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同化型③
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次の日。一限が終わった、休み時間。教科書を借りに来たらしい翔と話をしていると、四方田くんが俺の席へと駆け寄ってきた。ああ、どうやらお腹が空いたらしい。
「田山くん田山くん!」
「はい、お菓子あるよ。食べよ」
「わーい、ありがとー!!」
喜びを隠すこともなく大袈裟に表す彼。なんだか、大型犬のようだ。笑いを堪えながら、荷物から菓子を取り出す。持ってきたのはポピュラーなお菓子だけど、次はもう少し冒険してみてもいいかもしれない。四方田くんが気に入るものがないか探してみよう。
翔が訝しげに眉をひそめる。
「……カツアゲなら俺に言えよ」
「ちょ、ちげーから! 誤解しないでマジで!!」
慌てたように否定する。ふ、と翔は息を漏らして笑った。その目には俺と同様に微笑ましく映ったらしい。本当に、話していると楽しい人だ。
「冗談だよ」
「あ、文月くんと翔もいる?」
「おれは、自分のあるから……大丈夫。ありがとう、おれのも食べたかったら言って」
「俺もいい。今腹減ってねーし」
箱に入った、チョコレートの菓子。どこにでも売っているようなありふれたものだけれど、本当に美味しそうに、彼はハイペースで食べていく。俺はたまに食べるくらいでちょうど良かった。安定して美味しい。幸福感を滲ませながら食べるその姿は、見ているだけでなんだかこちらまで嬉しくなってしまう。
そうして、食べて、食べて。最後の一個を、彼が掴もうと手を伸ばしたところで──それは止まった。
「あ──」
どうしたのだろう。顔面を蒼白にして、やってしまった、というように絶望を顔に浮かべている。
「ごめん! 食いすぎだよな! オレマジでバカだからさ、加減わかんなくて!」
自虐をし、手を合わせて謝る。眉を下げて笑うその様子が、どうも引っかかった。昨日だってそうだ。食べてばかりでごめん、なんて謝る必要のないことで謝って。自分をバカと言うところもムッとしてしまう。満足するまで食べればいいのだ。好きなものを食べたくらいで、彼を叱る人なんてここにはいないのだから。
胸の中で小さなわだかまりが生まれたのを感じた。
「前も言ったじゃん。俺は食べてる姿見るの好きだから、気にしないでよ」
「…………マジで? ……いいの?」
「最後の一個、食べて。四方田くんが食べてくれる方が嬉しいから」
彼の目を見つめてきっぱりと言い切ると、ぽかん、と口を開け。はっと我に返ったように瞬いてから、唇を開いた。
「……う、うん。ありがと……」
頬を、少しだけ朱に染めて。躊躇いがちに、彼は最後のひとつを口に運んだ。「……なんか、他のよりすっごく美味いね」他のものと変わらないはずなのに。笑ってそう言う彼の様子が微笑ましくて、俺も笑った。
それから。スーパーやコンビニで菓子を見かける度、「これは彼が気に入るだろうか」と思うようになり。持っていけば予想通りに喜んでくれるものだから、その反応が楽しみで買うようになるのだった。
持っていって一緒に食べる姿に、翔には「甘すぎるだろ」と呆れられ、参宮くんには「他の男にはそんなに優しくすんだ?」とぞっとする笑顔で迫られた。なんとか逃げた。何も言わずに見てくれる文月くんが救いだ。
「田山くん田山くん!」
「はい、お菓子あるよ。食べよ」
「わーい、ありがとー!!」
喜びを隠すこともなく大袈裟に表す彼。なんだか、大型犬のようだ。笑いを堪えながら、荷物から菓子を取り出す。持ってきたのはポピュラーなお菓子だけど、次はもう少し冒険してみてもいいかもしれない。四方田くんが気に入るものがないか探してみよう。
翔が訝しげに眉をひそめる。
「……カツアゲなら俺に言えよ」
「ちょ、ちげーから! 誤解しないでマジで!!」
慌てたように否定する。ふ、と翔は息を漏らして笑った。その目には俺と同様に微笑ましく映ったらしい。本当に、話していると楽しい人だ。
「冗談だよ」
「あ、文月くんと翔もいる?」
「おれは、自分のあるから……大丈夫。ありがとう、おれのも食べたかったら言って」
「俺もいい。今腹減ってねーし」
箱に入った、チョコレートの菓子。どこにでも売っているようなありふれたものだけれど、本当に美味しそうに、彼はハイペースで食べていく。俺はたまに食べるくらいでちょうど良かった。安定して美味しい。幸福感を滲ませながら食べるその姿は、見ているだけでなんだかこちらまで嬉しくなってしまう。
そうして、食べて、食べて。最後の一個を、彼が掴もうと手を伸ばしたところで──それは止まった。
「あ──」
どうしたのだろう。顔面を蒼白にして、やってしまった、というように絶望を顔に浮かべている。
「ごめん! 食いすぎだよな! オレマジでバカだからさ、加減わかんなくて!」
自虐をし、手を合わせて謝る。眉を下げて笑うその様子が、どうも引っかかった。昨日だってそうだ。食べてばかりでごめん、なんて謝る必要のないことで謝って。自分をバカと言うところもムッとしてしまう。満足するまで食べればいいのだ。好きなものを食べたくらいで、彼を叱る人なんてここにはいないのだから。
胸の中で小さなわだかまりが生まれたのを感じた。
「前も言ったじゃん。俺は食べてる姿見るの好きだから、気にしないでよ」
「…………マジで? ……いいの?」
「最後の一個、食べて。四方田くんが食べてくれる方が嬉しいから」
彼の目を見つめてきっぱりと言い切ると、ぽかん、と口を開け。はっと我に返ったように瞬いてから、唇を開いた。
「……う、うん。ありがと……」
頬を、少しだけ朱に染めて。躊躇いがちに、彼は最後のひとつを口に運んだ。「……なんか、他のよりすっごく美味いね」他のものと変わらないはずなのに。笑ってそう言う彼の様子が微笑ましくて、俺も笑った。
それから。スーパーやコンビニで菓子を見かける度、「これは彼が気に入るだろうか」と思うようになり。持っていけば予想通りに喜んでくれるものだから、その反応が楽しみで買うようになるのだった。
持っていって一緒に食べる姿に、翔には「甘すぎるだろ」と呆れられ、参宮くんには「他の男にはそんなに優しくすんだ?」とぞっとする笑顔で迫られた。なんとか逃げた。何も言わずに見てくれる文月くんが救いだ。
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