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エンドレス「地下迷宮」編
第34話 ラクの実力
しおりを挟むお兄さんに手を引かれて、翔はひょこひょこと歩きながら、またあの古臭いアパートに戻ってきた。
お兄さんは首輪を外して翔の体を自由にした。拘束具の重みが無くなると体は軽くなった。
しかし翔の気分は重く落ち込んでいた。
お兄さんは部屋に入ると急いですぐにどこにあったか知らないスケッチブックに何かを描き始める。しゃっ、しゃっ、と鉛筆が紙に線を描く音だけが一室の空間に響く。
帰ってくるまでの間、お兄さんは何か夢中で考え込んでいるようだった。その集中している様子は楽しそうにも見えた。
翔はそんなお兄さんを前に見ながら、どこからともなく来る悪寒のようなものを感じながら一人不安になっていたのだった。
お兄さんが一通り何かスケッチブックに書き留め終わったようで、顔をあげると、翔はお兄さんと目が合って反射的にビクッとしてしまった。
「汗かいたよね?べとべとしてるでしょ」
翔は気づかなかったが、今日は湿度が高く、先程まで外にいたので汗をかいていたようだった。
きっと、お兄さんの恐怖の一言のせいで出た冷や汗もその汗に含まれているだろう。
また、一言の大きな衝撃によって忘れそうになっていたが、昨日の夜に初めて体験した、多分セックスというものをいつの間にか、また同じようにやってしまっていたのを思い出す。
それでも汗をかいたようだ。
お兄さんが翔に近づく。
無言で後ろに体を引きずった。
お兄さんがくるのが怖い。
脳裏には土の中に埋まっていた閉じた瞼の記憶が焼き付いている。
お兄さんは翔に避けられるのを少し不思議そうにしてから、納得したように、ああ、と息を漏らした。
「大丈夫だよ、翔を殺すなんて勿体ないこと俺もしたくないからさ」
そう言って距離を詰めてくる。
翔がそれでも後ろに逃げるが、とうとう壁にぶつかった。
翔はぎゅっと目をつぶった。
翔は今朝まではまあまあ自由にしていたはずだが、今は、拘束具もついていないのに体が硬直しているみたいに自由に動けない。
自分が土に埋められる想像を度々してしまうからだ。
「運動したし、朝風呂にでも入ろうよ」
そう言うお兄さんは極めて普通の人に見える。
翔は自分にとってこんなに不可解なことははじめてだった。
お兄さんに手を握られる。
翔は暴れたりはできなかった。
そのままお風呂場に連れていかれる。
「翔、一瞬でいい子になったなぁ~」
お風呂場の扉の前で振り返ったお兄さんが翔の頭をぽんぽんと撫でながら褒めてくる。
警戒心は解けないが、本当はあんな怖いお兄さんは嘘だったんじゃないか、と恐怖心は疑問を含んだものになってしまう。
言葉を発しない翔をそのままお風呂場に入れると、お兄さんは湯船にお湯をため始めた。
お兄さんも裸になって、後ろ側にまわって翔を床にペタンと座らせると、土で汚れた翔の体を丁寧に洗い始めた。翔はなされるままだ。
前にもこんなことがあった。
逃げようとして外にでた後にお兄さんに足を洗ってもらったんだ。
一通り体を洗い終わるとお兄さんは翔と向き合うようにした。
「ちょっと下向いて背中丸めてくれる?」
翔が言う通りにすると、お兄さんは翔のおしりの中に指を入れて何かを掻き出すように洗い出した。
「…っん」
さっき擦られていたところが腫れているのだろうか、なんにせよそこに指が当たって少し気持ちよさを感じた翔は、気まずくなって苦い顔をした。
あんなに気持ちいいことがあるのを知ったあとで、こんなに怖くなることも知ってしまった翔は、少し大人になってしまった。
さっき入れた白い液体を掻き出しているようだ。
そこで翔は忘れていた心配事を思い出した。
