116 / 131
第114話 エルフの間では常識
しおりを挟む
「ん……え、なんで……私、毒爪が刺さって死んだはずじゃ……」
床に横たわっていたディーが目を覚ます。
頭からかけていたベールも剥がれ落ち、エルフ特有の長い耳が露わになっている。
「治したんだよ」
「治した……って、あんな即効性の猛毒、こんなボンクラ神父ごときじゃ治せないでしょうし、一体どうやって……! うっ……」
急に起き上がったディーは、立ち眩みを起こして頭を押さえる。
「ああ、ダメですよ、無理に起き上がったら」
そばに控えてるルゥが優しく諭す。
「うむ、魔純水は肉体と魔力を癒やすが、心までは癒せぬのでな。おぬしの場合、かんぜんに打ち砕かれたせいしんてきショックのほうが大きかろうて」
「エ、魔純水だとっ……!? この世にほとんど存在のしない……奇跡の回復役をお前らが持っている……? 嘘も休み休みに言え……! そんなもの、実在したとしても国宝級のマジックアイテムだぞ! この私とて目にしたことのないものだ……ぞ……?」
とぷんとぷんっ。
テスは、透明な水筒に入れられた魔純水をディーの目の前で揺らす。
「やはり持ってきてよかった。ララリウムやクラスのれんちゅうに使ってだいぶ減っていたからな。ったく、ルードのお人好しにもほどがある。こんな奴にきちょうな魔純水を飲ませるとは」
「こ、これが、全部、魔純水……だと……? そんな……そんなことが……。貴様ら……本当に一体何者なのだ……」
「だから言っただろ? 拐われたから逃げ出してきたんだって。魔界からね」
「ま、魔界ぃ!? 魔界って、この壁の向こうの……ということは、貴様ら……」
「うむ」
「あ~、やっと窮屈な足から解放されますわ~!」
ぴょこん。
ぬるんっ。
テスのお尻から尻尾が。
セレアナの足が魚へと変化する。
「あ、悪魔に……魔物……」
「うむ、わがはいが、悪魔界じょれつ一位の大悪魔、テス・メザリアである! 頭がたかいぞ、エルフよ!」
「そして、私が、いずれ世界に君臨する歌姫、セレアナ・グラデンですわぁ! さぁ、頭を上げて私の姿を目に焼き付けなさぁい!」
めちゃめちゃ上から目線な二人。
はたして頭を上げればいいのか、下げればいいのか。
ディーはへたり込んだまま、おろおろと狼狽える。
「あらら、もうめちゃくちゃだよ……」
「でも、私たちらしくていいんじゃない?」
「ふふっ、そうですね。さいわい周りに誰もいませんし。ディーさんともお互い秘密を抱える同士ですし?」
ボクの左右に位置どるリサとルゥが、わりと前向きなことを言う。
人間になったとはいえ、こういう考え方がどことなくまだ魔物っぽい。
「ま、そうともいえるか。よし、じゃあ……」
ボクはしゃがみこんでディーに笑いかける。
「ヒィッ──!」
ディーは逃げようとする。
が、腰を抜かしていて上半身だけが後ろにのけぞる。
ディーの豊満な肉体が、怪しい色の照明にぬらぬらと照らし出される。
「やっと、話し合いができるね」
真っ青な顔をしたエルフ──ディーの体に、顔を真っ赤にした神官ラルクくんがそっと布をかけた。
床に座り込んだまま、まるで雪山の遭難者かのように布をかぶって、ちんまりとなっているディーに確認する。
「じゃあ確認するよ? ひとつ、ボクたちに二度と手出しをしない。ふたつ、ラルクくんと教会に出を出さない。みっつ、人を誘拐しない。いい?」
「はい……」
シュンとしたディーが地面を見つめたまま返事をする。
「よし、これでボクたちの目的達成だな!」
パァン!
リサ、ルゥとハイタッチする。
人間界に戻ってきていきなり神だなんだに巻き込まれて面食らったけど、こうして自分たちの力で目の前の困難を取り除くことが出来て満足だ。
うん。
この調子なら、きっと人間界でリサとルゥの安住の地を見つけることも出来るはずだ。
軽く悦に入るボクの頭にサタンが話しかけてくる。
『おい、あれ聞いといたほうがいいんじゃないか?』
(あれって?)
『壁のやつらだぞ? お前を魔界に連れ去った連中のことも知ってるかもしれねぇぞ』
!
た、たしかに……!
ドタバタしすぎてて全く気が付かなかった……。
「ディー。あ~、それとドミーも。一ヶ月くらい前にここを抜けて魔界に行った奴らに覚えはないか?」
「魔界に……正直、多すぎてわかんないッスね……」
「そんなに?」
「ええ、そこらへんは個人の裁量なんで……いちいち管理もしてないし、知ってても誰も言わないッスね」
「金を貰って通してるってことだよな?」
「そうッスね。で、その金は酒と女に消えちまうんで、もう証拠も残ってないと思うッス」
「そっか……手がかりはなし、か」
う~ん、目の付け所はいいと思ったんだけどな。
ボクを拐った連中。
気になるは気になるけど、今はリサとルゥ。
それにボクの肉体とフィードを取り戻す。
それからテスを魔王に会わせることの方が大事だな。
あ、魔王。
そういえばエルフって長生きだよな。
まぁ、知らないだろうけど一応聞いてみるか。
「ねぇ、ディーは魔王について何か知らない?」
「は? 魔王? 魔王ってタナトアのことか?」
「タナトア? え? 知ってるの?」
「お主、知っているのか! 魔王タナトア様のことを!」
「知ってるも何もエルフの間では常識だぞ? 人間界にやってきた魔王タナトアは……」
ドガァ──!
