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第四章
第四十七話・べリング家の再興①食欲魔獣降臨
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敵兵士達はジェイコブスの制止も振り切り我先に逃げ出し、男爵も騎士達に促されてとうとう逃げ出した。
「逃がすな」レブランドが叫ぶ。逃がすと又,体制を整えて襲って来るのは明白だ。だが、こちら側も皆、傷を負い疲弊している。
「アレン、なんとかならない。」シオンが振り返って懇願する。
アレンの腕にいつの間にか赤い炎を纏ったトゥルールが戻り止まっていたが彼自身は燃えていなかった。
「やってみるよ、トゥルール、彼等を燃やさずに発火させる事ができるかな?」
ピルルルルル~~~。トゥルールは一声鳴くと、アレンの元を飛び立ち彼等を追って行く。
トゥルールが彼等に追いつくと低飛行で人の間をジグザグに飛び、近くを飛び抜けられた者達は忽ち青く発火して、悲鳴や喚き声が上がり出す。
『「動くな!」』アレンが叫ぶと、その声は彼等の上を旋回しているトゥルールからも大音声で発せられる。
アレンは吃驚して一旦自分の口を押えたが、これはお爺様の使っていた守護魔法だと思い出しレブランドの方を振り返った。
敵兵達は青い炎に包まれながらアレンの先程の声で動けなくなっていた。
「あ、ありがとう、アレン。あれは燃えたりしないよね・・・」レブランドがアレンに恐る恐るたずねた。
「たぶん・・・今のところは・・・」アレンにも初めてした試みなのであやふやな返事しか返せない。
「よ、よし、僕の話す事をトゥルールに伝えて、彼等に言い聞かせてくれる?」
「うん、やってみるよ。」
結局、騎士一人と兵士三人ほどを解放した。(解放した兵士がそのまま逃亡しない様に、人質として拘束している中に親、兄弟のいる者を選んだ。)
ジェイコブス男爵と残りの兵士は人質として拘束し賠償金と身代金と交換することになり、又、男爵の命を助けるのと交換に、今後二度とラベントリー領に侵入しないとの念書も取った。
しかし、賠償金は払ったが、男爵側が自分以外の身代金を払うのを渋った為にそれを知った兵士達の反乱が起こり、それに乗じて今まで男爵の圧政に耐えて来た農民や、無理やり侵略されミンクス領に吸収されていた(元、ラベントリー領)の農民達も立ち上がり大反乱が起こってお城は焼き討ちに遭いジェイコブス家は壊滅した。
そして、それぞれの代表がべリング家に来て、ミンクス領を吸収して欲しいとの嘆願がなされた。
思いもよらない事だったが、それは嬉しい誤算だった。
彼等は夜空に浮かんだジェイコブスの大蝙蝠が赤く燃え落ち、それを成し遂げた赤い火の鳥の活躍を誰もが目にしていたからだ。
強い領主ほど歓迎される、ましてやべリング家は農民達に寄り添う善政を敷いていたのだから当然の事と言える。
暫くの間、レブランドとシオンは非常に忙しい毎日を送っていた。
幸いにも、グレイスリー領、フォード領は共に、協力を申し出てくれて(難民が押し寄せては困る為もある)、同盟も結ぶ事ができた。
アレンはレオンとルイの看病に勤しんだ。
レオンは頭の怪我の他、肋骨が一本と左の足の骨が折れていたが治りは順調で再び、走ったりすることができるようになりそうだ。
「あ~あ、僕もトゥルールがあの大蝙蝠をやっつける様を見たかったな~。」最近元気になって来たレオンは事あるごとにシオン達にあの日の事を聞きたがった。
アレンの話は呆気ないほどで聞いても全然面白くなかったが、シオンは身ぶり手ぶりを交えて面白可笑しく話してくれる。
