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エンドレス「地下迷宮」編
第50話 魔神の中
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灰色な止まった世界。
舞い散る砂や熱気すら止まっている。
ここで動けるのは僕の意識だけ。だけ──なはずなんだけど……。
うぅ……なんだかハルママに見られてるようなプレッシャー……。
(な~んかあの自信満満な感じが不安にさせるんだよなぁ……)
それでも僕はハルのため、そして僕らパーティーのため、そしてひょっとしたらちょこっとだけもしかしたら人類のため。
すごくいや~なプレッシャーに耐えながら気合でカーソルをハルママの頭の上に合わせる。
するとハルママのステータス欄がぐわっと浮かび上がってきて──。
シュゥゥゥン──。
と、僕を飲み込んでいった。
少しの肌寒さを感じながら目を開ける。
「えっ!?」
ない。
足元が。
地面が。
「ない~~~~~!?」
落ちてる。落下。急落下。急降下。
「アオちゃんっっっ!」
「ゆっ!」
よかった、いた!
アオちゃんが翼になって風を受け止め、僕の体はゆっくりと真っ暗な『穴』の中を降下していく。
「なんなんだろうね、ここ……」
「ゆ……なんか怖いゆ」
徐々に視界が慣れてくる。
周囲を囲む壁には階段がついている。
「これ使って上り下りするのかな?」
「ゆ~、疲れそうゆ~」
っていうか。
帰れるのかな。
そんな言葉が一瞬出そうになるけど、僕は「おと~しゃま」だ。
弱気なことを言ってアオちゃんを怖がらせるわけにはいかない。
「大丈夫、僕とアオちゃんなら必ず戻れるよ。だって僕ら『さいきょ~コンビ』でしょ?」
「ゆ! たしかにそうゆ! おと~しゃまとアオはさいきょ~コンビゆ!」
「うん、だから大丈夫!」
アオちゃんに虚勢を張ってるとなんだか僕まで元気が出てきた。
ありがとうアオちゃん。
心のなかでアオちゃんへの感謝を告げると、真っ暗な穴の底に薄らぼんやりと数字が見えてきた。
ほとんどが金色に光ってる。
「あったね……ステータス」
「ゆ。深いだけで中身は同じっぽいゆ~」
僕は目を凝らす。
魔神。
さてさて、そのステータスは一体どんなものなんでしょう。
名前 アキ・ミストウッド
称号 混者
種族 魔神(怠惰)
性別 女
年齢 35
LV 888
HP 888
SP 888
STR 888
DEX 888
VIT 888
AGI 888
MND 888
LUK 1
CRI 1
CHA 888
なんか!
なんかめちゃめちゃ「8」!
そして名前「アキ・ミストウッド」。
本人で間違いなし。
ハルのお母さんだ。
称号『混者』。
人と魔神が混じってるから?
種族『魔神(怠惰)』。
怠惰とは?
七つに分断されたとか言ってたけど、それとなにか関係あるんだろうか。
年齢35才。
LUKとCRIは「1」。
なんか悪魔系ってここらへん低いよね。
にしても……。
動かすもの、ないなぁ。
年齢くらい?
でも勝手に20才くらいも老けさせたら怒るだろうなぁ。
となると、ここで僕に出来ることは特になにもないかぁ。
まぁ別にデバフをかけたいわけじゃないからね。
これだけ強かったらバフも必要ないだろうし。
「8」のちょうどつなぎ目のところに降り立った僕たち。
アオちゃんが普段の幼女姿に戻る。
さて。
「着いたばっかだけど、もう十分見れたから帰ろうか?」
「ゆ? 階段上るゆ? 大変そうゆ」
「そうだね~、でもスキル解除したらどうにかならないかな?」
そう言って僕を見上げるアオちゃんのほっぺを指でなでた時。
「おやおや、ずいぶんと早いお帰りじゃないか」
「!」
背後。
振り向く。
浮いてる。
女。
魔神?
一見ハルママ。
でもハルママよりも角がえぐくて、なんかでっかい黒い翼が生えてる。
豪華な黒マントなんかも羽織っちゃってて頭の横っちょには小さな王冠が乗っかってる。
(落ちないのかな……?)
