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第三章
第四十話・フォートランド城の日常・発火②一撃必殺
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アレンは朝起きて、城内が慌ただしい事に気が付いた。
ネルと何事だろうと話していると、ベルグが部屋に来て伯爵様が呼んでいると呼びに来たので一緒にに執務室までやってきた。
部屋に入るとお爺様とバルトが難しい顔をして話している。
「おはようございます、お呼びだと聞いたのですが。なにかあったのですか?」
「おはようアレン。ちょうどよかった、昨夜の嵐で郊外の方が大変な被害を受けたらしい。バルトと一緒に回って来るが、状況によってはもっと遠方にまで足を伸ばすかもしれん。一ヶ月若しくは二、三ヶ月掛るかも知れないが大丈夫かな?」
「はい、大丈夫です。」僕は直ぐに返事を返したがお爺様は心配そうで、バルトには苦笑された。
ダンドリュウス家はフォートランド領を七分割して、それぞれに小さな居城を築き兵士を駐屯させ管理している。
そこには食料も備蓄され、いざという時の備えでもある。
勿論、外敵からの侵入に睨みを利かせる為もあり、広い領土の管理と税の徴収の為でもある、これまでも伯爵はバルト達と定期的にこれらを回って領地を恙無く治めていたのだ。
僕とベルグは部屋に戻り、途中で合流したウィルとネルとバルトが打ち合わせしている。
僕が問題を起こしている訳じゃないけど・・・ね。しっかり留守番しないと。
お爺様とバルト達は慌ただしく用意を整えたが、今回は衛士五人と兵士二十人を伴い、その上備蓄食料も持って行く事でお爺様の乗る馬車と幌馬車が五台からの大所帯になる。
僕とネルは坂下門まで見送りに出たが最後までグラバル兄さまは姿を現すことはなく、お爺様は仕方のない奴だと寂しそうに呟いた。
帰り道にリュゲルが速歩で駆け上がりそうにしたがネルがこの道は険しく落ちたら命は無いと常に牽制してリュゲルを押え込み、無事にお城まで辿り着く事ができた。
僕達はベルグを仲間に入れて午前中の剣の練習を始め、ニ、三日の間は何事もなく、いつも通り過ぎ去ったが四日目の朝に練習場に行くとケーヒル達が目一杯広がって使用していた。
それは明らかに嫌がらせだった。
アレン達が練習する時は他の兵士の鍛錬の邪魔にならないよう片隅で行っていたものだが・・・。
仕方なくネルの提案で馬に乗りながら剣を扱う練習をすることに切り替え、厩舎に向かう。
馬場は広いので馬に乗って練習したり、剣の練習だけに使う場合もあったが、何日経ってもケーヒル達の練習場の独占は続けられていた。
その日は朝から曇り空でひと雨来そうな天気だ。
実は前日は大雨で結局練習はできずじまいだったのだが、皆で馬場に行くと地面がたいそうぬかるんでいた為にその奥の放牧地まで馬に乗って移動したが今度は草地が雨を含みブーツが滑り易くなっていた。
まあ、これも修行の一環だとウィルは笑い飛ばしたが、若いネルとベルグは大分怒りを貯め込んで来ている。
ゲイルも”実はグラバル様やケーヒル様達はいつも威張っていて大嫌いだ。僕はアレンの味方だよ。”と囁いて来て、アレンは苦笑いするしかなかった。
(どうして、仲良くする事が出来ないんだろう。同じ、フォートランド城の仲間なのに・・・)
結局思うように練習は進まず、明日に持ち越しにしようと話していたら、ケーヒル達が馬で乗り着けてきた。
グラバル兄さまも一緒だ。
そのまま、直ぐ側までやって来ると馬で取り囲むように囲い込まれる。
リュゲルが激しく嘶いたが、馬達は少し離れた灌木にしっかり繋いであった。練習中にアレンに剣を振り下ろすと酷くリュゲルが興奮して、突進して来るので仕方なくしっかり繋ぐことにしていたのだ。
それが仇となった、おまけにここは厩舎の奥地で他の人目も無く、ケーヒル達の方が人数が倍以上いる。
「なんの御用ですか?」ウィルが代表してグラバルに問い掛けたが、その途端顔目掛けて鞭が振り下ろされた。
