2 / 26
お泊まり会・序章
しおりを挟む
「あ、あのさ……茂部くんがよければ、なんだけど……」
昼食中。なんだか今日はそわそわしている楓真に疑問を抱いていると、嚥下した後におずおずと口を開いた。
「うん。どうした」
弁当を咀嚼しながら続きを促す。どこか覚悟を決めたような表情で──彼が口を開く。
「次の休み、俺の家でお泊まり会しない……?」
ごくり。
飲み込んでから、言葉を反芻する。お泊まり。お泊まり──楓真の、家で。
それが意味するものを理解してから──脳天気な俺と、危機感の強い俺が頭の中で激しい言い争いを始めた。
友だちの家に泊まるなんて最高じゃん。楓真とゲームとか深夜までやって、映画とか見るのもいいよな! それでめちゃくちゃ夜更かししたあと雑魚寝するのも楽しいだろうし、アイスとかめっちゃ食うのもテンション上がる!
いや馬鹿か。楓真の家に泊まってみろ、そこに誰が居るのかわかってるのか。あの最恐のブラコン兄弟が同じ屋根の下にいるあんだぞ。もしかしたらよりいっそう警戒される。いやそれだけならまだいい、最悪その場で殺されるぞ。
過ぎった最悪の想像に、さすがに無いとは思いつつ。やはり、あの兄弟たちから余計に目の敵にされるのは辛い。
期待の混じる目でこちらを見つめる楓真へ、なにか断るのにそれらしい理由はないかと言葉を選びながら口を開いた。
「あー、楽しそうだけど……ほら、そっちのご家族とか迷惑に思ったりしない? うるさくしちゃうかもだし」
「ううん! 泊まる日に父さんも母さんも家空けてくれるらしいし、騒いでも大丈夫だよ!」
そうか。なるほど。でもご両親以外に迷惑に思う人がいるんじゃないか。
とも言えず、あー、だの、うー、だの口をもごもごさせていると、楓真は視線を伏せた。そして、ごめん、と小さな声で言ったかと思えば。
「やっぱり、困らせちゃったかな」
「なわけないって!! 迷惑じゃないなら行きたい!! いつにする!?」
どこまでも親友に甘い自分の行動を自覚したのは──花が綻んだような笑顔を前に、安堵を覚えた後だった。
***
当日。ついに、その日はやって来た。やって来て、しまった。
「なんやかんや、来るのは初めてだな……」
学校帰り、俺の家に楓真が来たことは何度もあったけれど。迎えに行くよとは言われたが、そこまでさせると「なに余計な手間かけさせてるの?」と兄弟に怒られそうなので断った。そのため教えられた道を、歩んでいたのだが──
「……え、ここ?」
その家の大きさに、目を丸くした。
小物などで装飾された、芝生の生えた庭。見れば、鮮やかな花が彩っている。誰の趣味だろう、生き生きと映るそれは手間をかけられ大切にされていることが窺えた。洒落た造りの外観。なにより、大きな家。
どこかの異国にありそうなそこは、周りから見ても浮いている。
「……いや、違……くもない、よな。え、でもここ入んの勇気いる……」
庭に足を踏み入れるのに尻込みしていると。
がちゃ、と扉の開く音。反射的にそちらを見れば、視界の少し先。扉を開けた人物──親友、楓真がこちらへ笑いかけている。
「ここだよー!」
大きく声を張る彼へ安心するとともに、俺は手を振ろうとあげた手が、固まった。
「いらっしゃい」
「……こんにちは」
ガーディアンふたりが、彼に続いて家から出てきたから。誰かは、考えるまでもない──兄の優真さんと、弟の陽真くんだった。
挨拶を、一応してはくれた。兄は笑顔で、弟はどこか険しい顔で。
コンニチハ、オジャマシマス。
ロボットのような自分の声を聞きながら──俺は、この長い一泊二日がどうなるのか、ガタガタ震えそうになる足を止めるのに難儀していた。
昼食中。なんだか今日はそわそわしている楓真に疑問を抱いていると、嚥下した後におずおずと口を開いた。
「うん。どうした」
弁当を咀嚼しながら続きを促す。どこか覚悟を決めたような表情で──彼が口を開く。
「次の休み、俺の家でお泊まり会しない……?」
ごくり。
飲み込んでから、言葉を反芻する。お泊まり。お泊まり──楓真の、家で。
それが意味するものを理解してから──脳天気な俺と、危機感の強い俺が頭の中で激しい言い争いを始めた。
友だちの家に泊まるなんて最高じゃん。楓真とゲームとか深夜までやって、映画とか見るのもいいよな! それでめちゃくちゃ夜更かししたあと雑魚寝するのも楽しいだろうし、アイスとかめっちゃ食うのもテンション上がる!
いや馬鹿か。楓真の家に泊まってみろ、そこに誰が居るのかわかってるのか。あの最恐のブラコン兄弟が同じ屋根の下にいるあんだぞ。もしかしたらよりいっそう警戒される。いやそれだけならまだいい、最悪その場で殺されるぞ。
過ぎった最悪の想像に、さすがに無いとは思いつつ。やはり、あの兄弟たちから余計に目の敵にされるのは辛い。
期待の混じる目でこちらを見つめる楓真へ、なにか断るのにそれらしい理由はないかと言葉を選びながら口を開いた。
「あー、楽しそうだけど……ほら、そっちのご家族とか迷惑に思ったりしない? うるさくしちゃうかもだし」
「ううん! 泊まる日に父さんも母さんも家空けてくれるらしいし、騒いでも大丈夫だよ!」
そうか。なるほど。でもご両親以外に迷惑に思う人がいるんじゃないか。
とも言えず、あー、だの、うー、だの口をもごもごさせていると、楓真は視線を伏せた。そして、ごめん、と小さな声で言ったかと思えば。
「やっぱり、困らせちゃったかな」
「なわけないって!! 迷惑じゃないなら行きたい!! いつにする!?」
どこまでも親友に甘い自分の行動を自覚したのは──花が綻んだような笑顔を前に、安堵を覚えた後だった。
***
当日。ついに、その日はやって来た。やって来て、しまった。
「なんやかんや、来るのは初めてだな……」
学校帰り、俺の家に楓真が来たことは何度もあったけれど。迎えに行くよとは言われたが、そこまでさせると「なに余計な手間かけさせてるの?」と兄弟に怒られそうなので断った。そのため教えられた道を、歩んでいたのだが──
「……え、ここ?」
その家の大きさに、目を丸くした。
小物などで装飾された、芝生の生えた庭。見れば、鮮やかな花が彩っている。誰の趣味だろう、生き生きと映るそれは手間をかけられ大切にされていることが窺えた。洒落た造りの外観。なにより、大きな家。
どこかの異国にありそうなそこは、周りから見ても浮いている。
「……いや、違……くもない、よな。え、でもここ入んの勇気いる……」
庭に足を踏み入れるのに尻込みしていると。
がちゃ、と扉の開く音。反射的にそちらを見れば、視界の少し先。扉を開けた人物──親友、楓真がこちらへ笑いかけている。
「ここだよー!」
大きく声を張る彼へ安心するとともに、俺は手を振ろうとあげた手が、固まった。
「いらっしゃい」
「……こんにちは」
ガーディアンふたりが、彼に続いて家から出てきたから。誰かは、考えるまでもない──兄の優真さんと、弟の陽真くんだった。
挨拶を、一応してはくれた。兄は笑顔で、弟はどこか険しい顔で。
コンニチハ、オジャマシマス。
ロボットのような自分の声を聞きながら──俺は、この長い一泊二日がどうなるのか、ガタガタ震えそうになる足を止めるのに難儀していた。
615
お気に入りに追加
737
あなたにおすすめの小説