「落ちんぞ。魔力で固定されているからな」
(心を、読んだ……!?)
「人の中に勝手に入ってきてごちゃごちゃ考え回される方の身にもなってみよ」
う~ん、会話になってない気がするけど勝手に入ってるのは事実。
「すみません、お邪魔してます」
「うむ、よい。妾の欠片が許可したのだからな」
え、いいんだ!?
話せばわかる意外といい人なのかもしれない。
「ゆ? 誰ゆ?」
「あ? 貴様は自分の家に虫けらが入り込んできたとして、いちいち自己紹介したりするのか? 我が名はルシフェール。いずれこの腐りきった世界を漆黒の闇で覆い尽くす者だ」
「結局名乗っちゃうゆ!?」
「出血大サービスじゃ」
「あの……魔神さん、ですよね? たぶん完全体の。もしかしてずっと封印されてたから寂しかったりとかしますか?」
「うぅ……! さ、寂しい……!? この魔を司る妾が寂しいだと……!? な、ないっ! そんなことは絶対に一切、微塵たりもないぞ!」
(ありそう……)
「ないないないない! 寂しくなんかないんじゃからな!」
「寂しくないなら僕らもう帰ってもいいですよね? ステータスも見たし」
「ちょい待ち! いくらなんでも早く帰りすぎじゃろ! せっかくだからもうちょっとゆっくりしていっても……」
「いやです」
「なんでぇ~!?」
だんだんキャラが崩壊してきてる魔神ルシフェールさん。
「大体ですね、なんですかここ? 入ってきてめちゃめちゃ落下したんですけど? アオちゃんいなかったら死んでましたよ? こういうのはよくないですよ、ほんとに」
「うぅ……たしかに……それはすまんかった……」
「魔神さんも封印されて大変なんですよね? しかも七つに分断されて」
「そう……! そうなんじゃ! いや~、ほんとに大変! なんせ封印されてからというものめっきり退屈でな! こうして久々に精神体の我と会話できる者が来てウキウキなのじゃ……って、ハッ……!」
「へぇ~、ウキウキなんですね」
「魔神様、ウキウキゆ?」
「ウ、ウキウキではない! 絶対違うぞ! 妾は断じてウキウキなんてしておらん! 言いえてウクウク……いや、ウワウワくらいのものか……? それとも……ブツブツ」
僕らのツッコミに動揺しながらよくわからないことを口走る魔神さん。
よし、勝負をかけるならここだな。
「じゃあ、取引しましょう!」
「なに……? 取引、じゃと?」
すっかり心を読む余裕すらなくなったルシフェールは訝しげな顔を向ける。
「はい! 取引です! 僕はハルやハルのママ、アオちゃんにラクと一緒にこれから迷宮を冒険します! で、その先々で魔神さんの封印された残り六つの断片があるわけじゃないですか?」
「うむ、七つの大罪にあつらえて人の体を勝手に切り刻みよって、あのクソ神どもが……」
「それで、です!」
「うむ?」
「ハルのママは『残りの断片を回収する』って言ってました!」
「そうじゃな、おそらく封印の薄まりかけている他の断片が手がつけられなくなる前に吸収──同化、じゃったか? しようとしとるのじゃろうな」
「はい。そのハルのママが残りの断片を吸収した際に、人類にあだなさないでもらえませんかね?」
「ないな。神の手先たる人族なぞ滅ぼすの一手じゃ」
「とはいえ偉大なる魔神ルシフェール様なら人を滅ぼすなんていつでも出来ましょう。せめて僕が生きてる間、いやアオちゃんが生きてる間くらいは、ね?」
「ふむ……ちょっとよく聞こえなかったからもう一回言ってもらってもいいかの……その、最初の方のところを」
「はい、偉大なる魔神ルシフェール様!」
ピクリとルシフェールの尻尾が揺れる。
獣人みたいだな、と僕は思う。
「う~ん、どうしようかの~。あんまりバレバレのおべっかを使われて気分が良くなるような間抜けではないからのう妾は……」
「偉大なる!」
ピクっ。
「魔神! ルシフェール! 様!」
ピククッ。
「偉大なる魔神ルシフェール様! どうかお願いします!」
ピクククッ。
「うむ……仕方がないのう! そこまで言われてはのう! いくら貴賤のものとはいえ、ここまで敬意を示されて応えぬのも妾の沽券に関わる。ということで!」
もにょるルシフェール。
「もごもご……その……貴様らがたまにここに来て妾の話し相手になってくれたら……その、考えてやらんでもないぞ……」
「はい! 交渉成立! 僕たちがここに五日に一回話しに来る代わり、ルシフェール様は人類に危害を加えない! いいですね!?」
「いや、ちょっと待て! 五日は長すぎる! せめて毎日……いや、二日に一回!」
「四日に一回!」
「んん~……! 三日に一回ならどうじゃ!?」
「オッケーそれで! ってことで交渉成立です!」
「お、おぅ……なんか勢いで成立してしまったが……」
「守ってくださいね、約束! まさか魔神様ともあろう方が破ったりしませんよね?」
にっこり。
「ゆ! 魔神様は約束を破るような方じゃないゆ!」
アオちゃんもダメ押しアシスト。
「う、うむ! と、当然じゃ! 妾を一体誰だと思っているのじゃ! 世の魔を司る魔神ルシフェールじゃぞ!」
「さすがルシフェール様です! では、また三日後に来ますので、よろしくお願いしま~す!」
「あっ、ちょっと待っ……! 必ず……必ず来てくれよぉ~……!」
情けない顔をしてすがる魔神ルシフェールを置いて、僕らは現実へと帰還した。
カラフルな世界の中で佇むみんなに向かって親指グー!
「って、カイトもう入ってきたの?」
「どうだったにょ? 魔神ママさんのステータスは」
「これで私もハルも同じイケメンくんに中に入れられちゃった親子丼ね~」
「ちょ! お母さん何言ってるのっ!」
「まぁ~、普通にお母さんって呼んでくれるのね~、嬉しいわ~」
「いや、そんなことじゃなくて!」
賑やかな僕の仲間。
頼もしい僕のパーティー。
「ハル!」
「ん?」
「ラク!」
「にょ?」
「アオちゃん!」
「ゆ~」
「そして、ハルのお母さんことアキさん!」
「はぁ~い」
ダンスキーたちに捨てられた僕は。
ハルと出会って、アオちゃんと出会って、ロンやメラさんと出会って、リュウくんたちと出会って、ラクと出会って、GDペアと出会って、アキさんと出会った。
アオちゃんいわくの「さいきょ~コンピ」ならぬ「さいきょ~パーティー」。
最強幸運少女ハル。
最強魔物アオちゃん。
天才魔法少女獣人ラク。
魔神の一欠片と同化したアキさん。
そして。
みんなの中に入ってステータスを動かしたり、魔神(完全体かつ精神体)とお話したりして人類を危機から救ってるような救ってないような僕。
さいきょ~パーティー。
最強パーティーだ。
エンドレスの地下迷宮を踏破した二組目のパーティー。
いける、僕らならすべての迷宮の最深部に。
「登りましょう、塔を!」
そして魔神が復活しかけてるのかどうなのか。
その調査と対処を行う。
別に冒険者ギルドからの依頼ってわけじゃない。
僕らがしたいんだ。
いや、するべきだと思う。
だって、僕らは──。
冒険者、なんだから!
【第一部エンドレス地下迷宮編 完】
────────────
【あとがき】
エンドレス編、最後まで読んでいただいてありがとうございます。
タイトルに偽りなく魔神さんを含めた文字通りの「真の最強パーティー」を作り上げたところで約十二万文字。文庫本一冊サイズで第一部終了です。
ということで、とりあえずここで一旦完結にさせてください。
今回は「バリバリテンプレを書くぞ~!」と意気込んで書き始めたんですが、どうだったでしょうか……。テンプレになってたんでしょうか、これ……? コメントなんかいただけたらとても嬉しいです。
すぐにまた新しい作品も書き始めると思うので、ぜひそちらもよろしくお願いします。
あと、よかったら作者フォローもぜひ!
では、『僕だけ入れちゃうステータス欄』。約12万文字を読んでいただいてありがとうございました~!
