異世界グランハイルド・アレンと召喚獣－守護魔獣グランハイルド大陸物語ー

序章

ベルファウストの森 －満月の夜の出来事ー

　月は黒々とした森の中天に差し掛かり、青白い光を降り注いでいる。
　そのため森の中はまるで海の中のような一面の蒼の世界が広がっていた。


　木々は小道にレース模様を紡ぎだし、暗い森を変化させていた。

　その暗い森の小道を一人の子供が一生懸命走っていた。
　もう真夜中を過ぎている時間帯である。
　危険な森の中でもあるのにたった一人でひた走る。

　黒々とした森を抜け広い野原に出て来た。

　一面の芒すすきの穂が風に揺られ寄せては返す波のようだ。
　子供の身体をすっぽり隠してしまう高さだっだ。
　それでも子供は前に進む。

　まるで前が見えているかのように迷いなく芒を掻き分け走っている。

　やがて野原も途切れ、まばらに生える低い灌木の林を抜けると川縁に出た。
　川は緩やかに蛇行して、その場所に砂地を作っていた。

　子供はようやくそこで足を止め、持っていた歪なバケツを足元に捨て放ち砂地に膝を着く。

　子供は誰もいない川に向かって叫んだ。「助けて、母さまを助けて。お願い。」

　すると、川の中ほどで水が少しづつ盛り上り、大人の高さまでになった。

　やがて川の水は自らを彫刻するようにきらきらと雫を撒き散らしながら一人の女性を模かたどった。
　水で出来た女性像はゆっくりと両手を上げて子供の方に手を伸ばす。

　それを見た子供は泣き喚いた。「やめて、母さまの真似なんて頼んでない」「助けてって言ってるんだ」
　「母さまを生き返らせて、お願いだよ」

　それでもその水の虚像は手を指し伸ばしながら川の中ほどから流れに逆らい、ゆっくりと子供の方へ進んで来た。

　「あ‘‘～・・れ～・・ん」それは声のような物を出した。

　子供は堪らず、バケツを手繰り寄せて思いっきり虚像に投げつける。

　虚像はあっと言う間に崩壊し元の川に戻った。

　子供は砂地に突っ伏して声を上げて泣き出した。

　その声はいつまでも森の中を響き渡った。