147 / 174
向かえ「王都イシュタム」編
第145話 肝試し
しおりを挟む
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
「のわぁぁぁぁぁぁ!」
静かな闇の中にラルクくんの声が響きまくる。
常世灯。
メダニアでディーに貰った常時ほんのりと明かりの灯っているランタンを下げたラルクくんとルゥ。
一組目のコンビが肝試しの真っ最中。
簡単な野営を構えた河原からちっちゃい森を抜けて行き止まりにある大きな石に名前を書いて戻って来る。
それがルール。
なんでもこの辺の若者の定番の肝試しコースになってるらしい。
まったく物騒なことだ。
でもみんなを危険な目に遭わせるわけにはいかない。
ってことで、僕はスキル『透明』を使って遠巻きにラルクくんとルゥを見守りながらついていってる。
パキッ。
あっ。
「あんぎゃぁぁぁぁぁぁ!」
僕の踏んじゃった小枝の音にビビリまくるラルクくん。
ラルクくんは思わずルゥに抱きつこうとするけど、ルゥの持った【行動阻害】効果のある『軽石牙』で阻止されて動きがノロくなっちゃってる。
ラルクくん、こんな調子じゃもし魔物に遭遇したらヤバくないか?
やっぱりこうしてついてきてよかったかも。
っていうか神官なのにこんなにお化けやらに怖がってて大丈夫なの?
神官ってさぁ、もっと浄化とかでアンデットを成仏させたりするんじゃないの?
なんてことを思ってると前方でガサッ……っと物音。
ラルクくんたちは自身の悲鳴で気づいてないっぽい。
ってことで。
【高速飛行】
ドッ──ヒュッ──!
「ゎぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」と叫ぶラルクくんの悲鳴の合間を透明のまま通り過ぎていく。
物音のした場所に着くと、そこには見覚えのある顔がいた。
「ヤリヤ? なにしてるの?」
司法書士ゴブリンのヤリヤと数人のゴブリンが身を隠している。
「!?」と狼狽えるヤリヤたち。
「ああ、このままじゃ見えないか」
スキル『透明』を解除して姿を表す。
「姿まで消せたのか……! ったく、どんだけなんだルード様は……!」
「ギャギャ……!?」
「ギャッ!」
「ギャギャ……!」
ヤリヤがゴブリンたちに僕のことを(おそらく)説明すると、ゴブリンが一斉に僕に向かって土下座した。
「え~っと……なにしてるの?」
「こいつら聞かねぇんだよ。あんたに言われた通り『朝まで護衛』って説明したんだけどよ、この『朝』がゴブリンの言葉だと『自分たちの種が繁栄して黄金時代を築くまで』になっちまうんだよ」
「……は?」
「おっと、契約の内容は変更できねぇからな。要するにそういうことでゴブリンどもは自分たちの黄金時代を迎えるまであんたの護衛をしてるってことだ。こうして影に隠れてな」
「いやいや、そんなこと頼んでないし……っていうか、彼らはなんで土下座してるわけ?」
「国王に忠誠を誓ってんだろ」
「国王?」
「フィード・オファリング公国の国王なんだろ?」
「そんな国建てないし、僕は国王でもなんでもないからね? セレアナが勝手に言ってるだけだし」
「知らね~よ。それはこいつらに直接説明してくれ。俺の仕事じゃねぇ」
「いや、言葉通じないし。洗脳するにもしてもきりがないし」
「ルード様は洗脳まで出来るのか……。マジで国王っていうより魔王だな、こわっ」
このヘンテコな自作ワンピースを着てメガネかけた司法書士ゴブリンことヤリヤ。
僕のことを「ルード様」と呼ぶわりに口調は軽い。
「ルード様の家来がなんでわざわざ弱そうな少人数で森に突っ込んできてるのかは知らん。が、奥には赤鬼がいるぞ」
「あかおに?」
「トロールのレア個体みたいなもんだな」
「トロール。トロールかぁ……」
脳内に僕が初めて殺した魔物、老トロールの姿が思い起こされる。
ウェルリンに紹介された、ボケて徘徊していた老ゴブリン。
彼の中に僕は一人の生き物としての矜持を見た。
あの老トロールと同じような信念や精神の強さを持ってるとしたら……。
きっと厄介に違いない。
「まぁ、いいや。とりあえずヤリヤ、その土下座してるゴブリンくんたちの顔を上げさせて。そんなにされるほどのものじゃないからさ、僕」
「ギャ」
ヤリヤが短く鳴くと、ゴブリンたちは恐る恐る顔を上げて今度は片膝をついた。
「う~ん、まだ堅苦しいけどまぁいいか」
それよりも。
「じゃ、行こう」
「へ?」
僕はヤリヤの腕を取ると。
【高速飛行】
奥にいるらしい赤鬼に向けて飛び立った。
「ひぇぇぇ、なんで俺まで……!?」
「なんでってほら、通訳?」
「そ、そんなぁぁぁぁ! 契約外だぁぁぁぁぁ!」
そのヤリヤの声は無情にもラルクくんの「にょわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」という叫びにかき消され、夜の闇へと溶けていった。
「うわぁぁぁぁぁぁ!」
「のわぁぁぁぁぁぁ!」
静かな闇の中にラルクくんの声が響きまくる。
常世灯。
メダニアでディーに貰った常時ほんのりと明かりの灯っているランタンを下げたラルクくんとルゥ。
一組目のコンビが肝試しの真っ最中。
簡単な野営を構えた河原からちっちゃい森を抜けて行き止まりにある大きな石に名前を書いて戻って来る。
それがルール。
なんでもこの辺の若者の定番の肝試しコースになってるらしい。
まったく物騒なことだ。
でもみんなを危険な目に遭わせるわけにはいかない。
ってことで、僕はスキル『透明』を使って遠巻きにラルクくんとルゥを見守りながらついていってる。
パキッ。
あっ。
「あんぎゃぁぁぁぁぁぁ!」
僕の踏んじゃった小枝の音にビビリまくるラルクくん。
ラルクくんは思わずルゥに抱きつこうとするけど、ルゥの持った【行動阻害】効果のある『軽石牙』で阻止されて動きがノロくなっちゃってる。
ラルクくん、こんな調子じゃもし魔物に遭遇したらヤバくないか?
