上 下
31 / 67

同化型③

しおりを挟む
 次の日。一限が終わった、休み時間。教科書を借りに来たらしい翔と話をしていると、四方田くんが俺の席へと駆け寄ってきた。ああ、どうやらお腹が空いたらしい。

「田山くん田山くん!」

「はい、お菓子あるよ。食べよ」

「わーい、ありがとー!!」

 喜びを隠すこともなく大袈裟に表す彼。なんだか、大型犬のようだ。笑いを堪えながら、荷物から菓子を取り出す。持ってきたのはポピュラーなお菓子だけど、次はもう少し冒険してみてもいいかもしれない。四方田くんが気に入るものがないか探してみよう。

 翔が訝しげに眉をひそめる。

「……カツアゲなら俺に言えよ」

「ちょ、ちげーから! 誤解しないでマジで!!」

 慌てたように否定する。ふ、と翔は息を漏らして笑った。その目には俺と同様に微笑ましく映ったらしい。本当に、話していると楽しい人だ。

「冗談だよ」

「あ、文月くんと翔もいる?」

「おれは、自分のあるから……大丈夫。ありがとう、おれのも食べたかったら言って」

「俺もいい。今腹減ってねーし」

 箱に入った、チョコレートの菓子。どこにでも売っているようなありふれたものだけれど、本当に美味しそうに、彼はハイペースで食べていく。俺はたまに食べるくらいでちょうど良かった。安定して美味しい。幸福感を滲ませながら食べるその姿は、見ているだけでなんだかこちらまで嬉しくなってしまう。

 そうして、食べて、食べて。最後の一個を、彼が掴もうと手を伸ばしたところで──それは止まった。

「あ──」

 どうしたのだろう。顔面を蒼白にして、やってしまった、というように絶望を顔に浮かべている。

「ごめん! 食いすぎだよな! オレマジでバカだからさ、加減わかんなくて!」

 自虐をし、手を合わせて謝る。眉を下げて笑うその様子が、どうも引っかかった。昨日だってそうだ。食べてばかりでごめん、なんて謝る必要のないことで謝って。自分をバカと言うところもムッとしてしまう。満足するまで食べればいいのだ。好きなものを食べたくらいで、彼を叱る人なんてここにはいないのだから。
 胸の中で小さなわだかまりが生まれたのを感じた。

「前も言ったじゃん。俺は食べてる姿見るの好きだから、気にしないでよ」

「…………マジで? ……いいの?」

「最後の一個、食べて。四方田くんが食べてくれる方が嬉しいから」

 彼の目を見つめてきっぱりと言い切ると、ぽかん、と口を開け。はっと我に返ったように瞬いてから、唇を開いた。

「……う、うん。ありがと……」

 頬を、少しだけ朱に染めて。躊躇いがちに、彼は最後のひとつを口に運んだ。「……なんか、他のよりすっごく美味いね」他のものと変わらないはずなのに。笑ってそう言う彼の様子が微笑ましくて、俺も笑った。
 それから。スーパーやコンビニで菓子を見かける度、「これは彼が気に入るだろうか」と思うようになり。持っていけば予想通りに喜んでくれるものだから、その反応が楽しみで買うようになるのだった。
 持っていって一緒に食べる姿に、翔には「甘すぎるだろ」と呆れられ、参宮くんには「他の男にはそんなに優しくすんだ?」とぞっとする笑顔で迫られた。なんとか逃げた。何も言わずに見てくれる文月くんが救いだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無愛想な彼に可愛い婚約者ができたようなので潔く身を引いたら逆に執着されるようになりました

かるぼん
BL
もうまさにタイトル通りな内容です。 ↓↓↓ 無愛想な彼。 でもそれは、ほんとは主人公のことが好きすぎるあまり手も出せない顔も見れないという不器用なやつ、というよくあるやつです。 それで誤解されてしまい、別れを告げられたら本性現し執着まっしぐら。 「私から離れるなんて許さないよ」 見切り発車で書いたものなので、いろいろ細かい設定すっ飛ばしてます。 需要あるのかこれ、と思いつつ、とりあえず書いたところまでは投稿供養しておきます。

不良高校に転校したら溺愛されて思ってたのと違う

らる
BL
幸せな家庭ですくすくと育ち普通の高校に通い楽しく毎日を過ごしている七瀬透。 唯一普通じゃない所は人たらしなふわふわ天然男子である。 そんな透は本で見た不良に憧れ、勢いで日本一と言われる不良学園に転校。 いったいどうなる!? [強くて怖い生徒会長]×[天然ふわふわボーイ]固定です。 ※更新頻度遅め。一日一話を目標にしてます。 ※誤字脱字は見つけ次第時間のある時修正します。それまではご了承ください。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

