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第四章
第四十六話・蝙蝠男爵ジェイコブスの来襲②波の息子、水の馬、火の鳥
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アレンは草藪の中でじっと待っていた。やがて、中天にあった月が西の空に下りて来た。
向こう岸から人の声と馬の嘶きが聞こえて来る。
(いよいよだ。)アレンはそっと両手を川に差し入れると、分かってるよと言う風にそっと手に触れて来たので草藪の奥の土手に後退し向こう岸に目をやる。
やがて盗賊団が現れると三々五々と川を渡り始めた。先頭が川の真ん中を過ぎた時、川の上流から水が凄い勢いで押し寄せる。
ディラン達、波の息子がそれぞれに水の馬を駆りたてて大波でやって来るとあっという間に盗賊達を飲み込み巻き込みながら下流へと押し流していった。
アレンはその様子をしばし呆然と土手から見ていた。その余りにも大きすぎる力を・・・。
暫くすると、ディランがリュゲルに乗り戻って来てアレンに手を上げて合図すると、そのまま波を蹴立てて上流へと駆けて登って行った。
アレンは呪縛から解けたように土手から立ち上がると、急いで村を目指して走った。
村の近くまで戻って来ると兵士の怒鳴り声や村人の悲鳴が聞こえて来た、どうやら村の人達は避難せずに戦う事を選んだようである。
村の喧騒に飛び込んだアレンは目の前に広がる光景に慌てて、レブランド達を探した。
兵士達は馬や槍で村人を追い回し一か所に集めようとしている最中で、逃げ遅れた村人は畑や家の周りをぐるぐると捉まらないように抵抗しながら駆け廻っている。
レブランド達は村の真ん中の空き地まで後退し、その背に村人を守り戦っていた。
アレンは兵士に見付からないように、物影に隠れながらレブランド達に合流する。
シオンがアレンを見つけて抱きついた。
「ああ、アレン~、無事だったんだね。・・あまりにも遅いから・・もう、もう駄目かと・・・。」
後はくぐもってよく聞き取れなかったが、シオンはアレンの身体に顔を押し付けて泣き声を殺しているようだった。
エルも嬉しそうにアレンに身体を擦り付けて来る。
「ごめん、ごめんねシオン、心配掛けて。僕はこの通り、傷一つ負ってないよ。」アレンは背伸びしてシオンの背中を擦った。
「そうだ、シオン。レブランドに知らせないと、盗賊団はもうここにはやって来ないと。」
「えっ、うそ!・・盗賊団がやって来ないって、アレンの思い付きで追い払えたの?」シオンは顔を上げて赤く充血した眼を見開いた。
「いや、僕の思い付きと言うより偶然上流から凄い大波が押し寄せて盗賊達を全員、下流へ押し流して行ったんだ。だから、当分は戻って来れないと思う。・・・もしかしたら・・永遠に。」
「・・・大波って、海でもないし、雨すら一滴も降ってないのに?永遠に?死んだって事か?」シオンは信じられないと言う風にアレンを凝視した。
アレンはアレンであの光景を思い出し、ぶるっと体を震わせる。まさか、あんな風になるとは思わなかった。
ちょちょいと水が増えるかどうにかして、足元を掬い川を渡らせないようにして貰うつもりだったのだ。
あの大波に巻き込まれて助かる者がいるとはとても思えなかった。
