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第五章
第七十二話・”銀の助け手”
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亜人達一向は、王宮を後にした。皆はそれぞれ色々な思いを胸に秘めて借り家に帰った。
だが、一人ケルトは興奮気味で始終、幌馬車の中で喋り通しだ。
「なぁ、ケルト。あの子はただ、銀髪ってだけだ。それだけで”助け手様”とは、決まらないだろう」ピップが浮かれているケルトに言った。
「でも、巫女姫さまの仰るとおりに『獅子の国』に居たし、銀色だ。それに、なにより僕達亜人を助けてくれた」
「しかし、あんな子供に何ができると思う?」
「でも!」
「まあ、まあ。ケルトは友達ができて嬉しいんだよ。人間で貴族の友達なんて、そうそう作れないぜ」べゼルがケルトの肩を持つ。実はべゼル自身も驚いていた。
(あの子供は貴族な上に、伯爵位を持つ。そして、国王の横に居たのだ。それは自ずと、そこらへんの貴族と言う訳ではない。きっと、大貴族だろう。それが、向こうから飛び込んできたのだ、なんの屈託もなく。これは凄いことだ、ケルトでなくても自慢したくなる)
「べゼルは信じないの?巫女姫様の宣託を」
「や、信じないって事はないが、ちょっと想像してたのと違うって言うか・・・」
「俺もだよ。『銀色に輝く』つーから、こう銀の鎧を纏った大剣士とかを想像してた」犬族のセグが肩を竦めて言う。
それを聞いた他の者もうん、うんと頷いている。
一人、ナグだけは、会話に加わらず腕を組んで目を瞑っていた。
こんな茶番劇はもうたくさんだ、と思いながら。
借り家に無事に着くと、ケルトは直ぐ食堂に居たマナナに興奮して飛びついた。
「マナナ!僕、あの子に会ったんだ!」
「あの子って、路地で助けてくれた?」
「そうだよ、あの子の方から来てくれたし、友達になってくれたんだ。それに、貴族の子だったよ。王様の横に居て、王子さまみたいだった。凄いだろ」
「まあ、そんな事があるのね」
「それに、その子は”助け手さま”かも、知れないんだ」
「ええ?」
「おいおい、まだ決まった訳でもないだろ」ボルダーが、今度は突っ込んだ。
「でも、他に何か、”銀色”の人を見つけた?」
「いや、しかし・・・」
「まだ、王都を出るのに八日間ある。それまでに出会うかもしれないよ」べゼルが助け舟を出す。
「はっきりしない物について話しても無駄なことだ。それより、これからの打ちあわせだ。皆、集まってくれ」ナグが食堂に入って来て言う。
皆が座ったのを見計らって会議を始める。
「今日、国王に会ったが、やはり兵を出してくれる気はなさそうだ。それより、厄介な事を押し付けられた。あちらは親善交流団なる物を結成して、我等と一緒にリュウジールに来るつもりだ」
「親善交流団って、凄くない?これから、仲良くしましょうと言うことでしょう」デナが言う。
「ちがう。名前だけの交流団だ。それも、貴族に丸投げの交流団になるから期待はできない。そのうえ、親善大使は、僅か十歳の子供だ。おまけに、副親善大使は我等、亜人に差別的で、攻撃的だ。だから、故郷への道のりは厳しい物になるだろう」
「そんな、それじゃあ王都まで来た意味がないわ」デナが嘆く。
「そうだな、仕方ない」ナグは投げやりに言う。彼らしくない言い方に、一同はシンとなる。
「ねえ、もしかして、その十歳の親善大使は、ケルトと友達になってくれた子供?」マナナは空気を変えようと思い付いた事を話し始める。
「そうなんだ、凄い不思議だよね。その上、銀髪で、僕には、あの子が『ひかり輝いて』見えた」ケルトが夢見がちに言う。
「やめろ!あんな子供を迎える為に俺達の仲間は死んで行ったと言うのか!犬死にじゃないか!」ナグは声を荒げて言うと、ケルトは涙目で下を向いてしまった。
「ケルトに当たるのは止めて!仲間が死んだのは人間に襲われたからだわ。それに、ケルトの言うように、その子が”助け手”かも知れないのよ。偶然に選ばれたとしても、不思議な縁だわ。それに子供と言っても、貴族の子供は守護魔獣を持ってる筈よ」
「う~ん。あの子の魔獣を覚えているか?ケルトは確か、『小さな.りすみたいだと』言ってたよな」べゼルが遠慮がちに言い添える。
「小さなりすもどき如き魔獣になにができる。我々が欲しているのは、滅びの道を止めてくれる力をもった大人だ」ナグは冷たく言い放つ。
「あくまでも巫女姫様のご宣託を信じないつもり?
