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監視型⑩
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沈黙で、耳が痛い。肌がひりつくような緊張が走った。
はは、と乾いた笑いを零して。強ばっているだろう俺の顔を一瞥してから──何かを考えるように宙へ視線をやり。彼は唇を開く。
「席が隣になったクラスメイト。優等生の後輩。俺様な同級生。天真爛漫なクラスメイト──」
指を折りながら淡々と続けられるそれは、自分にとって覚えのある関係性ばかりで。紛れもなく──歪んだ愛を向けた生徒たちだ。
ヤンデレを扱っている先輩のことだ。きっと、いいや間違いなく。彼らが俺へ重い愛を向けたことを知っているのだろう。
「……なんで、知って……」
「うん? 彼らにもカメラを仕掛けたから。……ああでも、もう彼らのはほとんど作動させてないけどね。目的のものは見られたし」
脳が、理解を拒んでいる。俺に構うことはなく、ひとり、滔々と語っていく。
「いやあ、びっくり。ヤンデレの素質がありそうな子を観察したら、どんどんアイデアが湧き出てね。……その通り、歪んだ顔を見せてくれるんだから。自分の観察眼に驚きだよ、想像力の賜物かな」
つまり──ヤンデレになりそうな生徒に目星をつけ、監視カメラで観察していた。そこから着想を得てやんぱらを更新していたが、その通りに彼らが動いた、ということか。
ゲームのような状況を望んだこともあったが。そんな現実とのリンクなんか要らない!
「バスケ部の部長。彼も予想通りだった」
口元を押えて、続けられたそれ。部長──伍代先輩のことだ。監禁される様の一部始終を観察していたのだろう。
「いつもだったら、思い出すと嬉しくて笑っちゃうんだけど……今は面白くないな」
笑みが、消える。いつもの朗らかな雰囲気とは真逆の、感情の抜け落ちたその顔に。一瞬、息が止まった。
「……なんで、俺のことも見てたんですか。病みそうな素質とか、無いでしょ」
「だって、ねえ。キミ、こぞって彼らに好かれてたし。興味が湧かない方がおかしくない? ──それに、オレの理想通りだったから」
「は……?」
理想通りって、俺が?
「理想、通りって……俺なんか、見ても面白くないでしょう。平凡だし」
震えそうになる声。焦りを見せないように装って、じっとこちらを見下ろす先輩の目を見つめる。目を逸らしてしまえば、張った虚勢がすぐに出てしまうような気がして。
「まあ、確かにぱっと見は冴えないね」
「……否定はしませんけど」
参宮くんにも同じようなことを言われた。微妙にダメージを受けるそれには目を向けないように、黙って言葉の続きを待つ。
「重い愛を向けられて、それでも尚関係を続ける人間なんてそうそういない。縁を切ろうと思ったことはある?」
「……いえ、ないです」
首を振る。健全な関係性を築きたい、とは思ったことがある。それは、彼らとの関係を長続きさせるために。友人として、適切な距離感を持ちたかったため。だって、縁を切るだなんて。そんなの、辛いじゃないか。
「そういうところだよ」
人差し指を突きつけられ、心底愉快そうに口の端が上がった。
「キミ、結構すごいやつだぜ。それに面白い」
理想通り──彼がそう言っていた、やんぱらの主人公。そこに、俺を重ねているのか。病んでる愛を向けられて、それでも友人として付き合っていく姿に。だから、俺は興味を向けられているのだろうか。
まるで心の中を読んだように。答えるように、にんまりと陸奥先輩は笑う。
「だから。キミの全部を知りたいと思うのも、当然だろ?」
……頭が、痛くなってきた。恐らくこの人と真剣に話をしようとしても、のらりくらりとかわされてしまうような気がした。
目頭を押え、呼吸を整えて。必死に頭を回し、言葉を出力する。
「とりあえず……その、監視カメラの場所だけ教えて貰えますか」
「あれ結構高かったんだよな」
「知らないですよ。犯罪に使わんでください」
平然と、申し訳なさもなく返されたそれに眉根が寄ってしまう。先輩ということを一瞬忘れかけ、乱暴な口調になってしまった。
すると、彼は数秒顎に手を当てて逡巡する素振りを見せてから。
「じゃあ、ドキッとすること言ってくれたら教えようか」
「なんすかその無茶振り。無理です」
「じゃあ教えない」
「……先生に言いますよ」
「小学生ぶりに聞いたな、それ。いいじゃない、ちょっとなにか言ってくれれば考えるから」
この人は──面白いかどうかで行動しているような気がする。基本的に行動原理が子どものような好奇心なのだろう。……それが、かなり悪い方向に走ってしまっているようだ。
ドキッとすること。本当に、とんでもない無茶振りをしてくれたものだ。軽くパンチを入れても許されるだろうか。
彼が欲しがっている言葉は──理想を詰めた、人物が答えだろう。
「……ねえ、先輩」
気だるげな瞳は、純粋な好奇心に満ちている。頭痛がどんどん酷くなってきたが、ここを乗り切りさえすれば教えて貰えるのだ。そうに決まっている。
自分を励まし、緊張を振り切って口を開いた。
「……カメラ越しなんかより、リアルの方がもっと俺を知れますよ。遠くから見てるより、これからたくさん関わればいいでしょう」
はは、と乾いた笑いを零して。強ばっているだろう俺の顔を一瞥してから──何かを考えるように宙へ視線をやり。彼は唇を開く。
「席が隣になったクラスメイト。優等生の後輩。俺様な同級生。天真爛漫なクラスメイト──」
指を折りながら淡々と続けられるそれは、自分にとって覚えのある関係性ばかりで。紛れもなく──歪んだ愛を向けた生徒たちだ。
ヤンデレを扱っている先輩のことだ。きっと、いいや間違いなく。彼らが俺へ重い愛を向けたことを知っているのだろう。
「……なんで、知って……」
「うん? 彼らにもカメラを仕掛けたから。……ああでも、もう彼らのはほとんど作動させてないけどね。目的のものは見られたし」
脳が、理解を拒んでいる。俺に構うことはなく、ひとり、滔々と語っていく。
「いやあ、びっくり。ヤンデレの素質がありそうな子を観察したら、どんどんアイデアが湧き出てね。……その通り、歪んだ顔を見せてくれるんだから。自分の観察眼に驚きだよ、想像力の賜物かな」
つまり──ヤンデレになりそうな生徒に目星をつけ、監視カメラで観察していた。そこから着想を得てやんぱらを更新していたが、その通りに彼らが動いた、ということか。
ゲームのような状況を望んだこともあったが。そんな現実とのリンクなんか要らない!
