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第五章

第五十八話・王都へ①国王からの招待状

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 アレン達は、ミゲルを始めとする森林警ら隊に宿屋まで送って貰った。
 隊長のミゲルや案内人のソルキは、アレンに心酔したようだ。他の兵士達の態度も、手の平を返したように丁寧になる。彼等はつり橋の所で、あの赤い焔が空高く燃え上がるのを見のだ。
 
 アレンは宿屋に着くと、風呂に入り食堂に下りる間もなくガウンを着たまま眠り込んだので、詳しい経緯はジョエルがバルトに話した。

 「ふ~、まあ、噂が広がるのは目に見えているな。只、臣下思いの話として広まってくれれば有り難いが」
 「うん、そこらへんは大丈夫だと思う。彼等も”幽霊”と話せる事までに結び付けて無いと思う」ジョエルが請け合った。肝心なところは聞かれてないと。
 「頭の痛いことだ。全く、こんな風に自分の力を見せ続けたら墓穴を掘ることになる」
 「・・・国王陛下の耳に入ると?」
 「ああ、あちこちに影(密偵)が入って、聞き耳を立てているだろうからな。」バルトは、大きな溜め息をいた。

 翌日はお昼前まで宿屋で過ごしてから出発した。帰りは何も無いので街々によりながら、ゆっくりフォートランドに戻り、その日内に、ネルのお墓に持って帰った遺髪を皆で収めた。
 

 次の日からは、いつもの鍛練が始まり、アレンとレオンはバルトに毎朝のようにビシビシ扱かれた。因みに、レオンとアレンは別の部屋で寝るようになった。レオン曰く、アレンと同じ部屋だと、ゆっくり眠っていられないのが原因だそうだ。

 アレンの剣の腕は格段に進歩して、スモールソードからショートソードに変わり重さも二倍で、剣の長さも長くなり、時々レイピア(一番軽く、短いもの)の練習も取り入れられるようになった。只、アレンの場合、身長がまだまだ低く、長い剣は持てないのが悩みだ。
 今、ジョエルからナイフ投げも習っている。

 「そうそう、アレンは目がいいね。これなら、動いている物にも直ぐ当てられるようになるよ。軽くて、短いから案外、アレン向きだね」ジョエルが褒めてくれた。
 「うん、軽くて使いやすいよ。でも、左手はなかなか上手くいかないな」右手は手首を使って、的に当てられる確率が非常に高いが、左手になると三本に一本は失敗する。
 「まあ、両手が使えると便利だけど利き手じゃないからね、上手くなるには時間がかかるよ。でも、左手でタガーを扱っているから覚えは早い方だよ。さあ、もう一度やってみよう」
 「分かった」アレンは的に集中すると左手を構えて投げる。
 (当たれ!)その時だ、突然、空中でナイフが燃え上がり的に刺ささると、藁でできた人型の的が燃え始めた。

 「「・・・・」」これには、アレンもジョエルも吃驚した。側に居たダンテが慌てて火を消す。
 「凄いや、アレン。どうやったの?」レオンも吃驚しながらも、羨ましそうに寄って来る。
 「・・・・え~と、〈当たれ〉って、思って投げただけだよ」
 「もう一度、強く念じて投げてみたら?」ジョエルが提案した。
 「できるかなぁ」アレンは自信なさげだ。
 「アレン、これができれば凄い強みになるよ。俺なんか、なんの魔力もないから羨ましいよ。せっかく授かった魔力なんだ、頑張れよ!」レオンは珍しく、真剣な顔で詰め寄った。
 「うん、・・ごめん」アレンはさっきの出来事に少し怖くなっていた。人型の藁だからこそ、余計に怖かったのだ。
 「藁だから、あんなに直ぐに燃え上がったと思うよ。人だったら、あんなに燃える前に叩いて火を消すさ。だが、その間に隙ができるし、こちらの有利な展開にもっていける。アレンは小さいから、これくらいの強味を持っていてもまだまだ不利だよ」ジョエルがアレンの気持ちを汲んで助言してくれた。
 「うん、分かった。もう一度試してみるよ」アレンは叩いて消せると聞いて、少し安心する。
 
 (アレンのこういうとこが歯痒いな。でも、こういうとこがアレンらしいんだけど、敵と対峙した時には凄く不利になるんだよな)そこが、ジョエルやバルトの心配な点だ。
 現に、グラバルとの対戦を聞く限り、胸を突けたのにそれをしなかった。いや、できなかったと本人も認めている。命の係った場面では、一瞬の躊躇が死を招く。

