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第四章
第四十三話・ラベントリー領、べリング男爵家・黒豹の双子
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何か・・が・・・顔を・・・舐めて・・いる・・・
何?・・・クッキー?
酷く・・・身体が・・・重・・・い・・
全身が・・痛いよ・・・やめて・・
さわら・・・ない・・で・・・いたい・・・
な・・に・・
眠くて・・たまら・・ない・・・さむい・・
さむ・・い・・よ・・・
もう・・・ほっといて・・・
この・・まま・・ねむり・・・た・・い・・
゚・*:.。..。.:+・゚゚・*:.。..。.:+・゚
「ねぇ兄様。この子全然目覚めないよ、大丈夫かな?」
「し~、静かにしてあげなさい、レオン。今は眠って身体を回復させているんだよ。」
「そうだよ、身体中の切り傷に胸の矢傷。よっぽど酷い目にあったんだよ可哀想に。」
「そのようだねシオン。さぁ、もう病状も落ち着いたし静かに寝かせてあげよう。」
だれ・・だろ・う・・・聞いた・・こと・・・ない・・こ・・え・・
・・ねむ・・・い・・・
゚・*:.。..。.:+・゚゚・*:.。..。.:+・゚
・・暖・・か・・い・・いや…暑・・つ・・くる・・・しい・・
なに・・この・・感触・・毛・皮・・毛皮?・・毛皮!!
顔を長い舌でべロンと舐め上げられる。
そこでアレンの目はパチリと覚めた。
天使だ、金髪の天使が目の前にいる、なんて綺麗な青い瞳だろう。アレンがまだぼんやりする頭で最初に思ったことだ。
「僕達の事、天使だって・・自分の方こそ天使なのにね。」
「ふふふ、まだ寝ぼけてるんだよ可愛いな。」
あれ?口に出していったっけ?・・・天使が二重にぶれて見える・・まだ夢を見てるのかな・・・
「あれ?また眠っちゃう?」
その時、黒い塊が顔を突き出して再びべロンとアレンの顔を舐め上げた。
(緑の瞳が燃えているみたい、きれいだな・・)思わず手で触って毛皮の感触を確かめながら急速に意識がはっきりしてきた。
「猫?なんて大きい猫だろう。」
「猫じゃないよ、豹だよ。僕の黒豹、ルイだよ。天使くん。」
もう片方の黒豹もアレンの顔に自分の顔を擦り付けて来る。
「二匹もいる・・なんて、きれいでしなやかなんだろう。」
黒い豹は艶々で黒光している、長い尻尾でアレンの腕や身体に纏わせる様はまるで猫のようだ。
おまけに喉をゴロゴロ鳴らして、かわいい丸い耳もぴるぴるさせている。
二匹の向こう側から二人の天使が顔を出した、そっくりな顔。双子だったのか・・・
「こっちの黒豹はエルだよ、僕はシオン。エルは僕の魔獣だよ、ルイはレオンの魔獣。」
「君の名前はなんて言うの?」
「魔獣?守護魔獣?・・・ここは、あなた達は・・貴族なの?」アレンは身体を起こそうとして胸に痛みが走った。
「いっ、痛い!」
「駄目だよ、急に動いちゃ。君の背中から胸に掛けて矢が貫通してたんだよ。」
「すっごく、運が良かったんだよ。心臓も肺も血管も傷つけていなかったんだ、まさに強運の持ち主だとゲルダが言ってた。」
「ゲル・・ダ?」
「森の魔女だよ。」
「レオン!ゲルダが聞いたら怒られるよ。魔女じゃなくて森の薬師だよ。」
「薬師?」
「薬草や呪い、占い、傷の手当て。なんでもこなすよ。」
「ふ~ん。」
「こらっ!お前達、姿が見えないと思ったらまた、入り浸って・・あれ、気が付いてる?」
そこに双子とよく似た青年が入って来た。
青年と言ってもまだ十代の十六才か十七才くらいの若者だ。只、双子に比べると随分と落ち着いて見える。
彼はベットに近寄ると二人と二匹を追い出すしぐさをした。