アレンは大げさだと照れるがほぼ本当のことだと、シオンは強調する。
今のところ、アレンの出自を三人は詳しく聞いていない、ラベントリーに来た時には確かに紋章はなかったが、今ははっきりと彼の胸に刻まれている。
アレンも詳しく話そうとしないし、いつまでもここに居て欲しいと願っているので誰も触れずにそのまま日々過ごしている。
漸く、レオンの足の添え木が外され歩けるようになり今日は公務を休んで歩く練習も兼ね、お城近くの野原に四人でやって来た。
直ぐ近くに小川も流れていて草の絨毯と風が気持ちよく通り過ぎる場所だった。少し遠くに放牧されている羊たちも見える。
厚手の布を敷き、村の婦人達が持たせてくれたお昼ご飯を色々と並べる。
「美味しそうだな~、凄い御馳走だ。」レオンが思わず呟いた。今やべリング家の食料事情は格段に良くなっている。
農民達の差し入れも後を絶たない上(今回は盗賊団に収穫を取られなかったし、豊作だった)、城の台所にもお手伝いが何人か入って来ている。
「フフフ、トゥルール様様だね。」シオンも同調するように言った。
「御馳走とトゥルールは関係ないよ。」アレンが慌てて否定する。
「いやいや、トゥルールとアレンのお陰だよ。」レブランドも便乗して来る。が、その顔は真剣だった。
「ちゃんと、お礼を言ってない気がする。改めて、有難うアレン。心から感謝するよ。」レブランドが重ねて令を言った。
「そんな、皆で頑張ったからじゃないか。レオンやルイは大怪我迄したんだから。」
「そうだね、勿論、みんなで頑張った。でも、アレン達がいなかったら僕達はやられていたよ。だから、僕からもお礼が言いたい有難う、アレン。ほんとうに感謝してる。」シオンも真剣に言って来た。
「でも、三人が最初に僕を助けてくれたんだよ。三人が助けてくれなかったら僕こそここにいない。」アレンも真剣に返した。
「あ~あ、堂々巡りだね、結局イーブンって事で食べようよ、お腹減った~。」レオンが茶々を入れ笑いを誘った。
「じゃ、早速食べようかっ、わ~!!」行き成り、ルイとエルが敷物の上につっ込んで来た。
「やめろ、ルイ、エル。シオン、レオン二匹を捕まえるんだ。」レブランドが叫ぶ。
ルイとエルは何かを追い回している。
「岩ウサギかな?」「いや、ねずみ?」「ちがう、りすだ!」「クッキー!」
クッキーはアレンの腕の中に飛び込んで来た。
「「「クッキー?」」」
何処かで見た光景だと思いながらも、嬉しさが込み上げて来たアレンはルイとエルから立ち上がってクッキーを守る為に高く差し上げる。
すると、パタパタとクッキーが小さい羽を動かして浮かび上がった。その前足には好物のサンドパンがしっかり握られている。
「クッキー、羽が生えたの?」アレンが吃驚して呼び掛けると、クッキーは自慢げに羽をパタパタしながらクルクルと回って見せてアレンの頭の上に乗っかった。
思わず三兄弟は立ち上がってアレンの頭の上の不思議な生き物をしげしげと凝視する。
「なんだ、これ?全然りすっぽくない。何処がりすだよ、兄上。」
「自分だって最初はねずみと言ったじゃないか、レオン。」
「まあ、まあ、でもほんと不思議な生き物だ、小さいけど角も生えてるし、尻尾も三叉だし」シオンが呟く。
「おまけに、羽まで生えてる。」レオンが後を引き取って呟いた。
三兄弟は仲良くアレンの頭の上でクッキーについて議論を始める。
「レブランド、シオン、レオン~~、エルとルイを何とかして~。」アレンは今にも跳びかかりそうな豹達を見て頼んだ。
「ごめん、ごめん。エルっ、戻れ。」
「ルイ!来い。」それぞれが召還して、自分の中に呼び戻した。
