41 / 68
監禁型③
しおりを挟む
体育館の中。ボールが弾む音が響き渡り、部員たちが忙しなく動く度にキュッキュ、と床を踏みしめる高い音が鳴っている。
周りを見回してみれば、どうやら他に数人ほど入部希望の生徒が見学に来ているようだ。ひとりだけぽつんと見ている、という状況を想像していたため、浮かないのはありがたい。けれど、誰も彼も部活へ真剣なようで、なんだか肩身が狭いような感覚も事実だ。
体育の授業でもわかってはいたが、四方田くんは運動神経がかなり良い。例えマークをされていても颯爽と抜け出して、パスを受けたかと思うと軽やかに前へ走り。ボールを自分の体の一部のように操り──目を奪われるほど見事なダンクシュートを決めるのだ。
「っしゃ!」
こちらを見て、ピースをし破顔する彼に手を振る。同性から見ても格好いい。流す汗すら輝いて見えるほどだ。……ああいう爽やかな人になりたかった。
ついつい羨望の眼差しを向けてしまう。周りの見学者たちも、憧れを浮かべて四方田くんを見ている。きっとチームメイトからも憧れられ、同時に親しまれているのだろう。彼らしい。
それと──四方田くんと同じくらいに、一際目を引く人物がいた。彼は相手からボールを奪い、背中の後ろに球を通過させるようにしてチームメイトにパスを出した。ディフェンスの不意をつき、上手く流れを作っている。……素人目に見ても、生半可な実力ではないことが容易にわかった。
ふと、甲高いホイッスルの音が空気を揺らした。その人物は、他の生徒と代わるようにコートを抜け出した。汗を拭いながらこちらへ向かってくる。
俺に気がついたらしく、あ、と小さく低い声を漏らした。はっと我に返り、慌てて小さく頭を下げる。
「ああ、四方田の友だちか?」
「はい。田山です、よろしくお願いします」
「俺は三年の伍代勇吾。一応、ここの部長をやってる」
短髪が良く似合う。いかにもスポーツマンらしい。精悍な顔つきは男らしさと同時にさっぱりとした爽やかさも感じさせた。それに体格がいいうえに背も高い。見上げてしまうくらいには。快活な笑い声とともに、肩に手を回した。
「俺のことは兄貴みたいに思っていいからな! もちろん、入部も歓迎だ」
「兄貴、みたいに……」
反芻すれば、力強く肯定するように頷かれた。確かに、絵に描いたように兄貴然とした人だ。初対面だが、こんな頼りがいのありそうな兄がいたのなら、弟として誇らしいだろうと思うくらいには。
ホイッスルがまた鳴り、どうやら休憩に入ったらしい。試合を終えた部員たちが、伍代先輩の周りに集まってくる。
「兄貴ー!」
「ゆう兄、フォーム見て欲しいんだけど……」
口々に言うのは、兄という言葉。部員というよりは、まるで──
「すご、家族みたいだ……」
思わず呟いていた。アットホームな部活です──職場だとブラックの触れ込み、なんて言うけれど。ここは本当に、皆が家族のような一体感がある。俺は部外者のはずなのに、不思議と居心地がいい。
「ゆう兄ね! オレも兄貴みたいに思ってるよ、めっちゃいい人だし!」
いつの間にか隣にいた四方田くんが言う。
「オレどう? カッコよかった?」
「うん。シュートも決めてたし、マジですごいよ。めちゃくちゃカッコよかった」
「へへ、やった!」
目尻を下げて彼が笑った。披露してくれたダンクシュートは鮮やかで、お手本のようだった。「四方田先輩、少しいいですか?」後輩に呼ばれて、彼もコートへ入る。どうやらシュートについてアドバイスを請われたらしい。彼に教えてもらったら、運動音痴の俺でも打てるようになるだろうか。そうでなくとも、自然にドリブルくらいはできるかな。バスケ部には入れないが、時間のあるときにレクチャーしてもらいたいものだ。
微笑ましい気持ちを覚えながら、その様を見つめていると、不意に声がした。
「ごめーん、ボール取ってー!」
部員が呼びかける声。そちらを見れば、小さく弾んだボールが遠くから転がってくる。自分の近くまで来たそれを取ろうと一歩踏み出した瞬間──盛大に足を捻った。
「オワーーッ!!」
間抜けな叫び声とともに、足に走る激痛。最悪だ。よりによって何も無いところで。運動神経が無いどころの騒ぎではない。
「っえ、直くん大丈夫!?」
ばたばたと慌ただしい音。四方田くんが近くに来てくれたらしい。
大丈夫、と笑って言いたい気持ちは山々だった。しかし涙が滲んでしまうほど痛みは酷く、うずくまることしかできない。
「捻ったか──歩けるか? 肩を貸すよ」
「っいや、そんな。……少しだけ、じっといていれば大丈夫、ですから……」
伍代先輩が声をかけてくれるが、世話になるのも申し訳ない。もう少しこうしていれば、おそらく痛みは引く……はずだ。ただ見学に来ただけの俺が迷惑をかけるわけにはいかないのだ。
「歩けないなら、悪いが運ぶしかないな」
「肩を貸してください!!」
「っはは、了解。ほら、行くぞ」
反射的に叫んでいた。運ぶなんて、それこそ申し訳なさすぎる。
なんとか体を起こし、心配そうな四方田くんに「大丈夫だから」と声をかけて。伍代先輩の肩を借りながら、ひょこひょこと間抜けな歩き方のまま、俺は体育館を後にするのだった。
周りを見回してみれば、どうやら他に数人ほど入部希望の生徒が見学に来ているようだ。ひとりだけぽつんと見ている、という状況を想像していたため、浮かないのはありがたい。けれど、誰も彼も部活へ真剣なようで、なんだか肩身が狭いような感覚も事実だ。
