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第八章
第百一話・”森の守護者”
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ジョエルは月一で、原生林を抜けドラゴンヘッドの見える麓まで通っていた。お供はロンデルとナリス、イグナッシュ、それと狼族のナグだが、今日は兎族のケルトも一緒に来ている。側仕えのベルグやダンテ、ノースもだ。
ケルトや側仕え達は、つい三ヵ月前にグイの村から傷が癒えた負傷者達と一緒に巫女の村までやって来た。ちょうど、アレンが火口で姿を消して一月後の事だった。
アレンと麓で分かれ、村に着いて直ぐに森に異変があった。強い魔力の気脈が絶えたのだ。亜人達は直ぐにそれを感じ取れた。肌をピリピリと刺す痛みや、頭を締め付けられるような重い圧迫感が無くなり彼等はアレンが成功したのを知って歓喜した。
寝込んでいた者達も、直ぐに元気になり、村はお祝ムード一色になった。それを受けてジョエルも、心底ホッとした。成功したと言う事はアレンが生きている証しだと思ったからだった。
しかし、待てど暮らせどアレンは戻って来なかった。
痺れを切らしたジョエルはイグナッシュにお願いをして、もう一度原始の森を抜けたいと、言いだした。そして、ロンデルにはドラゴンヘッドの山頂へアレンを探しに行きたいと。
彼は、軽く考えていた。無事成功したのなら、帰りはトゥルールに乗ってアレンは直ぐに帰って来ると思っていたのだ。だが、アレンは一向に戻ってくる気配が無い。
そんなジョエルにイリーメルやイグナッシュは麓までは案内するが、山頂に登るのは長雨が終わってからの方が良いと提案した。山頂に登るなら雨で溶岩が冷えてからの方が近づきやすいからだ。
麓に通っていたジョエルだが、長雨が止んで一月経った今日、新しい噴火も無く、漸く山頂まで登る許可が出た。ジョエルと一緒に、ベルグやダンテ、ノースやケルト迄もがどうしても一緒に行きたいと願った。もう、置いて行かれるのは嫌だと言う彼等の気持ちが痛いほどよく分かったので、同行を許可した。
その代わりに、例えアレンが見付からなくても一旦、ジョエル以外はフォートランドの伯爵領まで途中経過を知らせに戻る事に同意を得た。
ドラゴンヘッドの麓へは、イグナッシュの協力も有り、大型獣に遭遇する以外は何事も無く到着した。コブリン達の襲撃は最初の一回でけで、後は草叢からこちらを窺ってはいるようだが、襲撃を仕掛けて来る事は無かった。
山頂へは、ナグやべゼル、ケルトの鼻が役に立った。彼等は間欠泉や、地表の熱を敏感に感じ取り安全な道を案内してくれた。
一行は五日掛けて漸く、山頂に着いた。山頂からは、大分細くなりはしたが、未だに煙が少し上がっていた。
その山頂は長雨の所為か、半分が崩れて大量の土砂が火口に雪崩れ込み覆っていたが、まだ溶岩が赤い口を開けて生き物のように踊っていた。その様を目で見たジョエル達は誰も口を開かなかった。
山頂の崩落は長雨の後に起こり、その様子は麓からでも分かる程の規模だった。下から見上げた山頂は半分に削れていたからだ。
大量の雨や、大量の土砂が流れ込んで半分が固まって見えるその溶岩の景色でさえも、とてもではないが、人間が踏み込める範疇を越えていた。近付くのは不可能に思えた。
山頂まで登る間で、アレンの姿や、扉を探したが見付からなかったので後は火口の中だけが頼りだったが、先に述べた通りの有り様だった。
火口の中に扉は見付からなかった。もしかして、扉は溶岩に埋没してしまったのかも知れない。それとも、土砂に埋まってしまったのか、どちらにしても、扉を閉めた後、無事で生存するのは不可能に思えた。
彼等の足場も何時崩れるとも限らない、声を失くした一行をロンデルは心を鬼にして下山を促した。
「アレンはまだ見付かっていない」ジョエルは頑強に抵抗した。
「そうだな。だが、例え生きていたって、ここに戻って来るのは不可能だ」
「アレンは、必ず生きている。俺に戻って来ると約束したんだ」
「だが、扉も無い。アレンはその”扉”とやらを創り出す事が出来るのか?」
「・・・」
「兎に角、一旦、戻ろう。ここにいちゃ駄目だ。皆、死んじまう。そんな事、アレンが喜ぶとは思えねぇ」
ジョエルも皆を危険に晒す事が出来ず下山に同意したが、村に戻るまでとうとう一言も口を開かずに一人深い思索の淵に沈んだ。
*****
「・・・ん・・くすぐったい・・」アレンは自分の声で目が覚めた。彼はゆっくりと目を開けると、目を擦ろうと手を上げてビリッとした痛みではっきり覚醒する。
(そうだ僕は確か左手が・・・)
恐る恐ると自分の左手を見た。
(あれ?)