四人はゆっくり座り直しお昼を食べながら再びクッキーについて話しだす。
「それは魔獣だよね、アレン。」シオンがクッキーを指さし糾弾するように言った。
「アレンって、ほんと秘密が多いな。」レオンも容赦ない。
「別に、秘密にしていた訳じゃなくて、ここに来る前から元気が無くなってほとんど外に出なくなったんだ。」
「外に出ないって、召喚しても出て来なくなったの?」
「違うよ、シオン。クッキーは召喚した事が無くて自分で勝手に出て来たり、消えたりするんだ。」
「ええっ、そんな魔獣聞いたことが無いよ。」シオンが驚いて言う。
「さっき、羽が生えたと言ってたけど、もしかして変態の準備期に入っていたんじゃないかな。」レブランドがクッキーの羽を指して言った。
「なるほど、準備期に入ると元気が無いように見えると聞いたことがあるよ。」シオンがレブランドの言葉にフンフンと頷く。
「そうだね、実際に元気がなくなる訳でもなく、まあ、休眠状態(冬眠のような状態)になるらしいよ。」レブランドがアレンを振り返って教えてくれる。
「そうなんだ、知らなかった。」アレンは呟き、改めて食欲旺盛なクッキーを見た。
「ねえ、どうして始めはアレンの胸に紋章は無かったの?それも出したり、消したりできる訳?」レオンが再び突っ込んで来る。
「ううん、紋章は僕の力と関係無いと思う。トゥルールが目の前で刺されて燃え尽きて死んだと思ったんだ。それで、助けて貰った時に紋章が消えてたから、魔獣が死んだら紋章が消えると思ってた。」
「なるほど、もしかしてトゥルールが大怪我をして召喚の紋章を維持する魔力が残っていなかったのかも知れないね。」レブランドが優しく話す。
「ねえ、トゥルールが刺された事と、アレンが矢で傷を負ってここに流されて来た事と関係があるんじゃない?」シオンが真剣にアレンに問い掛けた。
「・・・・・。」アレンはなんて話せばいいか、言葉が出て来なかった。それはまだ、胸の大きなしこりとなって居座っている。
「無理に話さなくていいよ。」レブランドがアレンの背中に手を当て優しく囁く。
「でも、誰にやられたか、誰が敵か、聞いて置かないともしもの時にアレンを守れないよ。」シオンが兄の方を向いてきっぱり言い切った。
「!!」アレンはシオンの言葉を聞いて吃驚して顔を上げた。
(そうだ、もしグラバル達が僕を再び追って来たら、彼等に迷惑が掛る。いや、命を懸けた戦いに巻き込む事になるかも知れない。そうだ、その事をすっかり忘れていた。)アレンは自分の迂闊さに呆然とする。
シオンはそんなアレンをじっと見詰めて、口を開いた。
「アレン、僕達を巻き込むまいと、勝手に出て行ったりしたら承知しないよ。」
「ええっ、そんな水臭いこと考えてるの?アレン。」レオンも慌てて言った。
「・・・僕は・・。僕は・・皆を巻き込みたく・・ない。」アレンは絞り出すように喋った。
ネルやウィル、ベルグやゲイルの顔が浮かぶ。笑ってる顔、苦しんでいる顔、泣いている顔。
「アレン、僕達はもう兄弟だと思ってる。だから、一人で苦しまないで話してみて。」レブランドが優しく諭しながらアレンの背中を擦る。
「そうだよ、僕達は兄弟だ。話してごらんよ、君が苦しいと僕達も苦しい。」シオンがアレンの両手をしっかりと握りしめた。
「大丈夫だよ、アレン。」レオンも近寄って来て心配そうにアレンを覗き込む。
アレンは兄弟達の暖かさに、いつの間にか失涙していた。
そうして、時間を掛けてぽつり、ぽつりとフォートランドで起きたあの日の事を漸く話す事が出来た。
その間にもクッキーは今までの分とばかりにアレンの傍らで色んな食べ物を次から次へとお腹に収めていた。