 アレンは、再び、ナイフを投げた。だが、火を付けることはできなかった。
 「俺、先に部屋に戻るね」何度か試したアレンを見てから、レオンは一人で(メイグが慌てて付いて行った。)練習場を後にした。少し、怒っているようだった。

 「ふ~、レオンを怒らせちゃった。でも、わざとできない振りをしてないよ。ほんとに強く思ってもできないんだ」アレンはしょんぼりして言った。何度も、試してみたが結局、火が付いたのは最初の一回だけだった。
 「仕方ないよ、何度か練習している内にできるようになるさ。でも、火の方に集中すると的から外れる率が高くなるから先ずは、的に当てる事に集中しよう」
 「うん。ありがとう、ジョエル」それで、練習は終わりになった。アレンが部屋に戻ると、中でレオンとメイグが待っていた。
 「お腹減ったよ、アレン。一緒に食事室に行こうぜ」どうやら、レオンらしい仲直りの示し方だった。
 「うん、ちょっと着替えるから待っててね」アレンも忽ち元気になって、急いで着替えに走る。

 二人は下に行ったが、お昼までにはまだ時間があったので、居間でお菓子を摘みお茶を呑んでいた。
 そこに、突然、来客の訪問が告げられ客人が入って来た。

 「「メイナム伯爵!!」」二人は、同時に椅子から立ち上がって叫んだ。伯爵は少し驚いたようだが、嬉しそうに微笑んだ。
 
「伯爵、お久しぶりです」レオンは彼に走り寄ると、手を差し出して握手を求めた。アレンも、レオンの後ろから近寄る。
  伯爵はレオンとしっかり握手すると、アレンの方に来て軽く抱きしめて頭を掻き混ぜた。
  「元気そうで何よりだ、アレン」
  
 「へぇー、君が子供受けするとは知らなかったな」扉の陰に、もう一人の客人が居た。
 「アライエンス伯爵!」ブラックボーン伯爵だ。
 「覚えていてくれて嬉しいよ。小さな召喚士君」アレンが挨拶をしようと手を差し出す。
 「おやおや。僕にはハグさせてくれないの?」彼は肩を竦めて見せた。
 「・・・あ、あの。そんなことないです」
 「はは。冗談だよ。でも、許可は貰ったしね」アライエンス伯爵はアレンの肩に手を掛けると自分の方に向かせてぎゅっと、満足するまで抱きしめた。そして、アレンの両頬に音を立ててキスした。
 (・・・彼なりの嫌がらせだな。相変わらずだ)メイナム伯爵はその光景にこっそり溜め息を突いた。
 
 「赤ん坊みたいなほっぺだな。羨ましい」と、アライエンス伯は大げさに、吐息を吐いた。アレンはどうしていいのか困った顔をしている。
 (・・・変わった人だな。あんまり近付かないでおこう)レオンの第一印象だ。
 「ところで、君は誰かな?」アライエンス伯はレオンの心の声が聞こえたかのように、絶妙なタイミングで振り返る。レオンはビクリと反応してしまった。
 「あの、僕はレオポルド・フォン・べリングと申します。初めまして」そして、おずおずと手を差し出した。
 「やあ、君が使だね。よろしく。私はリクシルド・フォン・アライエンスだ」伯爵は差し出されたレオンの手をぎゅっと握って、上下に振る。彼は、メイナム伯とは違った方法で情報を集めるのが得意だ。
 
 「こんな所で、何をしているのかね。お客様を立たせたままではいけないよ。客間の方にご案内しなさい」ダンドリュウス伯爵が現れて、後ろから声を掛ける。
 「ダンドリュウス伯、お構いなく。われわれは、大変な知らせを持って参りました」メイナム伯が告げると、アライエンス伯もそれに付け足す。
 「そうです、別ルートですが同じ情報を掴んだので間違いありません」
 
 「国王陛下より、アレリス殿に間もなく招待状が届くでしょう」アライエンス伯爵がアレンを手で指し示し告げた。
 「何と・・・・・」ダンドリュウス伯は絶句した。
 「それに、君だ。べリング男爵家にも招待状が届くだろう」
 「ええっ。なんで、べリング家にまで?」レオンは吃驚して叫ぶように言った。

 「たぶん、ジョイコブス男爵の件が主な理由だと思う」メイナム伯爵がレオンと、アレンを見て言った。
 「そう、困った事に国王陛下はアレリス殿に、いたく興味を持たれたようだ」アライエンス伯爵はも困ったと言う風に告げた。だが、その眼はアレンにぴたりと照準を合わせている。
 
 まるで、お手並み拝見といった風に。











 
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