異世界グランハイルド・アレンと召喚獣-守護魔獣グランハイルド大陸物語ー

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第六章

第七十五話・リュウジールへの旅③消えたアレン

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 ケルトは恐る恐る、相談をしているアレン達に近付いた。
 「あ、あの~~」もし、一緒に行くのが駄目だと言われたらどうしようと思っていたので小さな声しか出なかった。
 「あ!ケルト」アレンが直ぐにケルトに気が付いて振り向いてくれた。
 
 「あの、僕も水汲みに一緒に行っていいですか?」
 「うん。もちろんだよ、ケルト。大歓迎だよ」アレンは微笑んで答え返す。

 ケルトはアレンの屈託のない微笑みに自然と微笑み返して、引き寄せられるように彼等の輪の中に入った。


 ロンデルが前にケルトを乗せ、アレンはジョエルに乗せて貰いながら水を目指した。街道を越え、三十分程荒れ地を走らせると、アレンは小高くなった丘の向こうだと言った。漸く丘を越えるとその先に草原があり小さな湖があった。
 「わ~~、凄い!ほんとにあった!」ケルトは喜びの声を上げた。
 「こりゃあ驚いた!」ロンデルは半信半疑だったので、丘に登る前に引き返そうかと思っていたのだ。
 

 アレン達は馬を降りて、小さな湖を覗き込んだ。透明度が高く、底の岩場からコポコポと水の泡が湧き出ている。
 魚はいないが、小さな蛙達や、水辺の生き物が生息していたので大丈夫そうだが、念のためロンデルが先に水を口に含んで確かめた後、水を汲み始めた。

 ケルトは持って来た水袋二つを一杯にすると、アレンに話掛けた。
 「ねえ、アレン。アレンにはが聞こえるのかい?」
 「?」
 「うん。・・・僕達の巫女姫様には聞こえて、井戸の場所が分かるんだ」
 「凄いね!僕には井戸の場所までは分からないや」
 「・・・でも、どうしてここが分かったの?ずいぶん遠くに離れてた」
 「みたいにはっきりしてる訳じゃなくて、何かに呼び掛けられてるようながするだけなんだ」アレンは何でもない事のように話した。
 「でも、凄い事だよ!僕には全然わからないよ」
 「そうかな~?」
 「うん!そうだよ!」
 (やっぱり、アレンはを持ってるんだ)そう思うと、ケルト嬉しくなった。

 
 少し休憩してから戻る事になり、ジョエルが揚げパン菓子を取り出して皆に配ると、早速クッキーが食らい付いて来る。
 「あ、クッキーだ!」
 「おっ、小僧はチビ介を見た事あるんか?」ロンデルが不思議そうに聞いた。二人の接点が無い様に見えたからだ。
 因みに、傭兵団は食事時にクッキーの襲来に何度か遭遇してよく知っている。
 「うん。前に人間に襲われた時に、アレンとクッキーに助けて貰ったんだ」
 「ほ~~。あんなにチビ介なのにな」ロンデルはアレンを坊主と呼び、クッキーをチビ介と呼ぶ。そして、いつの間にかケルトの事を小僧と呼んでいる。
 最初はムッとしたが、アレンの事すら、坊主と呼んでいるのでそれがこの人の普通だと分かった。

 (その所為で、ここに居るんだがな)と、ジョエルは思った。
 この旅は難しい。どっちに転んでも碌な事になりはしない。成功させれば、排除の対象となる確率が高くなり、失敗すれば、排除し易い対象と目される。ジョエルは大きな溜め息を吐いた。

 揚げパン菓子を食べたクッキーが湖の向こう側に生えている大きな木の方へと、突然跳ねて行く。
 「待って、クッキー」慌てて立ち上がって駆け出そうとしたアレンの腹をロンデルがサッと引っ掴んだので、ジョエルはホッとした。
 「ロンデル、放して。クッキーが行っちゃう」
 「駄目だよ、アレン。危ないから」ジョエルが咎める。

