異世界グランハイルド・アレンと召喚獣-守護魔獣グランハイルド大陸物語ー

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第五章

第五十九話・王都へ②国王からの招待状(宿屋での出来事)

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 伯爵達はアレンが、国王から目を付けられるのを一番恐れていたのだ。強い魔力を持っていると言っても、彼はまだ九才の子供に過ぎない。貴族の作法は愚か、宮廷の作法や謀等、全く対処の方法も分かっていないのが現状だ。
 
 それは、側仕えの者にも言える。助言を与えるられる側仕えがいないのだ。
 ジョエルを始め、ダンテやメイグはまだ側仕えになって日も浅く、どちらかと言えば貴族に仕えるとは言っても緩い環境に身を置いて来た。宮廷の貴族社会は最も厳しい身分社会だ。小さな粗相が平民の彼等にとっても命取りになり得る。
 
 イルビスやグラバルの時は、宮廷の内状をある程度知っていたケーヒルが付き添っていた。だが、彼等は単に、その他諸々の一員として宮廷に短期間滞在しただけで、今回のように国王陛下自らの招へいではない。滞在期間がどれくらいになるかは、全て国王の腹積もりに寄るのだ。

 「兎に角、招待状が来るなら仕方があるまい。出来る限りアレンに準備をさせて置こう。」伯爵はテーブルに肘を突いてこめかみを押えたが、誰も文句の言う者はいなかった。同じ夕食のテーブルには、客人であるアライエンス伯爵とメイナム伯爵、アレンとレオン。それにバルト、それぞれの騎士達が二人同席している。
 宮廷では騎士は下級席となるが、同席は認められている。だが、側仕えは室内にすら入れない。別部屋で待機になる。
 困ったことにアレンにも、べリング家にも、お抱えの騎士はいない。
 
 「まあ、そんなに気に病むことはありませんよ。男は愛嬌です。アレリス殿なら、その可愛らしさで立派にに乗り切れるでしょう。後は作法とダンスと、女性へのマナーを徹底的に身につければなんとかなるでしょう。まさか、九才の子供に政治の話を振る者もいますまい。それに、ダンドリュウス伯は我等と同じく中立だ。そのお立場さえ、貫けば面倒事にも巻き込まれないと思われます。・・・今の時点ではね。」アライエンス伯は滔々とうとうと捲し立てた。
 
 「私もリクシルドの意見に賛成です。アレンさえ、大人しくしていれば何とかなると思います。彼には勇気があり、豪胆さも持ち合わせている。余り喋らず、控え目な行動を心掛ければ、国王陛下の感心も直ぐに薄れると思われます。何と言っても、在位三十年周年の記念式典のパーティです。外国からの招待客も多いでしょう。只、守護魔獣の力はなるべく隠した方が、賢明です。」

 「どうやって隠すと?メイナム伯。それに目を付けられたからこその招へいじゃないか。隠すには遅すぎる。”火の鳥”のような、守護魔獣は二つといない。」アライエンス伯がはっきりと指摘する。
 
 そう、今更だ。万事休すとはこの事か、とダンドリュウス伯もバルトも思った。
 
 翌日、アライエンス伯爵は先に帰り、メイナム伯爵は一日、アレンとレオンに剣の練習に付き合って帰って行った。メイナム伯は帰り際に、リクシルドは少々、捻くれたもの言いをするが、きっとアレン達の為に何か手を打ってくれる筈だよ。と励ましてくれた。

 後日、伯爵の言う通り、宮廷の作法を教えてくれる人材と、ダンスの名手を送り込んで来てくれた上に、アライエンス伯とサージェント伯の招待状も手に入れたと、連絡があった。
 サージェント伯はべリング家の後ろ立てとして招待されるので、レオン達にとっては勿論の事、アレン達にとっても力強い味方が増えることになる。因みに、アライエンス伯の叔母が侯爵家の一つであるスローディング家に輿入れし、そのスローディング家は宮廷で財務官僚の一人としての地位を築いているので、更に宮廷での強力な後ろ盾になる。

