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第一章
第八話・母ルイーズ流行り病に倒れる
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今年は夏の終わり頃から気候変動が著しかった。
ここグランハイルド大陸の中央よりにあって緩やかな四季もあるライデン王国でさえいつもより、夏が長く続き夏の終りには乾季にさえなった。
夏日が終わりを告げやっと穏やかな秋になると皆がほっとする間もなく長雨が続き、時には大雨になり気温は急激に下降し肌寒い日々が続いた。
雨が止むと温度が上がり出し、今度は大風がやってくる始末だ。
フォートランド領は常日頃、伯爵の命により食料や牧草の備蓄に力を入れているので来るべき冬には直ぐには困る事はないが、他領や他国では飢饉になる恐れがある処が出てきている。
しかし、人心は別だ。人々は気候の寒暖差に付いていけず風邪がよく流行った。
それはアレン親子も直撃した。雨が降ろうが大風がこようがルイーズは城下街まで働きに行かされていた。
流石に大風が街中を直撃した時は《ヘイリー》亭は店を閉めたがルイーズに連絡が来る事もなく、やっとの思いで店に辿り着いても大風の中追い返される始末だ。
アレンも雨が降ろうが大風がこようが草原に放牧に出されたが、長雨が続いた後の大風の去ったある日、動物達の様子に異変を感じた。
(なんだか鳥たちが騒がしい、羊のようすも変だ。ドギーも山の方ばかり見てる)
小雨がぱらつき始め、やがて前が見えないくらいの雨が降り出した。
(なんだか、嫌な感じがする)
アレンは小高くなっている林の中に羊達を移動させた。
その直後に鉄砲水が起こり谷川から溢れた水は草原にも流れ込みあらゆる物を押し流した。
アレンと羊達は助かったが、奥地に行っていた牛達の半数が流され、牧童の幾人かも一緒に流されてしまいワイリー牧場は甚大な被害を被った。
そして、夏になりやっと治まっていたルイーズの咳が再び始まった。
アレンは心配でならなかった。只でさえ細い母が更に痩せてしまった。
アレンに出来る事は兎罠を仕掛け、きのこや木の実を探し、薬草を採取したお金で滋養になる物をルイーズに与える事だけだ。
しかし、食の細いルイーズは回復の兆しが一向に現れなかった。
度々、ルイーズは仕事を休んだ。
おかみの本意ではなかったが《ヘイリー》は食堂で、余りにも咳が酷い状態のルイーズを流石に使う事ができなかった為だ。
しかし、牧場では二人の仕事は大幅に増えた。
先の鉄砲水で牧童の数がへり、甚大な被害を受けたワイリー叔父は使用人を新たに雇い入れることを許さなかった。
そうしている内に短すぎる秋が去り、急に北風が吹き始め一気に寒さがやって来た。
山からの吹き下ろし風と一緒に、エリス熱(流行り病の一種)が城下街に蔓延した。
ルイーズは牧草の上げ降ろしの最中に、とうとう倒れてしまう。
「母さまっ!」アレンはすぐさま母に駆け寄った。
近くにいた牧童達もルイーズを介抱しに寄って来た。
「これは酷い熱だ。きっとエリス熱に違いない」
牧童頭がワイリーに母屋に入れるよう談判してくれたが、「うつったら困る」と拒否される。
結局、いつもどおり納屋に運ばれたが、せめてもと牧童頭がアレンが介抱し易い様にと空いている馬房の一角を提供してくれた。
ワイリー叔父はその様子を見て「こんな時に足手まといな。ごく潰しが」と吐き捨てるようにルイーズ親子に暴言を重ねて来た。
アレンは余りの仕打ちにワイリーを睨みつけた。
「なんだ、その眼は。こっちはタダで置いてやってるんだ。文句があるなら、今すぐに出て行け」
牧童頭は思わず「ルイーズ親子は朝から晩まで良く働いている。あんたも分かっているだろう」
「それにアレンがいなかったら、今頃は羊達も全滅だ」と、ワイリーを諌めた。
「そうだ、そうだ」牧童達もアレンの味方になってくれた。