 「たぶん、何かの実が生ってるんだと思うよ。あの木から甘い臭いがする」ケルトが大きな木の方を見て鼻をヒクヒクさせる。
 「じゃあ、大丈夫じゃない?お願い~。ジョエル、ロンデル~」
 「仕方ねーな」ロンデルは立ち上がって、アレンを手放した。
 「行こう、ケルト」アレンが声を掛けてくれたので、ケルトは喜んで付いて行く。

 「俺が、一緒に行くよ」ロンデルがそう言ってくれたのでジョエルは馬の側にいることにした。馬達は水を飲んだ後、湖の周りに生えている草を食べていた。

 アレン達が大きな木の下に着くと、下には熟した小さな赤い実が幾つも落ちている。クッキーはどうやら上の方にいるらしく、姿は見えない。
 「僕が登って、採ってくるよ」
 「木登りは得意なの?」
 「ピップ程じゃないけどね」
 「ピップ?」
 「うん。猿族だから、木でも何でもヒョイヒョイと登るんだ」
 「へえ~、凄いね!」アレンはそれを聞いて瞳をキラキラさせる。
 (やっぱり、この子は僕達のことを少しも変に思っていない)ケルトは益々、アレンが好きになった。

 「ひゃ!」後ろから来たロンデルが大きな枝の方にケルトを持ち上げた。
 「ほれ、下で見ててやるから、さっさと行って来い」
 「あ、ありがとう、おじさん」
 「おじさんはよせよ。ロンデルでいい」
 「・・・ありがとう・・ロンデル」
 「ああ」
 
 「僕も」アレンがロンデルの方に両手を伸ばしてピョンピョン飛び跳ねた。
 「えっと・・」ロンデルがジョエルの方を振り返ると、即座に首を横に振るのが見えた。
 「どうやら、駄目らしいな」
 「そんな~~」
 「まあ、この木は登るが難しい。今回は、小僧に任せとけ」ロンデルはアレンの頭をくしゃりと混ぜた。

 

 ケルトは、腰に結わえていた紐を解き袋の中に、赤くて美味しそうな実を次々にほり込んだので直ぐに袋が一杯になった。
 「クッキー、そろそろ下に降りない?」ケルトが呼び掛けると、素直に下りて来て彼の肩にちょこんと乗る。
 ケルトは慎重に下りて行く。枝と枝の間隔が大きくて足が届かないので、腕や身体を精一杯伸ばして下りる。だから、ロンデルはアレンには難しいと言ったのだ。

 もう少し、と言う処で袖が枝に引っ掛かる。何度か引っ張るが取れないので、思いっきり腕を振ったらバランスを崩して枝から足を滑らせた。
 「危ない!ケルト!」
 「小僧!」ロンデルが受け止めようとその下に走ったが、ケルトは宙づりにぶら下がる。
 
 「クッキー、さすが!」
 クッキーがケルトの腕を掴んでいたのだ。その前足だけが大きくなっていた。
 「クッキー、ケルトをゆっくり下ろしてあげて」アレンの言葉にキュウ、と鳴くと、その大きな前足をスルスル伸ばし始める。ついでに、クッキーは逆さづりで尻尾を枝に絡ませていたが、その尻尾もスルスル長く伸ばしてケルトは無事に、ロンデルに回収された。

 「ありがとう、クッキー」クッキーはいつの間にか小さくなって、アレンの腕に抱かれていた。
 「クッキー、ありがとう。凄いな~~」ケルトは感心して言う。力もさる事ながら、前足や尻尾の長さまでかえられるのだ。
 「チビ介の身体はどうなってんだ?有り得ん!やっぱり、そいつはペットじゃなくて守護魔獣だろ!」ロンデルは驚いて叫ぶように言う。
 「え~~、と、珍種、なんです・・・」アレンはごにょごにょ呟いて、へへ、と笑って誤魔化した。
 「・・・たく、何が珍種だ~。守護魔獣に決まってんだろーが。隠すんなら隠し通せ、紛らわしい」
 「ご、ごめんなさい~」
 
