異世界グランハイルド・アレンと召喚獣-守護魔獣グランハイルド大陸物語ー

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第五章

第六十九話・アレン、親善大使の命を受ける①(亜人のケルト宮廷へ)

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 今日は大事な日だった。朝早くから兎族のケルトは目が覚めた、家の中は変な緊張感に包まれている。
 
 彼等は亜人なので、正体を隠すために街の外れの一軒家を丸ごと借りていた。
 
 人間との交渉は全て、フーリーがやっていた。彼は熊族だがボルダー程、大きくも無く、体毛も人間と同じくらいしか生えていない。そして、耳も人間と同じ耳だ。
 つまり、彼は亜人より、人間に近い。
 
 最近では、大地の加護の薄れと、人間との交配の所為で亜人より、人間に近い者達が増えており、彼等は隣国のタンデールに移り住むことが多くなっている。
 亜人の特性が無い彼らには、故郷で生活するには力不足な上、危険も多い。

 「ケルト!皆を呼んで来て、朝食ができたからって」マナナが、ちょうど通り掛った弟に呼び掛けた。
 「分かった。直ぐに呼んで来るよ」台所からはナヒルスープの良い匂いがしている。
 
 「う~ん、又、草のスープか。肉が食いたい」ボルダーが臭いを嗅ぎつけてやって来た。
 「体に凄く良いし、栄養価も高いわ。それに、ちょっぴり鴨の肉も入っているわよ」デナが負けずに言う。デナはナグと同じ狼族で、彼女の白い耳と白い尻尾が少し毛羽立っている。
 
 「ごめん、ごめん。ちょっと言ってみただけだよ」身体は大きいが気の弱い所があるボルダーは謝った。肉が少ないのは、今に始まった事では無い上、彼女達の所為でも無いのだ。
 「とにかく、さっさと食べて場所を開けてちょうだい」デナがぷりぷり怒って言った。

 少しすると、ケルトに呼ばれたメンバーが集まって来た。そして、食事が終わったボルダーが出て行こうとした時、狼族のナグと狐族のべゼルが入って来て、呼び止めた。

 「直ぐに、食べ終わるから、待っててくれないか」
 「分かったよ、ナグ」

 彼等は食べ終わると、早速打ち合わせに入る。
 「今日は待ちに待った、参内の日だ。しかし、招待状が有るからと言って何が起こるかわからない。だから、今日は、怪我人と女性陣はこの家に残って待ってて欲しい。」
 「どうして!私だって戦えるわ!」デナが叫んだ。
 「分かっている。だからこそ、ここに残って彼等を守って欲しいのだ」ナグはデナの方を向いて頼んだ。
 「・・・・」
 「それに、フーリーと、キット(猿族)。犬族からはバルグにも残って貰う」
 「戦力を二分する訳ね」マナナが言った。
 「それはよく分かったが、俺は一緒に行った方がよくないかい」交渉役のフーリーが言った。
 
 「どうせ、今日俺達が、宮廷に行くのはばれてる。フーリーは残って、万が一の時にここに居る皆を逃がす窓口になって欲しい」
 「・・・分かった。万が一の時には死力を尽くすよ、ナグ」
 「有難う、フーリー。頼んだ」
 「それと、もし、宮廷で何かあった場合、ピップ(猿族)、セグ(犬族)、それと、ケルトを知らせに出すつもりだ。誰かが、ここまで辿り着いてくれるだろう」その言葉に、マナナがナグを抗議の目で見た。
 「ケルトはまだ、子供だわ」

 「僕が名乗り出たんだ。僕は子供だから目に付きにくいし、足も速いし、耳もいい。それに跳躍力は誰にも負けないから、お城の壁や、家の屋根に飛び乗って逃げる事ができるよ。お願い姉さん」
 「何かあった時には、必ず、先に逃がす。約束するよ、マナナ」ナグがマナナに頭を下げたので、彼女は折れた。