「目が覚めてたら丁度いい、塗り薬を換えよう。シオンとレオン、両側からそっと身体を起こしてあげてくれるかな。」
ベットは三人と二匹が乗っていてもまだ余裕がある程大きい。
「 いいかい?」二人はアレンの背中に手を回してそっと起こしてくれたのでそんなに痛みは感じなかった。
黒豹の一頭が背中側に回って枕の代わりに支えてくれる。
「ほんとに、君を気に入ってるみたいだな、ルイもエルも。滅多に人に懐かないのに。」青年が感心して言う。
ゆっくりと包帯が解かれ傷のガーゼを外すと胸が露わになり矢傷の赤い陥没以外になんの記しも無く、アレンは自分の白い胸を愕然と眺めている内に改めてあの日の記憶が一挙に押し寄せた。
リュゲルの驚きに見開いた瞳、ネルの苦しそうな笑顔、ウィルの決然とした顔、ベルグの血溜まり、ゲイルの泣き声。
そして、燃え尽きてしまった小さなトゥルール。
みんな無くしてしまった、胸の紋章さえ。
そう思うと涙が溢れ出し嗚咽が慟哭に変わり、自分では抑えきれない悲しみで声を上げて泣き始めた。
真夜中に目が覚めると、アレンの横には双子の天使が、足元には二頭の黒豹が眠っていた。
「目が覚めた?」小さな声で問い掛けられ声のする方に顔を向けると、昼間の青年がベッドの横の椅子から身体を起こしてこちらを見つめている。
「あの・・僕・・」青年はアレンの返事を聞く前に指で唇に押し当てると、そおっとアレンを起こしコップに水を注ぐと口に宛がい飲ませてくれた。
「もう少し飲みたい?」
「いいえ、大丈夫です。有難うございます。あの、僕は・・・」
「泣きながら眠ってしまったよ、疲れただろう?泣くと酷く疲れるからね。でも、泣けるのは元気になれる証拠だ、どんどん泣けばいい。」そう言うと、にっこり寂しげ笑う。
その笑顔にアレンはこの人も最近凄く悲しい事があったんだと分かった。
「さあ、横になりなさい、無理して眠らなくていいから。」彼はアレンに手を貸してそっと横にならせると話掛けてきた。
「少しお喋りしようか、此処がどこか知りたいだろう?」
アレンが頷くと、ゆっくり話しだした。
「僕はレブランド、ここはラベントリー領。でも、とても小さな領だから知らないだろう?君はどこから来たの?」
「・・・ノーランド。」アレンは咄嗟に嘘をついてしまった、もうフォートランドには戻れないと思ったから。
「・・・そう、ここはノーランドから更にずっと南東に下った所だよ。ノーランド、グレイスリー、フォード、ミンクス、そして我がラベントリー領になる。」
「・・・・・」(一体、どうしてそんな遠くまで・・でも、何も覚えていない・・)
「君は川縁に倒れていたのを弟のシオンとレオンが見つけたんだよ。」
「ベイリュート川ですか?」
「いや、ベイリュート川では無いけど、その支流だよ。君はベイリュート川に落ちたの?」
「よく分かりません。崖から落ちるところまでしか覚えていません、どうやってここに流れ着いたのかも分かりません。」
「そうか、そんな状態でよく助かったね。さすが強運の持ち主だ。」
アレンは緩く首を振った、自分が強運の持ち主だなんて有り得ない。自分が強運の持ち主だったら、皆を助けられた筈だと思った。
「あの・・・、伯爵様達はどちらにいらっしゃるのです?」
「ああ、ここは伯爵領では無くて、男爵領なんだ。僕が頭首だよ、レブランド・フォン・べリング。」
「えっ?」
「最近、両親を一度に亡くしてね。だから、まだ申請は済んでないけど一応領主になる。」
「・・・・・。」
「ふふ、僕は十六で弟達は十四だよ、若すぎるだろ。でも、仕方がない僕達しかいないんだ。」
「とても仲の良い兄弟ですね、兄弟がいて羨ましいです。」
「ありがとう。ところで君が助かったと連絡したいんだけど、ご両親はどちらにいらしゃるの?」
