隻腕の魔法使いー転生したら右腕を失くし魔法学校を追い出されたが、剛腕の魔法使いになる

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第一話・突然の異世界

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 堺 慧人(さかい けいと)は周りから天才の呼び声も高く、現在霞ヶ浦第一高専高等学校一年生だ。
 霞ヶ浦高専は、県下、いや全国から精鋭が集まって来る高校の東大版とも言われている。
 そんな中、家から近いとの理由で入学の合格を最高点でさくっと勝ち取り通学する慧人は皆の憧れの的かと思いきや、そうでもない。
 天才と馬鹿は紙一重を地で行く彼は変人扱いだ。見てくれに拘らず髪は長く伸ばし梳かした様子も無く、あちこちに跳ねている。
 母親に注意されなければ、パジャマで登校していたに違いない。実際に母親がちょっと目を放した隙に上はブレザー、下はパジャマで登校した事もしばしばだ。
 彼は一旦考えごとに嵌まると周りが全く見えなくなるのである、天才と言われる所以である。

 そんなある朝、いつも通りに家を出て登校しようとした彼は道端に図形を見つける。
「なんの図形かな?」慧人は図形に近寄るとしげしげと見た。
 それは不思議な円形で見た事も無い記号が羅列していた。
「初めて見る図形だ、これは記号と思ったけど文字かな・・・うん、そうだ・・文字の組み合わせだ」

 よく見ると、地面に描かれているのではなく、少し地面から浮いている。だが、図形に夢中の慧人は気にしない。
 
 「なんて読むんだろう、ラテン語でもない。ラテン語に当て嵌めると”メクラテ・・ネムスス・・ディアロ・・エイゴ・・・」当て嵌め読みながら手を伸ばしてその図形に触れた途端、図形は波打ち彼の手が向こう側に消える。
 「なんだあ?」慧人が驚いている内に円陣が大きくなり、あっという間に彼を飲み込んだ。


 気が付くと上も下も無い空間に浮かんでいた。
 「ここは一体どこだ?地球の裏側か、でも地球は見えない。いやそれよりも宇宙空間に生身で浮いていられる訳が無い、物理の法則に反している。だが、あれは何だ?銀河系か?周りのこれは星か?でも知っている星座はひとつもなさそうだな」   

 慧人はなんとか自分の知っている星系や銀河を当て嵌めようとしたが駄目だった。なので、近くの星から図形を描き自分で名前を付け始める事にいつしか夢中になっていた。

 『変わった奴よのう・・小さき者よ・・・』突然、慧人の頭の中に声が響いた。
 「誰ですか?僕に喋り掛けているんですか?」慧人は吃驚して答えた。
 『そうだ、小さき者よ。お前しかおらぬではないか』声は答え返す。
 「はあ、姿が見えないですし、僕とあなたは初対面ですから交信違いかもと・・・」

 『ハッ、ハッ、ハッ、ハッ。愉快、愉快。交信違いとは面白き事を言う。お主はまことに変わっておるな』
 「はあ、よく人から言われます。変人だと」
 『なる程、変わっておるが変人ではない。人と心のありようが違うのじゃ、なかなかに肝が据わっておる』
 「そうでしょうか?初めてそんな風に言われました。ありがとうございます」慧人は素直に礼を言う、そうか、人と心のありようが違うのかと少し嬉しくなった。

 『ふ~む、気に入ったぞよ。正直な上、素直な心根を持っている。お主、生まれ変わったら何になりたい?』
 「えっ、それって僕は死んだと言う事ですか?」
 『さあな、そこは何とも言えぬ。これはわしの所為ではないからの・・なにかお前の望みを叶えてやるくらいしか役には立ってやれぬ。もしかしたら、無駄に終わるかもしれんがな。どうする?』

 「う~ん、生まれ変わったらか・・・・・荒唐無稽な事でも大丈夫でしょうか?」
 『言ってみるがよい。言うのはただじゃ』
 「えっ、それって何かと引き換えって事ですか?」慧人は吃驚して尋ねた。
 『当たり前じゃ、荒唐無稽な頼みごとじゃろ、タダほど怖い物は無い。そこはしっかりした契約とも言える』
 「う~ん、なるほど」
 
 

 暫く考えて出した願いを言う事にした、それは小さい時からの密かな現実世界では叶うべくもない願い事だった。

 「魔法を自由に使える腕が欲しい!!」なぜ、そんな言い方をしたか慧人自身も分からなかった。

 『なるほど、なるほど。実に頭が良いのう。では、お前の腕と交換じゃ、よいの?』

 「ええっ!僕の腕と交換ですか・・・痛いのはちょっと・・無理です」

 『なに、痛みで死んだりはせん安心するがよい。・・********』声が何か訳の分からない呟きが聞こえて来たと思ったら、唐突に接触が切れたような気がした。

 どうしたんだろうと思っていると、目の前の空間が歪み始め、ギリシャ神話のような格好をした美女がいつの間にか慧人の目の前に立っていた。
 「いや~、ごめん、ごめん。こんな所にまで飛ばされていたのね。探すのに手間取っちゃった」
 長い足がスカートのような布地から丸見えだ。
 上を見るとやはり西洋人の堀の深い顔立ちで綺麗な金髪がくるくると巻き毛のように縁取っている。
 
 「うふふ。超絶美女だと、よく言われます」美女は勝手に盛り上がる。

 「ここに飛ばされたのは、もしかしてあなたの所為ですか?」慧人はそう結論付けた。

 「まあ、話しが早くて助かるわ、私はこれでも超忙しいんだ」美女は大げさに驚いて見せる。
 「それで、僕は元の世界に返して貰えるんでしょうか?」慧人は小さい頃に魔法の物語はよく読んだが、夢物語だと理解した途端、その類の本は読まなくなった。当然、今流行りの転生物も知らない。

 「なんだ~、そこは期待外れね。実は君を探すのに手間取って、帰るべき空間が閉じてしまったのよ。ごめんね~」美女は舌をペロリと出した。
 「因みに私はただの美女じゃなくて、女神ラナウスよ。よろしくね、・・えーと、慧人・・くん」女神の前にいきなりステイタスボードが現れる。
 「ふんふん、えーと、十五歳で頭脳明晰、天才的な閃きを持っている。父親がサラリーマン、母親は専業主婦、妹一人と弟一人の五人家族・・・・ね」
 
 「それで、やっぱり元の世界に帰れないんですね。だったら・・・」
 「うん、私の世界で生まれ変わって貰うしか手がないの、それかこの空間をずっと彷徨い続けるか」
 それは脅しですよね・・と慧人には言えなかった。選択の余地もない上、無言の圧力まで感じる。

 「それでね、お詫びに何か欲しい物な~い?」
 「ウ~ン、欲しい物と言われても・・・・」
 (さっき、魔法の腕を貰ったしなあ、でも駄目かも知れないって言ってたよな。・・・保険掛けとくか・・・)

 「そこは魔法が使える世界ですか?」
 「ええ、もちろん。」
 「だったら、魔法使いが希望です」
 「うん、分かった。他には?何かある?」
  「う~ん、僕は元の世界では死んだ事になるんですか?」
 「ええ、残念ながら、ごめんなさい」
 

 「・・・だったら、僕は最初からいなかったと家族の記憶操作なんて出来ますか?」
 「そんな・・・いいの?寂しいんじゃない?」
 「少しね。でも、母さん達に悲しんで欲しくないです。凄く家族思いだから、もしかしたらずっと悲しい思いを引きずるかもしれない」
 「・・・そう、ほんとに良い家族なのね、あなたも見掛けに寄らず良い子だわ」
 (今、何気に悪口を言われた気がする・・・・)


 「・・・・はい、できたわよ、記憶操作。これであなたの家族も安泰ね」
 (そう言われると、余りの呆気なさに涙が出てくる。お別れもできなかった。今まで育ててくれたお礼さえ言えなかった。)
 慧人はちょっと泣いてしまった。

