へなちょこ鑑定士くん、脱獄する ~魔物学園で飼育された少年は1日1個スキルを奪い、魔王も悪魔も神をも従えて世界最強へと至る~

めで汰

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還ってきた「辺境の街」編

第116話 絶壁の英雄D&D

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 どうやらワイバーンは、ご自慢の爪を斬り落とされたことが理解できないらしく、くるくると少し乱れた軌道で夜空を舞い続けている。
 その上空で旋回する飛竜ワイバーンをキッと睨みつけた。

 【鑑定眼アプレイザル・アイズ


 ボクの右目に、ボクにしか見えない赤い炎が宿る。


 名前:ウインガラニア
 種族:ワイバーン 
 職業:なし
 レベル:44
 体力:4066
 魔力:9034
 職業特性:なし
 スキル:【高速飛行スピード・フライト


 さすがは堅牢にして叡智たる偉大なる竜の一族。
 並のステータスじゃない。
 以前、ウインドシアを鑑定した時、ボクはまだ魔力しか視ることが出来なかった。
 たしか4000やその辺りだったと思う。
 およそ、その倍。
 地下ダンジョンに飲み込まれる前のボクなら、間違いなくかなわなかっただろう相手。
 でも、今は──。

『お前はもう半分神みたいなもんだからなァ! オレ様のおかげで!』

 脳内に響くサタンの声を無視してドミーたちに指示を出す。

「ドミー、装填は済んだか!?」

「へ、へぇ! でも、ほんとに意味あるんスか? 絶対当たんないッスよ?」

「それが絶対当たるから大丈夫なんだよ」

「はぁ……ルードのあねさんがそう言うならまぁ別にいいッスけど……」

「ディーもいけそうか!?」

「ヒッ……な、なんなのよ、もう……。投げるだけだから別に準備もクソもないわよ……。っていうか、私なんかがほんとにいる意味……」

「よしっ! それじゃあ……」

 自身の爪が斬られたことをようやく自覚したらしいウインガラニアが、怒りを咆哮に乗せる。

「ギャァァァァッァオォォォォォォォン!」

「ヒッ──!」

 娼館のボスという仮面をはぎ落とされ、卑屈で気弱なエルフと成り果てたディーが両手で頭を抱える。


 【軌道予測プレディクション


 再び降下してくるウインガラニアの「未来の軌道」を読んだボクは、ディーの背後から手首を掴む。

「ヒィィ──! 殺さないでぇぇぇ!」

「大丈夫、落ち着いて。それよりあそこを見て」

「なに……!? なにもない宙なんか見てなんだってのよぉ!?」

「うん、この角度。いい? あそこに十二秒後に鉄礫てつつぶてを投げるんだ」

「えぇ……!? なんであんな何もないとこに……」

「いいから!」

「ヒッ──! わ、わかったわよ……! 十、九、八……」

「よし、いい子だ、頼むぞ」

 次にドミーの元へと向う。

「この角度だな。五秒後に発射だ」

「へぇ、五秒後ッスね。四、三……」

 素直に従うドミー。
 さぁ、二人の射撃の腕を見せてもらおう。
 そして、その隙にボクは──。

「グァァァァァァァ!」

 怒りをあらわにウインガラニアが爪をむき出しにしてボクめがけて下降してくる。

「まったく、反省のないやつだな。それとも人間だからとナメてるのか? それでも叡智を誇る竜の一族の末裔か? まだお前の息子、ウイングシアの方が賢かったぞ」

 ボクの視た軌道その通りに降りてくるウインガラニア。

「ディー!」

「ヒィッ──! ス……」


 【手首スナップ


 ビュッ──!


 音もなく発射された真っ黒な鉄礫それは、夜の闇に紛れて飛竜の右目を穿うがつ。

「グァッ──!?」

 目にゴミが入った。
 ワイバーンにとっては、その程度の攻撃だったかもしれない。
 だが──。

 突然目を閉じれば、

「ドミー!」

「わかってるッスよ、っとぉ!」


 バヒュッ──!


 弩弓ボウガンから放たれた巨大な矢は、一直線に飛竜に向かって飛んでいき。


 バフッ!


 その翼に突き刺さった。
 声を上げる間もなくバランスを崩すウインガラニア。
 その隙にボクは──。


 【高速飛行スピード・フライト


 飛竜ワイバーンの背中に飛び乗った。

「おっと、危ない。このままじゃ壁に激突しちゃう」


 【身体強化フィジカル・バースト
 【怪力ストレングス


「よっ、と!」

 ググッ……!

 ワイバーンの首に腕を回してギュッと上へと引き上げる。

「ギュワッ……!」

 すると、自然に体が上を向いて軌道も上昇していった。

 ブワッ──!