 そして、二ヵ月近くたっぷり滞在したレオンは急遽、ラベントリーに呼び戻された。王都には、領主であるレブランドが行く事になったからである。
 アレンは一人なったが、宮廷の作法やダンス。それに、国王や五人の王子達、その親族である公爵家や、侯爵家。そして主だった伯爵家の現頭首と、嫡男の名前や風貌。そして、それぞれの守護魔獣までを覚えなければならなかったので、寂しいと言える暇もなかった。
 
 そんなある日、国王陛下の招待状が届いた。メイナム伯爵達が教えてくれた日より、丁度一ヵ月後の事だった。
 
 在位三十周年のパーティは、僅か一ヵ月半後に迫っていたので予定通り、招待状が到着した五日後にフォートランドを出発した。(もし、招待される事を知らなければ、その為の用意も、アレンの準備も到底間に合わなかっただろう)
 王都までは一ヵ月余り掛る。その間に何が起こるか分からないので早目に着く事にした。

 有り難い事に、アライエンス伯は詳しい旅行の行程と、宿泊や馬の手配までしてくれていたので余裕を持って出発に備えることができた。
 (招待客が押し寄せるので、王都に近付くにつれて、宿伯や馬の手配が難しくなるのである。)


 アレン達一行は、彼や伯爵が乗る馬車が一台に、衣裳係二名と荷物を乗せた馬車が一台、後バルトやジョエル達側仕えは馬での移動だ。彼等は毎日交代でアレン達の馬車と後ろの馬車に一人づつ乗り込み中と外を警護している。
 フォートランドを出発して、何事もなく道程の半分を過ぎた辺りから、宿屋での他の貴族との出会いが多くなって来ていた。親しくなろうと、近寄って来る者や無視を決め込む者色々だが、ここまでは順調に来ていた。
 
 「今日は、よく混んでいるようだな。」伯爵が瞑っていた目を開いて言った。
 「そのようですね。貴族の馬車が他に、五台止まっております。」ドイルが開き窓を開けて外を見て答える。ドイルはお爺様の側仕えで、今日の馬車当番だった。
 暫く、馬車の中で待っていると、ジョエルが馬車の扉を叩いてドイルに合図して来た。漸く、宿屋の中に入れるようだ。
 アレン達が外に出ると、その宿屋はとても大きく立派な建物だった。きれいな庭や、乗馬用の小道や裏手には池まであった。
 「ねえ、ジョエル。部屋が整う迄、ちょっと裏手の方を散歩していいかな。」これから、部屋に荷物を持って上がり衣服の整理等が始まるのだ。いつも、アレン達は用意が整うまで食堂でお茶を呑んだりして一休みするのだが、今日は、早めに着いたので、外はまだ明るい。
 「少し、待って。バルトに聞いてくるよ。」バルトは伯爵に付いて、二年に一度の割合で王都に旅をしているので色々な場所の治安に詳しい。
 
 ジョエルがバルトを探しに宿屋の中に入って行くと、アレンに目を止める者が不意にいなくなった。周りは五台の馬車がまだ止められており、それぞれ荷物運びに騒々しい有り様だ。
 (直ぐ裏手だし、ジョエルも行き先を知っているから、いいかな。)アレンは馬車の間を抜けて、厩舎との反対側の静かな道を通り宿屋の裏手に出た。

 大きな池の周りに、乗馬用の小道(散歩道を兼ねている)が敷かれ、その先には東屋もあるようだ。周りには花が植えられた花壇もある。アレンは周りに誰も居ないのを確認すると池を覗いたが、濁っていてリュゲル達には会えそうもなかったのでそのまま東屋の方まで行く。