その時だ、レブランド達の目前の広場を挟んだ向こう側に甲冑に身を包み軍馬に跨った小男が両脇に騎士を従えて乗り入れて来た。ご大層に幟を持つ旗手まで侍らしている。その後ろには兵士が手に手に槍を持ち十人ほどが控えていた。その又、後ろにも農民兵士が三十人ほどがばらばらと続いている。
側の騎士が大声で呼ばわった。「双方ともー、一旦剣を引けーい!!」
村中で暴れていた兵士が、その声を機に甲冑の小男の元にぞくぞくと集まって来る。その数三十人ほどか。
レブランド達と戦っていた兵士達十人も、もちろん剣を引き、向こう側へと退いた。
「ここにおわすはジェイコブス男爵閣下であらせられる。」騎士が手を指し開き甲冑の小男を指し示す。
男爵は甲冑の面甲を重々しく跳ね上げ、騎乗のまま一歩前に出た。
「そこな金髪はべリング家の遺児と見える。今宵は盗賊団がこちらを襲撃すると聞き及び、勇んで助けに参った。」
白々しくもそう言い募り、こちらを蹂躙するつもりだったのだろうが、頼みの盗賊団が現れず痺れを切らせて戦いを仕掛けて来た訳だ。
レブランドも一歩前に出て負けじと声を張り上げた。
「白々しい!どこに盗賊がいる。ここにいるのは皆罪無き村人ばかりだ。」
「いやいや、これはとんだ手違いだ。だが、盗賊団は必ず現れると情報が入った。盗賊団は三十人は下らない。速やかに兵を引かれよ、後はこちらで守って遣わす。」
「いや、盗賊達はここへは来ないぞ。盗賊団は壊滅した!二度と、ここへは戻って来ない!」シオンがレブランドの横に並び出て大声で叫んだ。
「・・・なんと、嘘じゃ、嘘の決まっておる。」小男も負けじと叫びかえす。
「では、なぜ未だに現れない?ここに居ないのが何よりの証拠だっ!!」
シオンの横で事情の知らないレブランドが目を剥いて彼を見ている。
「どう言う事だ、シオン」小さな声でレブランドが問い質した。すると、シオンはアレンの方を指さして「彼が大波を起こして彼等を壊滅させたんだ。」と、しらっと言うとアレンに向かって舌を出した。
アレンは慌ててレブランドに掛け寄り、違う、違うと訂正した。
「何が違う?盗賊団が壊滅したのが違うのか」「ううん、盗賊団は壊滅したよ、僕は全部見ていた。僕は何もしていない。」
「何もしていないのに壊滅したのか?」レブランドは混乱している。
「おい、何をごちゃごちゃ言っている。盗賊団が壊滅した証拠を出せ。」男爵が怒鳴りつけた。
「なぜ僕達が証拠を出さないといけない。そんなに証拠が欲しいなら、下流に行って死体でも探すんだな。」
シオンはあくまでも強気だ。
「うぬぬ、仕方有るまい。おい、人質を連れて来い。」男爵が後ろに向かって顎をしゃくると、四人の男達が荷物でも掘り出すように、縛られたレオンとルイを投げ落す。
彼等は傷付き血を流して気を失っているようだ。
「レオン!!」シオンが飛び出そうとしたのをレブランドと兵士の一人が慌てて止める。
「ジェイコブス!!これはどう言う事だ。」レブランドは怒りを押えて叫んだ。
「皆、武器を捨てて大人しく村から出て行け、そうすれば命は助けてやろう。」
「馬鹿な、村を捨てて皆にどこへ行けと言うんだ!!」
「そうだ、そうだ、村を捨てる事は俺達に死ねと言ってるような物だ。」村人達も怒って口々に叫ぶ。
「フン、愚かな、せっかく命は助けてやろうと言ってるのに・・」男爵は更に後ろに合図すると、先に攫われた女、子供が縛られたまま前に突き出される。
「ヤン!!」
「モナ!!」
「父ちゃん!!」
「母ちゃん!!」村人達はそれぞれが名前を呼び合い、助けを求めてとうとう幼い子供達は泣き出した。
