異世界グランハイルド・アレンと召喚獣-守護魔獣グランハイルド大陸物語ー

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第二章

第二十話・向こう側の世界①初めて見る魔獣?クッキー!

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アレンは時折吹きつけて来る強い魔風に気を付けながら炎の中を進んで行った。
(ちっとも熱くない。不思議だな、こんなに燃えているのに。)アレンは炎に触ってみた。

(どこまで行けばいいのかな?たくさん歩いた気がするけど・・・”道”の中では時間の流れ方が違うらしいし。)
”道”は真っ直ぐかと思うと、曲がったり、くねったりしながら続いている。

(少し眠くなって来ちゃったな、ちょっとだけ休もう。ここら辺りなら道幅も広いし、今のところ道の途切れも炎の弱まりもないみたいだし。)
「そうだ、マリーさん(アレンの部屋付きメイド)がおやつにってクッキーを持たしてくれたんだった。」
アレンはその場に座り、背中から背負い袋を降ろすとポケットから袋を取り出し、クッキーを頬張った。
「まだ、あったかいや。ありがとう、マリーさん。」

        
        
        
アレンはガバッと身を起こした。いつの間にか蹲って寝ていたようだ。
(危ない、危ない。寝ぼけて道から落ちたら大変だよ。よかった、炎はまだ燃えて道を作ってる。)
アレンは残りのクッキーをズボンのポケットにしまい、再び歩き始めた。


暫く歩くと道の先の方が薄暗くなって炎が途切れているようだ。
(ここまでせっかく歩いて来たのに”道”が無くて引き返すのはちょっと嫌だな。)
そう思いながら進んで行くと少し開けた空間に出て目の前に儀式の大扉と同じような造りの扉が現れた。

「扉に魔法陣が刻んである。確か、この魔法陣には手で触れるだけで良かったよね。」
(扉が開きます様に。)祈るような気持ちで扉に手を触れると呆気なく扉は独りでに開いていき、アレンが後ろを振り返ると既に炎の道は消えて暗闇が広がっていた。

「よし!」自身に気合いを入れ扉を大きく開けて“向こう側”に踏み込んだ。

向こう側の出入り口は聞いていた通りに薄暗く洞窟のようで、アレンは小さな火点け箱を取り出して火を灯し出口に向かって歩き始めた。

「緑の匂いがしてきた、もう直ぐ洞窟の終りだ。いよいよだ。」周りがどんどん明るくなってきて、ますます緑の匂いも濃くなってくる。

アレンは明るい空の下に出た途端、解放感から思わず「やったー。」と手を振り上げてから、慌てて自分の口を塞いだ。
「いけない、いけない。伯爵様に周りをまず見回して危険が無いか確認するように言われてたんだ。」
過去に、初っ端から大型魔獣に出くわして命からがら逃げ出した人もいたらしい。

「静かだし、見渡したところ魔獣もいそうにないですね。」洞窟は崖の中腹にあり、辺りをある程度見渡せるようになっていた。
アレンは崖下に続く道を慎重に下って行った。道の先は鬱蒼うっそうとした森に繋がっている。

崖下に着くとアレンは構わずに森の中に獣道を見つけてどんどん進んで行く事にした。鬱蒼とした森は大きく、小さいアレンにはどちらを向いても大木ばかりで方向を見極めるのは難しい。
上を見上げても木々が空を覆い隠していた。

暫く進むと甘い匂いが香って来て左側の奥にきれいな花が咲いているのが見えてきた。
「きれいな花だな。それにしても何て大きいんだろう、僕がゆっくり座れるくらいの大きさだ。」
アレンが試しに手近な石を拾って花の中心に投げ入れると、途端に花弁が閉じてシュルシュルと大木の根元に入り込んだ。

「うわ~、怖い。やっぱり伯爵様の言ってた通りだ。こちら側の物は全て見た目通りじゃない、魔法の生き物なんだ。気を付けないと。」


「痛っ!何?」アレンの頭の上に突然何かがボスッと落ちて来て髪の毛を引っ張った。
頭の上に両手を伸ばして確かめようとすると、それは上手にアレンの手を潜りぬけ中々捕まえることができない上、髪の毛が絡んでグシャグシャになってしまう。

