へなちょこ鑑定士くん、脱獄する ~魔物学園で飼育された少年は1日1個スキルを奪い、魔王も悪魔も神をも従えて世界最強へと至る~

めで汰

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還ってきた「辺境の街」編

第124話 にぱ~☆

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 オレ様、フィード・オファリングのイカしたスキル『狡猾モア・カニング』の発するおべんちゃらに乗せられて、無駄に肉付きのいいアホ女天使ザリエルはポロポロと情報を漏らしていった。

 その情報をまとめると──。


 ・天使には階級があり、その階級によって人間界で出来ることに限度がある。
 ・階級は「熾天使してんし」「智天使ちてんし」「座天使ざてんし」「主天使しゅてんし」「力天使りきてんし」「能天使のうてんし」「権天使けんてんし」「大天使」「天使」の九つ。
 ・ザリエルの第八階級「大天使」は自分の意志で人間界に降臨できるが、人間に干渉することは出来ない。
 ・人間に対して物質的に干渉できるのは第六階級「能天使」から。
 ・よってザリエルはオレを食って階級を上げ、自らのミスが露呈する前にドミーなるやつを殺しに行こうとしてた。


 ってことらしい。

「で、お前はオレをどうやって殺すつもりだったの?」

「え、どうって人間でしょ? 『えいっ!』って首でも折れば死ぬのでは? っていうか、あれ? 言葉遣い、また乱暴になってきてません……?」

「首を折って? それから? 生肉でも食べるつもりだったのか?」

「食べ方……ですか……。う~ん、干し肉にして食べる……とか? ほら、天界って陽当りもいいですし? いい干し肉が出来るかもです!」

「はぁ~………………。お前、ほんっっっっっと馬っ鹿だな!」

「ふぇぇぇぇぇぇ!? さっきまでこの偉大なる私をあんなに褒め称えてたのに急に馬鹿呼ばわり!? なななな、なんなんですか!? 正気に戻ってください、哀れな子羊ゴミ人間!」

 空のように澄んだ瞳の端に涙を浮かべてわなわなと震えるザリエル。

「あのなぁ……。そもそも、お前にオレは殺せねぇ。どうやって殺すつもりだったんだ? ん? オレは結界の中。手が出せねぇだろ。仮に殺せたとしてもだ、オレが死んでることに気づいたゼウスは大騒ぎするんじゃないか? なんてったって自分の捕まえた獲物が部下に殺されたんだ。あの性格だ。血眼になって犯人探しをするだろうな。で、そうなった時に、アホで間抜けなお前の仕業だとバレないとでも思うか?」

「う……うぅぅぅ……! なんですか! なんなんですか、一気に喋って! もっと私の事を褒め称えて、あがたてまつってくださいよ! もっと私をヘブンイレブンいい気分にさせてくださいよ!」

 あ、こいつ……オレが思ってるよりもずっとアホだ。
 ってかなんだよ、ヘブンイレブンって。
 はぁ~……馬鹿にもわかるように、もっとシンプルに話すか……。

「よし、じゃあお前にオレを殺すチャンスをやる。殺せたら食っていいぞ。それで階級アップしてドミーでもゾフィーでも殺しに行けばいい。やったね、大チャンスじゃん。ほら、こい、カモンっ☆」

「え、えぇ~? なんか胡散臭うさんくさくないですかぁ? 私、すぐ騙されちゃうからなぁ……」

「胡散臭くなんかないない。ほら、見てオレの顔。こんなに純真無垢。こんなあどけない顔の少年が天使様を騙したりするわけないだろ? ほら、見て、オレのこのスマイルを」

 にっこりにこにこにっこにこ~。

 生きるためならなんでもする。
 それがオレだ。
 フィード・オファリングだ。
 善人のふりなんて朝飯前。
 さいわい今はアホみたいにお人好しのアベルの肉体。
 今ばかりは、このふにゃふにゃしたイケすかねぇ優柔不断な顔の造りに感謝だな。

 にこにこにこり~ん☆

「ん~……んんん~?」

 にこっ。
 にぱっ。
 ピュアァァァァァァァァ☆

「ん~……」

 無垢ぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!
 むっくむくのむくむく無っ垢ぅぅぅぅ。
 純真ピュアぴゅあスマイル!
 ぴゅわわわわわわわわわわわわ~!

「ふぅむ……」

 にっぱにぱぁ~~~~~☆

「……こほん、わかりました。どうやらあなたは口が悪いだけで、悪い人ではなさそうですね」

 ハァハァ……やっと陥落かよっ!
 ぜぇぜぇ……!
 こっちの精神力が削られるわ!
 このオレにどんだけ「にぱにぱ」をやらせんだよ!
 大悪魔の地下ダンジョンでもこんなに消耗したことなかったわ!
 ったく……こいつ馬鹿のくせに疑り深すぎだろ!

「あれ、どうしたんですか? 顔色が悪いようですが……」

「悪くない! 顔色いい! めっちゃ健康体!」

 おらっ、くらえっ!
 とっさの引きつり「にぱ~☆」じゃ!

 にぱぱぱぁ~ん☆
 ぴゅあもきゅ~ん☆

「ふ~ん、そうですか? ならいいですが」

 って、すぐに信じるとこもほんと馬鹿だな、こいつ!
 その代わり、相手するのめっちゃ疲れるけどなっ!

「そういえば、お前どうやってオレの首を折るつもりだったんだ? 結界があるから手を出せないんじゃないか?」

「ふぇ? そんなの簡単ですよ、だって……」

 アホのザリエルが話しだそうとした、その時。

 ガヤガヤ……。

 遠くから複数人の声が聞こえてきた。

「あっ、ヤバ……!」

 ザリエルが焦った様子でオレと後ろを見比べてる。
 振り向くたびに豊満な胸がぷるぷるぷるるんと揺れる。

(ん? 新手の天使の登場か? それとも天使じゃなくて神? もしくはゼウスが帰ってきたか……。いずれにしろ、急に選択肢が増えたな……)

 さてさて。
 ザリエルを餌にして、今から来る奴らに付け入るか。
 それともザリエルを助けてやって、恩を着せるか。
 思考を研ぎ澄ませ、オレ。
 一つの言動、一つの表情が生死を分けることになるぞ。

 くらく──。
 深く──。
 感情が沈んでいく。
 オレが生き延びるために誰を犠牲にすべきか。
 誰をどう殺すべきか。
 オレが冷たい思考を張り巡らせていると。

「あわわわわぁ! ちょ、ちょっと失礼しますねっ!」

 と言ってアホ天使ザリエルが胸の谷間から取り出した短刀でシュシュシュ──と空間を斬ると、そこに開いた結界の穴に、むんず──と体を投げ入れてきて──。


 穴に詰まった。
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