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エンドレス「地下迷宮」編
第46話 扉
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「もう逃げ場はなくなったみたいだけど?」
見るからに重そうな巨大な石造りの扉。
見かたによっては醜く歪んだ悪魔の顔のようにも見える紋様が刻まれたそれ。
対峙してるだけで無性に身震いがしてくる。
背筋に垂れた汗が服に張り付く。
その不吉な扉に背を付けた半魔の売人ビンフは、なんとも言い難い複雑な表情でひとりごちる。
「なぜ……なぜ私はこんなに逃げ惑った……? なぜこんなに追い詰められている? なぜ……? 人間であることを捨て、人という存在を遥かに超越したはずのこの私が、なぜこんなに追い詰められているのだ……?」
「元が人だったならわかるだろ」
「わからぬ……人のような脆弱な生き物に上位生命たる私が追われるなど、絶対にあってはなあらぬことだ……」
「いやだからさぁ、その前提が間違ってると思うんだよね」
「はぁ?」
「ほら、だって生き物に上とか下とかなくない? たとえばこのアオちゃんなんて誰よりも強いし」
「……は? スライムごときがこの魔を極めた私よりも強い、だと……?」
「う~ん、魔を極めたって言うけど今のキミの魔力は『19』だよ? それにラクの魔力はキミの元の魔力『91』よりも多い『94』だよ? まぁ、僕のバフ込みだけど」
「なに? なにを言ってる? 19? 94?」
「うん、だからステータスの数字。言わなかったっけ? 僕、バッファーなんだって」
「能力を……数値化出来るのか貴様は……。いや、数値化した能力を視れるのか……。それに、自在に形を変えることの出来て確固たる意志を持ったレアスライム。そして魔に身を捧げた私以上の魔力を持った人間、か……」
「それにこの状況を生んでくれたのはすべてハルのLUKのおかげだ。ハルがいたからこそ僕らはこうして出会って一緒にパーティーを組めてるんだから。ねっ」
ハルと目で会話。
ハルは隙なくレイピアを構えている。
ほんとにまだレベル2のままだってのに。
麻薬中毒化したダンスキーたち。
ラク。
GDペア。
そしてこの半魔ビンフ。
出会ってたった数日間で、ずっとレベル2のまま数々の敵と戦ってきた僕のラブな女の子。
彼女と出会った瞬間から、僕のダメダメだった人生は一気に好転したんだ。
「LUK……LUKだと……? そんなもので私が……この私が……」
「そんなもの、じゃないね。みんな出来ることは一長一短。だれだって一人で何でも出来るわけじゃない。特に僕なんか人の能力を伸ばしたり、逆に縮めたりするだけだよ。一人だと無力な存在。だから、こうして力を合わせることによってお前をこうやって追い詰めることが出来てるんだ、ビンフ」
「この私に説教?」
「説教じゃない、事実さ。キミはここで負ける。そしてキミが行ってきてたエンドレスでの魔薬汚染もこれで終わりだ」
「終わらんよ。終わるもんかね。むしろ始まるのさ、魔が人を滅ぼす裁きの夜がね!」
「はい? デーモ……」
悪魔、というか、でっかい甲殻類のような姿になったビンフが愉しそうに嗤う。
「そうか……そうだったかぁ! 気付いたぁ、気づいたぞぉ! 主、私! 私だったのですねぇ! あなた様の封印を解きし最後の鍵はッ! 七つに刻まれ迷宮に封印されし我が主! その大罪が一つ! 『麻薬中毒』っ! その咎をっ! 私が! 晴らすのですねぇ! この、命を持ってェェェェェェェ!」
「なんか様子がおかしい! 気をつけて!」
僕は先頭に立ち、アオちゃんダガーを構える。
そしてビンフは僕目がけて飛びかかってくる。
すかさずスキルを発動。
『枠入自在』
時を止め、灰色の世界の中でビンフを観察。
攻撃方法は……。
両手を広げて捨て身の攻撃。
リーチを活かしての玉砕覚悟。
マズい。
これは躱せないかも。
仮に躱せたとしても、後ろにいるハルたちに被害が……。
『枠入自在』
コマ送りで向かってくるビンフに対して覚悟を決める。
『枠入自在』
やるしかない。
『枠入自在』
命がけで飛び込んできてるんだ。
『枠入自在』
ならば、こちらも命をかけて。
『枠入自在』
向かえ撃つ!
『枠入自在』
『枠入自在』
『枠入自在』
『枠入自在』
何度も止めながら位置を調整。
『枠入自在』
『枠入自在』
『枠入自在』
甲殻の隙間。
ハルがレイピアで刺した脇腹のあたり。
そこに狙いをつけてアオちゃんダガーを突き刺していく。
『枠入自在』
ズッ……。
『枠入自在』
ズズズッ……。
『枠入自在』
上手く飲み込まれていく。
『枠入自在』
グッ──。
『枠入自在』
手のひらに伝わってくる嫌な肉の感触。
『枠入自在』
アオちゃんダガーを限界まで突き刺した僕は。
『枠入自在』
現実世界に戻り、脇腹を一気に切り裂く。
ザッパァァァン──!
悪魔でも血は赤いらしい。
横向きの噴水のように噴き出す赤を見たビンフはよろりとよろけた後。
「やはり……こうなるのか……。嗚呼、我が主! 今から私はそちらに逝きますぅぅぅぅぅ!」
そう歓喜に満ちた叫び声を上げて。
自らの胸に右腕を突き立て。
自身の心臓を取り出すと。
扉へと思いきり叩きつけた。
狂信者──。
僕の頭にステータス欄の中で見たビンフの称号がよぎる。
そして。
開かずの扉が。
ゆっくりと。
開いていった。
見るからに重そうな巨大な石造りの扉。
見かたによっては醜く歪んだ悪魔の顔のようにも見える紋様が刻まれたそれ。
対峙してるだけで無性に身震いがしてくる。
背筋に垂れた汗が服に張り付く。
その不吉な扉に背を付けた半魔の売人ビンフは、なんとも言い難い複雑な表情でひとりごちる。
「なぜ……なぜ私はこんなに逃げ惑った……? なぜこんなに追い詰められている? なぜ……? 人間であることを捨て、人という存在を遥かに超越したはずのこの私が、なぜこんなに追い詰められているのだ……?」
「元が人だったならわかるだろ」
「わからぬ……人のような脆弱な生き物に上位生命たる私が追われるなど、絶対にあってはなあらぬことだ……」
「いやだからさぁ、その前提が間違ってると思うんだよね」
「はぁ?」
「ほら、だって生き物に上とか下とかなくない? たとえばこのアオちゃんなんて誰よりも強いし」
「……は? スライムごときがこの魔を極めた私よりも強い、だと……?」
「う~ん、魔を極めたって言うけど今のキミの魔力は『19』だよ? それにラクの魔力はキミの元の魔力『91』よりも多い『94』だよ? まぁ、僕のバフ込みだけど」
「なに? なにを言ってる? 19? 94?」
「うん、だからステータスの数字。言わなかったっけ? 僕、バッファーなんだって」
「能力を……数値化出来るのか貴様は……。いや、数値化した能力を視れるのか……。それに、自在に形を変えることの出来て確固たる意志を持ったレアスライム。そして魔に身を捧げた私以上の魔力を持った人間、か……」
「それにこの状況を生んでくれたのはすべてハルのLUKのおかげだ。ハルがいたからこそ僕らはこうして出会って一緒にパーティーを組めてるんだから。ねっ」
ハルと目で会話。
ハルは隙なくレイピアを構えている。
ほんとにまだレベル2のままだってのに。
麻薬中毒化したダンスキーたち。
ラク。
GDペア。
そしてこの半魔ビンフ。
出会ってたった数日間で、ずっとレベル2のまま数々の敵と戦ってきた僕のラブな女の子。
彼女と出会った瞬間から、僕のダメダメだった人生は一気に好転したんだ。
「LUK……LUKだと……? そんなもので私が……この私が……」
「そんなもの、じゃないね。みんな出来ることは一長一短。だれだって一人で何でも出来るわけじゃない。特に僕なんか人の能力を伸ばしたり、逆に縮めたりするだけだよ。一人だと無力な存在。だから、こうして力を合わせることによってお前をこうやって追い詰めることが出来てるんだ、ビンフ」
「この私に説教?」
「説教じゃない、事実さ。キミはここで負ける。そしてキミが行ってきてたエンドレスでの魔薬汚染もこれで終わりだ」
「終わらんよ。終わるもんかね。むしろ始まるのさ、魔が人を滅ぼす裁きの夜がね!」
「はい? デーモ……」
悪魔、というか、でっかい甲殻類のような姿になったビンフが愉しそうに嗤う。
「そうか……そうだったかぁ! 気付いたぁ、気づいたぞぉ! 主、私! 私だったのですねぇ! あなた様の封印を解きし最後の鍵はッ! 七つに刻まれ迷宮に封印されし我が主! その大罪が一つ! 『麻薬中毒』っ! その咎をっ! 私が! 晴らすのですねぇ! この、命を持ってェェェェェェェ!」
「なんか様子がおかしい! 気をつけて!」
僕は先頭に立ち、アオちゃんダガーを構える。
そしてビンフは僕目がけて飛びかかってくる。
すかさずスキルを発動。
『枠入自在』
時を止め、灰色の世界の中でビンフを観察。
攻撃方法は……。
両手を広げて捨て身の攻撃。
リーチを活かしての玉砕覚悟。
マズい。
これは躱せないかも。
仮に躱せたとしても、後ろにいるハルたちに被害が……。
『枠入自在』
コマ送りで向かってくるビンフに対して覚悟を決める。
『枠入自在』
やるしかない。
『枠入自在』
命がけで飛び込んできてるんだ。
『枠入自在』
ならば、こちらも命をかけて。
『枠入自在』
向かえ撃つ!
『枠入自在』
『枠入自在』
『枠入自在』
『枠入自在』
何度も止めながら位置を調整。
『枠入自在』
『枠入自在』
『枠入自在』
甲殻の隙間。
ハルがレイピアで刺した脇腹のあたり。
そこに狙いをつけてアオちゃんダガーを突き刺していく。
『枠入自在』
ズッ……。
『枠入自在』
ズズズッ……。
『枠入自在』
上手く飲み込まれていく。
『枠入自在』
グッ──。
『枠入自在』
手のひらに伝わってくる嫌な肉の感触。
『枠入自在』
アオちゃんダガーを限界まで突き刺した僕は。
『枠入自在』
現実世界に戻り、脇腹を一気に切り裂く。
ザッパァァァン──!
悪魔でも血は赤いらしい。
横向きの噴水のように噴き出す赤を見たビンフはよろりとよろけた後。
「やはり……こうなるのか……。嗚呼、我が主! 今から私はそちらに逝きますぅぅぅぅぅ!」
そう歓喜に満ちた叫び声を上げて。
自らの胸に右腕を突き立て。
自身の心臓を取り出すと。
扉へと思いきり叩きつけた。
狂信者──。
僕の頭にステータス欄の中で見たビンフの称号がよぎる。
そして。
開かずの扉が。
ゆっくりと。
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