炭化して黒くなっていた皮膚は火傷の痕が生々しく這ってはいるが、再生されたようなぴんく色だった。勿論左手自体は欠損している。だが、頭を突き抜けるような痛みも、内側から焼け爛れるような痛みも無かった。
アレンは右側を下にして横たわり、身体の下にはふかふかに葉っぱが敷き詰められている。
(ここは扉の内側の洞窟の中なのか?)
彼は襲い来る痛みを予想して怖々と身体を起こしたが、やはり思っていた程の痛みは感じなかった。
”キュウ”
「クッキー、良かった。無事だったんだね」クッキーは身軽にアレンの右肩にぴょんと飛び乗ると、彼の顔に自分の頭を擦り付けた。
「ふふ、くすぐったい。さっきのもクッキーだったんだね」
「ご主人様、お加減はいかがですか?」アルゲートがアレンの目の前に現れた。
「アルゲート!良かった、君も無事だったんだね・・・大丈夫?」
「はい、有難う御座います」アルゲートは山頂で最後に見た時より更に皮膚の劣化が進み、灰色に炭化した面積が身体の半分を覆って痛々しい。
「それより、ご主人様。その魔獣は何ですか?」
「え、クッキーの事?・・・守護魔獣かな?」
「そうですか・・・実はご主人様の傷も、その魔獣が舐めて癒したのです。それに、身体の下の葉っぱと言い、果実と言い、どこからともなく持って来るのです」アルゲートの視線の先に目をやると、大きな葉の上に果実が幾つか積み上げられている。
「そう、やっぱりクッキーが舐めて治してくれたんだね。凄いや、こんなに酷い傷まで治せるなんて。やっぱり不思議魔獣だね」
「不思議魔獣?」
「うん、ほんとはクッキーと契約した覚えは無いんだ」
「そうですか・・・」
「アルゲート?」
アルゲートは少し考えてから口を開いた。
「その魔獣は・・・おそらく”森の守護者”ではないかと思います」
「”森の守護者”?」
「はい、強大な癒しの力を持っているのは”森の守護者”だけです。それに、この果実や葉はおそらく二つ目の扉の向こう側からーー”アーケシェール”から持ち込んでいるのでしょう」
「”アーケシェール”?」
「はい、主様は『我が古郷、”アーケシェール”』と呼んでおられました。”アーケシェール”と、こちら側を行ったり来たり出来るのはご主人様の魔力に因るものだと思いますが、その力を利用できる者はまず、他にいないかと思われます」
「”森の守護者”?クッキーが?」アレンは小さなクッキーに目をやると首を傾げた。クッキーは色々と不思議な力を持っている。だがしかし、その小さくて可愛い見た目と、重々しい名称がどうにも繋がらない。
クッキーは二人の会話に飽きたのか、果実の所に行って赤い実をガブガブ食べている。相変わらずマイペースだ。
「もしかしたら、代替わりをしたのかも知れません。”森の守護者”は変容し、色々な姿を持っていると聞いた事があります」アルゲートがクッキーから視線を戻して言った。
「代替わりって、新しく誕生したって事?」
「おそらく・・”森の守護者”は一頭だけ。前の”守護者”は寿命が尽きたのでしょう」
(もしかして、僕に遇った時って、生まれたばかりで寂しかったから、無理やり付いて来ちゃったの。それってどうなの?大丈夫なの?)
「アルゲート、”森の守護者”が、勝手にこちら側に来てていいのかな?あっちは大丈夫なのかな?」アレンは心配になった。
(だって、”守護者”でしょ!向こうを守ってないと駄目なんじゃないの・・・)
「さぁ、私には何とも・・・しかし、姿が見えない時はあちら側にいるのではないでしょうか」アルゲートが首を傾げて肩を竦めた動作はなんとも人間臭く、アレンの微笑みを誘った。
「まあ、仕方ないね。クッキーだから・・・このマイペース振りは僕にはどうにも出来ないよ。それに、クッキーにはいつも助けられてるし、居なくなると寂しいもの」自分の名前に反応したクッキーは、両方の頬袋を一杯に膨らませながら、アレンの所に果実を持ってやって来た。
”キュウ、キュウ”小さな前足で赤い実を差し出す。
「くれるの?ありがとう、クッキー」アレンはクッキーから赤い実を受け取ると、ゆっくり齧りつく。皮膚が引き攣れてピリピリと痛む。
「大丈夫ですか、ご主人様」心配そうな声でアルゲートがアレンの顔を覗き込む。どうやら、痛みに顔を顰めたらしい。
「うん。大丈夫だよ、アルゲート。前よりも痛みは穏やかだよ、クッキーのお陰で凄く楽になった」アレンは口の中に広がった甘さに、夢中になってシャクシャク食べ始めた。それを見たアルゲートはホッと息を吐く。
「凄く甘いよ、クッキー。ありがとう」アレンのお腹がグウグウ鳴ったので、クッキーは追加で何個か果実を持って来てくれた。どうやら、アレンの意識が無い間にも、果実の実を絞って飲ませてくれていたらしい。
アレンは二つ目を食べ切ると、いつの間にか気を失うように眠っていた。ニ三日の間は、食べては眠りを繰り返し体力を回復するのに勤しんだ。彼は三週間近く生死の境を彷徨っていたらしく、身体を起こしているだけでも酷く疲れる。この状態ではとてもではないが、”道”を渡る事は出来ないだろう。
++++++
随分と御無沙汰してしまいました、すいません(>_<) 仕上がってはいたのですが、もう少し書こうかどうしょうかと悩んでいる間に日があいてしまいました~~~~。
あと、アレンの怪我ですが、元の話には無い物でしたが溶岩の写真を見たり、調べたりしていると、怪我無しでは余りにチート過ぎると付け足しましたが、別に書いている話に被って来るので怪我の具合を軽くしました。肘としましたが手首から先の欠損に。前回の話の所も訂正します。
(実は他にも、アルバートの名前や、ドラゴンヘッドの名前も違ってたり・・・訂正したいと思います)
百二話・故郷”アーケシェール”
ケルトや側仕え達は、つい三ヵ月前にグイの村から傷が癒えた負傷者達と一緒に巫女の村までやって来た。ちょうど、アレンが火口で姿を消して一月後の事だった。
アレンと麓で分かれ、村に着いて直ぐに森に異変があった。強い魔力の気脈が絶えたのだ。亜人達は直ぐにそれを感じ取れた。肌をピリピリと刺す痛みや、頭を締め付けられるような重い圧迫感が無くなり彼等はアレンが成功したのを知って歓喜した。
寝込んでいた者達も、直ぐに元気になり、村はお祝ムード一色になった。それを受けてジョエルも、心底ホッとした。成功したと言う事はアレンが生きている証しだと思ったからだった。
しかし、待てど暮らせどアレンは戻って来なかった。
痺れを切らしたジョエルはイグナッシュにお願いをして、もう一度原始の森を抜けたいと、言いだした。そして、ロンデルにはドラゴンヘッドの山頂へアレンを探しに行きたいと。
彼は、軽く考えていた。無事成功したのなら、帰りはトゥルールに乗ってアレンは直ぐに帰って来ると思っていたのだ。だが、アレンは一向に戻ってくる気配が無い。
そんなジョエルにイリーメルやイグナッシュは麓までは案内するが、山頂に登るのは長雨が終わってからの方が良いと提案した。山頂に登るなら雨で溶岩が冷えてからの方が近づきやすいからだ。
麓に通っていたジョエルだが、長雨が止んで一月経った今日、新しい噴火も無く、漸く山頂まで登る許可が出た。ジョエルと一緒に、ベルグやダンテ、ノースやケルト迄もがどうしても一緒に行きたいと願った。もう、置いて行かれるのは嫌だと言う彼等の気持ちが痛いほどよく分かったので、同行を許可した。