「さあ、どうする?武器を捨てるか?」男爵が再度詰め寄る。
「うぬぬ、・・・「」レブランドは悔しさに歯ぎしりをした。
「駄目だ、絶対に武器を捨ててはいけない!」アレンは叫んだ。
「アレン、どうして?レオン達や皆を助けないと・・・」シオンは吃驚してアレンを振り返った。
「武器を手放したら終わりだ。・・・彼らをぼくも助けたい。でも、いま武器を捨てたら皆殺しに合ってしまう。」
それは、あの日の状況とまったく同じだった、武器を捨てたにも関わらず全員殺されたあのフォートランドの放牧場の時と。
「じゃあ・・・どうする・・」レブランドもアレンの決死の表情に押されて、問い掛けた。
「エルとエゴラを一緒にだして人質を奪い返すんだ。彼等が飛び込んで行けば混乱するからその隙に奪い返す。後、二匹が馬に飛び掛れば馬は驚いて逃げたすよ。それと、ハッカ爆弾も馬は鼻がいいから混乱するかも。」
アレンの言う事を回りの兵士や村人までもが真剣に聞き入った。
それは破れかぶれの作戦だが、武器を捨てて全員が嬲り殺しに合うよりはましだった。
それぞれが事前に用意していたハッカ入りの小袋を手に手に手繰り寄せる。
「おい!どうするっ、さっさと武器を捨てろ!!」焦れて男爵が前に進み出ると、その馬の鼻面目掛けて兵士の一人がハッカ爆弾を投げつけた。
それを合図にみんなが走りだし、それぞれ馬の鼻や顔を狙って投げつける。
男爵を始め、兵士の幾人もが吃驚した馬から振り落とされ、残った兵士の馬も棹立ちになり大混乱に落ち入った。
そこに二頭の豹が唸りながら飛び込んで行った為に農民兵は我先に逃げ出し、残った兵士も馬に踏み潰されまいとその場からばらばらと一旦遠ざかる。
騎士達は甲冑を着た男爵を助け起こすだけで精一杯になった。
その隙に何とか人質達を助け出す事ができた。
だが、レオンは頭に傷があり、ぴくりとも動かなかった。ルイも同様で腹に刺し傷と背中に太刀傷があって碌な手当ても受けれずに血が流れ出ていて重症だ。
「・・・どうして、こんな酷い事が出来るんだ。」シオンが呟いた。
アレンも怒りに身体が熱くなる。
「くそ、くそっ。不意を突くとは卑怯な、もうようしゃせん。」なんとか立ち上がった男爵が叫んだ。
「出て来い、わしのかわいい蝙蝠たちよ。」男爵の身体から一斉に何千匹と言う蝙蝠が飛び出す。
「あいつらをやっつけろー!!」男爵の命令で蝙蝠達が村人やシオンやレブランドに襲い掛る、彼等は小さいが顔や服からむき出しなっている手や足、目を狙って引っ掻いたり咬み付いたりして来る。
払っても払っても襲い掛られみんなは最早パニックだ。
「残りのハッカ爆弾を投げるんだ!」アレンはなんとか叫んだ。
村人達も我に返り、ハッカの袋を振り廻して追い払い出す。
忽ち蝙蝠たちは臭いを嫌がり空へと逃げ出した。
「うぬぬ~。もう許さん、一気に蹴散らしてくれる。お前達、やれーー。」持ち直していた兵士達が一斉に襲い掛って来た。
レブランドや村人達も傷付き血を流しながらも立ち向かって行き、大混戦になった。
だが、相手は剣や槍を持った兵士達でその戦いは一方的のように見えた。
アレンは動かないレオンを任されていたがその光景に胸がざわざわして身体が再び熱くなって来た。
「アレン!!召喚陣が・・」シオンが立ち上がったアレンに気付き振り返ると叫んだ。
アレンも自分の足元を見ると、そこに青く光る召喚陣が現れていた、胸がざわめく(トゥルール?)