私達に計り知れない力が動いている筈よ。
あの峠での不思議な炎!あれは私達を守ってくれた。
でなければ、あそこで皆殺しに遭ってたわ。
でも、生きて王都に辿り着いた。
その上、巫女姫様のご宣託通り、銀色の者が現れた。これは、何かの符合だわ。
例え、子供でも!
例え、力がなくても!
その子が誘因して何かの切っ掛けになるかも知れない。
あなたは希望を捨てているのよ、ナグ。
でも、私もケルトも、まだ希望を持っているわ!」
一同は、皆マナナの言葉を反芻する。そう、あの時はもう駄目だと、確かに絶望したがあの炎が現れた。
あの暗闇を引き裂いた輝く閃光!
そして、闇に燃え上がった不思議な炎!
あれは、不思議な事に皆に新たな希望を灯した。
やはり、ご宣託通りに、自分達を救ってくれる助け手様が現れる予兆ではないかと。
「確かにそうかも知れない。済まなかったなケルト、マナナ」ナグは謝ったが、彼の心に希望の火は灯らなかった。
(そう、俺には希望は必要ない。巫女姫様のご宣託も。俺の心はとっくに死んでいるのだ)
そう、それは、妻のエアと、お腹の中の赤ん坊を亡くしてから。
どうせ死ぬなら役に立って死にたいと、この無謀な旅に志願した。
しかし、早くエアの元に旅立ちたいと願っているのに、まだ死ねずにいる。
俺も、もしかしたら何かの符合の一部なのかも知れないと、ナグは少しだけ思い直した。
だが、一人ケルトは興奮気味で始終、幌馬車の中で喋り通しだ。
「なぁ、ケルト。あの子はただ、銀髪ってだけだ。それだけで”助け手様”とは、決まらないだろう」ピップが浮かれているケルトに言った。
「でも、巫女姫さまの仰るとおりに『獅子の国』に居たし、銀色だ。それに、なにより僕達亜人を助けてくれた」
「しかし、あんな子供に何ができると思う?」
「でも!」
「まあ、まあ。ケルトは友達ができて嬉しいんだよ。人間で貴族の友達なんて、そうそう作れないぜ」べゼルがケルトの肩を持つ。実はべゼル自身も驚いていた。
(あの子供は貴族な上に、伯爵位を持つ。そして、国王の横に居たのだ。それは自ずと、そこらへんの貴族と言う訳ではない。きっと、大貴族だろう。それが、向こうから飛び込んできたのだ、なんの屈託もなく。これは凄いことだ、ケルトでなくても自慢したくなる)
「べゼルは信じないの?巫女姫様の宣託を」
「や、信じないって事はないが、ちょっと想像してたのと違うって言うか・・・」
「俺もだよ。『銀色に輝く』つーから、こう銀の鎧を纏った大剣士とかを想像してた」犬族のセグが肩を竦めて言う。
それを聞いた他の者もうん、うんと頷いている。
一人、ナグだけは、会話に加わらず腕を組んで目を瞑っていた。
こんな茶番劇はもうたくさんだ、と思いながら。
借り家に無事に着くと、ケルトは直ぐ食堂に居たマナナに興奮して飛びついた。
「マナナ!僕、あの子に会ったんだ!」
「あの子って、路地で助けてくれた?」
「そうだよ、あの子の方から来てくれたし、友達になってくれたんだ。それに、貴族の子だったよ。王様の横に居て、王子さまみたいだった。凄いだろ」
「まあ、そんな事があるのね」
「それに、その子は”助け手さま”かも、知れないんだ」
「ええ?」
「おいおい、まだ決まった訳でもないだろ」ボルダーが、今度は突っ込んだ。
「でも、他に何か、”銀色”の人を見つけた?」
「いや、しかし・・・」
「まだ、王都を出るのに八日間ある。それまでに出会うかもしれないよ」べゼルが助け舟を出す。
