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妄想型⑦
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そして、そのときはやってきた。やってきて、しまったのだ。
「田山。行くぞ」
放課後、帰りの準備をしていた途中。気がつけば机の前に立っていた参宮くんが、俺を見下ろしてぶっきらぼうに吐き捨てていた。心配そうにこちらを見つめていた文月くんに手を振って、足の速い彼の後をついていく。何を話すべきだろうかと悩んでいる間に、気がつけば目的地──ファミレスに着いていた。
席に座り何を食べたいか聞かれても、思いつかない。適当に指さしたポテトとドリンクバーを頼み、ただただ弾まない会話をして料理が届くまでの時間を過ごした。
あー、ええと。
緊張を咳払いで誤魔化して、話を切り出す。
「参宮くんって今まで体育出てた? ごめん、あんま覚えてなくて……」
「出てない。サボってたし」
「すごいな」
道理で今まで見たことがないわけだ。他のクラスの事情に詳しいわけでもない俺だが、彼ほどの強烈な人物なら一度でも見かけたことがあれば印象には残るはずだから。さらっとサボっていたことを悪びれもせず言うその様子に、一種の尊敬すら覚えてしまう。俺にはそんな勇気はない。一度くらい授業をサボって、電車に乗ってどこか海にでも遊びに──なんて、夢を見たことはあるが。
「単位やべーって脅されたから、渋々出たんだよ」
「今まで出席してなかったのは、やっぱ女の子いないから?」
「そう」
筋金入りだ。ここまで来ると、簡単のため息しか出ない。彼がこれで留年を免れるのなら、それに超したことはないとは思うが。
有名になるレベルの女好きとやらを実感していると、バツの悪そうな顔で唇を開いた。
「……その。今まで、悪かった」
「え? なにが?」
今まで、というのは。反射的に聞き返す。
「わかんだろ。……すげー雑に扱うっつーかさ……ひでー対応してたし」
「……ああー……いや、途中からあんま気にしてなかったし」
むしろ彼がそれを反省していることが驚きだ。そりゃあ最初は衝撃だったが、あれが彼の平常運転なのだと受け入れれば、それからは特段気にすることはなかった。一周まわってあからさますぎて面白いとすら思うほどなのだから。
言えば、彼は眉根を寄せて。
「……お前、変なやつだよな」
失礼だな。いったい俺のどこが変だというのか。全てに関して平凡であることを自覚しているというのに。
「テキトーに返してんのに、それでも話しかけてきて。とんだ物好きだわ」
「そう? ……なんか、逆に参宮くん面白かったからさ」
「んだそれ」
ふ、と彼が柔らかく笑う。ああ、そんなふうにも笑うんだ。女の子たちに向けていた、いかにも人好きがする笑みとはまた違うそれ。なんだか新鮮だ。
俺も笑い返した。穏やかな空気が流れる中──ふと、彼が切り出したのは。
「あー……ダルい話していい?」
視線を二、三度うろつかせて。いつもよりも真面目な色を浮かべた静かな声で、彼は聞く。
「……どんな話かわからないけど、いいよ」
どんな話なのだろう。わからないけれど。それがどんな内容だったとしても、あの参宮くんが俺に話してくれるものなのだから、聞き届けたい。
小さな覚悟と共に頷けば、彼は重たげな口を開いた。
「……俺さ、親がろくな奴じゃなかったんだよ」
「田山。行くぞ」
放課後、帰りの準備をしていた途中。気がつけば机の前に立っていた参宮くんが、俺を見下ろしてぶっきらぼうに吐き捨てていた。心配そうにこちらを見つめていた文月くんに手を振って、足の速い彼の後をついていく。何を話すべきだろうかと悩んでいる間に、気がつけば目的地──ファミレスに着いていた。
席に座り何を食べたいか聞かれても、思いつかない。適当に指さしたポテトとドリンクバーを頼み、ただただ弾まない会話をして料理が届くまでの時間を過ごした。
あー、ええと。
緊張を咳払いで誤魔化して、話を切り出す。
「参宮くんって今まで体育出てた? ごめん、あんま覚えてなくて……」
「出てない。サボってたし」
「すごいな」
道理で今まで見たことがないわけだ。他のクラスの事情に詳しいわけでもない俺だが、彼ほどの強烈な人物なら一度でも見かけたことがあれば印象には残るはずだから。さらっとサボっていたことを悪びれもせず言うその様子に、一種の尊敬すら覚えてしまう。俺にはそんな勇気はない。一度くらい授業をサボって、電車に乗ってどこか海にでも遊びに──なんて、夢を見たことはあるが。
「単位やべーって脅されたから、渋々出たんだよ」
「今まで出席してなかったのは、やっぱ女の子いないから?」
「そう」
筋金入りだ。ここまで来ると、簡単のため息しか出ない。彼がこれで留年を免れるのなら、それに超したことはないとは思うが。
有名になるレベルの女好きとやらを実感していると、バツの悪そうな顔で唇を開いた。
「……その。今まで、悪かった」
「え? なにが?」
今まで、というのは。反射的に聞き返す。
「わかんだろ。……すげー雑に扱うっつーかさ……ひでー対応してたし」
「……ああー……いや、途中からあんま気にしてなかったし」
むしろ彼がそれを反省していることが驚きだ。そりゃあ最初は衝撃だったが、あれが彼の平常運転なのだと受け入れれば、それからは特段気にすることはなかった。一周まわってあからさますぎて面白いとすら思うほどなのだから。
言えば、彼は眉根を寄せて。
「……お前、変なやつだよな」
失礼だな。いったい俺のどこが変だというのか。全てに関して平凡であることを自覚しているというのに。
「テキトーに返してんのに、それでも話しかけてきて。とんだ物好きだわ」
「そう? ……なんか、逆に参宮くん面白かったからさ」
「んだそれ」
ふ、と彼が柔らかく笑う。ああ、そんなふうにも笑うんだ。女の子たちに向けていた、いかにも人好きがする笑みとはまた違うそれ。なんだか新鮮だ。
俺も笑い返した。穏やかな空気が流れる中──ふと、彼が切り出したのは。
「あー……ダルい話していい?」
視線を二、三度うろつかせて。いつもよりも真面目な色を浮かべた静かな声で、彼は聞く。
「……どんな話かわからないけど、いいよ」
どんな話なのだろう。わからないけれど。それがどんな内容だったとしても、あの参宮くんが俺に話してくれるものなのだから、聞き届けたい。
小さな覚悟と共に頷けば、彼は重たげな口を開いた。
「……俺さ、親がろくな奴じゃなかったんだよ」
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