舞い散る砂や熱気すら止まっている。
ここで動けるのは僕の意識だけ。だけ──なはずなんだけど……。
うぅ……なんだかハルママに見られてるようなプレッシャー……。
(な~んかあの自信満満な感じが不安にさせるんだよなぁ……)
それでも僕はハルのため、そして僕らパーティーのため、そしてひょっとしたらちょこっとだけもしかしたら人類のため。
すごくいや~なプレッシャーに耐えながら気合でカーソルをハルママの頭の上に合わせる。
するとハルママのステータス欄がぐわっと浮かび上がってきて──。
シュゥゥゥン──。
と、僕を飲み込んでいった。
少しの肌寒さを感じながら目を開ける。
「えっ!?」
ない。
足元が。
地面が。
「ない~~~~~!?」
落ちてる。落下。急落下。急降下。
「アオちゃんっっっ!」
「ゆっ!」
よかった、いた!
アオちゃんが翼になって風を受け止め、僕の体はゆっくりと真っ暗な『穴』の中を降下していく。
「なんなんだろうね、ここ……」
「ゆ……なんか怖いゆ」
徐々に視界が慣れてくる。
周囲を囲む壁には階段がついている。
「これ使って上り下りするのかな?」
「ゆ~、疲れそうゆ~」
っていうか。
帰れるのかな。
そんな言葉が一瞬出そうになるけど、僕は「おと~しゃま」だ。
弱気なことを言ってアオちゃんを怖がらせるわけにはいかない。
「大丈夫、僕とアオちゃんなら必ず戻れるよ。だって僕ら『さいきょ~コンビ』でしょ?」
「ゆ! たしかにそうゆ! おと~しゃまとアオはさいきょ~コンビゆ!」
「うん、だから大丈夫!」
アオちゃんに虚勢を張ってるとなんだか僕まで元気が出てきた。
ありがとうアオちゃん。
心のなかでアオちゃんへの感謝を告げると、真っ暗な穴の底に薄らぼんやりと数字が見えてきた。
ほとんどが金色に光ってる。
「あったね……ステータス」
「ゆ。深いだけで中身は同じっぽいゆ~」
僕は目を凝らす。
魔神。
さてさて、そのステータスは一体どんなものなんでしょう。
名前 アキ・ミストウッド
称号 混者
種族 魔神(怠惰)
性別 女
年齢 35
LV 888
HP 888
SP 888
STR 888
DEX 888
VIT 888
AGI 888
MND 888
LUK 1
CRI 1
CHA 888
なんか!
なんかめちゃめちゃ「8」!
そして名前「アキ・ミストウッド」。
本人で間違いなし。
ハルのお母さんだ。
称号『混者』。
人と魔神が混じってるから?
種族『魔神(怠惰)』。
怠惰とは?
七つに分断されたとか言ってたけど、それとなにか関係あるんだろうか。
年齢35才。
LUKとCRIは「1」。
なんか悪魔系ってここらへん低いよね。
にしても……。
動かすもの、ないなぁ。
年齢くらい?
でも勝手に20才くらいも老けさせたら怒るだろうなぁ。
となると、ここで僕に出来ることは特になにもないかぁ。
まぁ別にデバフをかけたいわけじゃないからね。
これだけ強かったらバフも必要ないだろうし。
「8」のちょうどつなぎ目のところに降り立った僕たち。
アオちゃんが普段の幼女姿に戻る。
さて。
「着いたばっかだけど、もう十分見れたから帰ろうか?」
「ゆ? 階段上るゆ? 大変そうゆ」
「そうだね~、でもスキル解除したらどうにかならないかな?」
そう言って僕を見上げるアオちゃんのほっぺを指でなでた時。
「おやおや、ずいぶんと早いお帰りじゃないか」
「!」
背後。
振り向く。
浮いてる。
女。
魔神?
一見ハルママ。
でもハルママよりも角がえぐくて、なんかでっかい黒い翼が生えてる。
豪華な黒マントなんかも羽織っちゃってて頭の横っちょには小さな王冠が乗っかってる。
(落ちないのかな……?)
「落ちんぞ。魔力で固定されているからな」
(心を、読んだ……!?)
