異世界グランハイルド・アレンと召喚獣-守護魔獣グランハイルド大陸物語ー

さん

文字の大きさ
上 下
13 / 107
第二章

第十三話・フォートランド伯爵家の存亡

しおりを挟む
 ボイルは十二才になった。背丈も伸び、筋肉も付いてきた。
 父親に似たのか年の割に大柄で将来は父親と同じように外門の門衛になるつもりだ。

 アレンがいなくなってから丁度三年が経った。
 ボイルの心の片隅にいつもあるアレンの笑顔とあの時の涙にれた紫色の瞳がよみがえってくる。
 そう、こんな雪のちらつく日は特に。



 今年は三年前のように長雨のあと何度も大風が吹き、何時いつにもまして寒さが厳しくなっていた。
 そして、フォートランド城下にはエリス熱が蔓延まんえんしていた。
 今年のエリス熱は酷い嘔吐おうと下血げけつともない、死者が後を絶たない状態だった。
 毎日のようにとむらいの鐘が鳴らされている。

 うわさでは伯爵家の嫡男ちゃくなんイルビス様も病に罹られせっているとささやかれていた。




               
               
               
               

 (口さがない連中はうわさするだろう、『ダンドリュウス家は呪われているのではないか』と)
伯爵は苦々にがにがしく思った。

 昨晩、イルビスは「父上・・・許してください」「父上・・許して」と、うわ言を呟きながらとうとう身籠みまかった。

 イルビスはずっと無理に無理を重ねていた。
グラバルに魔力が完全に無いと分かったあの日から・・・。

「父上、私にもう一度召喚のチャンスをください」と何度も〈儀式〉と〈渡り〉を行った。

 召喚獣は一生涯、一人と一匹だ。例えるなら一夫一婦制になる。しかしながら召喚獣と死別した時には儀式を行い運が良ければもう一度手に入れる事ができる。

 死別でなく二匹を手に入れたのは長い王家の歴史の中でも、最強と呼び声の高い現国王のライオネル・フォン・エイランドだけである。ー彼は二匹の獅子を守護魔獣にしているー

 何度も止めたがイルビスは聞き入れ無かった。もっと強い守護魔獣(召喚獣)を手に入れようと躍起やっきになっていた。
 まるでグラバルに魔力が無いのを自分に責任があるように思い詰めていた。

 精神的にも体力的にも弱っていたイルビスはエリス熱により呆気あっけなくこの世を去って行った。


 (やはり、養子を迎える事を考えなければならないのか・・・)

 「義父様!」行き成り扉が開きイルビスの妻のカトリーネスとグラバルが入って来た。

 「イルビス様の葬儀ができないとはどう言うことですか!」

 「イルビスの死を今しばらく伏せて置きたいのだよ」伯爵は静かに答える。

 「なぜです、なぜ伏せねばなりませんのっ!イルビス様はこの伯爵家の嫡男ちゃくなんなのですよ。親戚の手前、私の体面と言うものがございます」
 「秘密にしていることが知られれば、侯爵である父に顔向けができません」

 (だからだ、だから伏せねばならないのだ。この伯爵家を継ぐ者が決まるまでは・・・)
 「少し、考えたい事があるのだ。それが決まるまでもうしばらく待ってほしい」

 「それは養子の件でしょうか?それならば、我がホービス侯爵家から貰えば良いではないですか。そうすればグラバルを嫡男に据え、養子を補佐とすれば万事解決ではありませんか。従兄弟同士、兄弟も同然できっといい方向に向かいますわ」
 
 「その事も含めてゆっくり考えねばならぬ。そなたはダンドリュウス伯爵家の者、ならばこの伯爵家の事を第一に考えて欲しいのだ」
 (養子を補佐に据えるのは一時凌ぎに過ぎない。必ず、次の世代で継承争いが始まり、それが家の衰退に繋がって行くのだ)

 「母上、お爺様はちゃんと考えてくださいます。だから今は静かに父上の喪に服しましょう」グラバルの言葉に押される形でカトリーネス達は退出して行った。

 (侯爵家の後ろにはライオネル王が控えている。それに今の侯爵家に魔力の強い者は誰もおらぬ)

 侯爵家とは名ばかりで近年では魔力の弱い者しか輩出はいしゅつできず、次の養子にはライオネル王の5人の王子の内の一人がえられる事が決まっている。

 (そして、次は我が家と言う事だ。イルビスの時から狙われてきたのだ)
 イルビスは生前、められて結婚したのだと言っていた。

 近衛連隊科の終了式に同室の者達と祝い酒をみ交わし、前後不覚ぜんごふかくになるまで酔わされて、朝起きたら、カトリーネス・フォン・ホービスの隣で寝ていた、と言う訳だった。

 (調べるまでもないが、カトリーネスにも魔力はほぼ無いだろう・・・。)
 (やはり、親交のあるサージェント伯爵家から養子を貰うしかないのかもしれない)

 ノックの音がして、顔を上げると、執事長のヨナスがお茶を持って立っていた。
 「伯爵様、・・折り入ってお話が御座います」ヨナスの顔はいつに無く真剣だ。

 「扉を閉めるがいい。、長い話になりそうかな?それならお茶を飲みながらゆっくり聞こう」

 ソファに座ると向こう側を促した。ヨナスは躊躇ためらいながらも、大事な話なら近いほうがいいとの説得でようやく座った。

 ヨナスの話は実に驚くべき物で故イルビスに、もしかしたら婚外子がいるかも知れないと言う話だった。

 「下働きの娘で名前は、二年ほど勤めておりましたが、アドラ婦人に首にされお城を辞めて行きました。噂ではイルビス様との仲を疑われて首になったと囁かれておりました」

 アドラ婦人はカトリーネスの乳母で輿入こしいれと共にやって来た。
 グラバルの乳母でもある。

 「そして、お城を辞めてから一年と経たないうちに子を産んだとか」

 「その子が?」

 「それが、はっきり分からないのです。ルイーズからの知らせも無かったですし、それで今まで黙っておりました」

 「何かその子に特長は無いのかね?」

 「・・実は、その事で御座います。わたくし懸念けねんしておりました事は・・・」

 「なんだね。なにが問題なのだ?」

 「実は噂ではその子の髪の色は銀色だそうで御座います」

 「銀色?ではそのルイーズと言う娘が銀髪なのかね」

 「いいえ、栗色の髪をしておりました」

 「ふうむ・・・・・」(我が家ではほとんどの者が金髪か茶系の髪の者達だ)
 今、伯爵の髪は年を老い銀色の混じった白髪だが若い時は金褐色で、イルビスは無き妻と同じ金髪だった。

 「どういたしましょうか?」

 「その娘はお前から見てどんな娘に見えた?」

 「真面目で、たいへん身持ちのかたい娘かとぞんじます」

 「そうか、良く分かった。ヨナスお前の目を信じる」

 「では?」

 「善は急げだ。秘密裏ひみつりに事を運ばねばならない。例え家族であっても他言は無用だ。くれぐれも内密にな」

 「ほんとうによろしいのですか?」

 「ああ。<儀式>を受ければはっきりするだろう。我がダンドリュウス家の血脈かどうか。直ぐにバルトを呼んでくれ。”領地の見回りの件で話があるから”と」

 「かしこまりました」ヨナスは肩の荷がやっと下りたような顔をして退出して行った。


 (あの生真面目きまじめなイルビスに婚外子こんがいしとは・・・・。確かルイーズとか申したな、その娘の事をほんとうに好いていたのならば、少しはイルビスも幸せだったと思いたい)

 (もし、その子に魔力があれば、イルビスも浮かばれる事だろう)

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

処理中です...