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還ってきた「辺境の街」編
第129話 パズルのピース
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「あらあらうふふ、お寝坊さんですねぇ、クモノス様は。まだですか? まだ眠いんですか? そうですよね、あんなにいっぱい出しちゃいましたもんね。いっぱいお休みして早く回復してくださいね。うふふふ。チュッ、チュッ、チュ~……ん~、むばっ……むぼぼぼ……」
う……。
なんだ……?
い、息が……。
誰かの攻撃か、これは……!?
パッ!
目を開ける。
どぅ~ん!
視界からはみ出す巨大なふたつの丸い塊。
(なんだこれは……?)
手に取ってみる。
たぷっ……。
「あんっ……!」
?
たぷたぷ。
「……あんっ、もうっ! クモノス様ったらぁ……!」
……は?
たぷたぷたぷたぷたぷ!
「あぁ~! ら、らめぇ! 激しすぎますよぉぉぉ、んゅぅ……!」
ゲシッ!
「あぁんっ!」
「てめぇ! なにしてやがる!」
オレに蹴り飛ばされた顔面を押さえながら女大天使ザリエルは、弛緩しきっただらしない顔をこちらに向ける。
「え、えぇ~っとぉ……ほらぁ? クモノス様、私を助けるために命をかけてくれたわけじゃないですかぁ? だから奴隷として、早く回復されるように、ほら? ち、治療?」
「なにが治療だ馬鹿野郎! ってか、てめぇ! 人の顔なめ回してただろ! くせぇんだよ! 唾液が!」
ゲシゲシ!
「あ~ん! やめてください、クモノス様ぁ~!」
「誰がクモノスだ!」
そう言って、正体を隠すために顔に貼ってた「雲」を地面に叩きつける。
「あれはオレの天才的な戦略的意図があって騙っただけだ! そんなもん嘘に決まってんだろ!」
バシッ!
地面に転がる仮面(雲)を愕然とした顔で見つめるザリエル。
「クモノス様じゃ……ない?」
「当たり前だ! なんだよクモノスって! そんな神いるわけねぇだろうが!」
「ぴ……」
「あ? ぴ?」
「ぴえ~~~ん! うわ~~~ん! クモノス様……クモノス様がいないなんてぇ~~~!」
「ちょ、お前うっさ! そんなに大声だしたら誰かに見つかるかも知れないだろうが! ……チッ! ほ~ら、これ見ろ、これ!」
オレは叩きつけた雲仮面を拾い上げて再び顔につける。
「ふぇ……? クモノ……ス様……?」
「あ~、クモノス様だぞ~。だからほら、泣くなって、うるさいから」
「クモノス様、クモノス様っ! やっぱりいらっしゃったんですね! よかった! 嬉しいです!」
ばふっ。
むにっ。
「ちょ! だ、抱きつくなって!」
「あ~ん、クモノス様、クモノス様ぁ~! きっと事情があってゴミクズ人間のフリをされてたんですね~!」
「だ~! だから離れろって! あ~、むにむにむにむにと胸とか色々押し付けやがって鬱陶しい!」
「ふぇぇ……迷惑でしたかぁ……?」
「ああ、迷惑だ。二度と抱きつくな、殺すぞ」
「うぅ……わかりました……クモノス様がそうおっしゃるなら……」
おいおいおい。
なんなんだこいつ。
マジでオレのことを神様だと思い込んでるじゃねぇか。
馬鹿な奴だと思ってはいたが、まさかここまでコロッと騙されるくらいアホなのか?
まぁ、いい。
使えるもんは使ってやろうじゃねぇか。
いざとなったら盾とか捨て駒にくらいはなるだろ。
さて、それじゃさっそく状況を整理だ。
「おい、奴隷」
「はいっ!」
奴隷と呼ばれて嬉しそうに返事をするザリエル。
まるで尻尾を振る犬のよう。
「オレはどれくらいの時間、気を失ってた?」
「はい、約一日ほど!」
「い、一日……?」
詳しく話を聞き出すと。
どうやらザリエルは、魔力を使い果たして昏倒したオレを連れ、雲を掘り進めて作った地下室に身を隠したらしい。
本人曰く「私、雲を掘ったりするの得意なんですよ!」とのこと。
モグラかっつ~の、おまえは。
まぁ要するに、ここはザリエルの掘った地下室。
はぁ……ったく。
なんだって天界まで来て、また地下なんぞでコソコソしてんだオレは。
どうもよっぽど「地下」とか「檻」とかってのに縁があるらしい。
ま、ごちゃごちゃ言ってても仕方ない。
サバケたオレは、まず自分を鑑定だ。
オレの右目に、オレにしか見えない赤い炎が宿る。
【鑑定眼】
名前:フィード・オファリング
種族:人間
職業:なし
レベル:87
体力:556
魔力:6973
職業特性:なし
スキル:【鑑定眼】【吸収眼】【狡猾】【軌道予測】【斧旋風】【身体強化】【魅了】【投触手】【一日一念】【筋波電光】
おお、レベルかなり上がったな。
学校で大悪魔を倒した時くらいには戻った?