やっぱりこうしてついてきてよかったかも。
っていうか神官なのにこんなにお化けやらに怖がってて大丈夫なの?
神官ってさぁ、もっと浄化とかでアンデットを成仏させたりするんじゃないの?
なんてことを思ってると前方でガサッ……っと物音。
ラルクくんたちは自身の悲鳴で気づいてないっぽい。
ってことで。
【高速飛行】
ドッ──ヒュッ──!
「ゎぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」と叫ぶラルクくんの悲鳴の合間を透明のまま通り過ぎていく。
物音のした場所に着くと、そこには見覚えのある顔がいた。
「ヤリヤ? なにしてるの?」
司法書士ゴブリンのヤリヤと数人のゴブリンが身を隠している。
「!?」と狼狽えるヤリヤたち。
「ああ、このままじゃ見えないか」
スキル『透明』を解除して姿を表す。
「姿まで消せたのか……! ったく、どんだけなんだルード様は……!」
「ギャギャ……!?」
「ギャッ!」
「ギャギャ……!」
ヤリヤがゴブリンたちに僕のことを(おそらく)説明すると、ゴブリンが一斉に僕に向かって土下座した。
「え~っと……なにしてるの?」
「こいつら聞かねぇんだよ。あんたに言われた通り『朝まで護衛』って説明したんだけどよ、この『朝』がゴブリンの言葉だと『自分たちの種が繁栄して黄金時代を築くまで』になっちまうんだよ」
「……は?」
「おっと、契約の内容は変更できねぇからな。要するにそういうことでゴブリンどもは自分たちの黄金時代を迎えるまであんたの護衛をしてるってことだ。こうして影に隠れてな」
「いやいや、そんなこと頼んでないし……っていうか、彼らはなんで土下座してるわけ?」
「国王に忠誠を誓ってんだろ」
「国王?」
「フィード・オファリング公国の国王なんだろ?」
「そんな国建てないし、僕は国王でもなんでもないからね? セレアナが勝手に言ってるだけだし」
「知らね~よ。それはこいつらに直接説明してくれ。俺の仕事じゃねぇ」
「いや、言葉通じないし。洗脳するにもしてもきりがないし」
「ルード様は洗脳まで出来るのか……。マジで国王っていうより魔王だな、こわっ」
このヘンテコな自作ワンピースを着てメガネかけた司法書士ゴブリンことヤリヤ。
僕のことを「ルード様」と呼ぶわりに口調は軽い。
「ルード様の家来がなんでわざわざ弱そうな少人数で森に突っ込んできてるのかは知らん。が、奥には赤鬼がいるぞ」
「あかおに?」
「トロールのレア個体みたいなもんだな」
「トロール。トロールかぁ……」
脳内に僕が初めて殺した魔物、老トロールの姿が思い起こされる。
ウェルリンに紹介された、ボケて徘徊していた老ゴブリン。
彼の中に僕は一人の生き物としての矜持を見た。
あの老トロールと同じような信念や精神の強さを持ってるとしたら……。
きっと厄介に違いない。
「まぁ、いいや。とりあえずヤリヤ、その土下座してるゴブリンくんたちの顔を上げさせて。そんなにされるほどのものじゃないからさ、僕」
「ギャ」
ヤリヤが短く鳴くと、ゴブリンたちは恐る恐る顔を上げて今度は片膝をついた。
「う~ん、まだ堅苦しいけどまぁいいか」
それよりも。
「じゃ、行こう」
「へ?」
僕はヤリヤの腕を取ると。
【高速飛行】
奥にいるらしい赤鬼に向けて飛び立った。
「ひぇぇぇ、なんで俺まで……!?」
「なんでってほら、通訳?」
「そ、そんなぁぁぁぁ! 契約外だぁぁぁぁぁ!」
そのヤリヤの声は無情にもラルクくんの「にょわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」という叫びにかき消され、夜の闇へと溶けていった。
20
お気に入りに追加
891
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる