僕だけ入れちゃうステータス欄 ~追放された凄腕バッファーは、たまたま出会った新人冒険者たちと真の最強パーティーを作り上げる~

めで汰

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エンドレス「地下迷宮」編

第29話 異名ゲット

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 万能魔法マジックマスターなるすんごいらしいスキルを得たラクがメラさんからマンツーマン初心者講習を受けてる間、僕とハルはギルド長のロンと世間話。

 ロンと気軽に話す僕らを見て他の冒険者たちがざわつく。

「おい、なんであの新人、ロンさんとあんなに親しそうに……」
「あんな弱そうなガキがなんで……」
「てかあれ、昨日ダンスキーたちに喧嘩売ってたやつじゃ?」
「いや魔薬でヤバくなったダンスキーたちを捕まえてきたとかなんとか」
「マジ!? 魔薬使用者を生きたまま捕まえるとか初じゃね!?」
「てことはもしかして達人級なのか!?」
「そういや一昨日はミノタウロスを倒したとか言ってたな……」
「ガチ達人級じゃねぇ~か!」
「おい……しかも噂ではアイツ……」
「んだよ、もったいぶんなよ」
「いやな、聞いた話なんだけどな……」
「だからもったいぶんなっつーの」
「聞いて驚くなよ? あいつ昨日……」
「早く言えって!」
「悪魔を倒したらしいんだ」


『…………えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?』


 冒険者たちの声がギルドにこだまする。

「はっはっはっ、めっきり注目の的だな、ボーイ」

 ロンが愉快そうに笑う。 

「誰がボーイですか、誰が。勝手に師匠みたいな呼び方しないでください。僕みたいなただの新人冒険者が恐れ多いですよ」

「恐れ多いもなにもお前、もう俺を超えてるんじゃないか?」

「はぁ? なに言ってるんですか、ロンさん。僕はただハルのLUKやアオちゃんに助けられてるだけですよ」

「ふむ、謙遜もあまり過ぎると嫌味になるぞ?」

「嫌味も何も僕はただのバッファーですし。ハルとアオちゃんとのパーティーでもまだ三階層までしか潜れてない新人もド新人ですから」

「ふむ、まぁ階層的にはそうなるかもしれんが……。あ、そういえばお前、悪魔殺しデーモンスレイヤーって呼ばれてるの知ってるか?」

悪魔殺しデーモンスレイヤー?」

「ああ、文字通り悪魔殺し。お前が悪魔化した奴を倒すのを見たやつがいてな。で、そっから噂はあっという間よ」

「えぇ~……。倒した……まぁ倒したっちゃ倒したですけど。でもそれもアオちゃんの力あってこそですからね? あぁ現実世界に戻った時に僕がキビキビ動いてたから倒したように見えたのかなぁ?」

「なんにしろ、これでお前は『異名持ち』だ」

「『異名持ち』……僕なんかが」

 一流の冒険者につけられる『異名』。
 そんなものを三階層までしか潜ってない僕がつけられてもなぁ。
 むしろすごいのはハルやアオちゃんなんだから。

 どんっ──ロンの拳が僕の胸を叩く。

「そう謙遜しなさんなって! お前はもうこのエンドレスの注目の的だよ」

「けほ……」

 ロンに軽く胸を叩かれただけでムセてる僕が注目の的……。う~ん、違和感しかない。

「それに今研修を受けてる子もすごい才能の持ち主らしいじゃねぇか。なんでも万能魔法マジックマスターだとか? こりゃ~あれだな! こいつも間違いなくお前と同じ……」

 あ、出る。

「チートすぎるチートスキル、だな!」

 はい、出た。ロンの唯一の欠点。ダジャレ。

「そ、そういえば聞きたいことが!」

「ん? なんだ?」

 渾身のダジャレをスルーされたロンが少し不満げに耳を動かす。

「ハルの両親についてです。十五年くらい前にここで迷宮に挑んだ夫婦はいませんでしたか?」

「ああ、それなら調べておいたぞ」

「で、結果は!?」

「ふむ、一応それっぽいのはいたな。アキ・ミストウッド。ナツ・ミドルズ。名字も登録したタイミングもバラバラだが、職業は戦士と回復師。仮に二人で迷宮に挑んだとすればこれ以上ない組み合わせだな。当時の年齢は共に二十歳。今生きてれば三十五だ」

「ハル・ミドレーゼ。ナツ・ミドルズ。アキ・ミストウッド……。これって」

「お父さん……お母さん……! やっぱり来てたんだ……ここに……!」

 手がかりが見つかって喜んでるような、でもそれ以上にそこから先のことを聞くのが怖いような、そんな表情をして小さく震えてるハルの手を優しく握る。ハルの指先の冷たさが僕の手のひらの中に溶けていく。溶けていけ。あったくなれ。

「で……」

 生きてますか?
 その意味を込めて出た一言。

「わからん」

 ロンが静かに首をふる。

 ハルのこわばっていた指先からふっと力が抜けていくのを感じた。

「なにしろ登録したっきり一度も顔を見せていない。だからその後のことは不明だ。もしかしたら登録だけして町を離れたのかもしれないし──」

 最初の探索で死んだ可能性もある。

「ゆ! 迷宮を制覇した可能性はないゆ?」

「制覇、か。たしかにその可能性もあるな」

 子供をあやすかのようにそうロンは答える。

 話を変えなきゃ。
 またハルの手がこわばっていくのを感じたから。

「あの、ハルの両親のスキルってなんだったんですか? 娘のハルには知る権利があるんじゃないかなって。探す手がかりにもなるかもだし」

「スキルな。二人ともちょっと特殊だったらしい。当時メラさんがいたならとっ捕まえて根掘り葉掘り聞いていたんだろうが……」

「で、なんなんです?」

「うむ、アキの方が『同化アシマレーション』。そしてナツの方が『封印シール』だな。詳細は不明だ。ったく……当時の職員ときたらスキルのチェックが杜撰ずさんでかなわん」

 今まで知らなかった両親の情報。
 それを知ったハルの体温がすこし上がる。

 それから僕たちは、隠し通路、隠れ家、大賢者ヘリオン、水晶玉のこともロンに聞いてみたけど、全部知らないとのことだった。
 ロンからは隠し通路に挿れて──入れてくれと例によって妙なアクセントでお願いされたけど、アオちゃんが「ヘリオン様に『絶対信用した人以外は入れるな』って言われてるゆ」と断るとロンは残念そうに諦めた。

「ふぁ~、このおばちゃんの話めんどくさかったにょ~」

 メラさんの新人講習を終えたラクが戻ってくる。

「ダメだよ、ラク。人のことをおばさんなんて言っちゃ」

 僕の言葉を無視してラクの目がロンに釘付けに。

「にょ!? にょにょにょ!? この頼りがいのありそうな人は誰にょ!? お金とかいっぱい持ってそうにょ!」

 ラク、言い方が失礼だよ? お金って……。

「この人は冒険者ギルド長のロン。こっちは噂の天才、ラクです」

「ロン! ふむふむ……アナタは私の追い求めていたアニキたるに相応しい存在かもしれないにょね……」

 ア、アニキ……?

 ジロジロと値踏みするような目でロンを見つめるラクの頭を──。

 スパーン!

「誰がおばちゃんよ! 誰が!」

 めちゃいい音を響かせて、メラさんのスリッパが叩いた。
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