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第七章
第百話・再び扉の向こう側へ
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アレンはトゥルールがゆっくり旋回してくれたので召喚獣の背から、地上で手を振る皆の姿を目に焼き付けるように収めた後、真っ直ぐに前を向いた。
目指すドラゴンヘッドは、今も少し噴煙を上げている。
皆には言わなかったが、扉のある洞穴は頂上付近では無く、実は火口の中にある。
アルゲートが扉を抉じ開けようとした時は、まだ噴火前で容易に火口の中へ下りて行けたらしいが、今やどうなっているのか分からない。アレンは心配させたく無くて、皆には黙っている事にしたのだ。
(どうやって近付こうか・・・噴火さえしなければなんとかなるかな)
アレンの短い人生の中で、煙を上げる火山と言う物をお話として聞いた事はあるが、詳しくは知らなかったし、体験した事も無かったのでまだまだ心に余裕があった。
トゥルールはアレンに合わせてゆっくり滑空していたので、暗くなる前に休める所を探そうと斜面に近付くと、忽ち高温の空気に晒された。地表は熱い蒸気が噴き出している所もあって、アレン達はもう少しの所で行き成り噴き出した間欠泉に巻き込まれるところだった。トゥルールが異変に気付き、方向を変えて飛ばなければ命は無かっただろう。
(う~ん、どうやらとんでも無いとこに来ちゃったな)と言うのが、アレンの正直な感想だ。
アレン達は薄暗くなってから、漸く大きな巨石の上に落ち着く事が出来た。剥き出しの岩だが、地熱の為に温かい。どうやら、蒸し焼きになるのは免れたようだ。
(ここで、行程の半分と少しくらいかな?頂上に近付くと、もっと熱くなって来るだろうな。どうしたらいいんだろう・・・)彼は考えている間に疲れの為か、いつの間にか眠っていた。
ジョエルが泣いていた。
(ジョエル、泣かないで。いつも心配ばかり掛けてごめんね)アレンが必死で慰めるも、彼の涙は次々と溢れ出し、アレンの顔にぼたぼたと落ちて来る。
「ジョエル!」自分の声にハッと目が覚めた。目が覚めたアレンの顔に雨がポツポツ降り注いでいる。
「夢か・・・良かった」アレンは寂しくなって、もう一匹の守護魔獣に声を掛けた。
「クッキー?いるの?」
”キュウ”鳴き声がする。
「どこ?クッキー」すると、頭の上からジャンプして目の前にクッキーが飛び降りて来た。
「ふふ、良かった。ちゃんと居たんだね。最近出て来ないから、どこかに行ったのかと思ったよ」
アレンは小さなクッキーに何度も頬を擦り付けた。クッキーもアレンを慰めるように三本の尻尾を使って、器用に彼を擽る。
一頻りクッキーと戯れると元気が出て来た。
「よし、頑張るぞ!クッキーも応援してよね」
”キュウ、キュウ”
アレンが、トゥルールを呼び出す頃には雨が土砂降りになって来ていたが、クッキーが尻尾を大きく広げて雨避けをしてくれるので、そのままトゥルールに飛び乗って再び山頂を目指して出発した。
トゥルールが昨日より早いペースで飛んでくれたので、お昼過ぎにはドラゴンヘッドの山頂に着く事ができた。
ドラゴンヘッドの山頂は大きく抉れ、中側に何段かの階段状に落ち込んでいる。火口まではかなりの距離がありそうだが、そのお陰でアレン達は山頂に降り立つ事ができた。
縁から、身体を少し乗り出して下の火口を覗けば忽ち熱い熱風に晒される。火口の中は、まるで生き物のような溶岩が赤い身をくねらせ噴き上げている。暫しの間、アレンは溶岩に見とれていた。
「アルゲート、出て来てくれる」
”只今、参ります”頭の中に彼の返事が聞こえると同時に、アレンの横に姿を現した。しかし、出て来たアルゲートは、アレンを振り返る事なく一心に瓦解した火口を見つめている。
「アルゲート?」呼び掛けられた彼はハッと我に返り、アレンの方を呆然と見返す。
「申し訳ありません、ご主人様・・・火口がとんでもない事に・・・どう致しましょう?」
「アルゲートの時には、あの溶岩は無かったの?」
「はい、噴火前でしたので、あのように溶岩が噴出していることはなく、普通に火口へと下りることができました。おまけに扉のある洞窟も崩れているようです」
「どこに洞窟はあったの?」
「あそこら辺ですが、洞窟が崩れて扉がほぼ剥き出しになっているような気がします」
アレンはアルゲートの指さす方を見たが、遠くてはっきりと分からないので、一番手前の岩棚に下りることにした。
「私が先に下りて、岩棚が崩れないか、足元が安全かを確かめます。手を振ればご主人様は守護魔獣で下りれ来てください」アルゲートは飛竜で今は炎の力も持っているので大丈夫だと、請け負った。
どうやって下りるのかと思っていたら、アルゲートは二十メートルの高さを飛び下りた。正に、力技だ。着地した彼の足元から黒い粉塵がもうもうと舞い上がって一瞬、その姿が掻き消えた。
「アルゲートー!」
”大丈夫です、ご主人様。粉塵が収まったら下りて来てください”直ぐに返事が返って来て安心したアレンは粉塵が収まってから、トゥルールを呼び出して岩棚に下りたが、結局トゥルールの羽ばたきで粉塵が舞い上がり二人して黒い粉塵塗れになってしまった。
扉のあった洞窟はほぼ崩れ、庇のような岩棚が少し残っている他は、扉が剥き出しになっている。そして、灼熱の赤い溶岩は扉の真下まで迫り、うねりながら、その触手を時折り扉の方まで伸ばしていた。
「あの庇までトゥルールに乗って一旦降りて、そこからファイアー・ドームで扉の前に下りるのはどうかな?」
「いいえ、あっという間にご主人様の身が燃え尽きてしまうでしょう。溶岩からは出来るだけ距離を置いた方がいいでしょう。この熱量です、きっと溶岩に触れるまでもなく身体は炎を上げるのではないでしょうか」
「じゃあ、最初からファイアー・ドームで身体を覆って行けば大丈夫かな?」
「・・・まず、私がもう一段下の崖に下りてみます。大丈夫なら、あの庇の上まで下りてみます」
「でも、溶岩に近くなるよ。危ないよ、アルゲート」
「私はこれでも飛竜です、人間より余程皮膚が厚くて丈夫です。それに身体に火が付けば、直ぐにご主人様の中に戻れます。私にお任せください」
「分かった、危ないと思ったら直ぐに戻ってね」
「はい、ご主人様」
アルゲートは今度も力技で十五メートル下に飛び下りたが、更に十メートル下の段まで続け様に飛び下りた。だが、彼は二段目に下りるや否や、姿を消してアレンの中に戻って来た。
「アルゲート、大丈夫?」
暫くしてから、アルゲートが頭の中で返事を返した。
”申し訳ありません、二段目に着くかと思われたのですが、肺の中が焼かれたように息ができなくなりました。声も当分出せそうにありません”
「分かったよ、有難うアルゲート。休んでて」
(もう、こうなったら庇まで直接下りた方がいいのかな。時間との勝負なような気がする)
「トゥルール、小さいままでいいから出てお出で」
”ピルルル~~”赤い小鳥がアレンの前に現れる。
「トゥルール、これからあの庇の所まで僕を運んでくれる?あそこまで行ったら、僕を離して中に戻るんだ。僕もファイヤー・ドームで自分を覆うけど、その上から僕の肩を掴めるかな?」
”ピル、ピル”アレンには、トゥルールが”できる”と言ってるように感じたので、岩棚を慎重に歩き庇のある方の側面に回り込む。
下を覗き込んで、庇を確認すると、トゥルールにもう一度念押しをする。
「あそこだからね。もし、トゥルールが熱いと思ったら僕の中に戻るんだよ、いいね」
アレンは熱いので上着を脱いだが風に攫われ、上着は火口の方へとヒラリと飛んで行った。火口の下へとヒラヒラと舞い落ちて行った上着は二段目の岩棚(先程、アルゲートが下りた)を過ぎると、あっと言う間に炎に包まれて煙になって消えて無くなった。
「・・・・」アレンは言葉無く見つめる事しか出来なかった。
(考えても仕方ない、絶対に扉をしめなくちゃ。そして、アルゲートを故郷に返してあげるんだ)
アレンはファイアー・ドームで身体を覆うと、赤い小鳥に声を掛ける。
「トゥルール、お願い」そうして、アレンは岩棚から飛び下りた。
アレンはドームを維持するのに集中したが、忽ちドームの中は熱くなった。周りではバチバチと炎が散っている。
(ドームはどこまで持つだろう。いや、集中、集中)
途中で、落下スピードが速くなった、上を見るとトゥルールが小さくなって炎を纏っていた。魔力の消費量が半端ないようだ。
バチンッ!!ドームの外側を溶岩が舐めた。下を見ると、庇の岩棚が直ぐ側にある。
「トゥルール。もういいよ、戻るんだ」だが、トゥルールは小さな身体で一生懸命アレンを放すまいと支えている。
(時間が無い、早く扉に触らないと)アレンは押し問答しても無駄だと判断して、少し開いたままの扉に手を伸ばした。今や、アレンの身体は滝のように汗が噴き出ていて、顔も赤く息苦しい。
アレンは何度も手を伸ばしたが、扉は青く反応しない。
(どうして・・・焦るな。考えろ、考えろ)
その間にもドームがどんどん縮んで行く。
(壊れて反応しないの?)
(せっかく、ここまで来たのに?)
(!!!)
(もしかして、素手で触れていないから?)
アレンは思い切って、左手をドームの外へ差し出した。咄嗟に、効き腕では無い方を選択した。忽ち左手が炎に包まれる。
「ああああああ~~~!!!」左手に次いで、身体ごと扉にぶつかると、閉じた網膜を青い光が照らす。
アレンは洞窟に転がり込んだ。
「・・・主人様・・・ご主人様」優しく揺すられてアレンは気が付いたが、身体を起こそうとして激痛が走った。
「うっ!!」
「急激に身体を動かしてなりません・・・ご主人様は左半身が・・・」
「アルゲート?」アレンはどうやら、岩壁に凭れているようだと感じた。背中に、ごつごつとした岩肌の感触がする。
「はい」
アレンはそっと右目を開けたが、左目の感覚が無い。顔に触れようと手を上げ掛けたが、またもや激痛が走った。
「いっ!!」
「ご主人様・・・」心配そうなアルゲートの声に、再び閉じた右目をゆっくり開いた。やはり、左目は暗闇のまま感覚も無い。アレンはゆっくりと激痛が走った左腕に目をやると、手首から先が炎に融けて無くなっていた。あの一瞬で炎は手を伝い、左上半身を這い上ったようで左の顔面が引き攣れて痛い。
「ご主人様・・・折角の綺麗なお顔が・・申し訳ありません」
「左目無くなっちゃった?」
「・・・・」
「ふ~~、助かっただけでも儲け物だよ。利き腕は無事だから何とかなるよ」
「申し訳ありません」
「・・・扉は?」アレンはアルバートの向いた方へ、目だけを動かした。そこには、無事に閉じた扉が存在していた。
「良かった、無事に閉じれた。これで、皆助かるね・・・ごめん、アルバート。少し、休ませて・・・ちょっと動けそうにないよ」
「ゆっくりお休みください・・・私はお側で待っておりますから」アレンは、アルバートの言葉を最後まで聞く事無く、気を失った。
扉が閉じられた事に、一気に気が緩んだのだ。そのお陰で、襲い来る痛みをやり過ごす事が出来た。
++++++++
百話迄、お付き合いくださり有難う御座いました。<(_ _)>
(長くなってすみません。もう少し書こうかと思いましたが、6000字越えそうなので、次の章で組み入れたいと 思います。<m(__)m>
次から八章に入ります。引き続きよろしくお願いします。
目指すドラゴンヘッドは、今も少し噴煙を上げている。
皆には言わなかったが、扉のある洞穴は頂上付近では無く、実は火口の中にある。
アルゲートが扉を抉じ開けようとした時は、まだ噴火前で容易に火口の中へ下りて行けたらしいが、今やどうなっているのか分からない。アレンは心配させたく無くて、皆には黙っている事にしたのだ。
(どうやって近付こうか・・・噴火さえしなければなんとかなるかな)
アレンの短い人生の中で、煙を上げる火山と言う物をお話として聞いた事はあるが、詳しくは知らなかったし、体験した事も無かったのでまだまだ心に余裕があった。
トゥルールはアレンに合わせてゆっくり滑空していたので、暗くなる前に休める所を探そうと斜面に近付くと、忽ち高温の空気に晒された。地表は熱い蒸気が噴き出している所もあって、アレン達はもう少しの所で行き成り噴き出した間欠泉に巻き込まれるところだった。トゥルールが異変に気付き、方向を変えて飛ばなければ命は無かっただろう。
(う~ん、どうやらとんでも無いとこに来ちゃったな)と言うのが、アレンの正直な感想だ。
アレン達は薄暗くなってから、漸く大きな巨石の上に落ち着く事が出来た。剥き出しの岩だが、地熱の為に温かい。どうやら、蒸し焼きになるのは免れたようだ。
(ここで、行程の半分と少しくらいかな?頂上に近付くと、もっと熱くなって来るだろうな。どうしたらいいんだろう・・・)彼は考えている間に疲れの為か、いつの間にか眠っていた。
ジョエルが泣いていた。
(ジョエル、泣かないで。いつも心配ばかり掛けてごめんね)アレンが必死で慰めるも、彼の涙は次々と溢れ出し、アレンの顔にぼたぼたと落ちて来る。
「ジョエル!」自分の声にハッと目が覚めた。目が覚めたアレンの顔に雨がポツポツ降り注いでいる。
「夢か・・・良かった」アレンは寂しくなって、もう一匹の守護魔獣に声を掛けた。
「クッキー?いるの?」
”キュウ”鳴き声がする。
「どこ?クッキー」すると、頭の上からジャンプして目の前にクッキーが飛び降りて来た。
「ふふ、良かった。ちゃんと居たんだね。最近出て来ないから、どこかに行ったのかと思ったよ」
アレンは小さなクッキーに何度も頬を擦り付けた。クッキーもアレンを慰めるように三本の尻尾を使って、器用に彼を擽る。
一頻りクッキーと戯れると元気が出て来た。
「よし、頑張るぞ!クッキーも応援してよね」
”キュウ、キュウ”
アレンが、トゥルールを呼び出す頃には雨が土砂降りになって来ていたが、クッキーが尻尾を大きく広げて雨避けをしてくれるので、そのままトゥルールに飛び乗って再び山頂を目指して出発した。
トゥルールが昨日より早いペースで飛んでくれたので、お昼過ぎにはドラゴンヘッドの山頂に着く事ができた。
ドラゴンヘッドの山頂は大きく抉れ、中側に何段かの階段状に落ち込んでいる。火口まではかなりの距離がありそうだが、そのお陰でアレン達は山頂に降り立つ事ができた。
縁から、身体を少し乗り出して下の火口を覗けば忽ち熱い熱風に晒される。火口の中は、まるで生き物のような溶岩が赤い身をくねらせ噴き上げている。暫しの間、アレンは溶岩に見とれていた。
「アルゲート、出て来てくれる」
”只今、参ります”頭の中に彼の返事が聞こえると同時に、アレンの横に姿を現した。しかし、出て来たアルゲートは、アレンを振り返る事なく一心に瓦解した火口を見つめている。
「アルゲート?」呼び掛けられた彼はハッと我に返り、アレンの方を呆然と見返す。
「申し訳ありません、ご主人様・・・火口がとんでもない事に・・・どう致しましょう?」
