病んでる愛はゲームの世界で充分です!

書鈴 夏(ショベルカー)

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妄想型③

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 文月くんと会話していたらしい翔が、俺を見下ろす。

「おつ。ペア誰だった?」

「隣のクラスの……参宮って人」

 見上げると、合点がいったような表情で口を開いた。

「あー。あの女好きな」

「……女好き、なんだ」

 なるほど、反応からするに有名らしい。露骨な態度は俺に対してだけでなく、きっと他の男子生徒にもとっているのだろう。
 今まで体育にあんな目立つ生徒がいたのなら気づいたはずなのに、どうして自分は知らなかったのだろうか。

「ん……いるぜ、あそこ」

 指さされた方向を見てみれば、そこは廊下で。確かにいた。……可愛らしい女の子たちに囲まれるようにして。体育のときに見たような爽やかな笑顔を浮かべている。別人のようだ。

「マジで女の子に囲まれてんじゃん」

「……モテてる、ね……」

 あ、目が合った。
 しかしそれも、すぐにふい、と目を逸らされた。予想はしていた。恐らく、誰だアイツとか思われているのだろう。……いや、それすらも思われていないかもしれない。視界に入ったことすらもう彼の記憶から消えていてもおかしくない。
 関わったことのないタイプの人で、ちょっと興味が湧く。だが、体育が終わればもう関わることもないのだろう。そう思うと、なんだかもったいないような気もする。


 彼のことが、なんだか少し気になったまま。また同じ週、体育の時間を迎えるのだった。

「じゃ、前回と同じペアで組んでキャッチボールで。しばらくしたらまた試合するから、解散」

 生徒たちが動きだし、がやがやと騒がしくなる。ぼうっと突っ立ったままの彼の元に行けば、あー、と間延びした声。数秒考えるように黙りこくった。

「……あー……山田だっけ?」

「田山ね」

「同じようなもんだろ」

 酷い暴論だ。期待はしていなかったが、掠りはするくらいには名前を覚えていてくれたから良い方だろう。

「……男にマジで興味無いんだなぁ」

「ねーな、一切」

 きっぱりと言い切られる。その答えに、率直な疑問をぶつけた。

「……なんで?」

「女の子の方がいいから」

 理由になっては……いる、のか。わからない。解釈に悩んだ俺を置き去りにして、さっさと前回と同じ場所に歩いていく彼の後を必死についていった。

 ぽい、とボールを投げる。だるそうな彼に向かって、あまり期待はせず話しかけてみた。どうせ体育のときにしか関われないのだ、この機会を使わねば勿体ないだろう。

「俺と話す気とかある?」

「あると思うか?」

「……まあ、だよね」

 ある、と答えるわけがない。答えた方がびっくりだ。
 彼に仲良くする気は毛頭無いだろうが、黙りこくったままボールを投げ続けるのも拷問に近いのだ。せっかく同じペアになれたのだし。彼が答えずとも、適当に話題を投げてみようか。

「参宮くんって、女友達多いタイプだよね」

「は? なにいきなり」

 返ってきたのは、刺々しい言い方。諦めることなく、もう少しだけ会話を続けてみる。

「この前廊下で見たとき、女の子に囲まれてたから」

「……いつか思い出せねー。見てたのかよ」

 ああ、やっぱり記憶には残っていなかったらしい。予想通りの返しに、むしろ笑いすら込み上げてきた。ゆっくりと転がってきた覇気のないボールを拾って、投げ返す。

「モテそうだし。彼女とかいるんでしょ」

「いねーよ」

 その返事に、思わず目を瞬いた。彼女がいない? あんなに女の子が好きで、告白だってひっきりなしにされそうなのに?
 また転がってきた球を投げようとした手が止まる。まじまじと参宮くんの顔を見つめると、なんだよ、と不満げに眉根を寄せた。

「……え、意外」

「お前はモテなそう」

 なんでいきなり喧嘩を売ってきたんだ。これでも最近はふたりに告白されたんだよ。……かなり重い愛情だったし、女子生徒からではないけれど。
 特に反論も思いつかないまま、苦い顔をする。すると、ふん、と勝ち誇ったような表情で彼はこちらを見て笑った。とんだ俺様だった。

 なんか悔しい。

 ぴい、とホイッスルの音。結局返す言葉もなく、肩を落として俺は力なく声を発した。

「……じゃ、試合頑張ろう」

「適当にやるわ」

 その言葉通り、というよりも、本当に雑にプレイをしていた。バットは持つだけ、守備は立つだけ。前回も同じではあったが、改めて見ると酷い。
 教師に再三注意されても態度を改めないその頑固さに、つい笑ってしまう。また、今日も変わらず。授業が終わればさっさと教室に戻る後ろ姿を、なんとなく見つめた。

「お疲れ。……今日も、大変だった……?」

「うーん、まあね」

 大変といえば大変ではあった。しかし、新たな発見もあったのだ。

「でも、少しだけど会話してくれるから、思ったより悪い人ではないかも」

 それから、何度すれ違っても。視線は合うこともなく、もちろん会話もせず。予想はできてはいたが、まともに関われる機会は体育のキャッチボールくらいしかないようであった。

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