異世界グランハイルド・アレンと召喚獣-守護魔獣グランハイルド大陸物語ー

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第五章

第七十一話・アレン、親善大使の任を受ける③アレンとケルト

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 バルトは慌てて、壇上下へ走り寄った。

 「お待ちください、国王陛下」バルトは不敬を覚悟で直訴じきそした。
 「場をわきまえよ、騎士バルト。国王陛下の御前であるぞ」ベツレムがきつい口調でたしなめる。
 「構わぬ。直答じきとうを許す」ライオネルが鷹揚おうように手を振って促す。

 「はっ、有難う御座います。先程のお話でございますが、我がダンドリュウス伯嫡子ちゃくしは、まだ十歳になったばかり。礼儀も作法も完ぺきではございません。その上、リュウジール連合国は余りにも遠く、体力的に考えましても、とても国王陛下からの任を全うする事は不可能かと思われます。どうか、その任は他の相応ふさわしい方にお願い致します」
 「なる程、そちはアレリスには、この任が重いと考えるのか」
 「はい」

 二人がやり取りしていると、左前に固まっていた嘆願貴族の一団から、一人の男が進み出て来た。
 「お恐れながら、国王陛下に申し上げます」
 「まず、名前を申し上げよ」ベツレムは分かっていて、もう一度促した。

 「私は、エイブラス・フォン・グリーグ。国王陛下よりお許しを頂き一代前に、カーネルを男爵領として治めさせて頂いております」
 「よい、申してみよ」ライオネルが椅子にもたれかかりながら、直答を許す。
 
 「有難う御座います。国王陛下」グリーグ男爵は胸に手を当てながら大げさに一礼する。
 
 「これは私見ではございますが、先程の騎士バルト殿の意見、もっともな事と、推察しました。
 ダンドリュウス伯嫡子ちゃくし様はまだ、幼く、エイデン王国の代表として遠方のリュウジール迄、無事辿り着けるとは思えません。
 おまけにリュウジールは大型獣や、獣人、あらゆる亜人の種族が混在して生活しております。もし、辿り着けたとしても亜人達の中で野生生活するのはお可哀想かと愚考ぐこういたします」

 それを聞いた亜人達一行は、その侮蔑ぶべつした言い方に、いきどおりを感じた。
 
 「なるほど、ではグリーグ男爵、お前ならどうする?」
 「はい、国王陛下。私めを代表として派遣して頂ければ、見事その任を果たして参ります」そう言うと、又、芝居がかって頭を深く下げる。

 「なる程、その方も親善団に参加したいと言う訳だな」
 「はい。親善団代表として、立派に勤めを果たしてみせます国王陛下」
 「そうか。しかし、男爵。余はアレリスの実力を高く買っておる。守護魔力も非常に強く、大人顔負けの力を振う事ができる。だが、そちの言う通りまだ幼い。
 どうだ、その方を副代表として派遣しよう。アレリスをよく補佐してやって欲しい」
 「・・・・」
 
 「グリーグ男爵、国王陛下のお達しである。返答や如何いかに!」ベツレムが返事を促す。
 「は、はい。有り難き幸せで御座います」男爵は慌てて頭を下げる。

 「では、両名に申し渡す。アレリス・フォン・ダンドリュウス伯嫡子。その方をリュウジール親善大使に任命いたす」
 「はい。確かに承りました」アレリスは胸に手を当て丁寧に頭を下げた。
 
 「グリーグ男爵。その方をリュウジール親善副大使に任命いたす。両名とも、親善交流団として、両国の親交に努めよ」
 「「はい、国王陛下」」二人は共に、頭を下げた。

 そうして、バルトの思惑は外れ、アレンはリュウジール国への親善大使の任命を受けてしまった。
 その上、八日間で旅の用意をして、亜人と一緒にリュウジール国に旅立つ事が命じられた。


 一同は大広間を後にして扉の外に出た途端、グリーグ男爵はまるでアレンの所為でもあるかのように辺り散らした。
 「全く、誰かの所為でとんでも無い事に巻き込まれたわ!
 この俺様が十歳のの下に就かんといけなくなるとは。
 何が、親善交流団だ!
 第一、リュウジール国など、どこにある!
 唯の亜人や獣人の寄り合い所帯じゃないか!
 国王陛下もなにをお考えなのかさっぱり分からん。
 おまけに獣臭いと一緒に旅をしろとは、とうてい納得できかねる!」
 
 それを聞いた亜人達は殺気立ち、グリーグ男爵と対峙する。

 「ならば、一人でとっとと、旅をしろ。こちらもお前の面倒をみなくて助かる」
バルトが後ろから声を発して、注意を引いた。王宮で剣を抜けば、それは国王に対する不敬行為とされる。
 (例外もある。名誉の為等は可)

 「何だと!騎士の分際で、私を愚弄ぐろうするかっ!」グリーグは剣の柄に手を掛ける。すると、男爵に付いていた騎士が耳打ちをした。
 「彼は、元近衛精鋭騎士団の副団長補佐です。腕は騎士団内でも折り紙付きでした」それを聞いたグリーグの顔色がさっと青くなる。
 「ふ、ふん。・・・ここは王宮内、貴様如きの為に罪を背負う謂われはないわ」と、捨て台詞を吐くと逃げるように去って行った。
 

 「ふん。あいつ所為で任命を受ける羽目になったのは、こっちだと言いたい。何とか、断ろうとしてたのに横からいらん口を挟みやがって!」そう言うと、バルトはアレンに雷を落とそうと振り返った。が、彼はいない。

 「やあ。やっぱり、又、会えたね」アレンは亜人達の間を縫って、ケルトに近寄っていた。
 「・・・あ、お、お前・・・あ、あなたは貴族の子供だったのか、だったのですか?」ケルトは、アレンが貴族の、しかも、伯爵家の嫡男だと知って、しどろもどろになる。
 「変だよ、普通に話してくれたらいいのに。僕はアレリス、君の名前を教えてくれる」アレンはにこにこしながら話し掛けた。

 その様子を見ていたナグがアレンの前に進み出て来る。
 「ダンドリュウス伯御嫡子様、私はリュウジール国代表の狼族のナグと申します。これに控えますは、兎族のケルトと申します。御無礼の段、御容赦願います」
 「ご丁寧に、ありがとうございます。でも、無礼だとか思っていません。普通に話して貰えれば嬉しいです」アレンはナグの慇懃いんぎんさにも、怒る事なくにこやかに心情を述べる。
 ナグは人間が嫌いだ、むしろ憎んでいると言っても過言ではない。だから、アレンの親しさや素直な態度の裏を考えてしまう。
 (なぜ、普通に接するのだ・・・なんの魂胆があるのだ。貴族のくせに考えられない)

 「あの、僕も会えて嬉しいよ。まさか、ほんとうに会えるとは思ってなかった、です。僕はケルト。あの時は助けてくれてありがとう、ございました。ご嫡子ごちゃくし様」ケルトはお礼のつもりで頭を下げる。
 「やだな、僕も助けて貰ったのに。お互い様だよ。それに、僕の事はアレンって呼んで、親しい人は皆アレンと、呼んでくれるんだ」
 「・・・アレン」ケルトは恐る恐る呼ぶ。
 「ありがとう。これで僕達、友達だね、ケルト」アレンは微笑んだ。

 ケルトが感激して手を差し出すと、アレンは躊躇ためらう事無く、握り返す。

 亜人達一行はその光景を、ある者は微笑ましく、又、ある者は感激して、又、ある者は信じられない思いで見つめていた。












 
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