「ウィル!!」ウィルは顔に鞭を受け倒れ込む。
「動くな!!」僕達がウィルに駈け寄ろうとするとケーヒルが叫んだ。彼らの内の一人がゲイルを捕まえて、その喉にナイフを当てている。
「何をするっ!!」ウィルとネルが同時に叫ぶ、今度は彼らの近くにいた取り巻き達が二人に鞭が振り下ろして来たがウィルは転がって、ネルはレイピアで鞭を切り飛ばして避ける事ができた。
「動くな!と命令している。動くと、その子の喉を掻き切らせるぞ。」グラバルが叫んだ。
「どうして」
「しゃべるな!!勝手に話し掛けるな無礼者どもめ。」グラバルはアレンを睨みつけて言った。
「平民が僕に喋りかけるな!!思い上がるな!!汚らわしい!!」グラバルはますます激昂して言い募る。
「・・・。」アレンは仕方なく黙り込んだが目はグラバルとゲイルから離さなかった。
ゲイルの首からは薄らと血がにじんでいる、恐らく父親が二度目に鞭を振われた時に思わず動いてしまったのだろう。
「お前達、武器を直ぐに捨てろ!でないとこの子供の喉を切る。」ケーヒルが僕達を見回して言った。
僕は直ぐに捨てたが、ネル達は迷っているようだ、彼らの仕事は僕を守ることだからだ。
「お願いだ、言う通りに武器を捨てて、僕は大丈夫だから。」
僕の言葉に迷いながらもウィルとベルグが武器を捨てたが、ネルはまだしっかりと剣を構えている。
すると、ゲイルの首に押し当てられているナイフの当たりが強くなり喉から血が滴り始めた。
「ネル!お願いだ!!」僕の二度目の叫ぶような懇願で漸くレイピアとタガーを下に落とした。
直ぐに皆、全ての武器を取り上げられて拘束され、良く見えるように並ばされる。
グラバルが僕達の前にやって来た。
「お前達、ブルース達をやっつけたからと、思い上がるな。」
「ブルース達が死んだのはお前達の所為だ。絶対、許す訳にはいかない。」
「僕達は何もしていない、彼ら・・」最後まで言い終わらない内に剣の鞘で殴り倒された。
「「「アレリス様!」」」彼等は動こうとして、後ろから更に殴り付けられる。
頭がガンガンして、生温かい血が耳を伝い降りて来たが、なんとか踏ん張って立ち上がった。
ネル達に目をやると、ネル達は拘束を解こうと暴れたのか額が裂けて血が流れ、目と口も腫れ上がり、ベルグは頭から血が溢れ出て血溜まりができ、うつ伏せに倒れたままピクリとも動かなくなっていた。
ウィルは二人掛かりで押さえ付けられている。
ゲイルから啜り泣く声が聞こえて来ると、僕は怒りでどうにかなりそうだった。
「今から、僕とお前の決闘だ。平民のお前に平等に機会を与えてやる、剣をこいつに渡してやれ。」
「その前にゲイルを離せ、彼はまだ子供だ。」
「えらそうに、僕に命令するな!彼等はお前が逃げない為の保険だ、終わるまで拘束する。」
「どうして、彼らは関係ない!そんなに僕が憎ければ、すべて僕にぶつければいい。僕は絶対に逃げない、だから彼等に手当てと、ゲイルを離してあげて!」
「駄目だ。」
「僕への憎しみを弱い者に向けるなんて、卑怯者のすることだ、今直ぐに離せ!」
「何だと!!」
「グラバル様、相手の挑発に乗ってはなりません、冷静になるのです。」ケーヒルが諭した。
「くそっ!!僕の事を卑怯者呼ばわりしたのだぞ、捨て置けるか!」
「だから、冷静になって二度とそんな口がきけない様に細切れに切り裂いてやればいいのです。」
「・・ふん!分かった、目に物を見せてやる!」
「武器を取れ。」取り巻きの一人が僕のスモールソードとタガーを手渡してきたがアレンは受け取らなかった。
「彼らを離すのが先だ、どうしても駄目なら、ゲイルだけでも離せ!それとも何か?立派な騎士のケーヒル様は子供のゲイルが怖いのですか?」今や怒りを通り越し、帰って冷静になりケーヒルに向かって思ってもみない挑発の言葉が飛び出した。
「あなたもだ、グラバル。たった一人の子供が怖いのか?かれを離すまで剣は取らない。」
「生意気な奴め、膾切りにされてもいいのかっ!」
