異世界グランハイルド・アレンと召喚獣-守護魔獣グランハイルド大陸物語ー

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第五章

第六十七話・アレン、ライオンに齧り付かれる

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 ダンドリュウス伯爵はそれを聞いてさすがに青くなった。
 これは一件冗談のように聞こえるがアレリスは試されているのだ。
 
 (国王はアレンの力を欲しておられる。現に壇上に並ぶ王子達の幾人かは顔色が変わった)

 伯爵が代わりに答えようとする前に、アレンが喋り始めてしまった。

 「有り難きお言葉なれど、それは、無理にございます。国王陛下」アレンは、再び胸に手を当て頭を下げた。

 広間中の貴族達がざわざわし始める。例え冗談でも、国王の言葉を蹴ったのだ。
 ここは、冗談で返すか、形の上だけでも喜んで受け取るのが妥当な線だった。

 「ふむ。べリング男爵とは兄弟の契りを結んだのに、余とは親子の契りを結んではくれぬのかな」ライオネルは、椅子から身を乗り出してアレンに迫る。

 「だって、国王陛下には、ご立派な王子様達が五人もいらっしゃいます。でも、お爺様には、今は僕一人です。僕はフォートランドを守ると誓ったのです。それに、僕よりきっと、陛下の子供になりたいと思う立派な方達は一杯いると思います」そう言うと、居並ぶ貴族達を見回した。

 「なるほどな。いや、よくぞ申した。そなたは何より、フォートランドを大事に思うておるのだな。感服したぞ。アレリス」国王は、さらりと会話を流した。
 
 (ふむ。どうやら、野心家ではないようだ・・・今のところは)

 「時に、アレリス。その方の”火の鳥”を余に見せてはもらえぬか」
 国王の言葉に貴族達は、又、ざわめき始める。皆、興味津々なのだ。

 「今、直ぐですか?」
 「そうだ、今直ぐに見たい」
 アレンは国王の言葉を聞くと、伯爵の方を見た。伯爵はアレンに、軽く頷く。
  
 アレンは一歩前に出ると、トゥルールに呼び掛ける。
 「出ておいで、トゥルール!」アレンの胸から、赤い小鳥が飛び出して頭の上を小さく旋回すると、差し出された腕に止まった。
 
 その小ささに、貴族達の間から失笑が起こった。

 「なんと、かわいい小鳥ではないか、あれが”火の鳥”とは」
 「噂とは、得てしていい加減なものですよ」
 「小さすぎて、目に入らぬわ」
 「あれが”火の鳥”なら、私の鳥は火竜だね」
 「誇大宣伝も、甚だしい」
 貴族達は、好き勝手に喋り合ってアレンとトゥルールを扱き下ろす。
 
 その間、国王はじっとアレンの様子をうかがったが、彼は気にする素振りを見せず小鳥の背を優しく撫ぜている。

 「アレリスよ。その方の守護魔獣は”炎”をまとうとか。それも、見せてくれ」
 「はい、陛下」
 
 「トゥルール、お願い。青い炎だよ」
 アレンがトゥルールに囁くと、小さな小鳥は青い炎に包まれた。
 貴族の間に、驚きのざわめきが広がる。

 「素晴らしい!見事な守護魔獣だな。アレリス、お前は熱くないのか?」国王が尋ねた。
 「はい、大丈夫です。この炎の段階では物を燃やす事はまず、ありません」
 「物を燃やすには、変化すると言う事かね。見せてくれ」
 「はい」

 「トゥルール、いいかい」
 トゥルールはアレンの腕の上で、赤い炎に変化した。
 周りからどよめきが起こる。

 「う~む、見事だ。その赤い炎で男爵の大蝙蝠を燃やしたのだな。お前はやはり、熱くないし、燃えないのかね」
 「はい、熱くありません」
 「他の者が触ると、どうだろう?やはり、燃えてしまうのか?」
 「はい。たぶん、燃えてしまうと思います。でも、青い炎なら、大丈夫ですよ」
 「・・・青い炎は触れるのも可能と言う事かね」
 「はい。僕以外の人でも暖かく包む事ができますよ。温泉に入っているような気分になるそうです」
 「それは、他の者で試したと言う事か?」
 「はい、始めは皆”炎”と言う事で恐れを抱きますが、厩舎係のジルが“魔法”だと、喜んで受け入れてくれました。だから、僕も、これは”守護魔法”だと理解できて恐れも減りました」
 「ふ~む」
 
 「余に、その青い炎の守護魔法を掛ける事ができるかな?」ライオネル国王は暫く考えた後で、口を開いた。
 「陛下!」アレンが返事する前に、宰相のベツレムが大きな声を上げる。
 周りは再び、ざわめき始めた。
 
