異世界グランハイルド・アレンと召喚獣-守護魔獣グランハイルド大陸物語ー

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第三章

第三十一話・サージェント家のお姫様たち②

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アレン達の乗った馬車がやっとお城の階段下に着き、待っていたサージェント家(ノーデルも駆けつけた)の一行は居住まいを正し、にこやか迎えるために階段の広い踊り場まで降りて来た。

まず、サージェント伯が降り妻のフランソルと抱き合い、アルフォンスも降りて来て次々と家族と抱き合ったり肩を叩き合ったりした。

アレンは馬車の中で一人になると、クッキーに大人しくして勝手に出てきたり、勝手に食べ物を食い荒らさないように言い付けていたので、”皆さんがお待ちしていますよ”とジョエルから促されるまで馬車から降りれずにいた。

「遅いわね、何を勿体つけているのかしら?」

「きっとあなたと違って繊細な方なのよ。ルナリア。」

「あら、私のどこが繊細じゃないわけ、エミリア。」

「そのパンツ姿よ。」

「あら、これはちゃんとした乗馬用のパンツだわ。」

「男性物よね。」

ルナリアが反論し掛け時にアレンが馬車から降りて来た、彼女は即座に”軟弱そう”と彼を断じた。

他の兄弟姉妹達もそれぞれが、
(小さい、すぐ泣きそうだ、女の子みたいだ、年下過ぎるわ、天使みたい)心の中に思い浮かべだが、もちろん顔には出さない。

アレンの登壇とうだんがあまりにも急だったので、フランダルをはじめサージェント伯爵家の誰もが彼についての詳しい情報を知らず今、目の前で判断するしかなかったのである。

手短に歓迎の意を示し、場所をお城の居間に移した。

「ここは、普段家族が使っている居間だよ、アレンも今日から我が家族の一員だから気兼ねなくこちらに出入りしてくれれば、嬉しいよ。」
居間からは家族用の食堂へと続いている。

皆は普段自分のお気に入りの場所で思い思いに過ごし楽しんでいるが今はまだちゃんとした紹介がまだなのでアレンの周りに総勢九名が扇状に広がり佇んでいる。

「まず、先にお客様を紹介しよう、我が盟友ルビウス・フォートランドの孫である、アレリスだ、私は昨日からアレンと呼ばせて貰っている。アレン。」

「初めまして、サージェント伯のご家族の皆さま。今、ご紹介に預かりました、アレリス・フォン・ダンドリュウスと申します。このように温かく迎え入れてくださり心から感謝致します。どうかよろしくお願い致します。」

「では我が家族を紹介しよう、妻のフランソルだ。」
「ようこそ、アレン、と御呼びしてもいいわね。こちらに居る間はゆっくり寛いでくださいな。」フランソルは近付いてアレンを抱きめると頬に優しくキスをしてくれた。
(凄く良い匂い、母さまみたい。)

「長男のトービル・フォン・サージェント・ノーランドだ、歓迎するよ。」手を差し出してくれたので握手かと思い、握り返そうと近付くといきなり抱き抱えられ、小さな子供にするように両頬にキスされた上、下に降ろすと頭まで撫ぜられ、周りで忍び笑いが起こった。

「トービス、彼は九才だよ、エリアスと同じではないよ。」サージェント伯が注意してくれた。
「えっ、それは失礼した余りにも小さくて可愛くみえたので、エリアスより年下かと。」
(うぅ、小さいって、どれくらい小さく見えたんだろう。聞くのが怖いよ。)

「二男のアルフォンスはいいだろう。」アルフォンスはアレンに軽く手を挙げてくれた。

「三男と四男のノーデルと、フィランスだ。」

「やあ、災難だったな。俺はノーデル、釣りや馬は好きかい?よかったら一緒に楽しもう。」

「よろしくね、アレン。僕はフィランス、見ての通り僕達は双子だよ。いつも本を持っているのが僕で、絶えず傷を作っている方がノーデルだよ。よかったら、図書室を案内するよ。」

ノーデルは上下に揺さぶるように肉厚の手で握手をし、フィランスはほっそりした指で優しく握手してくれた。
(ほんとうだ、右眉の上に傷があるのがノーデルさん、色白なのがフィランスさん)

「さて、我が家の姫君達を紹介しよう、髪にバラを挿しているのがエミリア、そちらの、おいおい、せめてお客様の前ではドレスを着てくれないかなルナリア。」

二人は母親のフランソル似で蜂蜜色の明るい金髪で美しい空色の瞳をした美少女でエミリアは綺麗な巻き毛に整え頭に真珠のピンを散りばめバラを挿して童話の中のお姫様然としている。

一方、ルナリアの方は綺麗な金髪を後ろで一つに束ねただけの髪形で乗馬用のパンツを履きアレンを上から睨み付けていた。顔の周りには緩くカールしたおくれ毛がうねり彼女のきりっとした美しい顔を飾っている。

