病んでる愛はゲームの世界で充分です!

書鈴 夏(ショベルカー)

文字の大きさ
上 下
68 / 68

小話──懺悔会

しおりを挟む
「…………じゃあ、一人ずつ自分のしたことを告白してもらうか」

「は?」

 なんで?

 田山が数学の補講を受けていた放課後。他には誰もいない教室の中、集められたヤンデレ一同の顔を見渡したかと思うと──そう言い放った翔へ、誰もが同じ疑問を抱いた。

「最近、直也がやたらヤベー奴に好かれてることくらい察してるんだよ。なにしたかそれぞれ懺悔しろ」

「懺悔って……」

 メンバーのひとりである四方田は困惑したように声を上げるが、翔はそれを気にすることもなくびしりと文月を指さした。指をさされた当事者はというと、突然の指名に大袈裟に肩を跳ねさせた。

「文月。お前からしろ」

 懺悔、というと──間違いなく、自分がクラスメイトである田山にした蛮行だろう。
 頬を掻きながら、重たげな前髪の奥、視線をうろつかせて。

「えと……おれは、その。自分の血をお菓子に入れて、食べさせちゃった……」

「は? ヤバすぎだろ」

 参宮が引いたような声をあげる。日頃、前髪と呼んでいた地味な生徒からされた突然の暴露に、自分の耳を疑わざるを得なかったのだ。もちろんそれは、周りの生徒たちも同様で。

「ヤバいのはわかるけどお前が言えたことじゃねーからな」

 冷めた目を向けられる。しかし参宮は何処吹く風で全く意に介さない。
 文月の隣に座っていた二階堂が、小さく手を挙げて。視線が一斉に集まった。真面目な後輩は、自分が何をしたかずっと考え込んでいたようだ。

「……僕は、先輩に尽くしたこと、でしょうか。そこまでしなくていい、とは言われてしまいましたけど……」

「……まあ、マシだな」

 文月と比べればずっと可愛らしいものだ。どの程度まで尽くしていたのかは気になるところだが、幾分か落ち込んだ様子の後輩を、他のメンバーはどこか微笑ましい気持ちで眺めていた。

 ……無言で退室しようとしていた、参宮を除いて。

「何帰ろうとしてんだ問題児!!」

 目ざとく見つけた翔が、腕を掴んで叫ぶ。心底うっとおしそうな表情を浮かべた参宮は、振り返って薄い唇を開いた。

「意味わかんねーし。それにオレなんもしてねーし」

「してんだろが!! 異様に直也と距離詰めやがって!!」

 言われた参宮は──心底不思議そうな瞳のまま。何を当然のことを、と言わんばかりに笑顔で。

「卒業のときには恋人になるし。普通だろ?」

「こわ……」

 文月がぼそりと呟いた。お前が言うな、という視線は誰のものだったのだろう。
 強制的に引っ張られ、元の位置に参宮が戻された頃。

「四方田も、何かしたのか?」

 疑問の色を浮かべて口を開いたのは、先輩である伍代。ここに集められたということは、そういうことなのだろう。しかし可愛い後輩である四方田が何をしたというのか。
 ぎくりと音がつきそうなほど、言われた張本人である四方田は肩を跳ねさせて。気まずそうに笑顔を作り、言い淀んでから──

「えと……直くんのこと、その……食おうとしました、へへ……」

「は……? 四方田、それは……」

「物理的にな!!」

 翔が焦ったように注釈を入れる。あらぬ誤解を招きかねない。しかし──それはそれでどうなんだ。
 なんと言葉をかけるべきか悩む先輩に、翔は訝しげに視線を向ける。

「アンタもなんかしてんでしょ。わかってんですよ」

 何かをした、という話を聞いたことはない。だが、田山と関わるようになり、親密になっていたことは知っている。そして、恐らくはではあるが良からぬ考えに手を染めたであろうことも。

