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妄想型⑧
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視線を卓上に伏せて、ぽつりと切り出したそれ。
「父親はなんか俺がちいせー頃に家から出てって、母親は家にいるわけ。夜働いてはくれてたけど」
周りの席の喧騒からここだけ切り離されたように、静かに言葉を紡いでいく。
「でまぁ、男を取っかえ引っ変えしてて。昔っからほぼ育児放棄されてた」
彼が笑う。自嘲するように。
「遊んでって言っても知らん男と遊ぶからっつって邪魔扱い。飯もろくに作んねーから俺がやるしかなかったし。勝手に産んどいて、クズっしょ」
言うと、ポテトをひとつつまんで、口に運んだ。俺はただ、繋げられていくその内容に──言葉を失って、黙りこくることしかできなかった。
「……あー、まあ。だから、だと思うんだけど。母親に貰えなかった愛情っつーの? それがめっちゃくちゃ欲しくて。……女の子ばっか追っかけてた」
告げられたそれに、ひとり納得する。なるほど。母からの愛を埋めるため、他の女子と共にいたのか。それで彼が満たされていたのかは──わからないが。恋人を作らなかったところを見るに、穴を埋めてくれる特定の誰かは見つからなかったのだろう。憶測でしかないけれど。
「男なんて、これっぽっちも興味なかった。むしろ要らねーとか思ってた」
ふと、言葉を切る。たっぷりと間を置いてから、口を開いた。
「なのに」
……何か、流れが変わった気がする。
「田山、お前のせいだ……」
「え、まって何が? なんでいきなり俺のせいになったの?」
恨めしそうに、こちらを見あげて睨めつけてくる。その目つきは鋭い。声は低く、地を這うようだった。なんで?
理不尽な矛先の移動に困惑しかない。
また、しばらく間を置いてから。酷く悔しそうに──彼は口を開いた。
「お前のこと、好きになっちまった」
「え」
なんだって?
「女の子しか、興味なかったのに。お前のせいだ、お前の……うう、責任、とれよぉ……」
「ええー……ごめん、なんか……」
聞き間違いでは、なかったらしい。
にしたって、関わり始めて短い期間だが、俺が好きになるとは信じられない。なんか、思ったよりも──チョロい、というとあれだ。語弊があるけれど。……男に関わったことがあまり無いから、なおさらなのだろうか。いや、女の子にはモテるから恋愛には免疫がありそうなものだが。
だけど、女の子が大好きだったあの参宮くんが。付き合うことはできないにしても、その好意は純粋に嬉しいものだ。なんだか照れくさい。
当の本人は、机に半ば突っ伏しながら呻き声を漏らす。まるでこの世の終わりだとでも言わんばかりの顔で。
「おれ、おかしくなっちまったじゃねーか……」
苦しそうに、そう言うものだから。気がつけば、俺は口を開いていた。
「大丈夫、別に変なことじゃないから。普通だよ──好意を持ってくれてるのは嬉しいけど、今まで通りの関係でいられると嬉しいな」
「……拒絶、しないのかよ。キモいだろ、こんなの……」
「気持ち悪いわけないでしょ。拒絶なんてするわけない」
「…………田山……」
机の上に置かれた彼の手に、自分のものを重ねる。驚いたようにぴく、と小さく跳ねたが──「……ありがとな」と言って、目を合わせて綺麗に微笑んだ。
***
『まーたほかの女の子に鼻の下伸ばして。……ま、別にいいけどね。アンタの彼女はアタシなんだから、それくらい可愛いもんだと思ってあげるわ』
その日の夜。ベッドの中で、久しぶりにやんぱらの続きをプレイしていた。画面の中で笑う美少女に──胸を掴まれたような興奮を覚える。
「っ勝手に彼女だと思い込むタイプのヤンデレだったか~……!!」
ツンデレ疑惑が出ていた少女。彼女もきちんと病んでいた。これはアツい。最初にツンツンしていたからこそ、いびつに歪んだ重い愛が際立っている。枕を抱きしめて、衝動を発散した。最高だ。
プレイを終えても未だ収まらない高揚を覚えたまま、寝床に横たわる。
ああ、そういえば。あの少女はなんとなく参宮くんに似ていた。
今思い返してみると、出会った頃のツンツン具合とデレ方の様がシンクロしていた。現実にもゲームのような人っているんだ。……まあ、病みなんかは彼から程遠いしありえないことだろう。
告白は断ってしまったが、明日からは友人として仲良くしていきたい。別のクラスだから、毎日は会えないかもしれないけれど。たまに遊びに行こうかな、なんて。
友だちとして隣に並ぶ自分たちを想像して、微かな笑いが漏れた。最初は考えられなかったのに、なんだか夢みたいだ。……彼と関われてよかった。そう思いながら、目を閉じた。