その瞬間にアレンの身体から青い炎が迸った。
「トゥルール!来いっ!」
アレンの胸から勢いよく赤い鳥が飛び出すと差し出した腕に止る。
「ああ、トゥルール生きていたんだね。てっきり死んだと思っていたよ。」
トゥルールはピルルルルと可愛く鳴いた。トゥルールは一回り大きく成長し頭には冠のような飾り羽と長く美しい尾羽が具わっている。
「まずは相手の武器を焼き払おう。」アレンは戦っている敵に指先を向け念じると、次々に剣や槍が発火していき相手側は驚いて忽ち武器を捨てた。
「なんだ、どういうことだ。」男爵達は驚き、そこにトゥルールを腕に止らせたアレンを見つける。
「お前はいったい何者だ、いいや、今やそんな事はどうでもいい、あいつをやっつけるんだ蝙蝠たちよ。」
男爵が指さすと蝙蝠たちがアレンに近付くが忽ちトゥルールに追い払われ空に舞い上がる。
蝙蝠とトゥルールの空中戦になるが素早いトゥルールになす術が無い。
「くっ、ちょこまかと。お前達、一つになってそんなチビ飲み込んで喰ってしまえ。」男爵が叫ぶと、トゥルールの周りに蝙蝠達が押し寄せると忽ちその姿はかき消され飲み込まれてしまった。
「トゥルール!」アレンは空を見上げて叫ぶしかできなかった。今や敵も味方も空を見上げてその戦いを見守った。
それが今回の最後の戦いになるのだ。
蝙蝠達は中心に向かって更に密集し蠢いている。「ハッハッハッハ。わしの勝ちだな。」男爵が勝利宣言すると、蝙蝠の真ん中辺りが急に赤くなったと思ったら、見る間に赤く燃え広がった。
「ああ~~、わしの蝙蝠達が、・・・」
今や夜空を赤く照らしながら赤く染まった大きな塊が火を吹いて煙を上げ逃げ惑うがその火を消す事はできない。
その中心から赤い炎を纏った鳥が飛び出した。
長い美しい尾羽が火の粉を撒き散らしながら何度も赤い塊にぶつかって行き、その塊を焼き散らす。
とうとう、赤い火を纏った蝙蝠達はちりじりに焼かれながら男爵達の上に落ちて来た。
「うわ、あちち。」「逃げろ。撤退だ。」兵士や騎士が口々に叫ぶ。
「駄目だ、戦え、逃げるなー。」
男爵は叫んだが武器も無い兵士達は止まらない。
それを尻目にトゥルールは赤い炎を纏いながら戦いの勝利宣言のように悠然と夜空を旋回していた。
++++++++
第四十七話・べリング家の再興①食欲魔獣降臨
向こう岸から人の声と馬の嘶きが聞こえて来る。
(いよいよだ。)アレンはそっと両手を川に差し入れると、分かってるよと言う風にそっと手に触れて来たので草藪の奥の土手に後退し向こう岸に目をやる。
やがて盗賊団が現れると三々五々と川を渡り始めた。先頭が川の真ん中を過ぎた時、川の上流から水が凄い勢いで押し寄せる。
ディラン達、波の息子がそれぞれに水の馬を駆りたてて大波でやって来るとあっという間に盗賊達を飲み込み巻き込みながら下流へと押し流していった。
アレンはその様子をしばし呆然と土手から見ていた。その余りにも大きすぎる力を・・・。
暫くすると、ディランがリュゲルに乗り戻って来てアレンに手を上げて合図すると、そのまま波を蹴立てて上流へと駆けて登って行った。
アレンは呪縛から解けたように土手から立ち上がると、急いで村を目指して走った。
村の近くまで戻って来ると兵士の怒鳴り声や村人の悲鳴が聞こえて来た、どうやら村の人達は避難せずに戦う事を選んだようである。
村の喧騒に飛び込んだアレンは目の前に広がる光景に慌てて、レブランド達を探した。
兵士達は馬や槍で村人を追い回し一か所に集めようとしている最中で、逃げ遅れた村人は畑や家の周りをぐるぐると捉まらないように抵抗しながら駆け廻っている。
レブランド達は村の真ん中の空き地まで後退し、その背に村人を守り戦っていた。
アレンは兵士に見付からないように、物影に隠れながらレブランド達に合流する。
シオンがアレンを見つけて抱きついた。