「切るなら、切ればいい。武器も持っていない相手が卑怯者には相応しいと証明できる。」アレンは二人を睨みつけた。今や胸の中は冷たい怒りに変わっていて、不思議なことに何も怖くなかった。
グラバルはケーヒルと顔を見合わせると、結局ゲイルだけが放されて父親の所に飛んで行った。
「さあ、剣を取れ平民め。」グラバルがゆっくり右手にレイピアと左手に大きな楯を構えた。
残った取り巻き達は進路を塞ぐようにアレンの後ろ側に並んだ。
アレンも右手にスモールソードと左手にタガーを構える。
グラバルの楯は大きく、脅威になりそうに見えたが、どうやら扱い慣れていないようだとその構えから分かった。
最初からあんなに高い位置で構えればよっぽどの力持ちで無い限り力が直ぐに尽きてしまう。
これはバルトの受け売りだ、そう思い出すと唇に自然と微笑みが浮かび余計な力を抜く事ができた。
そして、自分は冷静だと自分自身に言い聞かせる。
グラバルは掛け声もなしに、いきなりアレンにレイピアを繰り出したがアレンは冷静にその剣先をタガーで受けたが思いの他、剣先が伸びて顔を裂かれた。
アレンは練習でいかに皆が手加減を加えてくれていたか、今の一撃で悟った。
バルト達はアレンをなるべく傷付けないように剣を繰り出していたのだ。
しかし、グラバルは本気だ。本気でアレンを殺しに来ている。
その上、彼の方が身長も高く、腕もレイピアも長く両刃のレイピアを使っていた。
対して、アレンはまだスモールソードで圧倒的に不利だ。
なんども打ち合っている内に、アレンはあちこちが裂かれ血が流れ始めたがどれも致命傷には至らない。
グラバルはアレンが攻撃が苦手だと見抜くと、重い楯を捨て直ぐさまケーヒルからもう一本のレイピアを受け取った。
剣先の長いレイピアが二本となると、今まで通りにタガーで受けることが一気に難しくなる。
そして、グラバルは二本の剣で確実にアレンの胸元を狙い始めた。
(このままでは、いつか胸を挿し貫かれそうだ。)
(どうしたらいい、・・・かんがえろ。)
その時、バルトの声が頭に蘇った
”一撃必殺”
++++++
第四十一話・フォートランド城の日常・発火③思いもよらない犠牲
ネルと何事だろうと話していると、ベルグが部屋に来て伯爵様が呼んでいると呼びに来たので一緒にに執務室までやってきた。
部屋に入るとお爺様とバルトが難しい顔をして話している。
「おはようございます、お呼びだと聞いたのですが。なにかあったのですか?」
「おはようアレン。ちょうどよかった、昨夜の嵐で郊外の方が大変な被害を受けたらしい。バルトと一緒に回って来るが、状況によってはもっと遠方にまで足を伸ばすかもしれん。一ヶ月若しくは二、三ヶ月掛るかも知れないが大丈夫かな?」
「はい、大丈夫です。」僕は直ぐに返事を返したがお爺様は心配そうで、バルトには苦笑された。
ダンドリュウス家はフォートランド領を七分割して、それぞれに小さな居城を築き兵士を駐屯させ管理している。
そこには食料も備蓄され、いざという時の備えでもある。
勿論、外敵からの侵入に睨みを利かせる為もあり、広い領土の管理と税の徴収の為でもある、これまでも伯爵はバルト達と定期的にこれらを回って領地を恙無く治めていたのだ。
僕とベルグは部屋に戻り、途中で合流したウィルとネルとバルトが打ち合わせしている。
僕が問題を起こしている訳じゃないけど・・・ね。しっかり留守番しないと。
お爺様とバルト達は慌ただしく用意を整えたが、今回は衛士五人と兵士二十人を伴い、その上備蓄食料も持って行く事でお爺様の乗る馬車と幌馬車が五台からの大所帯になる。
僕とネルは坂下門まで見送りに出たが最後までグラバル兄さまは姿を現すことはなく、お爺様は仕方のない奴だと寂しそうに呟いた。
帰り道にリュゲルが速歩で駆け上がりそうにしたがネルがこの道は険しく落ちたら命は無いと常に牽制してリュゲルを押え込み、無事にお城まで辿り着く事ができた。
僕達はベルグを仲間に入れて午前中の剣の練習を始め、ニ、三日の間は何事もなく、いつも通り過ぎ去ったが四日目の朝に練習場に行くとケーヒル達が目一杯広がって使用していた。
