僕だけ入れちゃうステータス欄 ~追放された凄腕バッファーは、たまたま出会った新人冒険者たちと真の最強パーティーを作り上げる~

めで汰

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エンドレス「地下迷宮」編

第31話 皮剥ぎゴーディー

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 時の止まった灰色の世界の中で僕の視界に映る二人組の男女を観察する。

 まず男の方。ロンから『皮剥ぎゴーディー』と呼ばれていたそいつは頭にデカいバンダナを巻いていて、その下から敵意むき出しな視線がギロリ。腰の左右には双剣。たぶん近接職。

 次に女の方。長い髪の毛を全部後ろにごわっとひっつめた超長いポニーテールがお尻のあたりまでぷらんと垂れてる。高級そうな仕立ての黒ピタピタ全身革ボンテージはどこか変態っぽい。左手にはこれまた高価そうなロッド。たぶん魔法職。

 さて。

「こっちからだ」

 僕は『皮剥ぎゴーディー』に白いカーソルを合わせると意識を集中させた。

 浮かび上がってきたゴーディーのステータス欄が僕を飲み込んでいく。


 ジュゥゥゥン──。


 キリキリと体を引っかかれるような不快感。
 目を開ける。
 いつもどおりの真っ黒な空間。ステータス欄の中。
 居心地が悪い。居心地が悪いが──僕の立った足元の数字のいくつかは銀色に輝いている。
 これはハルやアオちゃん、 ロンと同じような強者の証。
 どうやらこの男、ロンに向かって偉そう口を叩けるだけの実力は持っているらしい。

 くるんっ。

 ネックレスからアオちゃんが出てくる。

「アオも協力すゆ! ラクをイジメるこいつ嫌いゆ!」

 脚の長いイスになったアオちゃんが僕を座らせてぐんぐんと持ち上げていく。
 すると、すぐにゴーディーのステータスの全貌が視界に入ってきた。


 名前 ゴーディー・スピンズ
 称号 ビーストマーダー
 種族 かまいたち獣人
 性別 男
 年齢 28
 LV 31
 HP 52
 SP 49
 STR 62
 DEX 74
 VIT 27
 AGI 71
 MND 13
 LUK 6
 CRI 3
 CHA 4


 種族『かまいたち獣人』?

 ん? こいつも獣人なの?
 獣人を嫌悪してるふうだったのに本人も獣人?

 矛盾。
 だからステータス欄の中もこんなにキリキリしてるのか?

 っていうか「かまいたち」?
 なに? そういう動物がいる?

 しかも称号が『ビーストマーダー』。
 物騒。
 獣系を殺して……きたんだろうな。これまで。

 自分も獣人なのに。
 剥いできたんだろう、皮を。
 あの双剣で。

 ラクに手を出されてからじゃ手遅れだ。
 さっきだっていきなり切りかかってきた。
 下げておこう、ステータス。

 僕はアオちゃん椅子から下りると地面に降り立ち、目当ての数字をぐっと押す。

 重い。
 けど負けない。

「アオも手伝うゆ!」

 アオちゃんだっている。
 押す。押す。押す。

 ズズズズズ……ゴゴゴゴゴ……。

 そしてゴーディーのステータスを。

 HPを『52』から『25』に。
 STR(力)を『62』から『26』に。
 DEX(器用さ)を『74』から『47』に。
 AGI(素早さ)を『71』から『17』に変えた。

 元のステータスが高いからわりと高いままなのもある。
 けど、素早さが四分の一くらい減ってる。
 何か仕掛けられたとしても意識の「ズレ」はあるはず。
 あとは、僕がそこを活かして上手く立ち回れるか。

 よし、ゴーディーの方はこれで完了。
 僕とアオちゃんは、女の方へと移動する。


 こちらは見慣れた白い文字の数字。
 さすがに二人とも銀色──ロン級ってわけじゃないようだ。
 匂いや変な感じも特になし。
 ごく普通。いつも通りの普通のステータス欄。

「ゆ!」

 そしてここでもアオちゃん脚長椅子の上から確認した彼女のステータスは──。


 名前 ダクロス・エンリケ
 称号 ポーションジャンキー
 種族 人間
 性別 女
 年齢 29
 LV 28
 HP 16
 SP 36
 STR 5
 DEX 22
 VIT 14
 AGI 41
 MND 30
 LUK 2
 CRI 1
 CHA 14


 というものだった。

 名前、ダクロス。
 称号『ポーションジャンキー』?
 素早さ、魔力、SPが高い。
 あと魅力もかなり高め。
 ゴーディーもダクロスも素早さが高い。
 もし二人パーティーだったとしても噛み合ってそうな印象。

 けど、その素早さを下げちゃう。

 ゴゴゴゴゴ……。

 AGI(素早さ)を『41』から『14』に下げて終わり。
 というか下げられるのがこれしかなかった。

「よし、じゃあ戻ろっか」

「ゆ! これでラクを守れりゅ?」

「ああ、守れる。守るさ。絶対に」

「ゆ!」

 そして、現実に帰還。


 元の世界に戻った僕の視界がパッと色を取り戻す。
 すかさず先手を打つ。
 なるべくわざとらしく。なるべくとぼけた口調で。

「あの~、皮剥ぎゴーディーさん? そもそも、一体なぁ~んでそんなに獣人のことを目のかたきにしてるんですかぁ?」

「あ? 決まってんだろ、獣人はくせぇ! きたねぇ! だから滅ぼしたほうがいいんだよ!」

 その言葉を聞いたメラさんが、いつになく真剣に怒る。

「ゴーディーさん! あなたが心のなかでどう思っていようが自由ですが、それはいくらなんでも言いすぎです! 獣人の人権は冒険者ギルド総連によって定められています! ただちに撤回しなさい!」

「はぁぁぁぁぁ? てっかいぃ~? 撤回しなかったらどうなるってんだ? あ? まさかお前ごとき木っ端職員が俺たちをどうにか出来るとでも? このエンドレス地下迷宮41層まで踏破した、このGDペアを? もうすぐ俺たちゃ、そこの老いぼれの記録を抜いてこの町史上最強の冒険者だ! そうなったらこのギルドの長も俺たちになる! ってことで、俺達がギルド長になったらぁ~」

「きゃはは! あんたをまっさきにクビにしてあげるわぁ~!」

 なるほど。この二人はいわゆる『達人級』。
 地下迷宮の四十階以上に進むことの出来る数少ない冒険者ってことか。
 前までの僕だったらそれを聞いただけでも怖気づいてたんだろうけど……。

「へぇ~? そんなすごい人がなんでなのかな~?」

「あ!? なんなんだよテメェ、さっきからなにが言いてぇ!?」

「うん、だからね……」

 なるべく一言ずつ、はっきり。

 相手に聞こえるように。

「なんでって思って」

 ビキィ──!

「あぁ!? 今、なんて言いやがったテメェ!」

 さぁ、ここからだ。

 ラク。
 アオちゃん。
 ハル。
 それにロンも。

 守るぞ、僕が。
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