「ああ、アレン~、無事だったんだね。・・あまりにも遅いから・・もう、もう駄目かと・・・。」
後はくぐもってよく聞き取れなかったが、シオンはアレンの身体に顔を押し付けて泣き声を殺しているようだった。
エルも嬉しそうにアレンに身体を擦り付けて来る。
「ごめん、ごめんねシオン、心配掛けて。僕はこの通り、傷一つ負ってないよ。」アレンは背伸びしてシオンの背中を擦った。
「そうだ、シオン。レブランドに知らせないと、盗賊団はもうここにはやって来ないと。」
「えっ、うそ!・・盗賊団がやって来ないって、アレンの思い付きで追い払えたの?」シオンは顔を上げて赤く充血した眼を見開いた。
「いや、僕の思い付きと言うより偶然上流から凄い大波が押し寄せて盗賊達を全員、下流へ押し流して行ったんだ。だから、当分は戻って来れないと思う。・・・もしかしたら・・永遠に。」
「・・・大波って、海でもないし、雨すら一滴も降ってないのに?永遠に?死んだって事か?」シオンは信じられないと言う風にアレンを凝視した。
アレンはアレンであの光景を思い出し、ぶるっと体を震わせる。まさか、あんな風になるとは思わなかった。
ちょちょいと水が増えるかどうにかして、足元を掬い川を渡らせないようにして貰うつもりだったのだ。
あの大波に巻き込まれて助かる者がいるとはとても思えなかった。
その時だ、レブランド達の目前の広場を挟んだ向こう側に甲冑に身を包み軍馬に跨った小男が両脇に騎士を従えて乗り入れて来た。ご大層に幟を持つ旗手まで侍らしている。その後ろには兵士が手に手に槍を持ち十人ほどが控えていた。その又、後ろにも農民兵士が三十人ほどがばらばらと続いている。
側の騎士が大声で呼ばわった。「双方ともー、一旦剣を引けーい!!」
村中で暴れていた兵士が、その声を機に甲冑の小男の元にぞくぞくと集まって来る。その数三十人ほどか。
レブランド達と戦っていた兵士達十人も、もちろん剣を引き、向こう側へと退いた。
「ここにおわすはジェイコブス男爵閣下であらせられる。」騎士が手を指し開き甲冑の小男を指し示す。
男爵は甲冑の面甲を重々しく跳ね上げ、騎乗のまま一歩前に出た。
「そこな金髪はべリング家の遺児と見える。今宵は盗賊団がこちらを襲撃すると聞き及び、勇んで助けに参った。」
白々しくもそう言い募り、こちらを蹂躙するつもりだったのだろうが、頼みの盗賊団が現れず痺れを切らせて戦いを仕掛けて来た訳だ。
レブランドも一歩前に出て負けじと声を張り上げた。
「白々しい!どこに盗賊がいる。ここにいるのは皆罪無き村人ばかりだ。」
「いやいや、これはとんだ手違いだ。だが、盗賊団は必ず現れると情報が入った。盗賊団は三十人は下らない。速やかに兵を引かれよ、後はこちらで守って遣わす。」
「いや、盗賊達はここへは来ないぞ。盗賊団は壊滅した!二度と、ここへは戻って来ない!」シオンがレブランドの横に並び出て大声で叫んだ。
「・・・なんと、嘘じゃ、嘘の決まっておる。」小男も負けじと叫びかえす。
「では、なぜ未だに現れない?ここに居ないのが何よりの証拠だっ!!」
シオンの横で事情の知らないレブランドが目を剥いて彼を見ている。
「どう言う事だ、シオン」小さな声でレブランドが問い質した。すると、シオンはアレンの方を指さして「彼が大波を起こして彼等を壊滅させたんだ。」と、しらっと言うとアレンに向かって舌を出した。
アレンは慌ててレブランドに掛け寄り、違う、違うと訂正した。
「何が違う?盗賊団が壊滅したのが違うのか」「ううん、盗賊団は壊滅したよ、僕は全部見ていた。僕は何もしていない。」
「何もしていないのに壊滅したのか?」レブランドは混乱している。
「おい、何をごちゃごちゃ言っている。盗賊団が壊滅した証拠を出せ。」男爵が怒鳴りつけた。
「なぜ僕達が証拠を出さないといけない。そんなに証拠が欲しいなら、下流に行って死体でも探すんだな。」
シオンはあくまでも強気だ。