「人の中に勝手に入ってきてごちゃごちゃ考え回される方の身にもなってみよ」
う~ん、会話になってない気がするけど勝手に入ってるのは事実。
「すみません、お邪魔してます」
「うむ、よい。妾の欠片が許可したのだからな」
え、いいんだ!?
話せばわかる意外といい人なのかもしれない。
「ゆ? 誰ゆ?」
「あ? 貴様は自分の家に虫けらが入り込んできたとして、いちいち自己紹介したりするのか? 我が名はルシフェール。いずれこの腐りきった世界を漆黒の闇で覆い尽くす者だ」
「結局名乗っちゃうゆ!?」
「出血大サービスじゃ」
「あの……魔神さん、ですよね? たぶん完全体の。もしかしてずっと封印されてたから寂しかったりとかしますか?」
「うぅ……! さ、寂しい……!? この魔を司る妾が寂しいだと……!? な、ないっ! そんなことは絶対に一切、微塵たりもないぞ!」
(ありそう……)
「ないないないない! 寂しくなんかないんじゃからな!」
「寂しくないなら僕らもう帰ってもいいですよね? ステータスも見たし」
「ちょい待ち! いくらなんでも早く帰りすぎじゃろ! せっかくだからもうちょっとゆっくりしていっても……」
「いやです」
「なんでぇ~!?」
だんだんキャラが崩壊してきてる魔神ルシフェールさん。
「大体ですね、なんですかここ? 入ってきてめちゃめちゃ落下したんですけど? アオちゃんいなかったら死んでましたよ? こういうのはよくないですよ、ほんとに」
「うぅ……たしかに……それはすまんかった……」
「魔神さんも封印されて大変なんですよね? しかも七つに分断されて」
「そう……! そうなんじゃ! いや~、ほんとに大変! なんせ封印されてからというものめっきり退屈でな! こうして久々に精神体の我と会話できる者が来てウキウキなのじゃ……って、ハッ……!」
「へぇ~、ウキウキなんですね」
「魔神様、ウキウキゆ?」
「ウ、ウキウキではない! 絶対違うぞ! 妾は断じてウキウキなんてしておらん! 言いえてウクウク……いや、ウワウワくらいのものか……? それとも……ブツブツ」
僕らのツッコミに動揺しながらよくわからないことを口走る魔神さん。
よし、勝負をかけるならここだな。
「じゃあ、取引しましょう!」
「なに……? 取引、じゃと?」
すっかり心を読む余裕すらなくなったルシフェールは訝しげな顔を向ける。
「はい! 取引です! 僕はハルやハルのママ、アオちゃんにラクと一緒にこれから迷宮を冒険します! で、その先々で魔神さんの封印された残り六つの断片があるわけじゃないですか?」
「うむ、七つの大罪にあつらえて人の体を勝手に切り刻みよって、あのクソ神どもが……」
「それで、です!」
「うむ?」
「ハルのママは『残りの断片を回収する』って言ってました!」
「そうじゃな、おそらく封印の薄まりかけている他の断片が手がつけられなくなる前に吸収──同化、じゃったか? しようとしとるのじゃろうな」
「はい。そのハルのママが残りの断片を吸収した際に、人類にあだなさないでもらえませんかね?」
「ないな。神の手先たる人族なぞ滅ぼすの一手じゃ」
「とはいえ偉大なる魔神ルシフェール様なら人を滅ぼすなんていつでも出来ましょう。せめて僕が生きてる間、いやアオちゃんが生きてる間くらいは、ね?」
「ふむ……ちょっとよく聞こえなかったからもう一回言ってもらってもいいかの……その、最初の方のところを」
「はい、偉大なる魔神ルシフェール様!」
ピクリとルシフェールの尻尾が揺れる。
獣人みたいだな、と僕は思う。
「う~ん、どうしようかの~。あんまりバレバレのおべっかを使われて気分が良くなるような間抜けではないからのう妾は……」
「偉大なる!」
ピクっ。
「魔神! ルシフェール! 様!」
ピククッ。
「偉大なる魔神ルシフェール様! どうかお願いします!」
ピクククッ。
「うむ……仕方がないのう! そこまで言われてはのう! いくら貴賤のものとはいえ、ここまで敬意を示されて応えぬのも妾の沽券に関わる。ということで!」
もにょるルシフェール。