 「何だ、アレリスが驚いているぞ。ベツレム」国王は宰相に向かって、二ヤリとしながら話掛ける。
 「いえ、それは少し危険かと。・・・万が一と言う事がございます」
 「うむ。アレリス、どうじゃ?失敗した事はあるかな?」
 「失敗した事はありません、ここにいる祖父も温めたことがあります。ねえ、お爺様」アレンは伯爵を振り返った。
 
 「はい、確かに。しかし、万が一と言う事が御座いますので、ベツレム宰相の言う通りここは止めて置いた方が無難かと」伯爵は生きた心地がしなかった。もし、失敗したらと思うと、とても恐ろしい。
 
 「僕は、失敗しません。国王陛下を燃やしたりしません!」その言葉に宮廷内は一気にざわついた。
 王子の中には、椅子から腰を浮かした者までいる。
 
 「クッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハ」国王の大きな笑い声が響く。
 「いや、良く分かった。アレリス、近こう寄れ」
 「陛下!」ベツレムを手で制して、アレンを手招きする。
 
 アレンは国王の命ずるままに壇上の階段下まで、歩いて行く。

 「ライオンが怖くなければ、ここまで上がっておいで」
 「はい、大丈夫です」アレンは恐れる風も無く、国王の直ぐ手前まで階段を上がると、ライオンの唸り声が大きくなった。
 
 (なんと、小さい。ほんとうに、まだ子供なのだな)
 「ルベルス」国王が名前を呼ぶと、ライオンの唸り声は止んだがアレンの方を油断なく見ている。

 「さあ、これで邪魔者は居なくなった。お前の守護魔法、青い炎を掛けてくれ」
 「お手をお取りしてもよろしいですか?」
 「ああ、余の横までおいで」
 アレンは国王の横に並ぶと、差し出された大きな手を取った。
 椅子に座っている国王の高さにアレンの背はまだまだ、届かない。

 「じっとしていてください。いきますよ」国王の瞳が縦に収縮するのを間近でアレンは見た。次の瞬間、アレンの身体が青い炎に包まれると、その炎は繋いだ手を這い上り、ライオネル国王をも青い炎で包んだ。
 
 本当は、一気に炎で包むことができたが、今までこの守護魔法を見た事がない国王と周り宰相や貴族達の手前、手順を踏んで受け入れやすくするために、ゆっくりと発動させた。
 それが分かった伯爵はほっと胸を撫で下ろす。

 
 国王はゆっくりと、青い炎で包まれている自分の手を持ち上げて目の前で確認すると、アレンの方を振り返る。
 「何と、心地よい炎をだろう。お前の言う通り、温泉に浸かっている気分だ」そうして、椅子の背もたれに身体を凭れさせると、気持ちよさげに目を閉じた。

 大広間は息を詰めてその様を見つめていたが国王が目を閉じると、同時に歓声が上がった。
 貴族達は、手の平を返したように口々に褒めそやす。


 暫くすると、アレンの炎は消え、次いで国王の炎も消えた。
 「国王陛下」宰相のベツレムが、直ぐに側までやって来た。
 ライオネルはゆっくり目を開くと、ベツレムに大丈夫だと言う風に頷く。

 「ふ~。本当に気持ち良かったぞ。久しぶりに癒されたようだ。実に清々しい」国王は握っていたアレンの手を再びぎゅっと握ると、離した。
 
  「有難う、アレリス。とても良い体験をさせて貰った」ライオネルは上気した顔で、にこやかに微笑んだ。
 アレンも、にっこり微笑み返す。
 
  「何か、褒美を遣わそう。言ってみるが良い」
 「何でもよろしいですか?」アレンの言葉に、広間は又、ざわついた。一体何を無心するのかと。
 「ああ、何でも良いぞ」

 「では、国王陛下のライオンに触らせてください」アレンはライオネルの言葉に被せるように願い事を口にした。
 「・・・このルベルスに触りたいだと?」
 「はい、是非」
 
  「願い事は、何でも良いのだぞ」
 「はい。どうしてもライオンに触りたいとおもいます。ツインズ・ヘッドの獅子の彫刻も素晴らしかったです。あれは、このライオン達がモデルになったと聞きました」
 「そうか、ツインズ・ヘッドも気に入ったか」
 「はい。面白いので、何度も往復してしまいました!」アレンの目はその時の興奮を思い出してか、キラキラ光る。又、アレンの返答を聞いた貴族達にクスクス笑いが起こる。
 
  「ふふふ。余も、あの彫刻は気に入っておる。気が合うな。ただ、ルベルスも後ろにいるアルファスも非常に気難しい。触るなら気を付けよ」
 「はい、ありがとうございます」

 アレンはライオンの側に膝を付いて触れる為に近づいた。

 その途端、すさまじい咆哮が上がり、アレンはライオンに頭からかぶり付かれた。



















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