「うぬぬ、仕方有るまい。おい、人質を連れて来い。」男爵が後ろに向かって顎をしゃくると、四人の男達が荷物でも掘り出すように、縛られたレオンとルイを投げ落す。
彼等は傷付き血を流して気を失っているようだ。
「レオン!!」シオンが飛び出そうとしたのをレブランドと兵士の一人が慌てて止める。
「ジェイコブス!!これはどう言う事だ。」レブランドは怒りを押えて叫んだ。
「皆、武器を捨てて大人しく村から出て行け、そうすれば命は助けてやろう。」
「馬鹿な、村を捨てて皆にどこへ行けと言うんだ!!」
「そうだ、そうだ、村を捨てる事は俺達に死ねと言ってるような物だ。」村人達も怒って口々に叫ぶ。
「フン、愚かな、せっかく命は助けてやろうと言ってるのに・・」男爵は更に後ろに合図すると、先に攫われた女、子供が縛られたまま前に突き出される。
「ヤン!!」
「モナ!!」
「父ちゃん!!」
「母ちゃん!!」村人達はそれぞれが名前を呼び合い、助けを求めてとうとう幼い子供達は泣き出した。
「さあ、どうする?武器を捨てるか?」男爵が再度詰め寄る。
「うぬぬ、・・・「」レブランドは悔しさに歯ぎしりをした。
「駄目だ、絶対に武器を捨ててはいけない!」アレンは叫んだ。
「アレン、どうして?レオン達や皆を助けないと・・・」シオンは吃驚してアレンを振り返った。
「武器を手放したら終わりだ。・・・彼らをぼくも助けたい。でも、いま武器を捨てたら皆殺しに合ってしまう。」
それは、あの日の状況とまったく同じだった、武器を捨てたにも関わらず全員殺されたあのフォートランドの放牧場の時と。
「じゃあ・・・どうする・・」レブランドもアレンの決死の表情に押されて、問い掛けた。
「エルとエゴラを一緒にだして人質を奪い返すんだ。彼等が飛び込んで行けば混乱するからその隙に奪い返す。後、二匹が馬に飛び掛れば馬は驚いて逃げたすよ。それと、ハッカ爆弾も馬は鼻がいいから混乱するかも。」
アレンの言う事を回りの兵士や村人までもが真剣に聞き入った。
それは破れかぶれの作戦だが、武器を捨てて全員が嬲り殺しに合うよりはましだった。
それぞれが事前に用意していたハッカ入りの小袋を手に手に手繰り寄せる。
「おい!どうするっ、さっさと武器を捨てろ!!」焦れて男爵が前に進み出ると、その馬の鼻面目掛けて兵士の一人がハッカ爆弾を投げつけた。
それを合図にみんなが走りだし、それぞれ馬の鼻や顔を狙って投げつける。
男爵を始め、兵士の幾人もが吃驚した馬から振り落とされ、残った兵士の馬も棹立ちになり大混乱に落ち入った。
そこに二頭の豹が唸りながら飛び込んで行った為に農民兵は我先に逃げ出し、残った兵士も馬に踏み潰されまいとその場からばらばらと一旦遠ざかる。
騎士達は甲冑を着た男爵を助け起こすだけで精一杯になった。
その隙に何とか人質達を助け出す事ができた。
だが、レオンは頭に傷があり、ぴくりとも動かなかった。ルイも同様で腹に刺し傷と背中に太刀傷があって碌な手当ても受けれずに血が流れ出ていて重症だ。
「・・・どうして、こんな酷い事が出来るんだ。」シオンが呟いた。
アレンも怒りに身体が熱くなる。
「くそ、くそっ。不意を突くとは卑怯な、もうようしゃせん。」なんとか立ち上がった男爵が叫んだ。
「出て来い、わしのかわいい蝙蝠たちよ。」男爵の身体から一斉に何千匹と言う蝙蝠が飛び出す。
「あいつらをやっつけろー!!」男爵の命令で蝙蝠達が村人やシオンやレブランドに襲い掛る、彼等は小さいが顔や服からむき出しなっている手や足、目を狙って引っ掻いたり咬み付いたりして来る。
払っても払っても襲い掛られみんなは最早パニックだ。
「残りのハッカ爆弾を投げるんだ!」アレンはなんとか叫んだ。
村人達も我に返り、ハッカの袋を振り廻して追い払い出す。
忽ち蝙蝠たちは臭いを嫌がり空へと逃げ出した。
「うぬぬ~。もう許さん、一気に蹴散らしてくれる。お前達、やれーー。」持ち直していた兵士達が一斉に襲い掛って来た。