 「やめて、放して。無礼でしょう。人を呼ぶわよ、近付ずかないで。キャア。」悲鳴が東屋から聞こえたので、急いでそちらに走った。側に着くと、男が誰かに覆いかぶさっている所だった。
 「やめろっ。」アレンが叫ぶと、男はビクッと振り返った。まだ若い、貴族の青年のようだ。
 「なんだ、子供じゃないか脅かすな。チビはあっちに行ってろ。」アレンが子供だと見て、馬鹿にしたように手を振って追い払おうとする。
 「その人は、嫌がっている。直ぐに、その手を放せ。」青年はチッと、舌打ちすると、掴んでいた女性の腕を放し、アレンに向き直る。
 「おい、チビ介。サッサと向こうに行かないと、痛い目みるぞ。」彼はそう言い放つと、東屋を出て階段を一段降り、腰のレイピアを抜き放ち脅すようにアレンに向ける。
 アレンの目には、その構えは隙だらけに映った。
 
 「おい、聞いているのかっ。あっちに行け。」青年はもう一歩踏み出し、レイピアでアレンを横に凪払う。アレンは剣を掻い潜ると、反対に相手の懐に飛び込んでスモールソードの切っ先で彼のレイピアのスウェプト・ヒルトに引っ掛けて、剣を飛ばした。
 剣は見事な放物線を描いて、後ろの池にバシャンと落ちた。その間、アレンは全く振り返らず、目を相手から反らさなかった。

 「このチビめ、俺様を誰だと思っている。よくも俺の剣を池に落としたな。」青年は、アレンに近付こうとしたが、アレンは、剣を青年の喉元にピタリと当て直した。
 「くッ・・・。」
 「直ぐに、ここから立ち去ってください。それとも、子供の僕に剣を池に放り込まれたと言い回る積りですか。」アレンの言葉に青年は顔色を変えた。
 
 「くそッ、覚えてろ。」捨て台詞を残すと、青年は剣を捨てたまま逃げて行った。アレンはそれを見届けると、東屋に入る。
 
 「大丈夫ですか。」アレンが中を見ると、ベンチにドレスを着た少女が座っていたが、見た所怪我は無いようだ。 そして、少女の足元の向こうには殴られたのか、口から血を流したメイドが壁に寄り掛っている。
 「たいへんだ、大丈夫ですか。」アレンは少女を跨いで、メイドの方へ近寄る。

 「無礼な。先に私を助けるのが筋でしょう。」少女は怒って、後ろから手に持っていた扇でアレンの背を打った。
 アレンは吃驚して、少女を振り返る。
 「あなたは、もう助けてあげたでしょう。見た所、怪我もないようだし。」
 「手を貸して立たせるのが紳士のマナーだわ。さあ、早く。こんな所、一秒だって居られるもんですか。」少女はも当然と、手をアレンの方に差し出す。
 「彼女が先です、怪我をしている。ベンチを空けてください、彼女を座らせないと。」アレンは差し出された手を無視して、メイドに手を貸しゆっくり立たせると、彼女にはっきり言い渡した。
 
 メイドはなんとか立ち上がったが、眩暈のためか、ふらふらと少女のドレスの上に座ってしまう。
 「この、。ドレスがしわくちゃになってしまうわ。」今度は、メイドを扇で打とうと手を振り上げたが、アレンはしっかりとその腕を掴んではばんだ。
 「何をするんです、彼女は怪我人だ。それに、ちっともなんかじゃない。立派にあなた庇ったから、怪我をしたんでしょう。酷い言いようだ。」アレンは本気で怒っていた。いや、許せなかった。
 
 アレンと母ルイーズは、朝から晩まで身を粉にして働いていたにも関わらず、ワイリー夫妻からいつもと、罵られていたからだ。
 
 「なんて、無礼な口を利くの。彼女はただのメイドだわ、私は公爵令嬢よ。一緒にしないで。さあ、お退きったら。」アレンが尚も言い返そうとしたら、メイドに腕を掴まれた。彼女はアレンに緩く首を振ると、なんとか立ち上がり、ドレスから退いた。
 (そうだ、これ以上、彼女を庇えば余計に立場が悪くなるかもしれない)
 
 アレンは、それに気が付くと無言で東屋を後にして宿屋の入り口に向かった。



















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