それは明らかに嫌がらせだった。
アレン達が練習する時は他の兵士の鍛錬の邪魔にならないよう片隅で行っていたものだが・・・。
仕方なくネルの提案で馬に乗りながら剣を扱う練習をすることに切り替え、厩舎に向かう。
馬場は広いので馬に乗って練習したり、剣の練習だけに使う場合もあったが、何日経ってもケーヒル達の練習場の独占は続けられていた。
その日は朝から曇り空でひと雨来そうな天気だ。
実は前日は大雨で結局練習はできずじまいだったのだが、皆で馬場に行くと地面がたいそうぬかるんでいた為にその奥の放牧地まで馬に乗って移動したが今度は草地が雨を含みブーツが滑り易くなっていた。
まあ、これも修行の一環だとウィルは笑い飛ばしたが、若いネルとベルグは大分怒りを貯め込んで来ている。
ゲイルも”実はグラバル様やケーヒル様達はいつも威張っていて大嫌いだ。僕はアレンの味方だよ。”と囁いて来て、アレンは苦笑いするしかなかった。
(どうして、仲良くする事が出来ないんだろう。同じ、フォートランド城の仲間なのに・・・)
結局思うように練習は進まず、明日に持ち越しにしようと話していたら、ケーヒル達が馬で乗り着けてきた。
グラバル兄さまも一緒だ。
そのまま、直ぐ側までやって来ると馬で取り囲むように囲い込まれる。
リュゲルが激しく嘶いたが、馬達は少し離れた灌木にしっかり繋いであった。練習中にアレンに剣を振り下ろすと酷くリュゲルが興奮して、突進して来るので仕方なくしっかり繋ぐことにしていたのだ。
それが仇となった、おまけにここは厩舎の奥地で他の人目も無く、ケーヒル達の方が人数が倍以上いる。
「なんの御用ですか?」ウィルが代表してグラバルに問い掛けたが、その途端顔目掛けて鞭が振り下ろされた。
「ウィル!!」ウィルは顔に鞭を受け倒れ込む。
「動くな!!」僕達がウィルに駈け寄ろうとするとケーヒルが叫んだ。彼らの内の一人がゲイルを捕まえて、その喉にナイフを当てている。
「何をするっ!!」ウィルとネルが同時に叫ぶ、今度は彼らの近くにいた取り巻き達が二人に鞭が振り下ろして来たがウィルは転がって、ネルはレイピアで鞭を切り飛ばして避ける事ができた。
「動くな!と命令している。動くと、その子の喉を掻き切らせるぞ。」グラバルが叫んだ。
「どうして」
「しゃべるな!!勝手に話し掛けるな無礼者どもめ。」グラバルはアレンを睨みつけて言った。
「平民が僕に喋りかけるな!!思い上がるな!!汚らわしい!!」グラバルはますます激昂して言い募る。
「・・・。」アレンは仕方なく黙り込んだが目はグラバルとゲイルから離さなかった。
ゲイルの首からは薄らと血がにじんでいる、恐らく父親が二度目に鞭を振われた時に思わず動いてしまったのだろう。
「お前達、武器を直ぐに捨てろ!でないとこの子供の喉を切る。」ケーヒルが僕達を見回して言った。
僕は直ぐに捨てたが、ネル達は迷っているようだ、彼らの仕事は僕を守ることだからだ。
「お願いだ、言う通りに武器を捨てて、僕は大丈夫だから。」
僕の言葉に迷いながらもウィルとベルグが武器を捨てたが、ネルはまだしっかりと剣を構えている。
すると、ゲイルの首に押し当てられているナイフの当たりが強くなり喉から血が滴り始めた。
「ネル!お願いだ!!」僕の二度目の叫ぶような懇願で漸くレイピアとタガーを下に落とした。
直ぐに皆、全ての武器を取り上げられて拘束され、良く見えるように並ばされる。
グラバルが僕達の前にやって来た。
「お前達、ブルース達をやっつけたからと、思い上がるな。」
「ブルース達が死んだのはお前達の所為だ。絶対、許す訳にはいかない。」
「僕達は何もしていない、彼ら・・」最後まで言い終わらない内に剣の鞘で殴り倒された。
「「「アレリス様!」」」彼等は動こうとして、後ろから更に殴り付けられる。
頭がガンガンして、生温かい血が耳を伝い降りて来たが、なんとか踏ん張って立ち上がった。
ネル達に目をやると、ネル達は拘束を解こうと暴れたのか額が裂けて血が流れ、目と口も腫れ上がり、ベルグは頭から血が溢れ出て血溜まりができ、うつ伏せに倒れたままピクリとも動かなくなっていた。
