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監視型④
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ばっと勢いよく振り返ると、驚いたのか目をまん丸にした男子生徒が立っている。クラスメイトではない。誰だ。なんで。
「え、と……いつからそこに……?」
疑問が尽きない中、それだけ口にする。するとその男子生徒は、申し訳なさそうに頬を掻いてから口を開いた。
「あー……ごめんいきなり。えーと、後輩の机に用があったからさ、ここ入っちゃって。キミなんか集中してたから邪魔しないようにしてたんだけど」
「机に、用が?」
問い返せば。小さく溜息をつき、やれやれと言った様子で彼は言葉を続けた。
「……先輩使いが荒い後輩でね。忘れ物取ってこいって言われたんだよ」
「……すごいですね」
このクラスに後輩がいるというなら──必然的に、彼は三年生ということになる。先輩を顎で使うような生徒が同じクラスにいたのか。誰かはわからないが、すごい人だ。
苦笑いで返すと、真顔になり──改まったように口を開いた。
「というか、聞こうと思ったんだけど……やんぱら好きなの?」
時が止まる。俺の口以外から聞いたことのないそのワードに、一瞬理解が遅れた。
「なんで、それを」
「開いてんの見えたから」
じゃあ。あのスチルだけを見て、やんぱらだとわかったということは。まさか。
「やんぱら……ご存知なんですか」
「もちろん。じゃなきゃ声掛けないよ。俺の好きなやつだし」
気怠げな瞳が俺を見下ろす。
今──やんぱらが好きだって、言ったのか。目が輝いていくのが自分でもわかった。この人は──仲間だ。
「やんぱら好きなんですか!?」
「うお」
勢いよく立ち上がったために、椅子ががたりと音を立てる。先輩は小さく驚きの声を漏らして仰け反った。だが今はどうにも興奮を抑えられない。仕方がないだろう。
彼はひとつ後ろに下がってから、ほんの少し悩む素振りを見せ、口を開く。
「まあね。一番のファンって言っても過言じゃないかも」
「ええー……! 嬉しい……!!」
オタク仲間が居なかったのだ。やんぱらを知っている人なんて周りにひとりもいなかった。幼馴染にはヤンデレがニッチとまで言われるし。この学校にはいないのかもしれない、なんて諦めた日すらあったほど。なのに。まさかそんな人と、関われるなんて。
「好きなキャラとかは!? 俺は──」
「待って待って。とりあえず自己紹介からで。ファン同士仲良くしようよ」
「そうですね! 俺は二年の田山です、ええと……」
興奮からだろう、どうも食い気味になってしまう。だが仕方ないだろう。同じファンを見つけられたのだから、嬉しくてしょうがないのだ。
「オレは陸奥。下は観來。三年生」
ピースを作る。人当たりはよく、しかし気怠そうな、なんとも不思議な雰囲気を漂わせる人だ。眠たげな垂れ目を僅かに細めていた。
「え、と……いつからそこに……?」
疑問が尽きない中、それだけ口にする。するとその男子生徒は、申し訳なさそうに頬を掻いてから口を開いた。
「あー……ごめんいきなり。えーと、後輩の机に用があったからさ、ここ入っちゃって。キミなんか集中してたから邪魔しないようにしてたんだけど」
「机に、用が?」
問い返せば。小さく溜息をつき、やれやれと言った様子で彼は言葉を続けた。
「……先輩使いが荒い後輩でね。忘れ物取ってこいって言われたんだよ」
「……すごいですね」
このクラスに後輩がいるというなら──必然的に、彼は三年生ということになる。先輩を顎で使うような生徒が同じクラスにいたのか。誰かはわからないが、すごい人だ。
苦笑いで返すと、真顔になり──改まったように口を開いた。
「というか、聞こうと思ったんだけど……やんぱら好きなの?」
時が止まる。俺の口以外から聞いたことのないそのワードに、一瞬理解が遅れた。
「なんで、それを」
「開いてんの見えたから」
じゃあ。あのスチルだけを見て、やんぱらだとわかったということは。まさか。
「やんぱら……ご存知なんですか」
「もちろん。じゃなきゃ声掛けないよ。俺の好きなやつだし」
気怠げな瞳が俺を見下ろす。
今──やんぱらが好きだって、言ったのか。目が輝いていくのが自分でもわかった。この人は──仲間だ。
「やんぱら好きなんですか!?」
「うお」
勢いよく立ち上がったために、椅子ががたりと音を立てる。先輩は小さく驚きの声を漏らして仰け反った。だが今はどうにも興奮を抑えられない。仕方がないだろう。
彼はひとつ後ろに下がってから、ほんの少し悩む素振りを見せ、口を開く。
「まあね。一番のファンって言っても過言じゃないかも」
「ええー……! 嬉しい……!!」
オタク仲間が居なかったのだ。やんぱらを知っている人なんて周りにひとりもいなかった。幼馴染にはヤンデレがニッチとまで言われるし。この学校にはいないのかもしれない、なんて諦めた日すらあったほど。なのに。まさかそんな人と、関われるなんて。
「好きなキャラとかは!? 俺は──」
「待って待って。とりあえず自己紹介からで。ファン同士仲良くしようよ」
「そうですね! 俺は二年の田山です、ええと……」
興奮からだろう、どうも食い気味になってしまう。だが仕方ないだろう。同じファンを見つけられたのだから、嬉しくてしょうがないのだ。
「オレは陸奥。下は観來。三年生」
ピースを作る。人当たりはよく、しかし気怠そうな、なんとも不思議な雰囲気を漂わせる人だ。眠たげな垂れ目を僅かに細めていた。
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