「あのさ、俺、赤ちゃんできる?」
お兄さんは一瞬きょとんとしたが、すぐに思い出して、笑みを含んだ顔でこう言った。
「うん、できるよ。だって翔は俺のお嫁さんなんだから」
湯船のお湯がちょうどよく溜まってきたところで、お兄さんはきゅっと蛇口をしめる。
少し手狭な湯船に手を突っ込んで温度を確かめると、お兄さんはまた蛇口をひねって今度は冷たい水を入れ始めた。
自動式で沸くお風呂にしか入ったことの無い翔は少し興味深くその動作を見ていた。
熱すぎたお湯をちょっとぬるくした右側の湯船に翔は入るように促される。
ゆっくりと足を入れるといつもの風呂より底が深い。
翔が胸までつかると、お兄さんが横に入ってきた。
ざぶーん、と一瞬お湯が溢れ出た。
翔は小学校高学年になってからお母さんとはお風呂に入らなくなり、一人で入るようになっていたので誰かとお風呂に入るのは久しぶりだった。
「ふ~~」
お兄さんが気持ちよさそうにして、足と手をこちらの方まで少し伸ばす。
そうするとこの狭い湯船では翔はお兄さんに体ごと抱きしめられるみたいになってしまう。
「………」
お風呂場についている曇りガラスの窓からはまだ明るい光が差し込んでおり、それが朝に入るお風呂の妙な空気感を作り出している。
今頃本当は学校で1時間目の授業でも受けているところだろう。家ではお母さんが洗濯物でも干しているんだろうな。
翔はまたぽろぽろと涙が出てきた。
昨日までは色々と刺激的なことが沢山あって忙しかったので何かじっくり考える暇もなくて平気だったが、日常のことを思い出してしまったら、やっぱり心細くなる。
帰りたい。
でももう帰れないのかもしれない。
その現実味が小さな翔に重くのしかかった。
お兄さんは変なところで人間味があるのかないのかよく分からない。
お兄さんは震える翔の体を抱き寄せる。
翔は涙をぽろぽろとこぼした。
お兄さんは涙が流れ落ちる翔のほっぺに優しいキスをした。
「大丈夫だよ、これからずっと一緒だから」
お兄さんは首輪を外して翔の体を自由にした。拘束具の重みが無くなると体は軽くなった。
しかし翔の気分は重く落ち込んでいた。
お兄さんは部屋に入ると急いですぐにどこにあったか知らないスケッチブックに何かを描き始める。しゃっ、しゃっ、と鉛筆が紙に線を描く音だけが一室の空間に響く。
帰ってくるまでの間、お兄さんは何か夢中で考え込んでいるようだった。その集中している様子は楽しそうにも見えた。
翔はそんなお兄さんを前に見ながら、どこからともなく来る悪寒のようなものを感じながら一人不安になっていたのだった。
お兄さんが一通り何かスケッチブックに書き留め終わったようで、顔をあげると、翔はお兄さんと目が合って反射的にビクッとしてしまった。
「汗かいたよね?べとべとしてるでしょ」
翔は気づかなかったが、今日は湿度が高く、先程まで外にいたので汗をかいていたようだった。
きっと、お兄さんの恐怖の一言のせいで出た冷や汗もその汗に含まれているだろう。
また、一言の大きな衝撃によって忘れそうになっていたが、昨日の夜に初めて体験した、多分セックスというものをいつの間にか、また同じようにやってしまっていたのを思い出す。
それでも汗をかいたようだ。
お兄さんが翔に近づく。
無言で後ろに体を引きずった。
お兄さんがくるのが怖い。
脳裏には土の中に埋まっていた閉じた瞼の記憶が焼き付いている。
お兄さんは翔に避けられるのを少し不思議そうにしてから、納得したように、ああ、と息を漏らした。
「大丈夫だよ、翔を殺すなんて勿体ないこと俺もしたくないからさ」
そう言って距離を詰めてくる。
翔がそれでも後ろに逃げるが、とうとう壁にぶつかった。
翔はぎゅっと目をつぶった。