「キャッ──!」
「うわっ!」

 羽根から巻き起こった風圧にされたドミーたちが無事なことを確認すると、十分な高さまでワイバーンを上昇させていく。

「カッ──ゲホッ──!」

 喉から腕を放す。

「さぁ、ウインガラニア。話し合いをしよう」

「貴様──なぜ私の名を! ハッ……! そうか、貴様……! 貴様が……我が息子ウインドシアを手に掛けた鑑定士フィード・オファリング……!」

「へぇ、察しがいいな。さすがは叡智の一族。そう、ボクがフィード。お前の息子のかたきだ。で、なぜ急に人を襲ってきた?」

「言わずとしれたこと! 貴様をこの手でほうむり去るためだ!」

 そう言ってウインガラニアは、背中に乗るボクを振り落とそうと背面飛行しようとする。

「グァッ──!」

 ボクは再び首へ回した腕に力を入れると、ワイバーンの体の向きを直す。

「ぐぁ……! 貴様、なぜ人間ごときがそんな力を……! それに、一体どうやって私の背中に……」

「その質問に答える前に。まず誤解があるようだけど、ボクはウインドシアに殺されそうになったんだ。先に危害を加えてきたのは向こう。ボクは身を守っただけ。わかる?」

「だからなんだというのだ! 息子が悪いとでも言つもりか!?」

「そう、悪いんだよ。あいつはボクを殺そうとした。クラスの魔物たちは、みんなボクを助けようとしてくれてたのにね」

 ◯✕ゲーム。
 みんなが「ボクを殺さない」の「◯」へと移動する中、一人だけ「✕」を選んだウインドシア。
 生き残るために、ボクはヤツを倒さないといけなかった。

「ハッ! 人間ごときに情けをかける意味などなかろう! しかも貴様は鑑定士! 我が息子のフィードになるべき芳醇ほうじゅんなる栄養分にしか過ぎぬ存在!」

「そうか、そうだな……フィード。魔物ならそう考えるか。でも残念、今はフィードの方は切り離されててね。で、ボクのことは誰に聞いたんだ? そしてどうしてここに?」

「竜族の情報網をナメるでない! 小トカゲ一匹からでもあらゆる情報が我らの元へと集まってくるわ!」

 小トカゲ……まぁ、たしかに竜族ではあるな。

「それで? お前の他にもいるのか? ボクに仇討あだうちしようとしてるやつは」

「いるはずがなかろう! 貴様を捕捉できる叡智を持って、困難に打ち負けずに壁を超え、人間界を蹂躙できる圧倒的な力を持ちし存在! そんなもの、この私以外にはいないのだから!」

「そうか……なら、話し合いで解決できる可能性は……」

「あるはずがなかろうっ! ここで会ったが運の尽きだ! この命と引き換えにしてでも貴様には死んでもらう! あぁ……そうだ、あの壁上にいるゴミムシ二匹と一緒に潰してやろう。いくら方向を変えようと無駄だぞ? なぜなら、私が今からするのは『飛行』ではなく『落下』なのだから! この世で最も堅き龍の鱗と、人の作りし醜い石の塊の間に挟まれて死ね! いくら貴様の力が強かろうと無駄無駄無駄ァ! この先に貴様に待ち受けているのは、必ず訪れる──必然の死なのだからァ!」

 そう言って壁の上空へと向かおうとするウインガラニア。

「ご弁説べんせつどうも。でも、二人を巻き込むわけにはいかない。なぁ、ワイバーン、これはボクとお前の間の話だろ? 誇り高き竜族だというなら、お前は正々堂々一騎打ちでも挑むべきだった。そうすれば、今の蜘蛛の体のボクを倒せたかもしれなかったのに。もう魔力も尽きかけな、あと一発、初歩的なスキルを撃つしか出来ないボクを倒せたかもしれなかったのに」

 その声も、もうワイバーンの耳には届いていない。

「ギャハハハハ! 死ね死ね死ね、人間よ! すり潰されて死ぬがいいぃぃぃぃぃぃぃぃい!」

 ボクは、すぅと小さく息を吸うと、ウインガラニアの耳元で一音ずつハッキリと告げた。

「そうはならないよ、だって──」


 【虚勢ブラフ
 

「お前は、もうから」


 グラァ──。


 壁に向かって空を飛んでいたワイバーンが揚力ようりょくを失い、壁に向かって墜落していく。

『おいおい、アブねぇぞ! お前もう魔力ないんだろうが!』

 サタンが頭の中に話しかけてくる。

(アハハ、たしかに……。わりと早まっちゃったかも)

『うぉぉぉい! マジで何してんだよ、お前! お前が死んだらオレも終わりだろうが!』

(あ、うん、ごめん)

『ごめんじゃねぇぇぇぇぇ!』

 そう言ってる間に。


 ドッガーーーーーン!


 ウインガラニアは城壁の中腹、『絶壁クリフ・ブラセル』へと激突した。
 そしてボクは……。


『うぉぉぉぉぉい! 重てぇ! 早く降りろ! ああ、もう体が消滅する! 早く降りてお前の体の中に入れさせろって!』

 少し大きめのベルゼブブの姿へと変化した魔神サタンにぶら下がっていた。

「ありがと~、ここが魔界だからちょっと大きな姿になってるのかな?」

『んな呑気のんきなこと言ってんじゃねぇ! いくら魔界でも壁との境界線上なんか神のオーラがバッチバチだっつ~の! ほら見ろ! 体崩壊してきてんだろ! っていうか、あ、もう限界。体の中に戻るわ!』

 そう言うと、見る見る小さくなっていったサタンベルゼブブはシュッとボクの口の中に戻った。
 となると、当然ボクの体は宙に放り出されるわけで。
 魔力の尽きたボクの体は、なすすべなく下へと落下していくわけで。

(ああ、終わった……?)
(リサ、ルゥ、モモ、テス、お父さんお母さん、パル、それからみんな……)
(ごめん……)
 
 そう思って、目を閉じた瞬間。


 ハシっ──!


 ボクの両手を。


 必死な顔をしたドミーとディーが掴んでいた。


 そして、この二人はこの日をさかいに。

 竜をとした『絶壁の英雄ドミーディー』として。

 『竜墜としワイバーンキラー』という二つ名とともに、後世へと語り継がれていくこととなった。
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