その代わりに、例えアレンが見付からなくても一旦、ジョエル以外はフォートランドの伯爵領まで途中経過を知らせに戻る事に同意を得た。
ドラゴンヘッドの麓へは、イグナッシュの協力も有り、大型獣に遭遇する以外は何事も無く到着した。コブリン達の襲撃は最初の一回でけで、後は草叢からこちらを窺ってはいるようだが、襲撃を仕掛けて来る事は無かった。
山頂へは、ナグやべゼル、ケルトの鼻が役に立った。彼等は間欠泉や、地表の熱を敏感に感じ取り安全な道を案内してくれた。
一行は五日掛けて漸く、山頂に着いた。山頂からは、大分細くなりはしたが、未だに煙が少し上がっていた。
その山頂は長雨の所為か、半分が崩れて大量の土砂が火口に雪崩れ込み覆っていたが、まだ溶岩が赤い口を開けて生き物のように踊っていた。その様を目で見たジョエル達は誰も口を開かなかった。
山頂の崩落は長雨の後に起こり、その様子は麓からでも分かる程の規模だった。下から見上げた山頂は半分に削れていたからだ。
大量の雨や、大量の土砂が流れ込んで半分が固まって見えるその溶岩の景色でさえも、とてもではないが、人間が踏み込める範疇を越えていた。近付くのは不可能に思えた。
山頂まで登る間で、アレンの姿や、扉を探したが見付からなかったので後は火口の中だけが頼りだったが、先に述べた通りの有り様だった。
火口の中に扉は見付からなかった。もしかして、扉は溶岩に埋没してしまったのかも知れない。それとも、土砂に埋まってしまったのか、どちらにしても、扉を閉めた後、無事で生存するのは不可能に思えた。
彼等の足場も何時崩れるとも限らない、声を失くした一行をロンデルは心を鬼にして下山を促した。
「アレンはまだ見付かっていない」ジョエルは頑強に抵抗した。
「そうだな。だが、例え生きていたって、ここに戻って来るのは不可能だ」
「アレンは、必ず生きている。俺に戻って来ると約束したんだ」
「だが、扉も無い。アレンはその”扉”とやらを創り出す事が出来るのか?」
「・・・」
「兎に角、一旦、戻ろう。ここにいちゃ駄目だ。皆、死んじまう。そんな事、アレンが喜ぶとは思えねぇ」
ジョエルも皆を危険に晒す事が出来ず下山に同意したが、村に戻るまでとうとう一言も口を開かずに一人深い思索の淵に沈んだ。
*****
「・・・ん・・くすぐったい・・」アレンは自分の声で目が覚めた。彼はゆっくりと目を開けると、目を擦ろうと手を上げてビリッとした痛みではっきり覚醒する。
(そうだ僕は確か左手が・・・)
恐る恐ると自分の左手を見た。
(あれ?)
炭化して黒くなっていた皮膚は火傷の痕が生々しく這ってはいるが、再生されたようなぴんく色だった。勿論左手自体は欠損している。だが、頭を突き抜けるような痛みも、内側から焼け爛れるような痛みも無かった。
アレンは右側を下にして横たわり、身体の下にはふかふかに葉っぱが敷き詰められている。
(ここは扉の内側の洞窟の中なのか?)
彼は襲い来る痛みを予想して怖々と身体を起こしたが、やはり思っていた程の痛みは感じなかった。
”キュウ”
「クッキー、良かった。無事だったんだね」クッキーは身軽にアレンの右肩にぴょんと飛び乗ると、彼の顔に自分の頭を擦り付けた。
「ふふ、くすぐったい。さっきのもクッキーだったんだね」
「ご主人様、お加減はいかがですか?」アルゲートがアレンの目の前に現れた。
「アルゲート!良かった、君も無事だったんだね・・・大丈夫?」
「はい、有難う御座います」アルゲートは山頂で最後に見た時より更に皮膚の劣化が進み、灰色に炭化した面積が身体の半分を覆って痛々しい。
「それより、ご主人様。その魔獣は何ですか?」
「え、クッキーの事?・・・守護魔獣かな?」
「そうですか・・・実はご主人様の傷も、その魔獣が舐めて癒したのです。それに、身体の下の葉っぱと言い、果実と言い、どこからともなく持って来るのです」アルゲートの視線の先に目をやると、大きな葉の上に果実が幾つか積み上げられている。
「そう、やっぱりクッキーが舐めて治してくれたんだね。凄いや、こんなに酷い傷まで治せるなんて。やっぱり不思議魔獣だね」
「不思議魔獣?」
「うん、ほんとはクッキーと契約した覚えは無いんだ」
「そうですか・・・」