「もごもご……その……貴様らがたまにここに来て妾の話し相手になってくれたら……その、考えてやらんでもないぞ……」
「はい! 交渉成立! 僕たちがここに五日に一回話しに来る代わり、ルシフェール様は人類に危害を加えない! いいですね!?」
「いや、ちょっと待て! 五日は長すぎる! せめて毎日……いや、二日に一回!」
「四日に一回!」
「んん~……! 三日に一回ならどうじゃ!?」
「オッケーそれで! ってことで交渉成立です!」
「お、おぅ……なんか勢いで成立してしまったが……」
「守ってくださいね、約束! まさか魔神様ともあろう方が破ったりしませんよね?」
にっこり。
「ゆ! 魔神様は約束を破るような方じゃないゆ!」
アオちゃんもダメ押しアシスト。
「う、うむ! と、当然じゃ! 妾を一体誰だと思っているのじゃ! 世の魔を司る魔神ルシフェールじゃぞ!」
「さすがルシフェール様です! では、また三日後に来ますので、よろしくお願いしま~す!」
「あっ、ちょっと待っ……! 必ず……必ず来てくれよぉ~……!」
情けない顔をしてすがる魔神ルシフェールを置いて、僕らは現実へと帰還した。
カラフルな世界の中で佇むみんなに向かって親指グー!
「って、カイトもう入ってきたの?」
「どうだったにょ? 魔神ママさんのステータスは」
「これで私もハルも同じイケメンくんに中に入れられちゃった親子丼ね~」
「ちょ! お母さん何言ってるのっ!」
「まぁ~、普通にお母さんって呼んでくれるのね~、嬉しいわ~」
「いや、そんなことじゃなくて!」
賑やかな僕の仲間。
頼もしい僕のパーティー。
「ハル!」
「ん?」
「ラク!」
「にょ?」
「アオちゃん!」
「ゆ~」
「そして、ハルのお母さんことアキさん!」
「はぁ~い」
ダンスキーたちに捨てられた僕は。
ハルと出会って、アオちゃんと出会って、ロンやメラさんと出会って、リュウくんたちと出会って、ラクと出会って、GDペアと出会って、アキさんと出会った。
アオちゃんいわくの「さいきょ~コンピ」ならぬ「さいきょ~パーティー」。
最強幸運少女ハル。
最強魔物アオちゃん。
天才魔法少女獣人ラク。
魔神の一欠片と同化したアキさん。
そして。
みんなの中に入ってステータスを動かしたり、魔神(完全体かつ精神体)とお話したりして人類を危機から救ってるような救ってないような僕。
さいきょ~パーティー。
最強パーティーだ。
エンドレスの地下迷宮を踏破した二組目のパーティー。
いける、僕らならすべての迷宮の最深部に。
「登りましょう、塔を!」
そして魔神が復活しかけてるのかどうなのか。
その調査と対処を行う。
別に冒険者ギルドからの依頼ってわけじゃない。
僕らがしたいんだ。
いや、するべきだと思う。
だって、僕らは──。
冒険者、なんだから!
【第一部エンドレス地下迷宮編 完】
────────────
【あとがき】
エンドレス編、最後まで読んでいただいてありがとうございます。
タイトルに偽りなく魔神さんを含めた文字通りの「真の最強パーティー」を作り上げたところで約十二万文字。文庫本一冊サイズで第一部終了です。
ということで、とりあえずここで一旦完結にさせてください。
今回は「バリバリテンプレを書くぞ~!」と意気込んで書き始めたんですが、どうだったでしょうか……。テンプレになってたんでしょうか、これ……? コメントなんかいただけたらとても嬉しいです。
すぐにまた新しい作品も書き始めると思うので、ぜひそちらもよろしくお願いします。
あと、よかったら作者フォローもぜひ!
では、『僕だけ入れちゃうステータス欄』。約12万文字を読んでいただいてありがとうございました~!
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面白かったです。続きが楽しみです。
naruto7775さん
コメントありがとうございます!
最後まで読んでいただいてとても嬉しいです!
楽しく読ませていただいています。所で、38話が飛んでるのですが?
zeroさん
コメントありがとうございます!
38話、今公開させていただきました!