「いません、母も父も亡くなりました。・・・家族はいないんです。」
「そうか、それは寂しいね。なら、ここでゆっくり養生するといい、僕達もその方が楽しいからね。」
「ありがとうございます、僕の名前はアレンです、お世話になります。」
「さあ、そろそろ目を瞑りなさい、眠らなくてもいいから身体を休めるんだよ、アレン。」優しく諭されたが眠れる訳がないと思いながらも、いつの間にか眠りの渕に引き込まれていった。
アレンが視線を感じて目を覚ますと、四対の目に見下ろされて吃驚する。
「やっと、目を覚ました気分はどう?傷は痛くない?」
「お腹へったんじゃない?スープあるよ。」
「君は五日間眠っていたからまず、スープからね。」
「そうだ、君の名前は?まだ聞いてなかったよね、僕はレオン。」
レオンの手の下からスルリと抜き出たルイがゴロゴロ喉を鳴らしながらアレンの顔に自分の顔を擦り付けた。
「くすぐったい、でもいい子。」アレンも身体を起こして負けじとルイに顔を擦り付けその首に腕を回してギュッと抱きしめる。
すると、エルも盛大にゴロゴロと喉を鳴らして後ろからアレンの首に顔を寄せてギュウギュウと顔を押し付けて来たので腕を回して抱きよせてやる。
ああ、いいな~。こんな風にモフモフをしっかり抱きしめられるなんて癒される。
「僕も~。」レオンもルイごとアレンを抱きしめた。
「ちょっと、レオン彼は怪我人だよ。・・・・もう、ずるいぞ、えい。」シオンもエルごとアレンを抱きしめる。
ベットの上に大きな団子が出来上がった。
「はあ~、お前達、何やってんの?アレンは怪我をしているんだよ。」レブランドが部屋に入って来るなり嘆いた。
「ずるい、兄上もう名前を知ってるんだ。」レオンが顔を上げて抗議する。
「アレンって言うんだ。よろしくね、シオンだよ。」シオンが手を伸ばしてアレンの頭を優しく掻き混ぜる。
「さあ、どいたどいた。スープが冷めるよ。」レブランドが足付きの膝テーブルを差し出すと、二人は素直にアレンから離れた。
レブランドはアレンの足の上にテーブルを据え、スプーンを渡した。
すると、レオンがスープ皿を覗き込んで「また、ジャガイモのスープか~。たまには他のスープが飲みたいな。」と言った。
「じゃあ、自分の当番の時に好きなスープを作れば。」レブランドが少し怒った風に言う。
「好きなスープって、材料が限られてるよ。人参かキャベツか。」
「もう少ししたら、トウモロコシも収穫できるよ。」シオンが楽しそうに話す。
「シオンはトウモロコシ大大大好きだもんね。僕はトウモロコシにも飽きたよ~。」レオンの愚痴は止まらない。
アレンは吃驚して三人の会話を聞いていた(確か貴族だって言ってたよね。男爵だって・・・。今、自分で作るって言ったよね、どう言う事?)
「フフフ、アレンが吃驚してる。僕達は貴族だけど貧乏でね、この城にはほとんど人が残っていないんだ。皆に暇を出したからね、料理も当番で順番に作るんだよ。」レブランドが説明してくれた。
「城に残ってくれているのは洗濯婆さんのミンナと執事のトーブ、乳母のサリ。サリはもうあんまり目が見えないんだ。後は通いの兵士達が十人たらず。」
シオンも補足した。
「それも、これも、みんなあいつの所為なんだ、父上や母上を殺したのもあいつに決まってる!」レオンは怒りをぶちまけた。
「レオン、そんな事を言っては駄目だ。」レブランドが諭すが「そう、証拠が無いだけ。」シオンが静かだが怒りを含んだ声で付け足す。
「「僕達はあいつを絶ツ対許さない、必ず仇を取ってやる!!」」二人の声は見事に揃っていた。
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第四十四話・ラベントリー領、べリング男爵家の暗雲
何?・・・クッキー?
