異世界グランハイルド・アレンと召喚獣-守護魔獣グランハイルド大陸物語ー

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第四章

第四十八話・べリング家の再興②メイナム伯爵との再会

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 レオンは眼前の敵と戦っていたが、連敗続きだった。
 「畜生、今日も負けたー!」
なにせ、相手には羽がある。いや、飛ぶと言うよりも脚力を生かしレオンの目の前から得物を掠め取って跳び跳ねて行く。
 「何をやっているの、レオン。」シオンが諌める。
 「そうだよ、クッキーはし休眠明けなんだから、譲ってあげなさい。」レブランドはいつもクッキーの味方だ、””と言う理由だけで。

 「くぬぬぬ~。」レオンは、不公平だと思っている。
 「ごめんね、レオン。僕のを食べて。」アレンは自分のお皿をレオンの方に押しやろうとする。
 「いいんだよ、アレン。アレンもんだから、ちゃんと食べて大きくならないと。」

 (レブランドは結局、、””ものに弱いのだ!!)

 「そうだよ、レオンはもう人の倍食べているんだから、アレンは気にしなくていいんだよ。」

 (シオン、お前もかー!!)

 そう、べリング家の食料事情は格段に良くなったが、思わぬ伏兵が出現した。それが、クッキーだ。
レオンは、お城の調理場に行って摘み食いをするのが楽しみの一つなのに、今や食欲魔獣クッキーが降臨すると、婦人達はレオンをそっちのけにしてクッキーに食べ物をやってしまい、レオンの食い扶持が無くなるのである。

 その上、クッキーはレブランドやシオン、アレンのお皿からは取ろうとしない。いつも、レオンのお皿だけを狙って来る。
 (うう、姑息な奴め~~。)
 今の所、テーブルの上での小さい戦争は勃発しているが、ラベントリー領も、ミンクス領の方も落ち着きを取り戻し、忙しいが平和な日々を送っている。

 だが、レオンには気になっている事が一つある。それは、兄弟の共通の思いだ。
 あの日、アレンは苦しみ悲しみながら大変な話しを打ち明けてくれたが、結局のところ、どこから来たか分からず仕舞いだった。

 守護魔獣を持っている事は貴族の跡取りで、現にアレンの話からでは他に魔獣を所有している子供はおらず、嫡男争いに巻き込まれ負けたような話しだったが、現頭首からすれば強力な守護魔獣を持っているアレン以外に後継ぎは考えられまい。
 そう、今はもしかしたらアレンは死んだと思われているが、あの日の戦いの話が広まればアレンが生きている事が必ず分かる筈だ。
 トゥルールのような、珍しい守護魔獣は二つといないからだ。
 〈アレンはトゥル-ルがなんの種類か不明だと言っていたが、今のトゥルールの状態からすれば”火の鳥”以外に名付けようがないのでは、との結論に至った。〉

 そう、この近辺では”火の鳥”の事は、噂でも聞いた事がない。ただ、両親が亡くなってからはジェイコブス男爵の事もあり、他の領主との交流が途絶えているので、もしかしたら他の領主は何らかの噂話しを知っているのかも知れない。
 現に、レブランドがグレイスリーやフォードの領主から、根ほり葉ほり”火の鳥”の所有者について聞かれたそうだ。

 いつか、迎えが来たらどうしたらいいんだろう。もちろん、いつまでもここに居て欲しい。だが、アレン自身の事を考えるなら、跡取りとして物騒でも元実家に帰すべきか、それともここでのんびり暮らして貰う方がいいのか、三兄弟にも結論はでてなかった。





 レオンの足の状態は日増しに良くなり、今や全く、アレンの手伝いはいらなくなった。だから、アレンは時々、あの川縁へ出掛けてこっそりリュゲルに会っている。
 リュゲルは呼べばいつでも直ぐに駆け付けてくれる、水の上を駆けて来る時もあれば、川の中から突然現れる時もある。
 ディランと一緒に現れたりもする。
 そして、この間はディランに促されてリュゲルに恐る恐る乗ってみたが、普通に(?)騎乗できる事が分かった。