「はっきりしない物について話しても無駄なことだ。それより、これからの打ちあわせだ。皆、集まってくれ」ナグが食堂に入って来て言う。
皆が座ったのを見計らって会議を始める。
「今日、国王に会ったが、やはり兵を出してくれる気はなさそうだ。それより、厄介な事を押し付けられた。あちらは親善交流団なる物を結成して、我等と一緒にリュウジールに来るつもりだ」
「親善交流団って、凄くない?これから、仲良くしましょうと言うことでしょう」デナが言う。
「ちがう。名前だけの交流団だ。それも、貴族に丸投げの交流団になるから期待はできない。そのうえ、親善大使は、僅か十歳の子供だ。おまけに、副親善大使は我等、亜人に差別的で、攻撃的だ。だから、故郷への道のりは厳しい物になるだろう」
「そんな、それじゃあ王都まで来た意味がないわ」デナが嘆く。
「そうだな、仕方ない」ナグは投げやりに言う。彼らしくない言い方に、一同はシンとなる。
「ねえ、もしかして、その十歳の親善大使は、ケルトと友達になってくれた子供?」マナナは空気を変えようと思い付いた事を話し始める。
「そうなんだ、凄い不思議だよね。その上、銀髪で、僕には、あの子が『ひかり輝いて』見えた」ケルトが夢見がちに言う。
「やめろ!あんな子供を迎える為に俺達の仲間は死んで行ったと言うのか!犬死にじゃないか!」ナグは声を荒げて言うと、ケルトは涙目で下を向いてしまった。
「ケルトに当たるのは止めて!仲間が死んだのは人間に襲われたからだわ。それに、ケルトの言うように、その子が”助け手”かも知れないのよ。偶然に選ばれたとしても、不思議な縁だわ。それに子供と言っても、貴族の子供は守護魔獣を持ってる筈よ」
「う~ん。あの子の魔獣を覚えているか?ケルトは確か、『小さな.りすみたいだと』言ってたよな」べゼルが遠慮がちに言い添える。
「小さなりすもどき如き魔獣になにができる。我々が欲しているのは、滅びの道を止めてくれる力をもった大人だ」ナグは冷たく言い放つ。
「あくまでも巫女姫様のご宣託を信じないつもり?
私達に計り知れない力が動いている筈よ。
あの峠での不思議な炎!あれは私達を守ってくれた。
でなければ、あそこで皆殺しに遭ってたわ。
でも、生きて王都に辿り着いた。
その上、巫女姫様のご宣託通り、銀色の者が現れた。これは、何かの符合だわ。
例え、子供でも!
例え、力がなくても!
その子が誘因して何かの切っ掛けになるかも知れない。
あなたは希望を捨てているのよ、ナグ。
でも、私もケルトも、まだ希望を持っているわ!」
一同は、皆マナナの言葉を反芻する。そう、あの時はもう駄目だと、確かに絶望したがあの炎が現れた。
あの暗闇を引き裂いた輝く閃光!
そして、闇に燃え上がった不思議な炎!
あれは、不思議な事に皆に新たな希望を灯した。
やはり、ご宣託通りに、自分達を救ってくれる助け手様が現れる予兆ではないかと。
「確かにそうかも知れない。済まなかったなケルト、マナナ」ナグは謝ったが、彼の心に希望の火は灯らなかった。
(そう、俺には希望は必要ない。巫女姫様のご宣託も。俺の心はとっくに死んでいるのだ)
そう、それは、妻のエアと、お腹の中の赤ん坊を亡くしてから。
どうせ死ぬなら役に立って死にたいと、この無謀な旅に志願した。
しかし、早くエアの元に旅立ちたいと願っているのに、まだ死ねずにいる。
俺も、もしかしたら何かの符合の一部なのかも知れないと、ナグは少しだけ思い直した。
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