エミリアは膝を折りスカートの両端を摘み優雅に挨拶をしたが、ルナリアは僕を一瞥をすると、父親に食って掛った。

「彼は客より、家族の一員でって、父上は仰ったわ。彼は結婚相手でもないし着飾る必要はないわ。それにノーデルだって乗馬服のままよ。」

「ノーデルは男だし、アレンも吃驚して呆れているよ。」サージェント伯は困った顔で僕を振り返ったので、助けを求められていると勘違いした僕は口を挟んでしまった。

「乗馬服の何が問題なんですか?僕は吃驚も呆れてもいませんよ。」と。

「ええ。淑女はドレスを着るもので、パンツを履くものではないわ。」エミリアは驚いて答える。

「でも、乗馬の時にはパンツの方が乗り易いのではないですか?」僕がそう答えると、ルナリアさんが驚いてこちらを見た。

サージェント家の皆も驚いて僕を見た。

(何か間違った事をいったのかな?どうしよう。)

「ええっ。」
「・・・・。」
「へえ~。」
「変わってる。」
「まあ・・。」
「ほお。」

家族の皆さんの反応はまちまちで、「なるほど、なるほど。」とサージェント伯は頷き、フランソル婦人は目を輝かせ、サージェント伯の呟きを聞いたルナリアさんは真っ赤になり押し黙ってしまった。


この時、僕は全く知らなかった。




ルナリアさんは誰とも結婚しないと公言していて、もし、万が一自分が男の恰好をしても気にしない奇特な男性が此の世いたら自ら婚姻を結んでやっても良いと宣言していたらしい。



その場にいる皆が微妙な空気に支配され、固まっていると、可愛い声が抗議の先鋒を上げた。

「私の紹介がまだ終わってないわ!!」私はここにいるのよ、忘れないでと身体中で叫ぶように主張している。

「おう、小さなお姫様、忘れるもんかね。」伯爵は最後の一人に近付いた。

「もう、小さくないし、かわいくもないわ。」抱きしめようと屈んだ父親の胸を小さな拳で叩いたが、その反動で脇に挟んでいた画紙綴りが床に落ちて散らばり、折り悪くテラスから吹き込んで来た旋風に巻き上げられた。

「ああ~~。拾って、拾って飛んでっちゃう。」

皆は慌ててしゃがみ込んだり、足で踏んで紙を押えた。

「もう、ノーデル兄さま、足で踏んだりしないで!!」
「ごめん、ごめん。我が家の姫様方は怖い、怖い。」

アレンもしゃがんで何枚か拾っていたがその中の一枚が目に留まり、一枚一枚捲ってそこに描かれている草花の絵に熱心に見入っていたので、皆が拾い終わっているのに気が付かなかった。

小さな影が近付き「それ返してよ。」声を掛けられた方を見上げると、赤毛の女の子が立っていた。
彼女の髪は両親に似ず赤毛で、おまけに強い癖っ毛の縮れ毛でカチューシャをしていたが殆ど役に立っていなかった。

「これ、君が描いたの?上手に描くんだね。直ぐにエチルリ草だとわかったよ。」アレンは手に持っている中の一枚を女の子に差し出した。

「ほんとに?私、上手い?エチルリ草を知ってるの?観賞用のお花じゃないのに?」女の子は受け取りながら、アレンの直ぐ側に座りこんだ。

「うん、ほんとに上手く描けてるよ。それに薬草採りをしていたからよく知っているんだ。これはマナウイ草、傷薬になるよね。君は小さくて可憐な花が好きなんだね。」と、今度はマナウイ草の描かれた絵を差し出した。

「そうなの、薬草や野原に咲いている小さな花が好きなの。マナウイ草も大好きな花の一つよ。」
「マナウイ草は満月の夜になると綺麗な青い花になるんだよね、僕も大好きな花なんだ。」アレンはニッコリ微笑んだ。

女の子はその顔を見て(やっぱり、天使みたい。この子を描いてみたい。)と思った。

「どうして薬草採りなんかしてたの?」後ろから声を掛けられ、振り向くとルナリアさんとエミリアさんが側の来て女の子に画紙を渡した。

「僕の母さまが病気になって、咳止め用の薬草を探していたんです。それに他の薬草も一緒に見つければお金になるから。」
(自分で探していたんだ、優しい子ね。それに、女の子が絵を描くのを咎めるどころか褒めてるし、床の上に座って、幼い妹の話を嫌がらずに聞いている。)とルナリアは感心した。

「薬草なんか自分で探さないで医者に掛ればいいじゃない、服も汚れるわ。それに、そんなちっぽけな花よりバラの方がよっぽど艶やかできれいだわ。あなたってホントに変よ。」とエミリアは怒って言った、まるで自分の挿しているバラの花と彼女自身も綺麗じゃないと言われた気分だった。

「ごめんんさい、別にバラが綺麗じゃないと言ったつもりはないんです。バラはバラで美しいと思います。あなたの綺麗な金髪に良く似合ってますよ。」アレンはバラを褒めたつもりだったが、エミリアは自分が美しいと褒められた気になり頬を染めた。

女の子は突然、アレンの頬を両手で挟んでグイッと自分の方に顔を向け、その頬にキスをして言った。

「私の名前はアウラウネよ。アレン、仲良くしましょうね。私、あなたの婚約者になってもいいわ。」


ノーデルは短く口笛を吹いた。(こいつは、とんでもない人誑しだな。)

フィランスも思った。(我が家の気難しいお姫様達を手玉に取るなんて。)

アルフォンスは考えた(これで天然なんだよな、末恐ろしい。)

トービスに至っては(天使だ、心のきれいな天使が我が家に舞い降りた。)










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