「父親はなんか俺がちいせー頃に家から出てって、母親は家にいるわけ。夜働いてはくれてたけど」
周りの席の喧騒からここだけ切り離されたように、静かに言葉を紡いでいく。
「でまぁ、男を取っかえ引っ変えしてて。昔っからほぼ育児放棄されてた」
彼が笑う。自嘲するように。
「遊んでって言っても知らん男と遊ぶからっつって邪魔扱い。飯もろくに作んねーから俺がやるしかなかったし。勝手に産んどいて、クズっしょ」
言うと、ポテトをひとつつまんで、口に運んだ。俺はただ、繋げられていくその内容に──言葉を失って、黙りこくることしかできなかった。
「……あー、まあ。だから、だと思うんだけど。母親に貰えなかった愛情っつーの? それがめっちゃくちゃ欲しくて。……女の子ばっか追っかけてた」
告げられたそれに、ひとり納得する。なるほど。母からの愛を埋めるため、他の女子と共にいたのか。それで彼が満たされていたのかは──わからないが。恋人を作らなかったところを見るに、穴を埋めてくれる特定の誰かは見つからなかったのだろう。憶測でしかないけれど。
「男なんて、これっぽっちも興味なかった。むしろ要らねーとか思ってた」
ふと、言葉を切る。たっぷりと間を置いてから、口を開いた。
「なのに」
……何か、流れが変わった気がする。
「田山、お前のせいだ……」
「え、まって何が? なんでいきなり俺のせいになったの?」
恨めしそうに、こちらを見あげて睨めつけてくる。その目つきは鋭い。声は低く、地を這うようだった。なんで?
理不尽な矛先の移動に困惑しかない。
また、しばらく間を置いてから。酷く悔しそうに──彼は口を開いた。
「お前のこと、好きになっちまった」
「え」
なんだって?
「女の子しか、興味なかったのに。お前のせいだ、お前の……うう、責任、とれよぉ……」
「ええー……ごめん、なんか……」
聞き間違いでは、なかったらしい。
にしたって、関わり始めて短い期間だが、俺が好きになるとは信じられない。なんか、思ったよりも──チョロい、というとあれだ。語弊があるけれど。……男に関わったことがあまり無いから、なおさらなのだろうか。いや、女の子にはモテるから恋愛には免疫がありそうなものだが。
だけど、女の子が大好きだったあの参宮くんが。付き合うことはできないにしても、その好意は純粋に嬉しいものだ。なんだか照れくさい。
当の本人は、机に半ば突っ伏しながら呻き声を漏らす。まるでこの世の終わりだとでも言わんばかりの顔で。
「おれ、おかしくなっちまったじゃねーか……」
苦しそうに、そう言うものだから。気がつけば、俺は口を開いていた。
「大丈夫、別に変なことじゃないから。普通だよ──好意を持ってくれてるのは嬉しいけど、今まで通りの関係でいられると嬉しいな」
「……拒絶、しないのかよ。キモいだろ、こんなの……」
「気持ち悪いわけないでしょ。拒絶なんてするわけない」
「…………田山……」
机の上に置かれた彼の手に、自分のものを重ねる。驚いたようにぴく、と小さく跳ねたが──「……ありがとな」と言って、目を合わせて綺麗に微笑んだ。
***
『まーたほかの女の子に鼻の下伸ばして。……ま、別にいいけどね。アンタの彼女はアタシなんだから、それくらい可愛いもんだと思ってあげるわ』
その日の夜。ベッドの中で、久しぶりにやんぱらの続きをプレイしていた。画面の中で笑う美少女に──胸を掴まれたような興奮を覚える。
「っ勝手に彼女だと思い込むタイプのヤンデレだったか~……!!」
ツンデレ疑惑が出ていた少女。彼女もきちんと病んでいた。これはアツい。最初にツンツンしていたからこそ、いびつに歪んだ重い愛が際立っている。枕を抱きしめて、衝動を発散した。最高だ。
プレイを終えても未だ収まらない高揚を覚えたまま、寝床に横たわる。
ああ、そういえば。あの少女はなんとなく参宮くんに似ていた。
今思い返してみると、出会った頃のツンツン具合とデレ方の様がシンクロしていた。現実にもゲームのような人っているんだ。……まあ、病みなんかは彼から程遠いしありえないことだろう。
告白は断ってしまったが、明日からは友人として仲良くしていきたい。別のクラスだから、毎日は会えないかもしれないけれど。たまに遊びに行こうかな、なんて。
友だちとして隣に並ぶ自分たちを想像して、微かな笑いが漏れた。最初は考えられなかったのに、なんだか夢みたいだ。……彼と関われてよかった。そう思いながら、目を閉じた。
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