悪役令息シャルル様はドSな家から脱出したい
椿
BL
ドSな両親から生まれ、使用人がほぼ全員ドMなせいで、本人に特殊な嗜好はないにも関わらずSの振る舞いが発作のように出てしまう(不本意)シャルル。
その悪癖を正しく自覚し、学園でも息を潜めるように過ごしていた彼だが、ひょんなことからみんなのアイドルことミシェル(ドM)に懐かれてしまい、ついつい出てしまう暴言に周囲からの勘違いは加速。婚約者である王子の二コラにも「甘えるな」と冷たく突き放され、「このままなら婚約を破棄する」と言われてしまって……。
婚約破棄は…それだけは困る!!王子との、ニコラとの結婚だけが、俺があのドSな実家から安全に抜け出すことができる唯一の希望なのに!!
婚約破棄、もとい安全な家出計画の破綻を回避するために、SとかMとかに囲まれてる悪役令息(勘違い)受けが頑張る話。
攻めズ
ノーマルなクール王子
ドMぶりっ子
ドS従者
×
Sムーブに悩むツッコミぼっち受け
作者はSMについて無知です。温かい目で見てください。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?
桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。
前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。
ほんの少しの間お付き合い下さい。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

BLゲームの脇役に転生した筈なのに
れい
BL
腐男子である牧野ひろはある日、コンビニに寄った際に不慮の事故で命を落としてしまう。
その朝、目を覚ますとなんと彼が生前ハマっていた学園物BLゲームの脇役に転生!?
脇役なのになんで攻略者達に口説かれてんの!?
なんで主人公攻略対象者じゃなくて俺を攻略してこうとすんの!?
彼の運命や如何に。
脇役くんの総受け作品になっております。
地雷の方は回れ右、お願い致します(* . .)’’
随時更新中。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!

【完結】嬉しいと花を咲かせちゃう俺は、モブになりたい
古井重箱
BL
【あらすじ】三塚伊織は高校一年生。嬉しいと周囲に花を咲かせてしまう特異体質の持ち主だ。伊織は感情がダダ漏れな自分が嫌でモブになりたいと願っている。そんな時、イケメンサッカー部員の鈴木綺羅斗と仲良くなって──【注記】陽キャDK×陰キャDK
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる