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第八章

第百六話・ナリスとの再会と新しい出会い

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 アレンがウナスの森に帰って来た事を聞き付けて、ロンデルがグイの村からやって来た。前以ってアレンの怪我を聞いていた所為か、彼の豪放磊落な性格の故か、『男を上げたじゃねぇか』とアレンの肩をバンバン叩いた。だが、叩いたのは怪我をしていない右肩だったので、ロンデルなりに気遣っての事だろう。アレンも気遣われるのに少々うんざりしていたので、ロンデルの荒い歓迎も有り難く受け取った。
 ジョエルは二日間にわたり旅の用意をしながら亜人達の食料を少し分けて貰い、後は街や村で手に入れながら帰る事になった。人数が少なくなったから、そこは何とでもなるようだ。だが、少数精鋭だ。
 ロンデルの仲間の傭兵達はダンテ達側用人をフォートランドに送ってから、王都ホワイトキングガーデンで再び彼に合流する事になっている。

 最後の日の夜に、イリーメル達が別れの宴を開いてくれた。分かれるのは寂しいが、亜人達の雰囲気は明るい。
 「アレン、有難う。そして、怪我を負わせてごめんね」ケルトがアレンの横に座って来て、頭を下げた。
 「もう何回も聞いた、謝らないでよ。それにもう、ぜんぜん痛くないから、平気だよ。それより、せっかく友達になれたのに、ケルトと離れるのは寂しいな。向こうには(お城)友達がいないんだよ」
 「うん、僕も寂しいよ」ケルトの白い耳がヘニョンと垂れると、アレンの手がうずうずした。
 「手紙のやり取りも離れ過ぎてて難しいよね?」
 「うん、僕・・・アレンに付いて行ったら駄目かな?一緒にフォートランドに行きたい」
 「それは駄目だな。お前はまだ成人していない」いつの間にか、側に来ていた狼族のナグが言った。
 「ナグ。じゃあ、僕が成人してからなら、フォートランドへ行ってもいい?」忽ちケルトの耳がピョコンと立つ。
 「それはアレン次第だな」(それと、マナナと・・)ナグは口には出さず考えた。
 「アレン、僕が成人したらフォートランドに行ってもいいか?」
 「それは嬉しいけど、ケルトが一人で旅をするのは反対だよ。フォートランドまでは、いろんな国(領)が間に一杯あるし、遠いし危ないよ」
 「ケルトが成人したら、俺が一緒に行く。俺達がフォートランドに行っては駄目か」ナグが真剣な目をして、アレンに言った。
 「・・・」ナグの付き詰めたような目に、アレンは直ぐに返事が出来ない。
 「ナグが一緒に付いて来てくれるのか?」ケルトは単純に受け取って嬉しそうだ。
 「そうじゃない」ナグはアレンに真っ直ぐに向き合うと、頭を下げる。
 「俺は、アレンに・・・いや、あなたに仕えたい」
 「・・・・」
 それを見たケルトは一瞬息を飲んだが、ピョコンと耳を跳ねさせると勢い込んだ。
 「僕も、僕もアレンに仕えたい、です。お願いします」ケルトも続いて頭を下げる。
 「やめて、頭を上げて」
 「僕達(亜人)じゃ駄目か?」ケルトが恐る恐る目を上げて尋ねる。
 「違う、違うよ!そんなんじゃないよ!だって、ケルトは友達だし、ナグは大人だけど友人だと思ってる。だから、仕えるって言われても困るよ」そう、友人じゃ無くなるのは嫌だ。
 
 「別に、家臣になったからって友情は終わらないぜ。お前と、ジョエルは近しく見える」ロンデルがアレンの後ろにしゃがみ込みながら言った。
 「それは、ジョエルは兄と言うか、家族みたいって言うか。貴族になる前に、僕を弟にしてくれたんだよ」
 「ほら、見ろ。立場は変わっても関係ないね。お互いの心の有り様だ」
 「あっ、ほんとうだ」ロンデルはアレンの頭をくしゃりと、撫ぜる。
 「じゃあ良いか?」ケルトが耳をピョコピョコさせる。
 「う~ん、来るのは歓迎だけど、僕には二人をお城に住まわせる権限がないんだよ」
 「そうだね、権限は無いね。家臣として雇うにしろ、下働きとして雇うにしろ伯爵様にお尋ねしないと」ジョエルもアレンの後ろにやって来た。先程まで、旅の打ち合わせをロンデルや案内役の亜人と行っていたのだ。
 「下働きなんて、させられないよ」アレンは口を尖らした。彼自身は気が付いていないが、無意識にジョエルに甘えて子供らしくなっていた。
 「アレン、ノースの事忘れてないかい?側仕えとして受け入れたよね。今は、側仕えを増やすより専属の騎士がいる。でないと、王宮ではアレン一人で対処しなけりゃならない」
 「え~~。じゃあ、駄目って事?」
 横ではケルトがハラハラしながら、ナグは冷静に二人のやり取りを見ていた。ナグ自身も分かっている、ジョエルが口に出来ない心配事を。
 そう、ライデン王国では、亜人の数は少ない。王都でも遭ったように、まだまだ差別意識が残っている。いや、もっと悪い事に、亜人=奴隷と言う関係が成り立っている。
 アレンの祖父のフォートランド伯爵は、亜人に対してそのような対応はしなかったが、心の内は分からない。
 ジョエル自身も差別意識はないようだが、フォートランドには亜人がほどんど存在せず、我々の置かれる立場を心配してくれているのだろう。

 「心配してくれて有難う、ジョエル。だが、アレンのお陰でここの憂いは無くなった。今後、亜人も変態できる個体数もどんどん減って行くだろう。だからこそ、俺達は外に向かって出て行かなければならない。その為に、俺は先駆けとして、人族の世界で生きて行こうと思う。こう言う風に思えるようになったのも、アレンに出会えたお陰だ。
 アレンになら、心から仕えたいと思える。だからこそ、この出会いを大切にしたい」ナグは、アレンとジョエルにそう言うと、深く頭を下げた。
 「もとより、苦労は覚悟の上だ。どうしても、アレンに仕えたい。ケルトの事も責任を持つ。絶対に迷惑が掛らないようにする。もし、迷惑を掛けたと思ったら、直ぐに辞仕する」
 ジョエルも、ナグの覚悟に漸く、伯爵に願い出る約束を交わした。

 次の日、村総出でアレン達一行を送ってくれた。(イリーメルとイグナッシュはアレンに又、再び、この地を訪れて欲しいと懇願された)
 先頭は狼族のナグと狐族のべゼル(ダンデール国との国境まで)、ジョエル、アレン、殿がロンデルだ。
 ウナスの村を出てグイの村に着き、アレンはそこでブリ―の墓を訪ねたてから、次の村へと移動した。そしてメセ村で一泊して翌朝早く、キンブリ老達に惜しまれつつ見送られた。
 どの村も皆の表情が明るく、村を取り囲む森も静かに落ち着いていて、何の問題も無かったので旅は非常にスムーズに進行した。ナグとべゼルはタンデールのエルデ領の手前で再会を約束して別れた。
 エルデ領も順調に進みイフス川に着いた。雨季ではなかったがアレン達は渡しのある下流でリュゲル達を呼び出した。
 川の中から水滴を撒き散らしながら美しい馬体を表した。
 「リュゲル、久しぶり。元気だった?」
 リュゲルは鬣を揺らして答える。何時見ても、その出現は不思議で美しく畏怖の念を抱かずにはいられないと、ジョエルは思う。
 アレンはリュゲルに乗り、ロンデル、ジョエルは自分の馬に乗って川を渡る。どうやらリュゲルは自分の身体を変えられるらしく、アレンの腰の周りを落ちないように水で出来た鞍のような物で覆ってしまう。そして、彼等の周りを他の水の馬達が流されないように守りながら向こう岸に着き、イグ領へ入る。
 イグではナリスの叔父のエルドが待ち構え、有無を言わさずタンデールの首都であるカ―マシュに連れて来られた。カ―マシュはイグより内陸のエイランド王国よりにある。まあ、帰り道に少し寄り道したと思われる位置関係だった。


 「その方が、フォートランド伯爵の孫殿か。ライオネル王より、その若さで親善大使を拝命しておると聞く。この度はわざわざ我が宮廷に出向いて貰ったのは他でも無い、我が息子ナリスと力を合わせ”蝗害”を退け、我が領土の安寧を図ってくれた礼を言いたいが為じゃ」
 「過分なお言葉、有難う存じます」
 「うむ。我が息子ナリス共々、今後もタンデールと良しなに頼む」
 