体育の授業でもわかってはいたが、四方田くんは運動神経がかなり良い。例えマークをされていても颯爽と抜け出して、パスを受けたかと思うと軽やかに前へ走り。ボールを自分の体の一部のように操り──目を奪われるほど見事なダンクシュートを決めるのだ。
「っしゃ!」
こちらを見て、ピースをし破顔する彼に手を振る。同性から見ても格好いい。流す汗すら輝いて見えるほどだ。……ああいう爽やかな人になりたかった。
ついつい羨望の眼差しを向けてしまう。周りの見学者たちも、憧れを浮かべて四方田くんを見ている。きっとチームメイトからも憧れられ、同時に親しまれているのだろう。彼らしい。
それと──四方田くんと同じくらいに、一際目を引く人物がいた。彼は相手からボールを奪い、背中の後ろに球を通過させるようにしてチームメイトにパスを出した。ディフェンスの不意をつき、上手く流れを作っている。……素人目に見ても、生半可な実力ではないことが容易にわかった。
ふと、甲高いホイッスルの音が空気を揺らした。その人物は、他の生徒と代わるようにコートを抜け出した。汗を拭いながらこちらへ向かってくる。
俺に気がついたらしく、あ、と小さく低い声を漏らした。はっと我に返り、慌てて小さく頭を下げる。
「ああ、四方田の友だちか?」
「はい。田山です、よろしくお願いします」
「俺は三年の伍代勇吾。一応、ここの部長をやってる」
短髪が良く似合う。いかにもスポーツマンらしい。精悍な顔つきは男らしさと同時にさっぱりとした爽やかさも感じさせた。それに体格がいいうえに背も高い。見上げてしまうくらいには。快活な笑い声とともに、肩に手を回した。
「俺のことは兄貴みたいに思っていいからな! もちろん、入部も歓迎だ」
「兄貴、みたいに……」
反芻すれば、力強く肯定するように頷かれた。確かに、絵に描いたように兄貴然とした人だ。初対面だが、こんな頼りがいのありそうな兄がいたのなら、弟として誇らしいだろうと思うくらいには。
ホイッスルがまた鳴り、どうやら休憩に入ったらしい。試合を終えた部員たちが、伍代先輩の周りに集まってくる。
「兄貴ー!」
「ゆう兄、フォーム見て欲しいんだけど……」
口々に言うのは、兄という言葉。部員というよりは、まるで──
「すご、家族みたいだ……」
思わず呟いていた。アットホームな部活です──職場だとブラックの触れ込み、なんて言うけれど。ここは本当に、皆が家族のような一体感がある。俺は部外者のはずなのに、不思議と居心地がいい。
「ゆう兄ね! オレも兄貴みたいに思ってるよ、めっちゃいい人だし!」
いつの間にか隣にいた四方田くんが言う。
「オレどう? カッコよかった?」
「うん。シュートも決めてたし、マジですごいよ。めちゃくちゃカッコよかった」
「へへ、やった!」
目尻を下げて彼が笑った。披露してくれたダンクシュートは鮮やかで、お手本のようだった。「四方田先輩、少しいいですか?」後輩に呼ばれて、彼もコートへ入る。どうやらシュートについてアドバイスを請われたらしい。彼に教えてもらったら、運動音痴の俺でも打てるようになるだろうか。そうでなくとも、自然にドリブルくらいはできるかな。バスケ部には入れないが、時間のあるときにレクチャーしてもらいたいものだ。
微笑ましい気持ちを覚えながら、その様を見つめていると、不意に声がした。
「ごめーん、ボール取ってー!」
部員が呼びかける声。そちらを見れば、小さく弾んだボールが遠くから転がってくる。自分の近くまで来たそれを取ろうと一歩踏み出した瞬間──盛大に足を捻った。
「オワーーッ!!」
間抜けな叫び声とともに、足に走る激痛。最悪だ。よりによって何も無いところで。運動神経が無いどころの騒ぎではない。
「っえ、直くん大丈夫!?」
ばたばたと慌ただしい音。四方田くんが近くに来てくれたらしい。
大丈夫、と笑って言いたい気持ちは山々だった。しかし涙が滲んでしまうほど痛みは酷く、うずくまることしかできない。
「捻ったか──歩けるか? 肩を貸すよ」
「っいや、そんな。……少しだけ、じっといていれば大丈夫、ですから……」
伍代先輩が声をかけてくれるが、世話になるのも申し訳ない。もう少しこうしていれば、おそらく痛みは引く……はずだ。ただ見学に来ただけの俺が迷惑をかけるわけにはいかないのだ。
「歩けないなら、悪いが運ぶしかないな」
「肩を貸してください!!」
「っはは、了解。ほら、行くぞ」
反射的に叫んでいた。運ぶなんて、それこそ申し訳なさすぎる。
なんとか体を起こし、心配そうな四方田くんに「大丈夫だから」と声をかけて。伍代先輩の肩を借りながら、ひょこひょこと間抜けな歩き方のまま、俺は体育館を後にするのだった。
115
お気に入りに追加
397
あなたにおすすめの小説
小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)
前世から俺の事好きだという犬系イケメンに迫られた結果
はかまる
BL
突然好きですと告白してきた年下の美形の後輩。話を聞くと前世から好きだったと話され「????」状態の平凡男子高校生がなんだかんだと丸め込まれていく話。
周りが幼馴染をヤンデレという(どこが?)