人生二度目の悪役令息は、ヤンデレ義弟に執着されて逃げられない

佐倉海斗
BL
 王国を敵に回し、悪役と罵られ、恥を知れと煽られても気にしなかった。死に際は貴族らしく散ってやるつもりだった。――それなのに、最後に義弟の泣き顔を見たのがいけなかったんだろう。まだ、生きてみたいと思ってしまった。  一度、死んだはずだった。  それなのに、四年前に戻っていた。  どうやら、やり直しの機会を与えられたらしい。しかも、二度目の人生を与えられたのは俺だけではないようだ。  ※悪役令息(主人公)が受けになります。  ※ヤンデレ執着義弟×元悪役義兄(主人公)です。  ※主人公に好意を抱く登場人物は複数いますが、固定CPです。それ以外のCPは本編完結後のIFストーリーとして書くかもしれませんが、約束はできません。

買われた悪役令息は攻略対象に異常なくらい愛でられてます

瑳来
BL
元は純日本人の俺は不慮な事故にあい死んでしまった。そんな俺の第2の人生は死ぬ前に姉がやっていた乙女ゲームの悪役令息だった。悪役令息の役割を全うしていた俺はついに天罰がくらい捕らえられて人身売買のオークションに出品されていた。 そこで俺を落札したのは俺を破滅へと追い込んだ王家の第1王子でありゲームの攻略対象だった。 そんな落ちぶれた俺と俺を買った何考えてるかわかんない王子との生活がはじまった。

主人公は俺狙い?!

suzu
BL
生まれた時から前世の記憶が朧げにある公爵令息、アイオライト=オブシディアン。 容姿は美麗、頭脳も完璧、気遣いもできる、ただ人への態度が冷たい冷血なイメージだったため彼は「細雪な貴公子」そう呼ばれた。氷のように硬いイメージはないが水のように優しいイメージもない。 だが、アイオライトはそんなイメージとは反対に単純で鈍かったり焦ってきつい言葉を言ってしまう。 朧げであるがために時間が経つと記憶はほとんど無くなっていた。 15歳になると学園に通うのがこの世界の義務。 学園で「インカローズ」を見た時、主人公(?!)と直感で感じた。 彼は、白銀の髪に淡いピンク色の瞳を持つ愛らしい容姿をしており、BLゲームとかの主人公みたいだと、そう考える他なかった。 そして自分も攻略対象や悪役なのではないかと考えた。地位も高いし、色々凄いところがあるし、見た目も黒髪と青紫の瞳を持っていて整っているし、 面倒事、それもBL(多分)とか無理!! そう考え近づかないようにしていた。 そんなアイオライトだったがインカローズや絶対攻略対象だろっ、という人と嫌でも鉢合わせしてしまう。 ハプニングだらけの学園生活! BL作品中の可愛い主人公×ハチャメチャ悪役令息 ※文章うるさいです ※背後注意

嫌われ者の僕

みるきぃ
BL
学園イチの嫌われ者で、イジメにあっている佐藤あおい。気が弱くてネガティブな性格な上、容姿は瓶底眼鏡で地味。しかし本当の素顔は、幼なじみで人気者の新條ゆうが知っていて誰にも見せつけないようにしていた。学園生活で、あおいの健気な優しさに皆、惹かれていき…⁈学園イチの嫌われ者が総愛される話。嫌われからの愛されです。ヤンデレ注意。 ※他サイトで書いていたものを修正してこちらで書いてます。改行多めで読みにくいかもです。

スキルも魔力もないけど異世界転移しました

書鈴 夏(ショベルカー)
BL
なんとかなれ!!!!!!!!! 入社四日目の新卒である菅原悠斗は通勤途中、車に轢かれそうになる。 死を覚悟したその次の瞬間、目の前には草原が広がっていた。これが俗に言う異世界転移なのだ——そう悟った悠斗は絶望を感じながらも、これから待ち受けるチートやハーレムを期待に掲げ、近くの村へと辿り着く。 そこで知らされたのは、彼には魔力はおろかスキルも全く無い──物語の主人公には程遠い存在ということだった。 「異世界転生……いや、転移って言うんですっけ。よくあるチーレムってやつにはならなかったけど、良い友だちが沢山できたからほんっと恵まれてるんですよ、俺!」 「友人のわりに全員お前に向けてる目おかしくないか?」 チートは無いけどなんやかんや人柄とかで、知り合った異世界人からいい感じに重めの友情とか愛を向けられる主人公の話が書けたらと思っています。冒険よりは、心を繋いでいく話が書きたいです。 「何って……友だちになりたいだけだが?」な受けが好きです。 6/30 一度完結しました。続きが書け次第、番外編として更新していけたらと思います。

処理中です...