アレンの手には時折、モフモフの毛の感触がすり抜けて行く。
(もしかして、小動物かな?それならいい方法がある。)
アレンはポケットから食べ残しのクッキーの欠片を掌に取り出してそっと身体の前に差し出した。

頭の上で暴れていたモノが静かになり、臭いをクンクン嗅いでいる音がし始めたがアレンはジッと待っていた。
すると、それはアレンの頭から耳を伝い肩に降りると腕をチョコチョコ走り、掌のクッキーの欠片を器用に前足で掴んでポリポリ食べ始めた。

アレンは脅かさないようにそっと持ち上げた。
「りす・・・だよね?あれ?尻尾が三つに分かれてる。それに耳が大きくない?」
りすもどきは食べ終わると首を傾げてアレンをジッと見た。
「触ってもい~い?」脅かさないようにそっと頭を撫でると、アレンの手にグイグイと頭を擦り付けて来た。
「かわいいな~。君も魔獣かな~?あれ?額のところがコリコリしてる。こっちもだ、ここ痒いの?」
アレンが指で掻いてやるとキュウ、キュウと鳴いて喜んでいるようだ。

その内、三つの尻尾を手首に器用に巻き付けて立ち上がるとアレンの指を舐め始めた。
「もしかして、まだクッキーが欲しいのかな?」
アレンがクッキーを取り出して差し出そうとしたが、一枚のままでは大きすぎる事に気が付いた。
「ちょっと待ってね。りすさん。」アレンがクッキーを遠ざけようとすると身体がミョ~ンと伸び、行き成りクッキーに付いた。

アレンは呆気に取られた。「今、今、口が有り得ない程大きく開かなかった??」
一瞬の出来事だったが確かにりす擬の口が大人の広げた掌さえ、スッポリ飲み込む程の大きさに開いたのだ。

「・・・やっぱり、どんなにかわいくてもなんだ。」今は元のサイズの戻り、頬袋を大きく膨らませてかわいらしくモシャモシャ食べている。

暫くその様子を見て楽しんだが、食べ終わると又、アレンの手に身体を擦り付けてきた。
「ごめんね、僕はもう行かないと。明るい内にこの森を出て守護魔獣を探しに行かないと駄目なんだよ。」
近くの枝に乗せてやると、枝を蹴ってアレンに跳びついて来た。
「駄目なんだ、連れていけないよ。伯爵様は僕の好きな魔獣でいいと仰ったけど、いくら何でも君じゃ小さ過ぎる。」ごめんね、と呟いて再び枝に乗せたが直ぐにアレンのところに戻って来る。

「仕方ないな。マリーさん、ごめんなさい。」ポケットから、クッキーを取り出すと、思い切り遠くに掘り投げた。
りす擬はアレンをポーンと蹴って飛び降りるとクッキー目指して一目散に駆けて行った。
「よし、今のうちに。」アレンは急いでその場を逃げ出した。


「ここまで来たら大丈夫かな?」走ってきたので、大きく息をして呼吸を整える。
「ふう。・・よし。」その時、頭上で鳴き声がして、アレンに毛の塊が飛びついてきた。
「え~~~!もう、戻ってきたの?困ったな。」アレンは何とかしがみ付いたりす擬を剥がそうと奮闘したが、すばしっこく移動して捕まえることができない。

「どうしよう。痛っ!」指先を咬まれたようで、見ると血が少し滲んでいた。
「咬まれちゃった。」目の前に咬まれた指先を持って来ると、りす擬がお詫びのようにアレンの血をペロペロ舐め始めた。

「ふ~、仕方ないな。そんなに一緒に行きたいの?」それは言葉を理解しているように、アレンを見つめてキュウキュウ鳴いた。
「それじゃ暫く一緒にいようね。・・・君に名前はあるのかな?名前が無いと、不便だよね。」

「ウ~ン、そうだ。クッキーだ!クッキーが大好きだからって単純かな?」
それは嬉しそうにキュウキュウ鳴いて再びアレンに身体を擦り付けてきた。

その喜んだ様子を見たアレンは

。」と呼びかけた。



++++++
第二十一話・向こう側の世界②アレン、魔獣に巡り会う→遭遇するに変更します。




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