酷く・・・身体が・・・重・・・い・・
全身が・・痛いよ・・・やめて・・
さわら・・・ない・・で・・・いたい・・・
な・・に・・
眠くて・・たまら・・ない・・・さむい・・
さむ・・い・・よ・・・
もう・・・ほっといて・・・
この・・まま・・ねむり・・・た・・い・・
゚・*:.。..。.:+・゚゚・*:.。..。.:+・゚
「ねぇ兄様。この子全然目覚めないよ、大丈夫かな?」
「し~、静かにしてあげなさい、レオン。今は眠って身体を回復させているんだよ。」
「そうだよ、身体中の切り傷に胸の矢傷。よっぽど酷い目にあったんだよ可哀想に。」
「そのようだねシオン。さぁ、もう病状も落ち着いたし静かに寝かせてあげよう。」
だれ・・だろ・う・・・聞いた・・こと・・・ない・・こ・・え・・
・・ねむ・・・い・・・
゚・*:.。..。.:+・゚゚・*:.。..。.:+・゚
・・暖・・か・・い・・いや…暑・・つ・・くる・・・しい・・
なに・・この・・感触・・毛・皮・・毛皮?・・毛皮!!
顔を長い舌でべロンと舐め上げられる。
そこでアレンの目はパチリと覚めた。
天使だ、金髪の天使が目の前にいる、なんて綺麗な青い瞳だろう。アレンがまだぼんやりする頭で最初に思ったことだ。
「僕達の事、天使だって・・自分の方こそ天使なのにね。」
「ふふふ、まだ寝ぼけてるんだよ可愛いな。」
あれ?口に出していったっけ?・・・天使が二重にぶれて見える・・まだ夢を見てるのかな・・・
「あれ?また眠っちゃう?」
その時、黒い塊が顔を突き出して再びべロンとアレンの顔を舐め上げた。
(緑の瞳が燃えているみたい、きれいだな・・)思わず手で触って毛皮の感触を確かめながら急速に意識がはっきりしてきた。
「猫?なんて大きい猫だろう。」
「猫じゃないよ、豹だよ。僕の黒豹、ルイだよ。天使くん。」
もう片方の黒豹もアレンの顔に自分の顔を擦り付けて来る。
「二匹もいる・・なんて、きれいでしなやかなんだろう。」
黒い豹は艶々で黒光している、長い尻尾でアレンの腕や身体に纏わせる様はまるで猫のようだ。
おまけに喉をゴロゴロ鳴らして、かわいい丸い耳もぴるぴるさせている。
二匹の向こう側から二人の天使が顔を出した、そっくりな顔。双子だったのか・・・
「こっちの黒豹はエルだよ、僕はシオン。エルは僕の魔獣だよ、ルイはレオンの魔獣。」
「君の名前はなんて言うの?」
「魔獣?守護魔獣?・・・ここは、あなた達は・・貴族なの?」アレンは身体を起こそうとして胸に痛みが走った。
「いっ、痛い!」
「駄目だよ、急に動いちゃ。君の背中から胸に掛けて矢が貫通してたんだよ。」
「すっごく、運が良かったんだよ。心臓も肺も血管も傷つけていなかったんだ、まさに強運の持ち主だとゲルダが言ってた。」
「ゲル・・ダ?」
「森の魔女だよ。」
「レオン!ゲルダが聞いたら怒られるよ。魔女じゃなくて森の薬師だよ。」
「薬師?」
「薬草や呪い、占い、傷の手当て。なんでもこなすよ。」
「ふ~ん。」
「こらっ!お前達、姿が見えないと思ったらまた、入り浸って・・あれ、気が付いてる?」
そこに双子とよく似た青年が入って来た。
青年と言ってもまだ十代の十六才か十七才くらいの若者だ。只、双子に比べると随分と落ち着いて見える。
彼はベットに近寄ると二人と二匹を追い出すしぐさをした。
「目が覚めてたら丁度いい、塗り薬を換えよう。シオンとレオン、両側からそっと身体を起こしてあげてくれるかな。」
ベットは三人と二匹が乗っていてもまだ余裕がある程大きい。
「 いいかい?」二人はアレンの背中に手を回してそっと起こしてくれたのでそんなに痛みは感じなかった。