うむうむ、どうやら天使は経験値効率がいいようだ。
それに、これだけ魔力が増えてりゃそうそう魔力切れにもならんだろ。
あとからどっかでもう一回『筋波電光』を試し撃ちしてみるとするか。
あ、それから一日経ったってことは『一日一念』がまた使えるようになったはず……。
そう思った時、頭の中に「声」が響いた。
あの甘ったれのアベルの声だ。
『フィードか? アベルだ。ゼウスは引き止めてる。しかも、ボクたちが天界へと行くための方法を知る人物に会うためにイシュタムへ向かうのに同行することになった。っていうかアイドルの姿に変身してたら異様に食いつかれたんだけど何なの? おかげでボク、貞操の危機なんだけど? まぁ、イシュタムには数日かかると思うから、その間は引き止められると思う。リサたちも全員無事。あとボクの本体は蜘蛛で、壁も壊れてワイバーンのウインドシアの父親を返り討ちにしたかな。で、異世界人とエルフが英雄になった。あ、それからボク超かわいいよ、ヤバい。明日はパルに事情説明するから思念は送れないから。じゃ、頑張って』
は?
壁が壊れた?
ウインドシアの父親?
異世界人とエルフが英雄?
あのなぁ、言葉足らずにもほどがあるだろこいつ……。
でもゼウスを数日連れ回してくれるらしいから、それはありがたい。
で、貞操の危機だ?
知るかよ、てめえなんかそれこそ「ぐっちょんぐっちょん」に汚されて痛い目でも見りゃいいんだ。
そうすりゃ、ちっとはその虫酸が走る甘ったれっぷりもちっとは直るってなもんだろ。
って……ん?
今、なんてったこいつ?
異世界人?
異世界人ってどっかで……。
「おい、奴隷。異世界人がどうとか言ってなかったか、お前?」
「はい、クモノス様! 私が担当した勇者召喚の時のミスでドミー・ボウガンとかいうぶっさいくなゴミクズ人間を巻き込んで召喚してしまったので、ゼウス様に気づかれる前にこっそり殺しに行こうとしるって話をしました! あぁ、でもこれはあくまで私がクモノス様のご正体を知る前の話ですので、今の素晴らしい、私の命の恩人の、美しく、崇高なクモノス様は一切気に留める必要はございません! 私が勝手になにかをどうにかして別の手段で殺しに行きますから!」
頬を上気させ、うわずった声でべらべらと喋るザリエルを見ながらオレはなにかが引っかかっていた。
なにか……。
なにかもう少しでバラバラだったパズルのピースがカチッとハマりそうな……そんな気がするんだが……。
(困った時は……これだな)
【狡猾】
思考が研ぎ澄まされ、無駄な関心事が頭から削ぎ落とされていく。
脳内に残ったのは、いくつかの単語の断片。
スキル奪取。
オレ。
アベル。
肉体。
蜘蛛。
アイドル。
ゼウス。
偽神クモノス。
盲信奴隷大天使ザリエル。
間違って召喚された異世界人ドミー・ボウガン。
ローパーの女王パル。
そして……。
ウェルリン・ツヴァ。
リサ・(略)・ローデンブルグ。
これらが一気に繋がっていき──。
カチッ。
そんな音が、した気がした。
「──ハッ!」
思わず笑いが飛び出す。
「クモノス……様?」
「ハマった! ハマったぞ、パズルのピースが! そうだ! オレは別にアベルと一体化なんかする必要はねぇ! そうだよ! 肉体はこっちにあるんだ! アベルを必要としてたのは、あいつの持ってる『スキル』がないとゼウスを殺せないからだろ!? ってことは……」
ニヤリ。
オレは不敵に笑う。
そう──。
奪えばいいんだ、オレが。
アベルから、スキルを。
そして、オレが「本物の」フィード・オファリングになる。
奪って、殺して、生き延びる。
それがオレ、「フィード・オファリング」という存在なんだから。
くく……くくくくっ……!