「アルゲート?」
アルゲートは少し考えてから口を開いた。
「その魔獣は・・・おそらく”森の守護者”ではないかと思います」
「”森の守護者”?」
「はい、強大な癒しの力を持っているのは”森の守護者”だけです。それに、この果実や葉はおそらく二つ目の扉の向こう側からーー”アーケシェール”から持ち込んでいるのでしょう」
「”アーケシェール”?」
「はい、主様は『我が古郷、”アーケシェール”』と呼んでおられました。”アーケシェール”と、こちら側を行ったり来たり出来るのはご主人様の魔力に因るものだと思いますが、その力を利用できる者はまず、他にいないかと思われます」
「”森の守護者”?クッキーが?」アレンは小さなクッキーに目をやると首を傾げた。クッキーは色々と不思議な力を持っている。だがしかし、その小さくて可愛い見た目と、重々しい名称がどうにも繋がらない。
クッキーは二人の会話に飽きたのか、果実の所に行って赤い実をガブガブ食べている。相変わらずマイペースだ。
「もしかしたら、代替わりをしたのかも知れません。”森の守護者”は変容し、色々な姿を持っていると聞いた事があります」アルゲートがクッキーから視線を戻して言った。
「代替わりって、新しく誕生したって事?」
「おそらく・・”森の守護者”は一頭だけ。前の”守護者”は寿命が尽きたのでしょう」
(もしかして、僕に遇った時って、生まれたばかりで寂しかったから、無理やり付いて来ちゃったの。それってどうなの?大丈夫なの?)
「アルゲート、”森の守護者”が、勝手にこちら側に来てていいのかな?あっちは大丈夫なのかな?」アレンは心配になった。
(だって、”守護者”でしょ!向こうを守ってないと駄目なんじゃないの・・・)
「さぁ、私には何とも・・・しかし、姿が見えない時はあちら側にいるのではないでしょうか」アルゲートが首を傾げて肩を竦めた動作はなんとも人間臭く、アレンの微笑みを誘った。
「まあ、仕方ないね。クッキーだから・・・このマイペース振りは僕にはどうにも出来ないよ。それに、クッキーにはいつも助けられてるし、居なくなると寂しいもの」自分の名前に反応したクッキーは、両方の頬袋を一杯に膨らませながら、アレンの所に果実を持ってやって来た。
”キュウ、キュウ”小さな前足で赤い実を差し出す。
「くれるの?ありがとう、クッキー」アレンはクッキーから赤い実を受け取ると、ゆっくり齧りつく。皮膚が引き攣れてピリピリと痛む。
「大丈夫ですか、ご主人様」心配そうな声でアルゲートがアレンの顔を覗き込む。どうやら、痛みに顔を顰めたらしい。
「うん。大丈夫だよ、アルゲート。前よりも痛みは穏やかだよ、クッキーのお陰で凄く楽になった」アレンは口の中に広がった甘さに、夢中になってシャクシャク食べ始めた。それを見たアルゲートはホッと息を吐く。
「凄く甘いよ、クッキー。ありがとう」アレンのお腹がグウグウ鳴ったので、クッキーは追加で何個か果実を持って来てくれた。どうやら、アレンの意識が無い間にも、果実の実を絞って飲ませてくれていたらしい。
アレンは二つ目を食べ切ると、いつの間にか気を失うように眠っていた。ニ三日の間は、食べては眠りを繰り返し体力を回復するのに勤しんだ。彼は三週間近く生死の境を彷徨っていたらしく、身体を起こしているだけでも酷く疲れる。この状態ではとてもではないが、”道”を渡る事は出来ないだろう。
++++++
随分と御無沙汰してしまいました、すいません(>_<) 仕上がってはいたのですが、もう少し書こうかどうしょうかと悩んでいる間に日があいてしまいました~~~~。
あと、アレンの怪我ですが、元の話には無い物でしたが溶岩の写真を見たり、調べたりしていると、怪我無しでは余りにチート過ぎると付け足しましたが、別に書いている話に被って来るので怪我の具合を軽くしました。肘としましたが手首から先の欠損に。前回の話の所も訂正します。
(実は他にも、アルバートの名前や、ドラゴンヘッドの名前も違ってたり・・・訂正したいと思います)
百二話・故郷”アーケシェール”
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