「あー……まあ、そう、だな……少し、閉じ込めようとはした、な……」

「ゆう兄マジ!?」

「……犯罪じゃないか」

 二階堂が眉根を寄せた。反論のしようはないだろう。バツが悪そうに頭を掻き、後輩たちの信じられないと言った視線をただ受けることしかできない。

「……んで、そいつは?」

 不躾にも後輩から指をさされたが、怒ることはなく。
 静観していた陸奥は、へらりと軽薄な笑いを浮かべた。

「酷いなあ。一応先輩なんだけど」

「ふーん」

 興味なさげな参宮に、愉快そうな声で笑う。調子の掴めない人物に、集めた張本人である翔もどこかペースを乱されるような感覚を覚えた。
 集めた理由は伍代と同じだ。大方まともな人間ではないと察したのだ。

「えーと……陸奥先輩ですっけ? なにしたんです」

「監視カメラ付けたね。もう外したけど」

「は?」

「監視……カメラ……?」

 周りがざわつく。なおもへらへらと笑う陸奥には反省の色が見られず、翔は卒倒しそうな気分になった。

 ……ここの生徒はどうなっているんだ。いや、そもそも──田山もなぜこういう人間に好かれるのだ。そう思ったのは、きっとひとりだけではない。ほぼ全員と言って間違いないだろう。

「何人か通報した方がいい人いませんか?」

「そこの監視カメラのやつだけは突き出した方がいいだろ」

「……通報するか、もう……」

「ええ!? ちょっとやめてよ!!」

 スマホを取りだした翔に、慌てたような声をあげる。

 ──そもそもさ。

 不意に。陸奥が、妙に落ち着いた声を発した。

「わざわざオレらだけ的確に集めるあたり──キミもわかったんでしょ? オレらが同族だって」

「……はっ。何言ってんだ、アンタ」

 同族? 誰が。

 鼻で笑う翔と陸奥の間に、静かな火花が散っているようだ。陸奥は飄々とした余裕を浮かべているが、翔は僅かな動揺が滲んでいるようだった。
 誰も口を挟めず、どうしたものかと考えていると──


 つーかさあ。


 部屋に落ちたのは、間延びした参宮の声。注目が集まる。

「どーせ告白したんだろ。直也が若干ぎこちなくなってた辺りでわかるわ」

「……は?」

 時が止まったようだった。固く上擦った翔の声は、その一音だけで肯定を示していて。
 同じ欲求を持つもの同士、通ずるものがあったのだろうか。参宮はなにか見通すような目で、また言葉を続けていく。

「で、付き合ってないところ見るに、冗談っつって逃げた。当たってんだろ」

「……逃げてねえ」

「ヘタレじゃん」

「あ!? 誰がヘタレだ!!」

 図星だったのだろうか。翔が胸ぐらを掴んだ。

「わわわわ、ちょ、ふたりとも! さすがにマジ喧嘩はやべーって!!」

「……どうしよう」

「……野蛮だ」

「こら、そろそろいい加減にしないと誰かが──」

 がらり。

 教室の扉が、開いた。

「ただいま……」

 現れたのは、田山だった。補講でみっちり絞られたのだろう、幾分かやつれているようにすら見える。
 翔は、というと──目にも見えぬ速さで、胸ぐらを掴んでいた手をいつの間にか離していた。

「なんか盛り上がってたね。どしたの?」

 皆、目を見合せて。何事も無かったかのように、笑いを作った。

「……ううん、なんでも……」

「先輩、今度また数学、教えましょうか?」

「え、いーな! オレも教えて!!」

「はは、また勉強会でもするか。補講にならないためにな」

「勉強の話とかいーわ。早く帰ろーぜ」

「オレも帰る! 一人で寂しく帰りたくないし、ね!」

 もみくちゃにされる中──田山は、どこかいつもと違う様子の幼馴染に目を向けた。

「……翔、なんかあった?」

「……別に。帰ろ」

 翔は、ふと考える。

 ……いつか、このどこか欠けた生徒たちと、醜い争いをすることになるのだろうか。それとも──互いに手を組んで、目の前の幼馴染を陥落させるのだろうか?
 ……それは、限りなく低い可能性だろうが。

 わからない。ただ、言えるのは──大切な幼馴染の隣に居るのは、間違いなく自分だと言うことだ。

 友人と話す、幼馴染の横顔を見て。薄暗い決意をした。
しおりを挟む
感想 41

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(41件)