レオンに早速”食欲魔獣”降臨だと、ありがたくない渾名を授かった。
+++++++
第四十八話・べリング家の再興②メイナム伯爵との再会
「逃がすな」レブランドが叫ぶ。逃がすと又,体制を整えて襲って来るのは明白だ。だが、こちら側も皆、傷を負い疲弊している。
「アレン、なんとかならない。」シオンが振り返って懇願する。
アレンの腕にいつの間にか赤い炎を纏ったトゥルールが戻り止まっていたが彼自身は燃えていなかった。
「やってみるよ、トゥルール、彼等を燃やさずに発火させる事ができるかな?」
ピルルルルル~~~。トゥルールは一声鳴くと、アレンの元を飛び立ち彼等を追って行く。
トゥルールが彼等に追いつくと低飛行で人の間をジグザグに飛び、近くを飛び抜けられた者達は忽ち青く発火して、悲鳴や喚き声が上がり出す。
『「動くな!」』アレンが叫ぶと、その声は彼等の上を旋回しているトゥルールからも大音声で発せられる。
アレンは吃驚して一旦自分の口を押えたが、これはお爺様の使っていた守護魔法だと思い出しレブランドの方を振り返った。
敵兵達は青い炎に包まれながらアレンの先程の声で動けなくなっていた。
「あ、ありがとう、アレン。あれは燃えたりしないよね・・・」レブランドがアレンに恐る恐るたずねた。
「たぶん・・・今のところは・・・」アレンにも初めてした試みなのであやふやな返事しか返せない。
「よ、よし、僕の話す事をトゥルールに伝えて、彼等に言い聞かせてくれる?」
「うん、やってみるよ。」
結局、騎士一人と兵士三人ほどを解放した。(解放した兵士がそのまま逃亡しない様に、人質として拘束している中に親、兄弟のいる者を選んだ。)
ジェイコブス男爵と残りの兵士は人質として拘束し賠償金と身代金と交換することになり、又、男爵の命を助けるのと交換に、今後二度とラベントリー領に侵入しないとの念書も取った。
しかし、賠償金は払ったが、男爵側が自分以外の身代金を払うのを渋った為にそれを知った兵士達の反乱が起こり、それに乗じて今まで男爵の圧政に耐えて来た農民や、無理やり侵略されミンクス領に吸収されていた(元、ラベントリー領)の農民達も立ち上がり大反乱が起こってお城は焼き討ちに遭いジェイコブス家は壊滅した。
そして、それぞれの代表がべリング家に来て、ミンクス領を吸収して欲しいとの嘆願がなされた。
思いもよらない事だったが、それは嬉しい誤算だった。
彼等は夜空に浮かんだジェイコブスの大蝙蝠が赤く燃え落ち、それを成し遂げた赤い火の鳥の活躍を誰もが目にしていたからだ。
強い領主ほど歓迎される、ましてやべリング家は農民達に寄り添う善政を敷いていたのだから当然の事と言える。
暫くの間、レブランドとシオンは非常に忙しい毎日を送っていた。
幸いにも、グレイスリー領、フォード領は共に、協力を申し出てくれて(難民が押し寄せては困る為もある)、同盟も結ぶ事ができた。
アレンはレオンとルイの看病に勤しんだ。
レオンは頭の怪我の他、肋骨が一本と左の足の骨が折れていたが治りは順調で再び、走ったりすることができるようになりそうだ。
「あ~あ、僕もトゥルールがあの大蝙蝠をやっつける様を見たかったな~。」最近元気になって来たレオンは事あるごとにシオン達にあの日の事を聞きたがった。
アレンの話は呆気ないほどで聞いても全然面白くなかったが、シオンは身ぶり手ぶりを交えて面白可笑しく話してくれる。
アレンは大げさだと照れるがほぼ本当のことだと、シオンは強調する。
今のところ、アレンの出自を三人は詳しく聞いていない、ラベントリーに来た時には確かに紋章はなかったが、今ははっきりと彼の胸に刻まれている。