攫われて正解だったぜ!
あぁ……!
天は、このフィード・オファリングに味方している!
う……。
なんだ……?
い、息が……。
誰かの攻撃か、これは……!?
パッ!
目を開ける。
どぅ~ん!
視界からはみ出す巨大なふたつの丸い塊。
(なんだこれは……?)
手に取ってみる。
たぷっ……。
「あんっ……!」
?
たぷたぷ。
「……あんっ、もうっ! クモノス様ったらぁ……!」
……は?
たぷたぷたぷたぷたぷ!
「あぁ~! ら、らめぇ! 激しすぎますよぉぉぉ、んゅぅ……!」
ゲシッ!
「あぁんっ!」
「てめぇ! なにしてやがる!」
オレに蹴り飛ばされた顔面を押さえながら女大天使ザリエルは、弛緩しきっただらしない顔をこちらに向ける。
「え、えぇ~っとぉ……ほらぁ? クモノス様、私を助けるために命をかけてくれたわけじゃないですかぁ? だから奴隷として、早く回復されるように、ほら? ち、治療?」
「なにが治療だ馬鹿野郎! ってか、てめぇ! 人の顔なめ回してただろ! くせぇんだよ! 唾液が!」
ゲシゲシ!
「あ~ん! やめてください、クモノス様ぁ~!」
「誰がクモノスだ!」
そう言って、正体を隠すために顔に貼ってた「雲」を地面に叩きつける。
「あれはオレの天才的な戦略的意図があって騙っただけだ! そんなもん嘘に決まってんだろ!」
バシッ!
地面に転がる仮面(雲)を愕然とした顔で見つめるザリエル。
「クモノス様じゃ……ない?」
「当たり前だ! なんだよクモノスって! そんな神いるわけねぇだろうが!」
「ぴ……」
「あ? ぴ?」
「ぴえ~~~ん! うわ~~~ん! クモノス様……クモノス様がいないなんてぇ~~~!」
「ちょ、お前うっさ! そんなに大声だしたら誰かに見つかるかも知れないだろうが! ……チッ! ほ~ら、これ見ろ、これ!」
オレは叩きつけた雲仮面を拾い上げて再び顔につける。
「ふぇ……? クモノ……ス様……?」
「あ~、クモノス様だぞ~。だからほら、泣くなって、うるさいから」
「クモノス様、クモノス様っ! やっぱりいらっしゃったんですね! よかった! 嬉しいです!」
ばふっ。
むにっ。
「ちょ! だ、抱きつくなって!」
「あ~ん、クモノス様、クモノス様ぁ~! きっと事情があってゴミクズ人間のフリをされてたんですね~!」
「だ~! だから離れろって! あ~、むにむにむにむにと胸とか色々押し付けやがって鬱陶しい!」
「ふぇぇ……迷惑でしたかぁ……?」
「ああ、迷惑だ。二度と抱きつくな、殺すぞ」
「うぅ……わかりました……クモノス様がそうおっしゃるなら……」
おいおいおい。
なんなんだこいつ。
マジでオレのことを神様だと思い込んでるじゃねぇか。
馬鹿な奴だと思ってはいたが、まさかここまでコロッと騙されるくらいアホなのか?
まぁ、いい。
使えるもんは使ってやろうじゃねぇか。
いざとなったら盾とか捨て駒にくらいはなるだろ。
さて、それじゃさっそく状況を整理だ。
「おい、奴隷」
「はいっ!」
奴隷と呼ばれて嬉しそうに返事をするザリエル。
まるで尻尾を振る犬のよう。
「オレはどれくらいの時間、気を失ってた?」
「はい、約一日ほど!」
「い、一日……?」
詳しく話を聞き出すと。
どうやらザリエルは、魔力を使い果たして昏倒したオレを連れ、雲を掘り進めて作った地下室に身を隠したらしい。
本人曰く「私、雲を掘ったりするの得意なんですよ!」とのこと。
モグラかっつ~の、おまえは。
まぁ要するに、ここはザリエルの掘った地下室。
はぁ……ったく。
なんだって天界まで来て、また地下なんぞでコソコソしてんだオレは。
どうもよっぽど「地下」とか「檻」とかってのに縁があるらしい。
ま、ごちゃごちゃ言ってても仕方ない。
サバケたオレは、まず自分を鑑定だ。
オレの右目に、オレにしか見えない赤い炎が宿る。
【鑑定眼】
名前:フィード・オファリング
種族:人間
職業:なし
レベル:87
体力:556
魔力:6973
職業特性:なし
スキル:【鑑定眼】【吸収眼】【狡猾】【軌道予測】【斧旋風】【身体強化】【魅了】【投触手】【一日一念】【筋波電光】
おお、レベルかなり上がったな。
学校で大悪魔を倒した時くらいには戻った?