「ふん、使用人の分際で」ワイリーは負け惜しみを呟き、逃げるように去って行った。
ここグランハイルド大陸の中央よりにあって緩やかな四季もあるライデン王国でさえいつもより、夏が長く続き夏の終りには乾季にさえなった。
夏日が終わりを告げやっと穏やかな秋になると皆がほっとする間もなく長雨が続き、時には大雨になり気温は急激に下降し肌寒い日々が続いた。
雨が止むと温度が上がり出し、今度は大風がやってくる始末だ。
フォートランド領は常日頃、伯爵の命により食料や牧草の備蓄に力を入れているので来るべき冬には直ぐには困る事はないが、他領や他国では飢饉になる恐れがある処が出てきている。
しかし、人心は別だ。人々は気候の寒暖差に付いていけず風邪がよく流行った。
それはアレン親子も直撃した。雨が降ろうが大風がこようがルイーズは城下街まで働きに行かされていた。
流石に大風が街中を直撃した時は《ヘイリー》亭は店を閉めたがルイーズに連絡が来る事もなく、やっとの思いで店に辿り着いても大風の中追い返される始末だ。
アレンも雨が降ろうが大風がこようが草原に放牧に出されたが、長雨が続いた後の大風の去ったある日、動物達の様子に異変を感じた。
(なんだか鳥たちが騒がしい、羊のようすも変だ。ドギーも山の方ばかり見てる)
小雨がぱらつき始め、やがて前が見えないくらいの雨が降り出した。
(なんだか、嫌な感じがする)
アレンは小高くなっている林の中に羊達を移動させた。
その直後に鉄砲水が起こり谷川から溢れた水は草原にも流れ込みあらゆる物を押し流した。
アレンと羊達は助かったが、奥地に行っていた牛達の半数が流され、牧童の幾人かも一緒に流されてしまいワイリー牧場は甚大な被害を被った。
そして、夏になりやっと治まっていたルイーズの咳が再び始まった。
アレンは心配でならなかった。只でさえ細い母が更に痩せてしまった。
アレンに出来る事は兎罠を仕掛け、きのこや木の実を探し、薬草を採取したお金で滋養になる物をルイーズに与える事だけだ。
しかし、食の細いルイーズは回復の兆しが一向に現れなかった。
度々、ルイーズは仕事を休んだ。
おかみの本意ではなかったが《ヘイリー》は食堂で、余りにも咳が酷い状態のルイーズを流石に使う事ができなかった為だ。
しかし、牧場では二人の仕事は大幅に増えた。
先の鉄砲水で牧童の数がへり、甚大な被害を受けたワイリー叔父は使用人を新たに雇い入れることを許さなかった。
そうしている内に短すぎる秋が去り、急に北風が吹き始め一気に寒さがやって来た。
山からの吹き下ろし風と一緒に、エリス熱(流行り病の一種)が城下街に蔓延した。
ルイーズは牧草の上げ降ろしの最中に、とうとう倒れてしまう。
「母さまっ!」アレンはすぐさま母に駆け寄った。
近くにいた牧童達もルイーズを介抱しに寄って来た。
「これは酷い熱だ。きっとエリス熱に違いない」
牧童頭がワイリーに母屋に入れるよう談判してくれたが、「うつったら困る」と拒否される。
結局、いつもどおり納屋に運ばれたが、せめてもと牧童頭がアレンが介抱し易い様にと空いている馬房の一角を提供してくれた。
ワイリー叔父はその様子を見て「こんな時に足手まといな。ごく潰しが」と吐き捨てるようにルイーズ親子に暴言を重ねて来た。
アレンは余りの仕打ちにワイリーを睨みつけた。
「なんだ、その眼は。こっちはタダで置いてやってるんだ。文句があるなら、今すぐに出て行け」
牧童頭は思わず「ルイーズ親子は朝から晩まで良く働いている。あんたも分かっているだろう」
「それにアレンがいなかったら、今頃は羊達も全滅だ」と、ワイリーを諌めた。
「そうだ、そうだ」牧童達もアレンの味方になってくれた。
「ふん、使用人の分際で」ワイリーは負け惜しみを呟き、逃げるように去って行った。
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