ヨミ
BL
幼馴染 隙杉 天利 (すきすぎ あまり)はヤンデレだが主人公 花畑 水華(はなばた すいか)は全く気づかない所か溺愛されていることにも気付かずに
ただ友達だとしか思われていないと思い込んで悩んでいる超天然鈍感男子
天利に恋愛として好きになって欲しいと頑張るが全然効いていないと思っている。
可愛い(綺麗?)系男子でモテるが天利が男女問わず牽制してるためモテない所か自分が普通以下の顔だと思っている
天利は時折アピールする水華に対して好きすぎて理性の糸が切れそうになるが、なんとか保ち普段から好きすぎで悶え苦しんでいる。
水華はアピールしてるつもりでも普段の天然の部分でそれ以上のことをしているので何しても天然故の行動だと思われてる。
イケメンで物凄くモテるが水華に初めては全て捧げると内心勝手に誓っているが水華としかやりたいと思わないので、どんなに迫られようと見向きもしない、少し女嫌いで女子や興味、どうでもいい人物に対してはすごく冷たい、水華命の水華LOVEで水華のお願いなら何でも叶えようとする
好きになって貰えるよう努力すると同時に好き好きアピールしているが気づかれず何年も続けている内に気づくとヤンデレとかしていた
自分でもヤンデレだと気づいているが治すつもりは微塵も無い
そんな2人の両片思い、もう付き合ってんじゃないのと思うような、じれ焦れイチャラブな恋物語
俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き
toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった!
※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。
pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!
https://www.pixiv.net/artworks/100148872
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
なんでも諦めてきた俺だけどヤンデレな彼が貴族の男娼になるなんて黙っていられない
迷路を跳ぶ狐
BL
自己中な無表情と言われて、恋人と別れたクレッジは冒険者としてぼんやりした毎日を送っていた。
恋愛なんて辛いこと、もうしたくなかった。大体のことはなんでも諦めてのんびりした毎日を送っていたのに、また好きな人ができてしまう。
しかし、告白しようと思っていた大事な日に、知り合いの貴族から、その人が男娼になることを聞いたクレッジは、そんなの黙って見ていられないと止めに急ぐが、好きな人はなんだか様子がおかしくて……。
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
風紀委員長様は王道転校生がお嫌い
八(八月八)
BL
※11/12 10話後半を加筆しました。
11/21 登場人物まとめを追加しました。
【第7回BL小説大賞エントリー中】
山奥にある全寮制の名門男子校鶯実学園。
この学園では、各委員会の委員長副委員長と、生徒会執行部が『役付』と呼ばれる特権を持っていた。
東海林幹春は、そんな鶯実学園の風紀委員長。
風紀委員長の名に恥じぬ様、真面目実直に、髪は七三、黒縁メガネも掛けて職務に当たっていた。
しかしある日、突如として彼の生活を脅かす転入生が現われる。
ボサボサ頭に大きなメガネ、ブカブカの制服に身を包んだ転校生は、元はシングルマザーの田舎育ち。母の再婚により理事長の親戚となり、この学園に編入してきたものの、学園の特殊な環境に慣れず、あくまでも庶民感覚で突き進もうとする。
おまけにその転校生に、生徒会執行部の面々はメロメロに!?
そんな転校生がとにかく気に入らない幹春。
何を隠そう、彼こそが、中学まで、転校生を凌ぐ超極貧ド田舎生活をしてきていたから!
※11/12に10話加筆しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる