異世界グランハイルド・アレンと召喚獣-守護魔獣グランハイルド大陸物語ー

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第七章

第九十二話・ウナスの森①マイヨール族のイグナッシュ

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 ロンデルとナグ達は対策を練った。ツリーレントに対する情報が間違っていたからだ。
 グイの村で襲撃を受けて生き残ったレンの話から、炎を恐れると思い込んでいたが、実際は弱点ではあるがそれほどの恐怖は持っておらず、逆に知能が高いことが分かった。

 昨日の失敗から、分散するのが一番不味いことが分かったので、薪を向こうに皆で固まって眠ることにした。次の日には、怪我人と戦う能力の低い亜人達が一緒に、メセ村に戻る事になった。
 アレンの炎の力が有効な事は分かったが、守る人数が多過ぎては対処が後手に回ってしまう。従って、ここから先は少数精鋭でウナスの森を目指すことが決まった。
 
 ケルトもメセ村に戻るメンバーの一人で、最初は頑として戻るのを拒否したが、アレンに”僕の為に戻って欲しい”と言われ、しぶしぶ承諾した。その夜、アレンはケルトと並んで横になり、明け方近くまで喋り込んでいたので(主にケルトが)亜人達の窮状や、ウナス村の様子がよく分かった。

 出発の時が迫り、必ず再会しようと約束してケルトと別れた。アレンの周りはいつも大人で固められていたので、年の近いケルトは貴重な存在だったが、ブリ―の二の舞にしてはならないと、アレンは後ろ髪を引かれる思いで別れた。
 (もっと、もっと力を付けないと)アレンはそう決意する。

 グイの村を出発し、その日の夜の野営で、待ち構えていた所に猫型大型獣が現れた。

 ちょうど、昼食を取ろうと集まった時に、ナグが皆に呼び掛けた。
 「どうも、大型獣に付けられているようだ。皆、一人にならないでくれ」
 皆に緊張が走る。
 「やっぱり、便利な鼻だな。俺も一つ欲しいな。単体か、それとも群れか?」ロンデルが笑いを入れて、皆の緊張を解す。
 「大丈夫、単体だ。どうも、猫型大型獣のケジャットだ。あいつは用心深いから、近付くと逃げるから厄介だ。夜、襲って来るのを待つしかないな。誘いこんで、狩ろう」

 だが、夜を待つまでも無く野営地に着いた途端、最後尾のロンデルに襲い掛って来た。すぐ側にナリスも居たので、ロンデルの剣とナリスの風の力でケジャットは料理されてしまった。
 今、たき火からは、肉の焼ける良い匂いが漂っている。

 「アレリス様、どうぞ」ノースが、肉汁のしたたった串を差し出した。(勿論、ケジャットの肉だ) グイの村での戦いで、メイグが腕を骨折してセグの村で待機となり、ノースが側仕えに昇格した。
 「ありがとう」
 「お代りも有りますからね。たくさん食べてくださいね」ノースは会った時と、少しも態度を変える事なく接してくれる。
 「・・・」
 「どうかされましたか?」
 「ノースは僕が怖くない?」
 「いいえ。少しも」
 「どうして?僕が炎を使えると、怖がる人もいるよ」ロンデル達、傭兵も少しも変わる事なく接してくれる。亜人達にとっては恩人扱いだ。側仕えのジョエルやダンテは、アレンの炎の力を以前から知っている。
 
 アレンの脳裏にふと、昔の事が過ったからだ。強大な炎を使うアレンを化け物のように見た者達がいた。
 ノースは二コリと笑うと、アレンの頭を優しく撫ぜる。
 「不躾な行為をお許しください」
 「不躾だなんて思ってないよ。僕を慰めてくれたんだから」
 「アレリス様が炎を扱おうが、扱わなかろうが、アレリス様はアレリス様です。私に取っては、この上なくお優しい、この命を懸けるに足るご主人様です」
 「そんな風に言わないで・・・」
 
 ゴホンと、咳払いが聞こえてジョエルと、ダンテが側に立っていた。
 「じゃあ、君も仲間入りだな」
 「なんのお仲間に入れて貰えるのでしょうか?」
 「もちろん、アレンと共に白髪になるまで、図太く生き残る仲間さ。改めて、よろしくノース」ジョエルが手を差し出した。
 「有難う御座います」感激したように、ノースはジョエルの手をガッチリ握る。
 「ようこそ、ノース」ダンテも手を差し出した。
 「有難う、ダンテ」
 そんな三人を眩しそうにアレンは見た。ジョエルのお陰で、アレンの心は少し軽くなる。

 次の日は何事もなく野営地に入った。ロンデルは肉が襲って来なかった~と騒いで、相変わらず皆を笑わせてくれた。
 三日目の夕方にウナスの森に入った。森に入って暫くすると、先頭の亜人の幌馬車が合図を出して止まり、ナグがアレン達の方へ、誰かを連れてやって来る。
 初めてみる種族だ。彼は、ナグと共にアレン達の前に立つと、戸惑った目でアレンを凝視した。
 「イグナッシュ?」ナグが訝しげに、呼び掛ける。
 「あっ、失礼しました。あなた様が様ですね。マイヨール族のイグナッシュと申します。巫女姫様の命により、お迎えに上がりました」そう言うと、深々と頭を下げた。

 彼の言葉にジョエルが反応した。
 「なぜ、ここを通ると分かった?何故、アレンの名前を知っている?」実は水が無くなったので、ずいぶん遠回りをして本来の道から大分外れていた。それに名前の件に関しては、ナグ達はアレンの事を様と呼んでいる。
 「昨日、巫女姫様がご宣託を受けられて、この道を通るのが分かったのです。この先は、つい先日、火竜の所為でまだ熱がうねっております。もう少し、東に進んでから村に入られるようにと、お伝えに参りました。お名前は巫女姫様よりお伺いしております。何か問題でも?」

 「さすがは巫女姫様じゃねえか」側に寄って来たロンデルが誉めた。ロンデルは巫女姫の力でアレンの名前が分かったと思った。ジョエルもまた、そのように理解する。
 ナリスはしげしげと、イグナッシュを見ている。ナリスがここまで付いて来た理由の一つがマイヨール族をひと目、見る事だった。
 
 イグナッシュはほっそりしていて、水色の美しい髪を腰の辺りまで伸ばしている。耳はナリスのより、尖って大き目だ。瞳の色は透明な緑。アイスグリーン。二人並べば、その違いはより鮮明だ。
 (似ているようで、似ていない。彼を見ると、自分が人間だとはっきり分かる)
 イグナッシュの美しさや存在感は、人間離れしている。

 イグナッシュも自分をしげしげ見るナリスに気が付き、彼を見る。
 「あなたには、少しマイヨールの血が流れているのですね?」と、ナリスに言った。
 「俺の耳で分かったのか、それとも」
 「いいえ、外見ではありません。あなたには、風の精霊の加護がある」イグナッシュは優しげに囁いた。
 「目に見えるのか?」
 「ええ、はっきりと」
 その言葉を聞いて、一同はホォ~と、感心する。さすがは、妖精族だ。
 
 イグナッシュは皆を虜にするような微笑みを浮かべて囁いた。
 
 「巫女姫様が首を長くしてお待ちです。そろそろ出発しましょう、暗くなる前に村に入らなければ」

 そう言うと、アレンの方を向いて再び口を開いた。

 「もうずっと、ずっと長い間お待ちしておりました。アレン様」

 アレンはそれを聞いて、少し大袈裟さだなと、感じた。

 (それとも、妖精族とは時間の流れ方が違うのかな?)









































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