うむうむ、どうやら天使は経験値効率がいいようだ。
それに、これだけ魔力が増えてりゃそうそう魔力切れにもならんだろ。
あとからどっかでもう一回『筋波電光』を試し撃ちしてみるとするか。
あ、それから一日経ったってことは『一日一念』がまた使えるようになったはず……。
そう思った時、頭の中に「声」が響いた。
あの甘ったれのアベルの声だ。
『フィードか? アベルだ。ゼウスは引き止めてる。しかも、ボクたちが天界へと行くための方法を知る人物に会うためにイシュタムへ向かうのに同行することになった。っていうかアイドルの姿に変身してたら異様に食いつかれたんだけど何なの? おかげでボク、貞操の危機なんだけど? まぁ、イシュタムには数日かかると思うから、その間は引き止められると思う。リサたちも全員無事。あとボクの本体は蜘蛛で、壁も壊れてワイバーンのウインドシアの父親を返り討ちにしたかな。で、異世界人とエルフが英雄になった。あ、それからボク超かわいいよ、ヤバい。明日はパルに事情説明するから思念は送れないから。じゃ、頑張って』
は?
壁が壊れた?
ウインドシアの父親?
異世界人とエルフが英雄?
あのなぁ、言葉足らずにもほどがあるだろこいつ……。
でもゼウスを数日連れ回してくれるらしいから、それはありがたい。
で、貞操の危機だ?
知るかよ、てめえなんかそれこそ「ぐっちょんぐっちょん」に汚されて痛い目でも見りゃいいんだ。
そうすりゃ、ちっとはその虫酸が走る甘ったれっぷりもちっとは直るってなもんだろ。
って……ん?
今、なんてったこいつ?
異世界人?
異世界人ってどっかで……。
「おい、奴隷。異世界人がどうとか言ってなかったか、お前?」
「はい、クモノス様! 私が担当した勇者召喚の時のミスでドミー・ボウガンとかいうぶっさいくなゴミクズ人間を巻き込んで召喚してしまったので、ゼウス様に気づかれる前にこっそり殺しに行こうとしるって話をしました! あぁ、でもこれはあくまで私がクモノス様のご正体を知る前の話ですので、今の素晴らしい、私の命の恩人の、美しく、崇高なクモノス様は一切気に留める必要はございません! 私が勝手になにかをどうにかして別の手段で殺しに行きますから!」
頬を上気させ、うわずった声でべらべらと喋るザリエルを見ながらオレはなにかが引っかかっていた。
なにか……。
なにかもう少しでバラバラだったパズルのピースがカチッとハマりそうな……そんな気がするんだが……。
(困った時は……これだな)
【狡猾】
思考が研ぎ澄まされ、無駄な関心事が頭から削ぎ落とされていく。
脳内に残ったのは、いくつかの単語の断片。
スキル奪取。
オレ。
アベル。
肉体。
蜘蛛。
アイドル。
ゼウス。
偽神クモノス。
盲信奴隷大天使ザリエル。
間違って召喚された異世界人ドミー・ボウガン。
ローパーの女王パル。
そして……。
ウェルリン・ツヴァ。
リサ・(略)・ローデンブルグ。
これらが一気に繋がっていき──。
カチッ。
そんな音が、した気がした。
「──ハッ!」
思わず笑いが飛び出す。
「クモノス……様?」
「ハマった! ハマったぞ、パズルのピースが! そうだ! オレは別にアベルと一体化なんかする必要はねぇ! そうだよ! 肉体はこっちにあるんだ! アベルを必要としてたのは、あいつの持ってる『スキル』がないとゼウスを殺せないからだろ!? ってことは……」
ニヤリ。
オレは不敵に笑う。
そう──。
奪えばいいんだ、オレが。
アベルから、スキルを。
そして、オレが「本物の」フィード・オファリングになる。
奪って、殺して、生き延びる。
それがオレ、「フィード・オファリング」という存在なんだから。
くく……くくくくっ……!
攫われて正解だったぜ!
あぁ……!
天は、このフィード・オファリングに味方している!
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