「アルゲートの時には、あの溶岩は無かったの?」
「はい、噴火前でしたので、あのように溶岩が噴出していることはなく、普通に火口へと下りることができました。おまけに扉のある洞窟も崩れているようです」
「どこに洞窟はあったの?」
「あそこら辺ですが、洞窟が崩れて扉がほぼ剥き出しになっているような気がします」
アレンはアルゲートの指さす方を見たが、遠くてはっきりと分からないので、一番手前の岩棚に下りることにした。
「私が先に下りて、岩棚が崩れないか、足元が安全かを確かめます。手を振ればご主人様は守護魔獣で下りれ来てください」アルゲートは飛竜で今は炎の力も持っているので大丈夫だと、請け負った。
どうやって下りるのかと思っていたら、アルゲートは二十メートルの高さを飛び下りた。正に、力技だ。着地した彼の足元から黒い粉塵がもうもうと舞い上がって一瞬、その姿が掻き消えた。
「アルゲートー!」
”大丈夫です、ご主人様。粉塵が収まったら下りて来てください”直ぐに返事が返って来て安心したアレンは粉塵が収まってから、トゥルールを呼び出して岩棚に下りたが、結局トゥルールの羽ばたきで粉塵が舞い上がり二人して黒い粉塵塗れになってしまった。
扉のあった洞窟はほぼ崩れ、庇のような岩棚が少し残っている他は、扉が剥き出しになっている。そして、灼熱の赤い溶岩は扉の真下まで迫り、うねりながら、その触手を時折り扉の方まで伸ばしていた。
「あの庇までトゥルールに乗って一旦降りて、そこからファイアー・ドームで扉の前に下りるのはどうかな?」
「いいえ、あっという間にご主人様の身が燃え尽きてしまうでしょう。溶岩からは出来るだけ距離を置いた方がいいでしょう。この熱量です、きっと溶岩に触れるまでもなく身体は炎を上げるのではないでしょうか」
「じゃあ、最初からファイアー・ドームで身体を覆って行けば大丈夫かな?」
「・・・まず、私がもう一段下の崖に下りてみます。大丈夫なら、あの庇の上まで下りてみます」
「でも、溶岩に近くなるよ。危ないよ、アルゲート」
「私はこれでも飛竜です、人間より余程皮膚が厚くて丈夫です。それに身体に火が付けば、直ぐにご主人様の中に戻れます。私にお任せください」
「分かった、危ないと思ったら直ぐに戻ってね」
「はい、ご主人様」
アルゲートは今度も力技で十五メートル下に飛び下りたが、更に十メートル下の段まで続け様に飛び下りた。だが、彼は二段目に下りるや否や、姿を消してアレンの中に戻って来た。
「アルゲート、大丈夫?」
暫くしてから、アルゲートが頭の中で返事を返した。
”申し訳ありません、二段目に着くかと思われたのですが、肺の中が焼かれたように息ができなくなりました。声も当分出せそうにありません”
「分かったよ、有難うアルゲート。休んでて」
(もう、こうなったら庇まで直接下りた方がいいのかな。時間との勝負なような気がする)
「トゥルール、小さいままでいいから出てお出で」
”ピルルル~~”赤い小鳥がアレンの前に現れる。
「トゥルール、これからあの庇の所まで僕を運んでくれる?あそこまで行ったら、僕を離して中に戻るんだ。僕もファイヤー・ドームで自分を覆うけど、その上から僕の肩を掴めるかな?」
”ピル、ピル”アレンには、トゥルールが”できる”と言ってるように感じたので、岩棚を慎重に歩き庇のある方の側面に回り込む。
下を覗き込んで、庇を確認すると、トゥルールにもう一度念押しをする。
「あそこだからね。もし、トゥルールが熱いと思ったら僕の中に戻るんだよ、いいね」
アレンは熱いので上着を脱いだが風に攫われ、上着は火口の方へとヒラリと飛んで行った。火口の下へとヒラヒラと舞い落ちて行った上着は二段目の岩棚(先程、アルゲートが下りた)を過ぎると、あっと言う間に炎に包まれて煙になって消えて無くなった。
