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監禁型⑨
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ゲームに没頭して数時間。時計の針が十二時を回った頃。くう、と俺の腹が鳴り──
「昼飯でも食ってくか?」
笑った先輩は、立ち上がってそう言った。
***
「ん、うま!」
「はは、よかった。たくさん食ってくれ」
先輩が作ったという家庭料理の数々は、どれもこれも優しさを感じる味で。肉料理が多めなところを見るに、彼の体格の良さはやはり食べているものから来ているのだろうか。俺も肉は好きだけれど──彼の身体とは程遠い。……もう少し運動した方がいいのだろうか。
「昔は叔母さんが住んで面倒見てくれてたんだけどな。高校生になったし、悪いからってことでひとりで住むようにした」
この広い家に、ひとりで住んでいるのだ。あの写真を見る度に、どんな気持ちになっていたのだろう。ひとりで暮らすために、どれほどの苦労をしたのだろう。俺よりも、きっとよっぽど頑張っている。それだけはわかるのだ。
「誰かが居るのは──やっぱり、嬉しいな。ひとりでいるよりも、賑やかで」
柔らかく微笑むものだから。俺もつられて、笑った。俺が遊びに来ただけで彼が楽しく感じられたのなら、こんなに嬉しいことはないだろう。
「……はは。なんか俺も、家みたいで居心地がいいです」
「っふは、そうか。ならよかった」
頬張った肉じゃがが美味しい。家の味付けに似ている──なんて感じてしまうほど、俺はここを心地よく思っている。紛れもない本心だった。
食事を終え、片付けを手伝って。リビングでテレビを見て。そうして、少し時間を置いた頃。口から漏れたのは、ひとつの欠伸だった。
「……はは。なんだ、眠いのか? 寝てもいいぞ、無理するな」
床に敷かれたラグの上に座っている状態で。すこし横になろうとすれば、簡単に寝られそうだ。人の家に来てご馳走になった挙句眠るなんて、失礼になってしまう。「大丈夫です」と言い切る前に、またひとつ欠伸が出た。先輩が優しく促してくれて。
「……すみ、ません……少しだけ、寝ます……」
俺は結局、甘えてしまった。先輩には頼ってばかりだ。横になれば、眠気が襲いかかってくる。……抗いようがない。
「……なあ」
「んん……? なんか、ありましたか……?」
微睡みの中、控えめに呼びかけられた。
「もし──俺が怪我をしそうだったら、お前は俺も庇うのか?」
「……?」
何かと思えば。そんなの、答えは決まっている。
「庇いますよ。先輩が怪我するのは、嫌だから」
「…………そうか」
どうしてそんなことを聞くのだろう。疑問に思えど、声を出すことは叶わぬまま。
どこか切なげに。眉を下げて微笑む先輩を最後に、俺の意識は沈んだのだった。
「昼飯でも食ってくか?」
笑った先輩は、立ち上がってそう言った。
***
「ん、うま!」
「はは、よかった。たくさん食ってくれ」
先輩が作ったという家庭料理の数々は、どれもこれも優しさを感じる味で。肉料理が多めなところを見るに、彼の体格の良さはやはり食べているものから来ているのだろうか。俺も肉は好きだけれど──彼の身体とは程遠い。……もう少し運動した方がいいのだろうか。
「昔は叔母さんが住んで面倒見てくれてたんだけどな。高校生になったし、悪いからってことでひとりで住むようにした」
この広い家に、ひとりで住んでいるのだ。あの写真を見る度に、どんな気持ちになっていたのだろう。ひとりで暮らすために、どれほどの苦労をしたのだろう。俺よりも、きっとよっぽど頑張っている。それだけはわかるのだ。
「誰かが居るのは──やっぱり、嬉しいな。ひとりでいるよりも、賑やかで」
柔らかく微笑むものだから。俺もつられて、笑った。俺が遊びに来ただけで彼が楽しく感じられたのなら、こんなに嬉しいことはないだろう。
「……はは。なんか俺も、家みたいで居心地がいいです」
「っふは、そうか。ならよかった」
頬張った肉じゃがが美味しい。家の味付けに似ている──なんて感じてしまうほど、俺はここを心地よく思っている。紛れもない本心だった。
食事を終え、片付けを手伝って。リビングでテレビを見て。そうして、少し時間を置いた頃。口から漏れたのは、ひとつの欠伸だった。
「……はは。なんだ、眠いのか? 寝てもいいぞ、無理するな」
床に敷かれたラグの上に座っている状態で。すこし横になろうとすれば、簡単に寝られそうだ。人の家に来てご馳走になった挙句眠るなんて、失礼になってしまう。「大丈夫です」と言い切る前に、またひとつ欠伸が出た。先輩が優しく促してくれて。
「……すみ、ません……少しだけ、寝ます……」
俺は結局、甘えてしまった。先輩には頼ってばかりだ。横になれば、眠気が襲いかかってくる。……抗いようがない。
「……なあ」
「んん……? なんか、ありましたか……?」
微睡みの中、控えめに呼びかけられた。
「もし──俺が怪我をしそうだったら、お前は俺も庇うのか?」
「……?」
何かと思えば。そんなの、答えは決まっている。
「庇いますよ。先輩が怪我するのは、嫌だから」
「…………そうか」
どうしてそんなことを聞くのだろう。疑問に思えど、声を出すことは叶わぬまま。
どこか切なげに。眉を下げて微笑む先輩を最後に、俺の意識は沈んだのだった。
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