レブランドや村人達も傷付き血を流しながらも立ち向かって行き、大混戦になった。
だが、相手は剣や槍を持った兵士達でその戦いは一方的のように見えた。
アレンは動かないレオンを任されていたがその光景に胸がざわざわして身体が再び熱くなって来た。
「アレン!!召喚陣が・・」シオンが立ち上がったアレンに気付き振り返ると叫んだ。
アレンも自分の足元を見ると、そこに青く光る召喚陣が現れていた、胸がざわめく(トゥルール?)
その瞬間にアレンの身体から青い炎が迸った。
「トゥルール!来いっ!」
アレンの胸から勢いよく赤い鳥が飛び出すと差し出した腕に止る。
「ああ、トゥルール生きていたんだね。てっきり死んだと思っていたよ。」
トゥルールはピルルルルと可愛く鳴いた。トゥルールは一回り大きく成長し頭には冠のような飾り羽と長く美しい尾羽が具わっている。
「まずは相手の武器を焼き払おう。」アレンは戦っている敵に指先を向け念じると、次々に剣や槍が発火していき相手側は驚いて忽ち武器を捨てた。
「なんだ、どういうことだ。」男爵達は驚き、そこにトゥルールを腕に止らせたアレンを見つける。
「お前はいったい何者だ、いいや、今やそんな事はどうでもいい、あいつをやっつけるんだ蝙蝠たちよ。」
男爵が指さすと蝙蝠たちがアレンに近付くが忽ちトゥルールに追い払われ空に舞い上がる。
蝙蝠とトゥルールの空中戦になるが素早いトゥルールになす術が無い。
「くっ、ちょこまかと。お前達、一つになってそんなチビ飲み込んで喰ってしまえ。」男爵が叫ぶと、トゥルールの周りに蝙蝠達が押し寄せると忽ちその姿はかき消され飲み込まれてしまった。
「トゥルール!」アレンは空を見上げて叫ぶしかできなかった。今や敵も味方も空を見上げてその戦いを見守った。
それが今回の最後の戦いになるのだ。
蝙蝠達は中心に向かって更に密集し蠢いている。「ハッハッハッハ。わしの勝ちだな。」男爵が勝利宣言すると、蝙蝠の真ん中辺りが急に赤くなったと思ったら、見る間に赤く燃え広がった。
「ああ~~、わしの蝙蝠達が、・・・」
今や夜空を赤く照らしながら赤く染まった大きな塊が火を吹いて煙を上げ逃げ惑うがその火を消す事はできない。
その中心から赤い炎を纏った鳥が飛び出した。
長い美しい尾羽が火の粉を撒き散らしながら何度も赤い塊にぶつかって行き、その塊を焼き散らす。
とうとう、赤い火を纏った蝙蝠達はちりじりに焼かれながら男爵達の上に落ちて来た。
「うわ、あちち。」「逃げろ。撤退だ。」兵士や騎士が口々に叫ぶ。
「駄目だ、戦え、逃げるなー。」
男爵は叫んだが武器も無い兵士達は止まらない。
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脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
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チート幼女とSSSランク冒険者
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【更新休止中】
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目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
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突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
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