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花村邸での生活も一週間ほどが経つ。だんだんその生活にも慣れてきていた。花村との関係も概ね良好である。
花村は静の読み通り、家事全般が苦手であった。どうやら東京にいた時からハウスキーパーやお手伝いさんがいるような環境で育っているので、そもそもしたことがなかったようだった。
ここでも頼みたかったようだが、急遽ここに住むことが決まったので、間に合わなかったらしい。
住まわせてもらっているので、家事は静がすると進言したものの、苦手を克服したいと言われ、特に料理はなるべく一緒に作っていた。
一つだけ困っているのは、家で花村が静への好意を一切隠さないところだ。一目惚れというワードは言わなくなったものの、昨日は早く僕のことも好きになってほしい、と手を握られた。キスを無理やりしてきたり、身体を迫られたりだとかは一切ない。そういう紳士的な態度も好感が持てる一因だった。それに真剣な顔で、しかも好みのタイプに何度も告白されると変な気持ちになってくる。
今日は当直。今は日付も変わって、午前一時頃だ。
深夜にもなってくると、腹が空いてくる。お菓子で凌ぐ人もいるが、静はきちんとした夜食を食べることにしていた。そちらの方が深夜に何かあった際、力が出るからだ。
奥の休憩室で、静は夜食の弁当を広げる。これは花村が作ったものだった。
「出た、愛妻弁当」
「うるさい」
そういう坂元はカップラーメンを啜っている。同棲中の彼女は一切料理をしてくれないらしい。
静も花村と一緒に住むまでは似たり寄ったりな食生活だった。しかし料理の上達した花村が弁当を持たせてくれるようになったのだ。
「いただきます」
少し焦げた卵焼きを口に入れる。砂糖を混ぜた甘い卵焼きだ。美味しい。
あとはミートボールや串に刺されたトマトときゅうり、これまた甘い鶏そぼろ。全てが手作りではないが、どれも舌に合う。
「満足そうな顔して食べて……あんなに嫌だって騒いでたのに」
「いいんだよ、あいつ、俺に夢中だから」
「おいおい、あんま弄んでやるなよ」
串を咥えながら、冗談めかして言えば、坂元が肩をすくめる。
だがこれは冗談でも何でもなく、静に自覚があるほど、花村は静に夢中なように感じた。
しかし花村が好きなのは、一目惚れした静の綺麗な顔だ。ゲイの静とは違って、元々花村は女性が恋愛対象であったようなので、男の身体を見たら目が覚める可能性がある。
以前のような思いはしたくない。いくら好きだ、と言い寄られても絶対に好きになったりしないことを心に誓っている。
ちょうど二人が食事を終えた時、内線電話が鳴った。
変死だった。神田山交番の管内で独居の老人が部屋で亡くなっているのが発見されたらしい。刑事課が臨場したところ、既に亡くなっているのを確認。また遺体に傷や怪我などはなく、部屋も荒らされたり、侵入された跡はないことから病死だと思われるが、検視をするので警察医の立ち会いが必要となる。
その警察医の送迎を坂元と静にお願いしたいとのことであった。
今日の警察医の当番は花村である。
現場に行くわけでもない。警察医の送迎だけなので、作成書類を溜め込んでいる坂元を交番に置いていき、静ひとりで行くことにした。
それに坂元と花村を会わせたくない。両方が両方とも、余計なことをいう気がしている。
パトカーで花村邸へと向かう。門の前にパトカーを駐車し、インターフォンを押すが、花村が出てくる気配はない。
内勤当直から、検視の立ち合い要請の連絡があったはずだ。
「もしかしてあいつ、二度寝したのか?」
インターフォンを三回押し、十分待ったが、何の音もしない。
「なめてんのか、叩き起こしてやる」
静は玄関から、邸内へと入った。
花村は静の読み通り、家事全般が苦手であった。どうやら東京にいた時からハウスキーパーやお手伝いさんがいるような環境で育っているので、そもそもしたことがなかったようだった。
ここでも頼みたかったようだが、急遽ここに住むことが決まったので、間に合わなかったらしい。
住まわせてもらっているので、家事は静がすると進言したものの、苦手を克服したいと言われ、特に料理はなるべく一緒に作っていた。
一つだけ困っているのは、家で花村が静への好意を一切隠さないところだ。一目惚れというワードは言わなくなったものの、昨日は早く僕のことも好きになってほしい、と手を握られた。キスを無理やりしてきたり、身体を迫られたりだとかは一切ない。そういう紳士的な態度も好感が持てる一因だった。それに真剣な顔で、しかも好みのタイプに何度も告白されると変な気持ちになってくる。
今日は当直。今は日付も変わって、午前一時頃だ。
深夜にもなってくると、腹が空いてくる。お菓子で凌ぐ人もいるが、静はきちんとした夜食を食べることにしていた。そちらの方が深夜に何かあった際、力が出るからだ。
奥の休憩室で、静は夜食の弁当を広げる。これは花村が作ったものだった。
「出た、愛妻弁当」
「うるさい」
そういう坂元はカップラーメンを啜っている。同棲中の彼女は一切料理をしてくれないらしい。
静も花村と一緒に住むまでは似たり寄ったりな食生活だった。しかし料理の上達した花村が弁当を持たせてくれるようになったのだ。
「いただきます」
少し焦げた卵焼きを口に入れる。砂糖を混ぜた甘い卵焼きだ。美味しい。
あとはミートボールや串に刺されたトマトときゅうり、これまた甘い鶏そぼろ。全てが手作りではないが、どれも舌に合う。
「満足そうな顔して食べて……あんなに嫌だって騒いでたのに」
「いいんだよ、あいつ、俺に夢中だから」
「おいおい、あんま弄んでやるなよ」
串を咥えながら、冗談めかして言えば、坂元が肩をすくめる。
だがこれは冗談でも何でもなく、静に自覚があるほど、花村は静に夢中なように感じた。
しかし花村が好きなのは、一目惚れした静の綺麗な顔だ。ゲイの静とは違って、元々花村は女性が恋愛対象であったようなので、男の身体を見たら目が覚める可能性がある。
以前のような思いはしたくない。いくら好きだ、と言い寄られても絶対に好きになったりしないことを心に誓っている。
ちょうど二人が食事を終えた時、内線電話が鳴った。
変死だった。神田山交番の管内で独居の老人が部屋で亡くなっているのが発見されたらしい。刑事課が臨場したところ、既に亡くなっているのを確認。また遺体に傷や怪我などはなく、部屋も荒らされたり、侵入された跡はないことから病死だと思われるが、検視をするので警察医の立ち会いが必要となる。
その警察医の送迎を坂元と静にお願いしたいとのことであった。
今日の警察医の当番は花村である。
現場に行くわけでもない。警察医の送迎だけなので、作成書類を溜め込んでいる坂元を交番に置いていき、静ひとりで行くことにした。
それに坂元と花村を会わせたくない。両方が両方とも、余計なことをいう気がしている。
パトカーで花村邸へと向かう。門の前にパトカーを駐車し、インターフォンを押すが、花村が出てくる気配はない。
内勤当直から、検視の立ち合い要請の連絡があったはずだ。
「もしかしてあいつ、二度寝したのか?」
インターフォンを三回押し、十分待ったが、何の音もしない。
「なめてんのか、叩き起こしてやる」
静は玄関から、邸内へと入った。
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