「・・・・」アレンは言葉無く見つめる事しか出来なかった。
(考えても仕方ない、絶対に扉をしめなくちゃ。そして、アルゲートを故郷に返してあげるんだ)
アレンはファイアー・ドームで身体を覆うと、赤い小鳥に声を掛ける。
「トゥルール、お願い」そうして、アレンは岩棚から飛び下りた。
アレンはドームを維持するのに集中したが、忽ちドームの中は熱くなった。周りではバチバチと炎が散っている。
(ドームはどこまで持つだろう。いや、集中、集中)
途中で、落下スピードが速くなった、上を見るとトゥルールが小さくなって炎を纏っていた。魔力の消費量が半端ないようだ。
バチンッ!!ドームの外側を溶岩が舐めた。下を見ると、庇の岩棚が直ぐ側にある。
「トゥルール。もういいよ、戻るんだ」だが、トゥルールは小さな身体で一生懸命アレンを放すまいと支えている。
(時間が無い、早く扉に触らないと)アレンは押し問答しても無駄だと判断して、少し開いたままの扉に手を伸ばした。今や、アレンの身体は滝のように汗が噴き出ていて、顔も赤く息苦しい。
アレンは何度も手を伸ばしたが、扉は青く反応しない。
(どうして・・・焦るな。考えろ、考えろ)
その間にもドームがどんどん縮んで行く。
(壊れて反応しないの?)
(せっかく、ここまで来たのに?)
(!!!)
(もしかして、素手で触れていないから?)
アレンは思い切って、左手をドームの外へ差し出した。咄嗟に、効き腕では無い方を選択した。忽ち左手が炎に包まれる。
「ああああああ~~~!!!」左手に次いで、身体ごと扉にぶつかると、閉じた網膜を青い光が照らす。
アレンは洞窟に転がり込んだ。
「・・・主人様・・・ご主人様」優しく揺すられてアレンは気が付いたが、身体を起こそうとして激痛が走った。
「うっ!!」
「急激に身体を動かしてなりません・・・ご主人様は左半身が・・・」
「アルゲート?」アレンはどうやら、岩壁に凭れているようだと感じた。背中に、ごつごつとした岩肌の感触がする。
「はい」
アレンはそっと右目を開けたが、左目の感覚が無い。顔に触れようと手を上げ掛けたが、またもや激痛が走った。
「いっ!!」
「ご主人様・・・」心配そうなアルゲートの声に、再び閉じた右目をゆっくり開いた。やはり、左目は暗闇のまま感覚も無い。アレンはゆっくりと激痛が走った左腕に目をやると、手首から先が炎に融けて無くなっていた。あの一瞬で炎は手を伝い、左上半身を這い上ったようで左の顔面が引き攣れて痛い。
「ご主人様・・・折角の綺麗なお顔が・・申し訳ありません」
「左目無くなっちゃった?」
「・・・・」
「ふ~~、助かっただけでも儲け物だよ。利き腕は無事だから何とかなるよ」
「申し訳ありません」
「・・・扉は?」アレンはアルバートの向いた方へ、目だけを動かした。そこには、無事に閉じた扉が存在していた。
「良かった、無事に閉じれた。これで、皆助かるね・・・ごめん、アルバート。少し、休ませて・・・ちょっと動けそうにないよ」
「ゆっくりお休みください・・・私はお側で待っておりますから」アレンは、アルバートの言葉を最後まで聞く事無く、気を失った。
扉が閉じられた事に、一気に気が緩んだのだ。そのお陰で、襲い来る痛みをやり過ごす事が出来た。
++++++++
百話迄、お付き合いくださり有難う御座いました。<(_ _)>
(長くなってすみません。もう少し書こうかと思いましたが、6000字越えそうなので、次の章で組み入れたいと 思います。<m(__)m>
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