黒豹の一頭が背中側に回って枕の代わりに支えてくれる。
「ほんとに、君を気に入ってるみたいだな、ルイもエルも。滅多に人に懐かないのに。」青年が感心して言う。
ゆっくりと包帯が解かれ傷のガーゼを外すと胸が露わになり矢傷の赤い陥没以外になんの記しも無く、アレンは自分の白い胸を愕然と眺めている内に改めてあの日の記憶が一挙に押し寄せた。
リュゲルの驚きに見開いた瞳、ネルの苦しそうな笑顔、ウィルの決然とした顔、ベルグの血溜まり、ゲイルの泣き声。
そして、燃え尽きてしまった小さなトゥルール。
みんな無くしてしまった、胸の紋章さえ。
そう思うと涙が溢れ出し嗚咽が慟哭に変わり、自分では抑えきれない悲しみで声を上げて泣き始めた。
真夜中に目が覚めると、アレンの横には双子の天使が、足元には二頭の黒豹が眠っていた。
「目が覚めた?」小さな声で問い掛けられ声のする方に顔を向けると、昼間の青年がベッドの横の椅子から身体を起こしてこちらを見つめている。
「あの・・僕・・」青年はアレンの返事を聞く前に指で唇に押し当てると、そおっとアレンを起こしコップに水を注ぐと口に宛がい飲ませてくれた。
「もう少し飲みたい?」
「いいえ、大丈夫です。有難うございます。あの、僕は・・・」
「泣きながら眠ってしまったよ、疲れただろう?泣くと酷く疲れるからね。でも、泣けるのは元気になれる証拠だ、どんどん泣けばいい。」そう言うと、にっこり寂しげ笑う。
その笑顔にアレンはこの人も最近凄く悲しい事があったんだと分かった。
「さあ、横になりなさい、無理して眠らなくていいから。」彼はアレンに手を貸してそっと横にならせると話掛けてきた。
「少しお喋りしようか、此処がどこか知りたいだろう?」
アレンが頷くと、ゆっくり話しだした。
「僕はレブランド、ここはラベントリー領。でも、とても小さな領だから知らないだろう?君はどこから来たの?」
「・・・ノーランド。」アレンは咄嗟に嘘をついてしまった、もうフォートランドには戻れないと思ったから。
「・・・そう、ここはノーランドから更にずっと南東に下った所だよ。ノーランド、グレイスリー、フォード、ミンクス、そして我がラベントリー領になる。」
「・・・・・」(一体、どうしてそんな遠くまで・・でも、何も覚えていない・・)
「君は川縁に倒れていたのを弟のシオンとレオンが見つけたんだよ。」
「ベイリュート川ですか?」
「いや、ベイリュート川では無いけど、その支流だよ。君はベイリュート川に落ちたの?」
「よく分かりません。崖から落ちるところまでしか覚えていません、どうやってここに流れ着いたのかも分かりません。」
「そうか、そんな状態でよく助かったね。さすが強運の持ち主だ。」
アレンは緩く首を振った、自分が強運の持ち主だなんて有り得ない。自分が強運の持ち主だったら、皆を助けられた筈だと思った。
「あの・・・、伯爵様達はどちらにいらっしゃるのです?」
「ああ、ここは伯爵領では無くて、男爵領なんだ。僕が頭首だよ、レブランド・フォン・べリング。」
「えっ?」
「最近、両親を一度に亡くしてね。だから、まだ申請は済んでないけど一応領主になる。」
「・・・・・。」
「ふふ、僕は十六で弟達は十四だよ、若すぎるだろ。でも、仕方がない僕達しかいないんだ。」
「とても仲の良い兄弟ですね、兄弟がいて羨ましいです。」
「ありがとう。ところで君が助かったと連絡したいんだけど、ご両親はどちらにいらしゃるの?」
「いません、母も父も亡くなりました。・・・家族はいないんです。」