「バスケ部の部長。彼も予想通りだった」
口元を押えて、続けられたそれ。部長──伍代先輩のことだ。監禁される様の一部始終を観察していたのだろう。
「いつもだったら、思い出すと嬉しくて笑っちゃうんだけど……今は面白くないな」
笑みが、消える。いつもの朗らかな雰囲気とは真逆の、感情の抜け落ちたその顔に。一瞬、息が止まった。
「……なんで、俺のことも見てたんですか。病みそうな素質とか、無いでしょ」
「だって、ねえ。キミ、こぞって彼らに好かれてたし。興味が湧かない方がおかしくない? ──それに、オレの理想通りだったから」
「は……?」
理想通りって、俺が?
「理想、通りって……俺なんか、見ても面白くないでしょう。平凡だし」
震えそうになる声。焦りを見せないように装って、じっとこちらを見下ろす先輩の目を見つめる。目を逸らしてしまえば、張った虚勢がすぐに出てしまうような気がして。
「まあ、確かにぱっと見は冴えないね」
「……否定はしませんけど」
参宮くんにも同じようなことを言われた。微妙にダメージを受けるそれには目を向けないように、黙って言葉の続きを待つ。
「重い愛を向けられて、それでも尚関係を続ける人間なんてそうそういない。縁を切ろうと思ったことはある?」
「……いえ、ないです」
首を振る。健全な関係性を築きたい、とは思ったことがある。それは、彼らとの関係を長続きさせるために。友人として、適切な距離感を持ちたかったため。だって、縁を切るだなんて。そんなの、辛いじゃないか。
「そういうところだよ」
人差し指を突きつけられ、心底愉快そうに口の端が上がった。
「キミ、結構すごいやつだぜ。それに面白い」
理想通り──彼がそう言っていた、やんぱらの主人公。そこに、俺を重ねているのか。病んでる愛を向けられて、それでも友人として付き合っていく姿に。だから、俺は興味を向けられているのだろうか。
まるで心の中を読んだように。答えるように、にんまりと陸奥先輩は笑う。
「だから。キミの全部を知りたいと思うのも、当然だろ?」
……頭が、痛くなってきた。恐らくこの人と真剣に話をしようとしても、のらりくらりとかわされてしまうような気がした。
目頭を押え、呼吸を整えて。必死に頭を回し、言葉を出力する。
「とりあえず……その、監視カメラの場所だけ教えて貰えますか」
「あれ結構高かったんだよな」
「知らないですよ。犯罪に使わんでください」
平然と、申し訳なさもなく返されたそれに眉根が寄ってしまう。先輩ということを一瞬忘れかけ、乱暴な口調になってしまった。
すると、彼は数秒顎に手を当てて逡巡する素振りを見せてから。
「じゃあ、ドキッとすること言ってくれたら教えようか」
「なんすかその無茶振り。無理です」
「じゃあ教えない」
「……先生に言いますよ」
「小学生ぶりに聞いたな、それ。いいじゃない、ちょっとなにか言ってくれれば考えるから」
この人は──面白いかどうかで行動しているような気がする。基本的に行動原理が子どものような好奇心なのだろう。……それが、かなり悪い方向に走ってしまっているようだ。
ドキッとすること。本当に、とんでもない無茶振りをしてくれたものだ。軽くパンチを入れても許されるだろうか。
彼が欲しがっている言葉は──理想を詰めた、人物が答えだろう。
「……ねえ、先輩」
気だるげな瞳は、純粋な好奇心に満ちている。頭痛がどんどん酷くなってきたが、ここを乗り切りさえすれば教えて貰えるのだ。そうに決まっている。
自分を励まし、緊張を振り切って口を開いた。
「……カメラ越しなんかより、リアルの方がもっと俺を知れますよ。遠くから見てるより、これからたくさん関わればいいでしょう」
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