翔は今朝まではまあまあ自由にしていたはずだが、今は、拘束具もついていないのに体が硬直しているみたいに自由に動けない。
自分が土に埋められる想像を度々してしまうからだ。
「運動したし、朝風呂にでも入ろうよ」
そう言うお兄さんは極めて普通の人に見える。
翔は自分にとってこんなに不可解なことははじめてだった。
お兄さんに手を握られる。
翔は暴れたりはできなかった。
そのままお風呂場に連れていかれる。
「翔、一瞬でいい子になったなぁ~」
お風呂場の扉の前で振り返ったお兄さんが翔の頭をぽんぽんと撫でながら褒めてくる。
警戒心は解けないが、本当はあんな怖いお兄さんは嘘だったんじゃないか、と恐怖心は疑問を含んだものになってしまう。
言葉を発しない翔をそのままお風呂場に入れると、お兄さんは湯船にお湯をため始めた。
お兄さんも裸になって、後ろ側にまわって翔を床にペタンと座らせると、土で汚れた翔の体を丁寧に洗い始めた。翔はなされるままだ。
前にもこんなことがあった。
逃げようとして外にでた後にお兄さんに足を洗ってもらったんだ。
一通り体を洗い終わるとお兄さんは翔と向き合うようにした。
「ちょっと下向いて背中丸めてくれる?」
翔が言う通りにすると、お兄さんは翔のおしりの中に指を入れて何かを掻き出すように洗い出した。
「…っん」
さっき擦られていたところが腫れているのだろうか、なんにせよそこに指が当たって少し気持ちよさを感じた翔は、気まずくなって苦い顔をした。
あんなに気持ちいいことがあるのを知ったあとで、こんなに怖くなることも知ってしまった翔は、少し大人になってしまった。
さっき入れた白い液体を掻き出しているようだ。
そこで翔は忘れていた心配事を思い出した。
「あのさ、俺、赤ちゃんできる?」
お兄さんは一瞬きょとんとしたが、すぐに思い出して、笑みを含んだ顔でこう言った。
「うん、できるよ。だって翔は俺のお嫁さんなんだから」
湯船のお湯がちょうどよく溜まってきたところで、お兄さんはきゅっと蛇口をしめる。
少し手狭な湯船に手を突っ込んで温度を確かめると、お兄さんはまた蛇口をひねって今度は冷たい水を入れ始めた。
自動式で沸くお風呂にしか入ったことの無い翔は少し興味深くその動作を見ていた。
熱すぎたお湯をちょっとぬるくした右側の湯船に翔は入るように促される。
ゆっくりと足を入れるといつもの風呂より底が深い。
翔が胸までつかると、お兄さんが横に入ってきた。
ざぶーん、と一瞬お湯が溢れ出た。
翔は小学校高学年になってからお母さんとはお風呂に入らなくなり、一人で入るようになっていたので誰かとお風呂に入るのは久しぶりだった。
「ふ~~」
お兄さんが気持ちよさそうにして、足と手をこちらの方まで少し伸ばす。
そうするとこの狭い湯船では翔はお兄さんに体ごと抱きしめられるみたいになってしまう。
「………」
お風呂場についている曇りガラスの窓からはまだ明るい光が差し込んでおり、それが朝に入るお風呂の妙な空気感を作り出している。
今頃本当は学校で1時間目の授業でも受けているところだろう。家ではお母さんが洗濯物でも干しているんだろうな。
翔はまたぽろぽろと涙が出てきた。
昨日までは色々と刺激的なことが沢山あって忙しかったので何かじっくり考える暇もなくて平気だったが、日常のことを思い出してしまったら、やっぱり心細くなる。
帰りたい。
でももう帰れないのかもしれない。
その現実味が小さな翔に重くのしかかった。
お兄さんは変なところで人間味があるのかないのかよく分からない。
お兄さんは震える翔の体を抱き寄せる。
翔は涙をぽろぽろとこぼした。
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