上 下
72 / 107
第五章

第七十二話・”銀の助け手”

しおりを挟む
 亜人達一向は、王宮を後にした。皆はそれぞれ色々な思いを胸に秘めて借り家に帰った。
 だが、一人ケルトは興奮気味で始終、幌馬車の中で喋り通しだ。

 「なぁ、ケルト。あの子はただ、ってだけだ。それだけで”助け手様”とは、決まらないだろう」ピップが浮かれているケルトに言った。
 「でも、巫女姫さまの仰るとおりに『獅子の国』に居たし、だ。それに、なにより僕達亜人を助けてくれた」
 「しかし、あんな子供に何ができると思う?」
 「でも!」
 「まあ、まあ。ケルトは友達ができて嬉しいんだよ。人間で貴族の友達なんて、そうそう作れないぜ」べゼルがケルトの肩を持つ。実はべゼル自身も驚いていた。
 (あの子供は貴族な上に、伯爵位を持つ。そして、国王の横に居たのだ。それは自ずと、そこらへんの貴族と言う訳ではない。きっと、大貴族だろう。それが、向こうから飛び込んできたのだ、なんの屈託くったくもなく。これは凄いことだ、ケルトでなくても自慢したくなる)
 
 「べゼルは信じないの?巫女姫様の宣託せんたくを」
 「や、信じないって事はないが、ちょっと想像してたのと違うって言うか・・・」
 「俺もだよ。『に輝く』つーから、こう銀の鎧をまとった大剣士とかを想像してた」犬族のセグが肩を竦めて言う。
 それを聞いた他の者もうん、うんと頷いている。
 
 一人、ナグだけは、会話に加わらず腕を組んで目を瞑っていた。
 こんな茶番劇はもうたくさんだ、と思いながら。

 借り家に無事に着くと、ケルトは直ぐ食堂に居たマナナに興奮して飛びついた。
 「マナナ!僕、あの子に会ったんだ!」
 「あの子って、路地で助けてくれた?」
 「そうだよ、あの子の方から来てくれたし、友達になってくれたんだ。それに、貴族の子だったよ。王様の横に居て、王子さまみたいだった。凄いだろ」
 「まあ、そんな事があるのね」
 「それに、その子は”助け手さま”かも、知れないんだ」
 「ええ?」

 「おいおい、まだ決まった訳でもないだろ」ボルダーが、今度は突っ込んだ。
 「でも、他に何か、”銀色”の人を見つけた?」
 「いや、しかし・・・」
 「まだ、王都を出るのに八日間ある。それまでに出会うかもしれないよ」べゼルが助け舟を出す。
 「はっきりしない物について話しても無駄なことだ。それより、これからの打ちあわせだ。皆、集まってくれ」ナグが食堂に入って来て言う。

 皆が座ったのを見計らって会議を始める。
 「今日、国王に会ったが、やはり兵を出してくれる気はなさそうだ。それより、厄介な事を押し付けられた。あちらは親善交流団なる物を結成して、我等と一緒にリュウジールに来るつもりだ」
 「親善交流団って、凄くない?これから、仲良くしましょうと言うことでしょう」デナが言う。
 「ちがう。名前だけの交流団だ。それも、貴族に丸投げの交流団になるから期待はできない。そのうえ、親善大使は、僅か十歳の子供だ。おまけに、副親善大使は我等、亜人に差別的で、攻撃的だ。だから、故郷への道のりは厳しい物になるだろう」
 「そんな、それじゃあ王都まで来た意味がないわ」デナが嘆く。
 「そうだな、仕方ない」ナグは投げやりに言う。彼らしくない言い方に、一同はシンとなる。

 「ねえ、もしかして、その十歳の親善大使は、ケルトと友達になってくれた子供?」マナナは空気を変えようと思い付いた事を話し始める。
 「そうなんだ、凄い不思議だよね。その上、で、僕には、あの子が『ひかり輝いて』見えた」ケルトが夢見がちに言う。
 「やめろ!あんなを迎える為に俺達の仲間は死んで行ったと言うのか!犬死にじゃないか!」ナグは声を荒げて言うと、ケルトは涙目で下を向いてしまった。

 「ケルトに当たるのは止めて!仲間が死んだのは人間に襲われたからだわ。それに、ケルトの言うように、その子が”助け手”かも知れないのよ。偶然に選ばれたとしても、不思議な縁だわ。それに子供と言っても、貴族の子供は守護魔獣を持ってる筈よ」
 「う~ん。あの子の魔獣を覚えているか?ケルトは確か、『小さな.みたいだと』言ってたよな」べゼルが遠慮がちに言い添える。

 「小さな如き魔獣になにができる。我々が欲しているのは、滅びの道を止めてくれるだ」ナグは冷たく言い放つ。
 
 「あくまでも巫女姫様のご宣託せんたくを信じないつもり?
 私達に計り知れない力が動いている筈よ。
 あの峠での不思議な炎!あれは私達を守ってくれた。
 でなければ、あそこで皆殺しに遭ってたわ。
 でも、生きて王都に辿り着いた。
 その上、巫女姫様のご宣託通り、の者が現れた。これは、何かのだわ。
 例え、でも!
 例え、がなくても!
 その子が誘因して何かの切っ掛けになるかも知れない。
 あなたはを捨てているのよ、ナグ。
 でも、私もケルトも、まだを持っているわ!」
 
 一同は、皆マナナの言葉を反芻する。そう、あの時はもう駄目だと、確かに絶望したがが現れた。

 あの暗闇を引き裂いた輝く

 そして、闇に燃え上がった

 あれは、不思議な事に皆に新たなを灯した。

 やはり、通りに、自分達を救ってくれるが現れるではないかと。
 
 

 「確かにそうかも知れない。済まなかったなケルト、マナナ」ナグは謝ったが、彼の心にの火は灯らなかった。
 (そう、俺には希望は必要ない。巫女姫様のご宣託も。俺の心はとっくに死んでいるのだ)
 
 そう、それは、妻のエアと、お腹の中の赤ん坊を亡くしてから。
 どうせ死ぬなら役に立って死にたいと、この無謀な旅に志願した。
 しかし、早くエアの元に旅立ちたいと願っているのに、まだ死ねずにいる。
 
 俺も、もしかしたら何かのの一部なのかも知れないと、ナグは少しだけ思い直した。




















しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は始祖竜の母となる

葉柚
ファンタジー
にゃんこ大好きな私はいつの間にか乙女ゲームの世界に転生していたようです。 しかも、なんと悪役令嬢として転生してしまったようです。 どうせ転生するのであればモブがよかったです。 この乙女ゲームでは精霊の卵を育てる必要があるんですが・・・。 精霊の卵が孵ったら悪役令嬢役の私は死んでしまうではないですか。 だって、悪役令嬢が育てた卵からは邪竜が孵るんですよ・・・? あれ? そう言えば邪竜が孵ったら、世界の人口が1/3まで減るんでした。 邪竜が生まれてこないようにするにはどうしたらいいんでしょう!?

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

冷たかった夫が別人のように豹変した

京佳
恋愛
常に無表情で表情を崩さない事で有名な公爵子息ジョゼフと政略結婚で結ばれた妻ケイティ。義務的に初夜を終わらせたジョゼフはその後ケイティに触れる事は無くなった。自分に無関心なジョゼフとの結婚生活に寂しさと不満を感じながらも簡単に離縁出来ないしがらみにケイティは全てを諦めていた。そんなある時、公爵家の裏庭に弱った雄猫が迷い込みケイティはその猫を保護して飼うことにした。 ざまぁ。ゆるゆる設定

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

処理中です...