塩水アサリ
2024.11.28 塩水アサリ

いろんなヤンデレに愛される直也の鈍感さと相手へのまっすぐした対応のバランスが最高でした!卒業後にみんながどうなるのか楽しみです。

書鈴 夏(ショベルカー)
2024.11.28 書鈴 夏(ショベルカー)

伝えたかったもの全部伝わっててめちゃくちゃ嬉しいです;;;;卒業後のお話、ゆっくりでも書いていきたいです;;感想ありがとうございます;

解除
毒林檎
2024.11.22 毒林檎

翔も良いけど他のヤンデレも見てみたい…
小話ありがとうございます!

書鈴 夏(ショベルカー)
2024.11.22 書鈴 夏(ショベルカー)

うおーーーー嬉しいご意見ありがとうございます!!!!!他のヤンデレの子にもフォーカス当てた話、書いていきたいと思います!!こちらこそコメントありがとうございます、救われてます;;;

解除
tefu
2024.11.21 tefu

翔良すぎるー
このあとどう囲い込むのか、直哉と共依存になっていくのか大学進学後の彼らを見たいです!
もしあればぜひ続編かその後をー!

書鈴 夏(ショベルカー)
2024.11.21 書鈴 夏(ショベルカー)

うわーーーーそう言っていただけてほんま嬉しいです!!!!!;;;
彼らがどんな道を辿るのか、遅筆ですが書いていきたいと思います;;感想ありがとうございます😭😭

解除

あなたにおすすめの小説

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

親衛隊は、推しから『選ばれる』までは推しに自分の気持ちを伝えてはいけないルール

雨宮里玖
BL
エリート高校の親衛隊プラスα×平凡無自覚総受け 《あらすじ》 4月。平凡な吉良は、楯山に告白している川上の姿を偶然目撃してしまった。遠目だが二人はイイ感じに見えて告白は成功したようだった。 そのことで、吉良は二年間ずっと学生寮の同室者だった楯山に自分が特別な感情を抱いていたのではないかと思い——。 平凡無自覚な受けの総愛され全寮制学園ライフの物語。

風紀委員長様は王道転校生がお嫌い

八(八月八)
BL
※11/12 10話後半を加筆しました。  11/21 登場人物まとめを追加しました。 【第7回BL小説大賞エントリー中】 山奥にある全寮制の名門男子校鶯実学園。 この学園では、各委員会の委員長副委員長と、生徒会執行部が『役付』と呼ばれる特権を持っていた。 東海林幹春は、そんな鶯実学園の風紀委員長。 風紀委員長の名に恥じぬ様、真面目実直に、髪は七三、黒縁メガネも掛けて職務に当たっていた。 しかしある日、突如として彼の生活を脅かす転入生が現われる。 ボサボサ頭に大きなメガネ、ブカブカの制服に身を包んだ転校生は、元はシングルマザーの田舎育ち。母の再婚により理事長の親戚となり、この学園に編入してきたものの、学園の特殊な環境に慣れず、あくまでも庶民感覚で突き進もうとする。 おまけにその転校生に、生徒会執行部の面々はメロメロに!? そんな転校生がとにかく気に入らない幹春。 何を隠そう、彼こそが、中学まで、転校生を凌ぐ超極貧ド田舎生活をしてきていたから! ※11/12に10話加筆しています。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい

おだししょうゆ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。 生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。 地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。 転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。 ※含まれる要素 異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛 ※小説家になろうに重複投稿しています

俺の推し♂が路頭に迷っていたので

木野 章
BL
️アフターストーリーは中途半端ですが、本編は完結しております(何処かでまた書き直すつもりです) どこにでも居る冴えない男 左江内 巨輝(さえない おおき)は 地下アイドルグループ『wedge stone』のメンバーである琥珀の熱烈なファンであった。 しかしある日、グループのメンバー数人が大炎上してしまい、その流れで解散となってしまった… 推しを失ってしまった左江内は抜け殻のように日々を過ごしていたのだが…???

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

【完結】出会いは悪夢、甘い蜜

琉海
BL
憧れを追って入学した学園にいたのは運命の番だった。 アルファがオメガをガブガブしてます。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。