 でも、乗った感触はやはり、前とは違う。だが、彼は確かに生きている、水の一部として、自由に。

 今日はまた、新しい遊びを試した。ディランが目の前で水の馬を作り、それに乗って競争したのだ。
だが、リュゲルの強さは圧倒的だった。生前のリュゲルそのままに負けず嫌いで力強くて速くて、美しい。
 アレンは最後までリュゲルにしがみ付く事ができずに振り落とされたが、川の中なので怪我をする心配もない。
 彼は確かに生きている、と実感できたのが嬉しかった。例え、頭からずぶ濡れになろうとも。
ただ、ずぶ濡れでお城に帰ったので、皆に一体どんな遊びをしていたのかと驚かれた。

 次の日も、リュゲルに会いに川縁に向かうと黒マントの先客がいた。その黒マントを羽織った人物はアレンの足音がすると、川縁から立ち上がってこちらを向いた。

 黒鴉こと、ネイリーガ・フォン・メイナム伯爵だった。
メイナム伯は大股にアレンに近付くと、アレンが吃驚して固まっているのも構わず、しっかりとアレンを抱きしめた。
 「ああ、生きている、アレリス、良かった。助けてあげられなくてごめんよ。」そう言うと、更にギュッと力を入れた。メイナム伯の向こう側に、木の枝に止まっている黒鴉がアレンの目に入った。

 ああ、そうか。あれはメイナム伯の黒鴉だったのだと思い至った。

 アレンは、ニ、三日前から黒鴉の存在には気が付いていた、烏は何処にでもいるがその黒鴉は確かに他と違っていた。
お城の近くにいるのか、外に出るといつも付いて来るように飛んで来る。
 アレンが気にして何度も振り返ると姿を消すが、気が付くといつの間にか近くの木に止まってこちらをじっと見ていたりする。
 つい、先日も一緒に外出したレオンにその事を言うと、屈み込んだと思ったらポケットからゴム弾を出して黒鴉を狙って打った。
 「こうやって追い払えばいいんだよ、烏なんて何処にでもいるから気にするな。」と、言われたばかりだった。

「 あの黒鴉はメイナム伯爵の魔獣だったんですね。あの~、ゴム弾を打ってごめんなさい。」アレンが謝ると、やっと、メイナム伯は抱擁を解いてアレンを放してくれた。
 「いや、君が打った訳でもないし、あんなヘボな腕前じゃフロスに当たる訳が無い。」メイナム伯がにこやかに答えてくれたので、アレンはほっとする。

 「実は、この間のジェイコブス男爵の大蝙蝠と赤い火の鳥の戦いが耳に入って来てね、黒鴉達を偵察に出して君を見つけたんだ。」
 「このことは、お爺様も知っているんですか?」アレンは恐る恐る尋ねた。
 「いいや、先にしっかり確認してからと思って、まだ知らせていない。聞きたいこともあったしね。」
 メイナム伯爵は川縁から、少し離れた所にある倒れた木を指してから、
「あっちに座って少し話そう、大事な事だからね。」と言って、アレンに座るよう促した。

 「見た所、怪我もないし、元気そうだね。アレリス。」
 「はい、僕は大丈夫です。」アレンはドキドキしながら答えた。メイナム伯の聞きたい事が想像ついたからだ、なぜ、フォートランドに戻らないのかと。

  「胸の矢傷はどうだい?もう痛まない?」メイナム伯はアレンの胸の辺りを見て尋ねる。
「ええ、大丈夫です。・・・あの、この事はお爺様からお聞きになったんですか?」アレンも、思わず自分の胸を押えて聞き返す。(メイナム伯はどこまで知っているのだろうか・・・・。)
 「うん、全部知っているよ、僕がダンドリュウス伯に君達の事を知らせたんだ。」
メイナム伯はアレンに視線を合わせると、ゆっくりとあの日の事を話しだした。

 だからか、だから最初に謝ってきたのだ。伯爵はあの事に少なからず、罪悪感と言うか、責任を感じているのだ。
アレン達が矢を射られて崖から落ちたのを偶然居合わせてただ、目撃してしまった為に。

 「それは、伯爵の所為じゃありません。むしろ、証人になって貰ってすごく感謝しています。そのままだったら、ネルや、ウィルやベルグが只、逃げ出した卑怯者みたいに思われる所でした。僕はそこまで思い至らなかった、自分の悲しみにだけ囚われていました。」
 アレンはしっかりと頭を下げてメイナム伯にお礼の言葉を述べた。
「ほんとうに、ありがとうございましたメイナム伯爵。あなたのお陰でネル達の名誉が守られました、心から感謝申し上げます、ほんとうに、ほんとうに、ありがとうございました。」