アレンも詳しく話そうとしないし、いつまでもここに居て欲しいと願っているので誰も触れずにそのまま日々過ごしている。
漸く、レオンの足の添え木が外され歩けるようになり今日は公務を休んで歩く練習も兼ね、お城近くの野原に四人でやって来た。
直ぐ近くに小川も流れていて草の絨毯と風が気持ちよく通り過ぎる場所だった。少し遠くに放牧されている羊たちも見える。
厚手の布を敷き、村の婦人達が持たせてくれたお昼ご飯を色々と並べる。
「美味しそうだな~、凄い御馳走だ。」レオンが思わず呟いた。今やべリング家の食料事情は格段に良くなっている。
農民達の差し入れも後を絶たない上(今回は盗賊団に収穫を取られなかったし、豊作だった)、城の台所にもお手伝いが何人か入って来ている。
「フフフ、トゥルール様様だね。」シオンも同調するように言った。
「御馳走とトゥルールは関係ないよ。」アレンが慌てて否定する。
「いやいや、トゥルールとアレンのお陰だよ。」レブランドも便乗して来る。が、その顔は真剣だった。
「ちゃんと、お礼を言ってない気がする。改めて、有難うアレン。心から感謝するよ。」レブランドが重ねて令を言った。
「そんな、皆で頑張ったからじゃないか。レオンやルイは大怪我迄したんだから。」
「そうだね、勿論、みんなで頑張った。でも、アレン達がいなかったら僕達はやられていたよ。だから、僕からもお礼が言いたい有難う、アレン。ほんとうに感謝してる。」シオンも真剣に言って来た。
「でも、三人が最初に僕を助けてくれたんだよ。三人が助けてくれなかったら僕こそここにいない。」アレンも真剣に返した。
「あ~あ、堂々巡りだね、結局イーブンって事で食べようよ、お腹減った~。」レオンが茶々を入れ笑いを誘った。
「じゃ、早速食べようかっ、わ~!!」行き成り、ルイとエルが敷物の上につっ込んで来た。
「やめろ、ルイ、エル。シオン、レオン二匹を捕まえるんだ。」レブランドが叫ぶ。
ルイとエルは何かを追い回している。
「岩ウサギかな?」「いや、ねずみ?」「ちがう、りすだ!」「クッキー!」
クッキーはアレンの腕の中に飛び込んで来た。
「「「クッキー?」」」
何処かで見た光景だと思いながらも、嬉しさが込み上げて来たアレンはルイとエルから立ち上がってクッキーを守る為に高く差し上げる。
すると、パタパタとクッキーが小さい羽を動かして浮かび上がった。その前足には好物のサンドパンがしっかり握られている。
「クッキー、羽が生えたの?」アレンが吃驚して呼び掛けると、クッキーは自慢げに羽をパタパタしながらクルクルと回って見せてアレンの頭の上に乗っかった。
思わず三兄弟は立ち上がってアレンの頭の上の不思議な生き物をしげしげと凝視する。
「なんだ、これ?全然りすっぽくない。何処がりすだよ、兄上。」
「自分だって最初はねずみと言ったじゃないか、レオン。」
「まあ、まあ、でもほんと不思議な生き物だ、小さいけど角も生えてるし、尻尾も三叉だし」シオンが呟く。
「おまけに、羽まで生えてる。」レオンが後を引き取って呟いた。
三兄弟は仲良くアレンの頭の上でクッキーについて議論を始める。
「レブランド、シオン、レオン~~、エルとルイを何とかして~。」アレンは今にも跳びかかりそうな豹達を見て頼んだ。
「ごめん、ごめん。エルっ、戻れ。」
「ルイ!来い。」それぞれが召還して、自分の中に呼び戻した。
四人はゆっくり座り直しお昼を食べながら再びクッキーについて話しだす。
「それは魔獣だよね、アレン。」シオンがクッキーを指さし糾弾するように言った。
「アレンって、ほんと秘密が多いな。」レオンも容赦ない。