 「・・え~と、ほんとにごめんね~。慧人くんの記憶も消そうか?」女神が恐る恐る尋ねて来る。
 「ううん、僕はそのままで、できれば忘れたくないです」
 「分かったわ。・・・他になにか希望はある?」
 「いいえ、もう三つも叶えて貰いました」

 「あら、家族の事や記憶の事はこちらのフォローの範疇よ。他にないの?欲が無いのね、珍しい」
 「う~ん。・・・なら、僕は図形とか数字が大好きなんですけど、図形を描くのが苦手なんです。だから、頭の中の図形を思い通りに描ける技術とか、才能が欲しいです」
 少しの間、慧人を見つめると、女神が顔を顰めた。どうやら、慧人の頭の中の図形達を見たようだ。
 「・・・まあ、人好き好きね。オッケー、スキルを・・・と。それから王様とか、王子様とか、大金持ちとかはどうかしら?」
 女神は見慣れぬ、慧人の頭の中の図形を見て軽く判断して、そのスキルを授けてしまった。
 
 「それも、結構です。そこそこ生活ができれば言う事ありません」
 「・・・ん~、返ってめんどくさい設定ね。・・・じゃあ、設定で良いかしら?」
 「・・・はは、それで結構です」
 「ウ~ン、記憶を残すとすると後は言語の問題ね・・・サービスでスキルに・・・と」
 「それと・・・・、*****、****」
 何だか僕には分からない言葉を呟いている、と思ったら女神と目が合った。彼女はにっこり笑い掛けると手を振って言った。

 「行ってらっしゃ~い、慧人くん」彼女がぐるぐる回り始めた。違う、僕だと思ったら、プツンと記憶が途切れた。











  *




 「わっ、なんだ?何か嫌な夢を見た気がする・・・」吃驚して飛び起きた僕は動悸を鎮める。
 「大丈夫?」暗がりから声を掛けてきた者が立ち上がってベットに近付いて来た。

 そうだ、彼の名前はジャステンだ、まだ混沌とした記憶を探って思い出した。
 「ティール?どうしたの?痛む?」彼の雀斑が散った心配顔に薄ぼんやりとランプの光が当たり、赤茶色の髪が赤く燃える。

 ぼんやりと、ここは神聖魔法学校の寮だと思い出す。思い出す?
 ・・・僕の名前・・名前はけいと・・・・いや・・慧人・・だ。
 そう、僕の名前は堺慧人。転生前の名前だ、今の名前は・・・アンティール。アンティール・メイズナー。
 アンと言う呼びが好きじゃなく、友人にはアティと呼んで貰っている。めんどくさい奴め。

 めんどくさいってなんだ、まるで他人事のようだ、混乱している。落ち着かなければ。

 そうだ、僕は女神ラナウスに飛ばされて転生して来たのだ、この魔法が使える世界に。

 そう、僕は今や魔法使いの弟子なのだ。魔法陣書学の第一人者、ワイリー教授がお師匠様だ。

 神聖魔法学校の最終学年で、あと少しすれば卒業試験。これに合格すれば一人前の魔法使いに登録される。

 狙うは当然、最優秀者の称号、白の魔法使い。

 天才の僕は手に入れたも同然だ、同学年で僕に敵う者は一人もいない。

 そう先生方さえも凌駕する魔力を持っているのだから・・・あれ、手が動かない、僕の大事な右手が。

 見ると右袖がプランと垂れたままだ・・・どうして・・・あれ・・右腕が・・ない・・・そんな馬鹿な・・・

 僕の身体が震えだす・・・思い出したくない・・・そうだ・・僕は事故に遭って”封印されし塔”に閉じ込められたのだ、たった一人で。
 
 彼等は僕を見捨てて閉じ込めた。あれは事故じゃない、故意だった・・レイズの奴め・・・そうだ・・それから、封印を破る為に・・右腕を犠牲にしたのだ・・・

 思い出した。
  
 僕は魔法使いになる為の右腕を失ったのだ。

 大事な魔法の手を・・・








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