 話し合いの後、それぞれがもう一度、簡単な荷づくりに取りかかったが、ナグとべゼルは食堂に残った。
 
 「ライオネルはどう出るだろう」べゼルがナグに話掛ける。
 「さあな。一応招待状は寄越したのだから、城には入れるだろう。だが、我々が望んでいる兵を出す事はしないだろうな。隣国のタンデールでさえ、そうなのだからな」
 「俺達が押え切れなけりゃ、は、隣国に行っちまうのにな」
 「ふん、共倒れになるのを待っているのさ」

 彼等が兵を出して貰えないのが分かっていて、この危険な旅をして来たのには訳がある。そして、兵を出して欲しいと国王に懇願すれば、この国に入国する大義名分が生まれるからだ。

 「ほんとうに、巫女様の言う通り、この国で””が現れるかな?」
 
 「さあな。俺には分からない。ただ、を、止められる者がいれば誰でもいい」

 二人は席を立ち、最後の準備に取りかかった。







 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞



 アレンとバルトは迎えの馬車に乗ると、王宮に向かった。今日は参内日でもないので、貴族の数は少なかった。
 宮殿に着くと、直ぐに大広間に通される。バルトは壁際で待機しに行く。

 大広間には、今は貴族も数える程だしかおらず、代わりに城内衛士が並んでいた。暫くすると、国王が宰相のベツレムを伴って入って来た。王子達も連れてはいない。
 国王はアレンを目聡く見つけると、大きな声で呼ばわった。

 「アレリス。こちらにお出で」アレンはバルトを振り返ると、頷いてくれたので、壇上下の階段前まで近寄った。
 広間にいる貴族達はひそひそ話す。

 「これから約束のを見せてやろう。遠慮せず、余の横まで上がって来るがいい」

 アレンが宰相のベツレムを窺うと、軽く頷いたので、ゆっくりと階段を上がり国王の一段下で足を止める。

 「そこに、腰を下ろすとよい」国王の言葉に従って壇上に腰を下ろすとライオン達がやって来てアレンを取り巻くと、小さな姿はライオンに隠れて見えなくなった。

 それを見届けたベツレムは手を上げて合図すると、扉の前で待機していた衛士が外に出て行った。
 

 暫く待っている間、許された貴族達が一人々、国王の前に出てそれぞれの嘆願を申し出ていた。国王はそれに一々頷くだけで、返答は後ほど決定して申し渡されることになっている。ちょうど、嘆願が終わると、先程の衛士が戻って来て扉から入って来た。
 
 ベツレムは目聡くそれを見付け衛士に合図を送ると、両側の大扉が開き、扉の向こう側の待機していた一団の姿がさらされる。
 
 その一団は皆、真深くフードを被っている。

 彼等の両側を武器を携帯した衛士が付き添い、赤い絨毯の手前まで歩を運び、そこで止められる。
 それは、彼等を守っているようでもあり、罪人を護送しているようでもある物々しい雰囲気だった。

 壇上下の赤い上着を着た、宮廷係が大きな声で呼び上げる。
 「リュウジール連合国代表団、代表交流大使の方々、御挨拶にお着きにございます!」その呼び上げに準じて、代表団の面々は片膝を付き、頭を垂れた。

 「私は、宰相のベツレムと申す。我が国王、ライオネル陛下のお許しがでた。フードを取り、御挨拶申しあげよ」

 その呼び掛けに、片膝を付いたままフードを下ろし、姿を晒す。
 ケルトは、指が震えて中々、フードを下ろす事ができなかったが、横にいる猿族のピップが手伝ってくれた。
 
 宮殿は何もかも大きく見事で、それだけでも圧倒された。又、宮廷内に入るまでに擦れ違った貴族達は、皆きらびやかで、自分達がいかにみすぼらしいかを感じさせられた。
 人間達は、門を守る兵士を始め、擦れ違うメイドや城内係に至るまで、彼等亜人を見下していた。側に寄るのも汚らわしいと言うように顔を背けたり、足早やにまじないを唱え去って行く、その度に、ケルトの心は傷付いた。

 今、宮廷内はざわざわしている。人数こそ少ないが、貴族達が遠くで嘲笑しているのが耳に入って来ると、ケルトは悔しさに涙がこぼれそうになるのを我慢する。
 
 
 (そうだ、僕達はどうしても””を見つけるんだ。
 
  それまでは、どんな事があっても負けるもんか)

 

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