 メイナム伯は少し照れたように見えたが、その瞳から彼の心を重くしていた罪悪感が払拭ふっしょくされ、明るい眼差しになったように感じられた。

 「・・・えっと、アレリス。」
 「僕の事はどうか、アレンと呼んでください。親しい人は、皆アレンと呼びます。」
 「そうか、じゃあ、アレンと呼ばせて貰うよ。その代わり、君も僕の事をネイガーと呼んでくれないか。いいね。」
 「でも・・・メイナム伯、伯爵の方が年上だし・・」
 「ネイガーだ。そう呼んでくれた方が嬉しいし、君とはきっと、長い付き合いになる。頼むよ。」
 「・・・分かりました。そこまで仰るんなら・・・ネイガー。」
 「うん、その方がいい。一番年が近いしね。・・・ところで、も一つ話し合わないといけない事がある。」
 「分かっています。どうして、僕がフォートランドに戻らないばかりか、無事な事を知らせてもいない事ですね。」
 「そうだ、どうしてだい?それを聞く為に直接会いに来たんだ。だから、伯爵にも知らせていない。」メイナム伯爵はアレンの心情を思いやってくれたのだと分かると、余計にメイナム伯爵の事が好きになった。

 「ありがとう・・ございます・・・、何と言うか。あの日、皆を・・・死なせてしまったのは僕の所為なんです。・・・僕が彼等に剣を捨てさせて、皆の生き残れる道を断ち切ってしまいました。・・僕が愚かだった所為です。」
 「そうだね、それはやってはいけない事だ。僕達は最後まで生き残らないといけない、どんな手を使っても。だが、全部が君の所為じゃない、騎士バルトなら、絶対に剣を捨てなかっただろうね。」
 「でも、ゲイルが人質に・・・うんん、武器を捨てないで他の方法を探すべきでした。」
 「うん、そうだね。分かっていても難しい。でも、君はちゃんと学んだようだ。・・・それで、帰りづらかったの?」

 「それだけじゃありません、僕がお城に行った所為で、お城の中が二つに割れたようだし、・・・グラバル兄さまにも、嫌な思いをさせた上に大怪我をさせてしまいました。」
 「今度の事は全部、グラバルが悪い!怪我を負ったのも自業自得だ、同情の余地はないね。君には彼等に対する対処に少し落ち度があったけど、襲撃に関しては全部、グラバルの所為だ。アレン、君は少しも悪くない、衛士達が死んだのも全部、グラバルの所為だよ。君の所為じゃない、はっきり断言できるよ。」
 アレンは胸が一杯になった、”少しも悪くない”と言って貰えて胸の塊がなくなった思いがする。もちろん、それでネル達の死に自分の罪がなくなったとは思わないが。只、自分がお城にいったのが間違ってはいないのだ、と確認できた事が嬉しかった。

 「ありがとうございます。・・・後、僕が戻らないと決めたのは、トゥルールを死なせてしまったとつい最近まで思っていたからです。」
 「そうか、でも復活して、大活躍した。・・・・今度はもしかして、べリング家の事が心配?」
 「・・・はい、彼等は僕の命の恩人です。僕がいても、そんなに力にはなれないけど、・・・今は、まだここを去る事はできません。・・・それに、フォートランドに帰るかどうかも・・・分かりません。まだ、ぜんぜん考えられない、と言うのが正直な気持ちです。」アレンは自分の思いを全部、メイナム伯爵に話した。又、話す事によって今の自分の考えがはっきりした。

 「そうか、よく分かったよ。無理強いはしない、でも、ダンドリュウス伯には君が生きている事を知らせていいかな?一時は君が死んだと大変なショックを受けられた。でも、その後、ずっとベイリュート川の周辺を下流に至るまで探されていたんだよ。・・・まさか、こんな支流に流されていたとは誰も考えつかなかったけどね。」

 「・・・・分かりました。よろしくお願いします。」アレンは迷いながらも、そう答えるしかなかった。
きっと、みんなで必死に探し回ってくれたのだろうと想像できたからだ。
でも、まだお爺様やお城の皆。それに、グラバル兄さまにどんな顔をして会えばいいか分からなかった。
それに、ゲイルの母親ミールにも。

 三人目が生まれると楽しみにしていたウィル、もうその願いは叶わない。
 どんな顔をして会えるというのか、そう思うととてもフォートランドに帰れないと思うのだった。







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