 (え~~、それって認めたも同然だよ~、アレン。いいのかな~)ケルトは変な心配をした。
 
 「まあ、坊主に嘘は無理だな。さすがに魔獣を持ってるのは不味いわ。できるだけ、隠せ」そう言って、アレンの頭を又、くしゃくしゃにした。
 
 「えっ!守護魔獣を持ってるの?それって、凄いことじゃない!」ケルトは吃驚して、独り言を口に出していた。
 「ああ、そうだな。だから、小僧も黙っててやれ。これが、国王にばれて見ろ。直ぐにチョンだ」ロンデルは首を横に斬る真似をして見せる。
 それを見た二人はブルッと身体を震わせた。

 「お~い、終わったんなら早く引き上げようぜー」ジョエルが呼び掛けた。
 「おー。おい、撤収だ」ロンデルは二人を追いたてる。
 アレンは歩きながら、ふと思い付いた事があった。

 「ねえ、少し、水を飲んでから行くから、先に行ってて」アレンが立ち止まって言う。
 ロンデルは辺りを見回し、大丈夫だろうと判断して直ぐに来いよ、と言い置いてケルトを促して馬の用意をしているジョエルの方に歩み寄った。

 アレンは彼等が離れたのを見てから、膝を付いて湖に顔を近付け覗き込む。
 透明度は高かったが、水深は浅く、大人の脹脛ふくらはぎの半分くらいだ。
 
 (やっぱり、浅過ぎるし、川に繋がってる訳でもないから無理だよね。又、今度川に近付いた時に試してみよう)

 アレンが顔を上げようとした時だ、凪いでいた湖面に波紋が広がり、大きな水飛沫が上がってアレンの頭に掛ったと思うと、ぐっと力が入り引き寄せられる。
 「あっ、待って・・」アレンが力を入れる前にバシャッと顔から、水に突っ込んだ。
 (もう!悪戯者!ディラン!)アレンが顔を上げようとすると、そのままスルッと全身が水に飲み込まれ身体が沈んで行く。
 (えっ、えっ、なに、なに、どうなってんの~~?)

 ケルトはバシャッと言う音振り返ると、アレンが顔から湖に突っ込んだ所だった。
 「ハハ、意外とドジだな」
 ロンデルも振り返った。
 「全く~」アレンを助けようとロンデルは、足を踏み出し掛けて止まる。
 アレンは頭が沈み、もう身体の半分が水の中だ。
 「ええ、嘘だろ!」ロンデルは、我に返ると走り出したが、アレンはあっという間に、水の中に全身が引き込まれたように見えなくなってしまった。
 ケルトも吃驚して、後に続く。

 「「アレン!!」」二人は足が濡れるのも構わずに、湖の中に入りアレンが居たと思しき辺りをバシャバシャと探し回ったが、アレンの姿は見付からない。
 ジョエルも駆けて来る。
 「アレンは?」ジョエルはロンデルの胸倉を掴んだ。
 「す、すまん!いない・・」
 「いない?」
 「ああ、消えてしまった。・・・と言うか、そうとしか思えん」
 「消えた~?どこに?」
 
 ロンデルは、ジョエルの勢いに、恐る恐る三人の足元にある小さな浅い湖を指した。
 「馬鹿な!」ジョエルは目を剥いて怒鳴った。

 「ほんとうだよ、僕も見てた。あっという間に水の中に消えたんだ」ケルトがぽつりと言った。

 ロンデルは、バルトの言葉を思い出した。


 『あいつは、ちょっと目を放した隙にとんでもない事に巻き込まれてる。だから、頼む』


 (やっちまったよ、バルト。どうすりゃいい?こんなの俺の管轄外だ)
 






 






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 第七十六話・リュウジールへの旅④水色の髪のイリーメル


























































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