ウィルは二人掛かりで押さえ付けられている。
ゲイルから啜り泣く声が聞こえて来ると、僕は怒りでどうにかなりそうだった。
「今から、僕とお前の決闘だ。平民のお前に平等に機会を与えてやる、剣をこいつに渡してやれ。」
「その前にゲイルを離せ、彼はまだ子供だ。」
「えらそうに、僕に命令するな!彼等はお前が逃げない為の保険だ、終わるまで拘束する。」
「どうして、彼らは関係ない!そんなに僕が憎ければ、すべて僕にぶつければいい。僕は絶対に逃げない、だから彼等に手当てと、ゲイルを離してあげて!」
「駄目だ。」
「僕への憎しみを弱い者に向けるなんて、卑怯者のすることだ、今直ぐに離せ!」
「何だと!!」
「グラバル様、相手の挑発に乗ってはなりません、冷静になるのです。」ケーヒルが諭した。
「くそっ!!僕の事を卑怯者呼ばわりしたのだぞ、捨て置けるか!」
「だから、冷静になって二度とそんな口がきけない様に細切れに切り裂いてやればいいのです。」
「・・ふん!分かった、目に物を見せてやる!」
「武器を取れ。」取り巻きの一人が僕のスモールソードとタガーを手渡してきたがアレンは受け取らなかった。
「彼らを離すのが先だ、どうしても駄目なら、ゲイルだけでも離せ!それとも何か?立派な騎士のケーヒル様は子供のゲイルが怖いのですか?」今や怒りを通り越し、帰って冷静になりケーヒルに向かって思ってもみない挑発の言葉が飛び出した。
「あなたもだ、グラバル。たった一人の子供が怖いのか?かれを離すまで剣は取らない。」
「生意気な奴め、膾切りにされてもいいのかっ!」
「切るなら、切ればいい。武器も持っていない相手が卑怯者には相応しいと証明できる。」アレンは二人を睨みつけた。今や胸の中は冷たい怒りに変わっていて、不思議なことに何も怖くなかった。
グラバルはケーヒルと顔を見合わせると、結局ゲイルだけが放されて父親の所に飛んで行った。
「さあ、剣を取れ平民め。」グラバルがゆっくり右手にレイピアと左手に大きな楯を構えた。
残った取り巻き達は進路を塞ぐようにアレンの後ろ側に並んだ。
アレンも右手にスモールソードと左手にタガーを構える。
グラバルの楯は大きく、脅威になりそうに見えたが、どうやら扱い慣れていないようだとその構えから分かった。
最初からあんなに高い位置で構えればよっぽどの力持ちで無い限り力が直ぐに尽きてしまう。
これはバルトの受け売りだ、そう思い出すと唇に自然と微笑みが浮かび余計な力を抜く事ができた。
そして、自分は冷静だと自分自身に言い聞かせる。
グラバルは掛け声もなしに、いきなりアレンにレイピアを繰り出したがアレンは冷静にその剣先をタガーで受けたが思いの他、剣先が伸びて顔を裂かれた。
アレンは練習でいかに皆が手加減を加えてくれていたか、今の一撃で悟った。
バルト達はアレンをなるべく傷付けないように剣を繰り出していたのだ。
しかし、グラバルは本気だ。本気でアレンを殺しに来ている。
その上、彼の方が身長も高く、腕もレイピアも長く両刃のレイピアを使っていた。
対して、アレンはまだスモールソードで圧倒的に不利だ。
なんども打ち合っている内に、アレンはあちこちが裂かれ血が流れ始めたがどれも致命傷には至らない。
グラバルはアレンが攻撃が苦手だと見抜くと、重い楯を捨て直ぐさまケーヒルからもう一本のレイピアを受け取った。
剣先の長いレイピアが二本となると、今まで通りにタガーで受けることが一気に難しくなる。
そして、グラバルは二本の剣で確実にアレンの胸元を狙い始めた。
(このままでは、いつか胸を挿し貫かれそうだ。)
(どうしたらいい、・・・かんがえろ。)
その時、バルトの声が頭に蘇った
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第四十一話・フォートランド城の日常・発火③思いもよらない犠牲
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