのかもしれない。
彩っては、ぱらぱらと消えていく。数秒遅れて、どん、とどこまでも深い振動が鼓膜と腹の奥を揺らした。代わる代わる咲くそれは切ないが、酷く晴れやかな気持ちで見ることができるのは──彼ら兄弟との関係をようやく認識することができたから。
ふと、手を掴まれる。そちらに視線を寄越せば、楓真がなんとも言えぬ表情で俺の手をとっていた。なんだか、彼の手のひらは俺のものよりも熱いような気がする。
浴衣姿のせいだろうか。華に照らされたその顔は、いつもよりもずっと大人びて見えた。夜風が頬を撫でて、彼の髪を揺らす。どう、したのだろう。僅かな緊張が走り、押し黙ってその口から発される言葉を待った。
「……ねえ、茂部くん。俺とも、改めてよろしくね」
──え。
真剣な顔をしているから、何かと思えば、兄弟に倣ってか改めての挨拶だった。警戒を解く。もう彼の兄弟たちに怒られる可能性も考えなくていいのだ。
「はは、なんだよいきなり」
「兄さんたち見てたら、なんか焦っちゃった。……茂部くんが、取られちゃう気がして」
「ええ?」
すごいことを考えるな。
彼らと仲良くはしても、兄弟に俺が取られるなんて、ありえないことなのに。楓真とは変わらず遊んでいくし、関わる機会だって減らすつもりは当然無い。だって、親友なのだから。
「別に、取られもしないし。変な心配するなよ」
安心させるために、言い聞かせるような口調で話しかける。楓真は──俺の目を、数秒見つめて。視線を落とす。手を寄せるように、両手で包み込んだ。
「……うん。あのね、もちろんふたりとも仲良くして欲しいんだけど……」
言い淀んでから。覚悟を決めたようにまた視線を上げ、目を合わせて口を開く。いつもよりも、凛とした声色と表情で。言葉を失う。
大きな瞳には、空に咲いた牡丹と、間抜けな顔の俺が映り込んでいた。
「俺とも、仲良くしてね。もっともっと、茂部くんとずっと一緒に居たいから」
「……当たり前、だろ」
あまりにストレートな物言いと、見たことのない表情に。顔に熱が集まりそうになる。
「っはは、あー、暑いしかき氷でも買ってこようかな。ええと……すぐそこだし、行ってくる!」
ぱっと手を離して、踵を返す。心臓がうるさい。楓真の顔は、よく見ることができなかった。いつも好意を口にしてはくれるけれど──あんなに、真剣に伝えられたことはなかったから。
屋台へ向かう。自然と早足になる。早く、かき氷が食べたい。頭が痛くなるほどにかき込んで、この熱を冷まして欲しい。まとわりつく熱気とはまた別に。胸から込み上げる熱さが、体を火照らせて仕方がなかった。
数口食べて、すっかり頭も冷えて。彼らのいたところに戻った頃。
「ひと口ちょうだい?」
「……僕も、食べたいです」
「ああ、はいどうぞ──え、なんで口を開けて……」
「食べさせて。その方が楽だから、ね」
「……仲のいい間柄なら、普通でしょう?」
今度は雛鳥のように口を開けたふたりに慌てさせられるのは、別の話となる。
***
「随分積極的だね?」
「ふたりにばっかいいとこ見せらんないでしょ。たまにはしっかりしてるとこ見せないと」
「……ようやくスタートラインに立った感じはありますが」
「大丈夫大丈夫。まあ……ダメージを負わなかったわけではないけど」
「遊園地も行くし、チャンスはあるし。いっぱい楽しもうね!」
「……はい!」
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