「別に、秘密にしていた訳じゃなくて、ここに来る前から元気が無くなってほとんど外に出なくなったんだ。」
「外に出ないって、召喚しても出て来なくなったの?」
「違うよ、シオン。クッキーは召喚した事が無くて自分で勝手に出て来たり、消えたりするんだ。」
「ええっ、そんな魔獣聞いたことが無いよ。」シオンが驚いて言う。
「さっき、羽が生えたと言ってたけど、もしかして変態の準備期に入っていたんじゃないかな。」レブランドがクッキーの羽を指して言った。
「なるほど、準備期に入ると元気が無いように見えると聞いたことがあるよ。」シオンがレブランドの言葉にフンフンと頷く。
「そうだね、実際に元気がなくなる訳でもなく、まあ、休眠状態(冬眠のような状態)になるらしいよ。」レブランドがアレンを振り返って教えてくれる。
「そうなんだ、知らなかった。」アレンは呟き、改めて食欲旺盛なクッキーを見た。
「ねえ、どうして始めはアレンの胸に紋章は無かったの?それも出したり、消したりできる訳?」レオンが再び突っ込んで来る。
「ううん、紋章は僕の力と関係無いと思う。トゥルールが目の前で刺されて燃え尽きて死んだと思ったんだ。それで、助けて貰った時に紋章が消えてたから、魔獣が死んだら紋章が消えると思ってた。」
「なるほど、もしかしてトゥルールが大怪我をして召喚の紋章を維持する魔力が残っていなかったのかも知れないね。」レブランドが優しく話す。
「ねえ、トゥルールが刺された事と、アレンが矢で傷を負ってここに流されて来た事と関係があるんじゃない?」シオンが真剣にアレンに問い掛けた。
「・・・・・。」アレンはなんて話せばいいか、言葉が出て来なかった。それはまだ、胸の大きなしこりとなって居座っている。
「無理に話さなくていいよ。」レブランドがアレンの背中に手を当て優しく囁く。
「でも、誰にやられたか、誰が敵か、聞いて置かないともしもの時にアレンを守れないよ。」シオンが兄の方を向いてきっぱり言い切った。
「!!」アレンはシオンの言葉を聞いて吃驚して顔を上げた。
(そうだ、もしグラバル達が僕を再び追って来たら、彼等に迷惑が掛る。いや、命を懸けた戦いに巻き込む事になるかも知れない。そうだ、その事をすっかり忘れていた。)アレンは自分の迂闊さに呆然とする。
シオンはそんなアレンをじっと見詰めて、口を開いた。
「アレン、僕達を巻き込むまいと、勝手に出て行ったりしたら承知しないよ。」
「ええっ、そんな水臭いこと考えてるの?アレン。」レオンも慌てて言った。
「・・・僕は・・。僕は・・皆を巻き込みたく・・ない。」アレンは絞り出すように喋った。
ネルやウィル、ベルグやゲイルの顔が浮かぶ。笑ってる顔、苦しんでいる顔、泣いている顔。
「アレン、僕達はもう兄弟だと思ってる。だから、一人で苦しまないで話してみて。」レブランドが優しく諭しながらアレンの背中を擦る。
「そうだよ、僕達は兄弟だ。話してごらんよ、君が苦しいと僕達も苦しい。」シオンがアレンの両手をしっかりと握りしめた。
「大丈夫だよ、アレン。」レオンも近寄って来て心配そうにアレンを覗き込む。
アレンは兄弟達の暖かさに、いつの間にか失涙していた。
そうして、時間を掛けてぽつり、ぽつりとフォートランドで起きたあの日の事を漸く話す事が出来た。
その間にもクッキーは今までの分とばかりにアレンの傍らで色んな食べ物を次から次へとお腹に収めていた。
レオンに早速”食欲魔獣”降臨だと、ありがたくない渾名を授かった。
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