 テルド王との会見は短時間で済んだ。ナリスは叔父との約束を守りリュウジールから帰ると、宮廷に赴いて父親であるテルド王と面会し、彼の力の程を見て王は息子として正式にお披露目をし、自分の側に止め置いたのである。又、エイランド王国の親善大使であるアレンとも顔繋ぎをし、国交を有利に保ちたいとも思われた。

 「アレン、大変な中悪かったね」ナリスとの再会は宮廷で果たされ、事前に会う事は叶わなかったので、アレンの怪我を見たナリスの衝撃は大きかった。
 「大丈夫だよ、ナリス。もう痛みは無いからね。それよりお父さんの事、良かったね」
 「良かったのかどうか・・・俺としては、イグに帰りたいよ」
 「生きている内に会えたんだから良かったんだよ」アレンは父親に生きている内に会えなかった。ナリスは、そんな彼の言葉に頷くしかない。
 「実はアレンに紹介したい人がいるんだ。でも、今は引き受けた事を後悔している。もし、急ぐのであればそう言って、断わるから」
 ナリスの言葉を聞いたジョエルは嫌な予感がした。面倒事の臭いがぷんぷんする。だが、ジョエルが口を開く前にアレンが先に喋り出してしまう。
 「もうその人は来てるの?会うくらいならいいよ」
 「ほんとうか?良かった。俺の控室で待っているんだ」ナリスはこっちだと、急くようにアレン達を先に立って案内した。

 控室に着いたが、待ち人はおらずナリスは再び、部屋の外へ探しに出て行った。ジョエルと、ロンデルは椅子に遠慮なく腰を下ろし寛いだ様子でお茶を飲んでいる。
 その時、カーテンが風で軽く捲れたのでアレンはテラスに続く掃き出し窓に近寄った。
 「アレン?」
 「少し、庭を見ていいかな?」
 「ああ。でも、部屋の近くだけだよ」
 「分かった」
 アレンはジョエルに返事を返すと、カーテンを捲りテラスに出る。テラスには白いテーブルセットが置かれ、端の方に庭に出る小さな階段が付いていたので、何気なく階段を下りた。
 階段を下りると、右手に薔薇園が続いており東屋が見える。よく見ると、誰かが座っているようだ。その人物はアレンに気が付くと立ち上がり、東屋を出て来た。
 東屋には深い庇が付いていて影になっていた為に中はよく見えなかったが、明るい日差しの下に出て来た人物は少女だった。彼女は躊躇い無くアレンの前まで歩を運ぶと、丁寧にドレスの裾を持ち腰を屈める。それにつれて、綺麗な金糸の髪が、前にサラサラと流れた。
 「銀の助け手様」彼女が呟いた。頭を少し上げると、彼女はアレンの手を取り軽く口付ける。
 「どうか、兄をお助けくださいませ」
 アレンは吃驚してされるがままだったが、顔を上げた彼女の顔を見て、再び驚いた。アレンは彼女の紫色の大きな瞳を見つめる。彼女の瞳は赤味がかった紫で、宝石のように輝いている。そして、髪はプラチナブロドで陽の光を受け、キラキラしていた。頭一つ分、彼女の方が背が高かった。彼女も真剣にアレンを見つめていたが、少し首を傾げると、彼女の方も目を見開いて、アレンを再び凝視して来た。手は握ったままだ。


 「アレン?・・・こんな所に・・・ユーテシア?」ナリスがテラスの上から声を掛けて来た。
 どれくらいそうしていたのか、彼の声で二人の呪縛が解ける。
 ナリスの紹介でお互いに名乗り合った。
 
 「アレリス・フォン・ダンドリュウス・フォートランドです」
 「初めまして、ユーテシア・エルグ・フォン・ジョイナース・メルンボクですわ」

 彼女は公爵令嬢だった。

 
 そして・・・


 

 同族だった。
 














 +++++++

 第百七話・公女ユーテシア(予定)

 前半、長かった・・・この回の話を書きたいと思っていたのですが、そこにどう繋げ様かと・・・

 大まかな話しは出来ているのですが(自分の頭の中だけで、遊びで作っていたので文字にするって本当に難しいです)

 話しと話しを繋ぐ回が難しいです(@_@;)
 つい、現実逃避に他の作者様のページに跳んでしまいます
 不定期になって申し訳ないです<m(__)m>
  (-_-)/~~~ピシー!ピシー!自分に















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