「そうか、それは寂しいね。なら、ここでゆっくり養生するといい、僕達もその方が楽しいからね。」
「ありがとうございます、僕の名前はアレンです、お世話になります。」
「さあ、そろそろ目を瞑りなさい、眠らなくてもいいから身体を休めるんだよ、アレン。」優しく諭されたが眠れる訳がないと思いながらも、いつの間にか眠りの渕に引き込まれていった。
アレンが視線を感じて目を覚ますと、四対の目に見下ろされて吃驚する。
「やっと、目を覚ました気分はどう?傷は痛くない?」
「お腹へったんじゃない?スープあるよ。」
「君は五日間眠っていたからまず、スープからね。」
「そうだ、君の名前は?まだ聞いてなかったよね、僕はレオン。」
レオンの手の下からスルリと抜き出たルイがゴロゴロ喉を鳴らしながらアレンの顔に自分の顔を擦り付けた。
「くすぐったい、でもいい子。」アレンも身体を起こして負けじとルイに顔を擦り付けその首に腕を回してギュッと抱きしめる。
すると、エルも盛大にゴロゴロと喉を鳴らして後ろからアレンの首に顔を寄せてギュウギュウと顔を押し付けて来たので腕を回して抱きよせてやる。
ああ、いいな~。こんな風にモフモフをしっかり抱きしめられるなんて癒される。
「僕も~。」レオンもルイごとアレンを抱きしめた。
「ちょっと、レオン彼は怪我人だよ。・・・・もう、ずるいぞ、えい。」シオンもエルごとアレンを抱きしめる。
ベットの上に大きな団子が出来上がった。
「はあ~、お前達、何やってんの?アレンは怪我をしているんだよ。」レブランドが部屋に入って来るなり嘆いた。
「ずるい、兄上もう名前を知ってるんだ。」レオンが顔を上げて抗議する。
「アレンって言うんだ。よろしくね、シオンだよ。」シオンが手を伸ばしてアレンの頭を優しく掻き混ぜる。
「さあ、どいたどいた。スープが冷めるよ。」レブランドが足付きの膝テーブルを差し出すと、二人は素直にアレンから離れた。
レブランドはアレンの足の上にテーブルを据え、スプーンを渡した。
すると、レオンがスープ皿を覗き込んで「また、ジャガイモのスープか~。たまには他のスープが飲みたいな。」と言った。
「じゃあ、自分の当番の時に好きなスープを作れば。」レブランドが少し怒った風に言う。
「好きなスープって、材料が限られてるよ。人参かキャベツか。」
「もう少ししたら、トウモロコシも収穫できるよ。」シオンが楽しそうに話す。
「シオンはトウモロコシ大大大好きだもんね。僕はトウモロコシにも飽きたよ~。」レオンの愚痴は止まらない。
アレンは吃驚して三人の会話を聞いていた(確か貴族だって言ってたよね。男爵だって・・・。今、自分で作るって言ったよね、どう言う事?)
「フフフ、アレンが吃驚してる。僕達は貴族だけど貧乏でね、この城にはほとんど人が残っていないんだ。皆に暇を出したからね、料理も当番で順番に作るんだよ。」レブランドが説明してくれた。
「城に残ってくれているのは洗濯婆さんのミンナと執事のトーブ、乳母のサリ。サリはもうあんまり目が見えないんだ。後は通いの兵士達が十人たらず。」
シオンも補足した。
「それも、これも、みんなあいつの所為なんだ、父上や母上を殺したのもあいつに決まってる!」レオンは怒りをぶちまけた。
「レオン、そんな事を言っては駄目だ。」レブランドが諭すが「そう、証拠が無いだけ。」シオンが静かだが怒りを含んだ声で付け足す。
「「僕達はあいつを絶ツ対許さない、必ず仇を取ってやる!!」」二人の声は見事に揃っていた。
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