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奉仕型⑥

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 それから。別の日、教室で。

「たまたま用事があったので寄りました。……あの、わからないところはありますか。教えますよ」

「わ、ありがとう!」

 また別の日。

「喉は渇いていませんか?」

 勉強中に、机の上にジュースが置かれる。俺の好きな飲み物だった。

「え、ありがとう! なんか悪いなあ」

「僕が好きでやっていることですので」

 そしてまた、別の日。

「ボタン、解れてますね」

「あ、ほんとだ。直してもらわないとな……」

「僕が直しましょう。……苦手ですけど、頑張ります」

 準備でもしていたのか、どこからか針と糸を取りだした。本当にどこから取りだしたんだ。

「えっ。あ、いや大丈夫!! 怪我しちゃったら大変だから、ね!! ありがとう!」

「……先輩って、優しいですね」

 蕩けたように笑う彼。俺は──なにか、違和感を覚えざるを得なかった。

 なにかが、おかしい。


 とある日の朝。眉根を寄せた翔が、頬杖をついたまま俺を見上げる。

「お前……なんかあの1年と最近やけに仲良くね?」

「うちにも食べに来てた、よね……一緒に」

「は? そんな仲? すご」

「勉強教えてもらって、その流れでね」

 あれから図書館に通いつめていた。その度に丁寧に教えてくれて、本当に頭が上がらない。
 用事が立て込んでしまっていたりで、翔も文月くんも図書館で一緒に勉強はできていなかった。そのため、一方的に二階堂くんを知っているだけで面識はなかったのだ。

「いや、仲良いのは別にいいんだけど──なんか、やたらお前に尽くしてない?」

「……やっぱりそう思う?」

 疑問が確信に変わる。それによって、己の中で燻っていた考えは固まった。
 尽くしてもらってばかりでは、健全な関係とはいえないだろう。二階堂くんの負担が増えるばかりだ。何かをしてもらう度、申し訳なさを覚えてしまうのも少ししんどい。

「後でちょっと言ってみようかな。そんなにしなくてもいいよって」

「田山くん、頑張って、ね」

「あはは、ありがとう!」



 それから。テストまであっという間に日は過ぎて。初日の数学は──自分が期待していた以上の手応えを感じた。どの問題も二階堂くんに教えてもらった知識を使えば解けるもので、いつにない自分の解答速度に感動すら覚えたのだった。

 彼にお礼を言わなくては。

 放課後が訪れるやいなや、俺は荷物を持って図書館へと向かっていた。
 駆けそうになる足を抑えて、早歩きで歩んでいく。がらりと図書室の扉を開ければ、いつも通り──二階堂くんが顔を上げて。

「数学めっちゃできた!!」

 アホのような報告に、顔を綻ばせてくれたのだ。……はっと我に返って周りを見渡す。他に生徒が居なくてよかった。

「ありがとう! 赤点回避どころか平均点以上取れそうな気がする!!」

「先輩の努力の結果ですよ、僕は何も」

 まさか。彼の力がなければこの結果はありえない。首を必死に振って否定する。
 これはまたお返しが必要だろう。まだテストの一日目だから、どこかに行くならば少し先にはなってしまうが。

「なにかお返しがしたいな……またどこか食べに行く? それともなんか欲しいものある?」

 言えば──考え込むように、顎に手を当てて。

「……なら、ひとつだけ……」

 すう、と小さく息を吸った。

「……少し、相談してもいいですか」
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