轟音が鳴り響いて壁が、揺れる。
兵士の顔に戻ったドミーが素早く表に出ると、中に向かって叫んだ。
「ディーの姐さん! ワイバーンの襲撃ッス!」
床に横たわっていたディーが目を覚ます。
頭からかけていたベールも剥がれ落ち、エルフ特有の長い耳が露わになっている。
「治したんだよ」
「治した……って、あんな即効性の猛毒、こんなボンクラ神父ごときじゃ治せないでしょうし、一体どうやって……! うっ……」
急に起き上がったディーは、立ち眩みを起こして頭を押さえる。
「ああ、ダメですよ、無理に起き上がったら」
そばに控えてるルゥが優しく諭す。
「うむ、魔純水は肉体と魔力を癒やすが、心までは癒せぬのでな。おぬしの場合、かんぜんに打ち砕かれたせいしんてきショックのほうが大きかろうて」
「エ、魔純水だとっ……!? この世にほとんど存在のしない……奇跡の回復役をお前らが持っている……? 嘘も休み休みに言え……! そんなもの、実在したとしても国宝級のマジックアイテムだぞ! この私とて目にしたことのないものだ……ぞ……?」
とぷんとぷんっ。
テスは、透明な水筒に入れられた魔純水をディーの目の前で揺らす。
「やはり持ってきてよかった。ララリウムやクラスのれんちゅうに使ってだいぶ減っていたからな。ったく、ルードのお人好しにもほどがある。こんな奴にきちょうな魔純水を飲ませるとは」
「こ、これが、全部、魔純水……だと……? そんな……そんなことが……。貴様ら……本当に一体何者なのだ……」
「だから言っただろ? 拐われたから逃げ出してきたんだって。魔界からね」
「ま、魔界ぃ!? 魔界って、この壁の向こうの……ということは、貴様ら……」
「うむ」
「あ~、やっと窮屈な足から解放されますわ~!」
ぴょこん。
ぬるんっ。
テスのお尻から尻尾が。
セレアナの足が魚へと変化する。
「あ、悪魔に……魔物……」
「うむ、わがはいが、悪魔界じょれつ一位の大悪魔、テス・メザリアである! 頭がたかいぞ、エルフよ!」
「そして、私が、いずれ世界に君臨する歌姫、セレアナ・グラデンですわぁ! さぁ、頭を上げて私の姿を目に焼き付けなさぁい!」
めちゃめちゃ上から目線な二人。
はたして頭を上げればいいのか、下げればいいのか。
ディーはへたり込んだまま、おろおろと狼狽える。
「あらら、もうめちゃくちゃだよ……」
「でも、私たちらしくていいんじゃない?」
「ふふっ、そうですね。さいわい周りに誰もいませんし。ディーさんともお互い秘密を抱える同士ですし?」
ボクの左右に位置どるリサとルゥが、わりと前向きなことを言う。
人間になったとはいえ、こういう考え方がどことなくまだ魔物っぽい。
「ま、そうともいえるか。よし、じゃあ……」
ボクはしゃがみこんでディーに笑いかける。
「ヒィッ──!」
ディーは逃げようとする。
が、腰を抜かしていて上半身だけが後ろにのけぞる。
ディーの豊満な肉体が、怪しい色の照明にぬらぬらと照らし出される。
「やっと、話し合いができるね」
真っ青な顔をしたエルフ──ディーの体に、顔を真っ赤にした神官ラルクくんがそっと布をかけた。
床に座り込んだまま、まるで雪山の遭難者かのように布をかぶって、ちんまりとなっているディーに確認する。
「じゃあ確認するよ? ひとつ、ボクたちに二度と手出しをしない。ふたつ、ラルクくんと教会に出を出さない。みっつ、人を誘拐しない。いい?」
「はい……」
シュンとしたディーが地面を見つめたまま返事をする。
「よし、これでボクたちの目的達成だな!」
パァン!
リサ、ルゥとハイタッチする。
人間界に戻ってきていきなり神だなんだに巻き込まれて面食らったけど、こうして自分たちの力で目の前の困難を取り除くことが出来て満足だ。
うん。
この調子なら、きっと人間界でリサとルゥの安住の地を見つけることも出来るはずだ。
軽く悦に入るボクの頭にサタンが話しかけてくる。
『おい、あれ聞いといたほうがいいんじゃないか?』
(あれって?)
『壁のやつらだぞ? お前を魔界に連れ去った連中のことも知ってるかもしれねぇぞ』
!
た、たしかに……!
ドタバタしすぎてて全く気が付かなかった……。
「ディー。あ~、それとドミーも。一ヶ月くらい前にここを抜けて魔界に行った奴らに覚えはないか?」
「魔界に……正直、多すぎてわかんないッスね……」
「そんなに?」
「ええ、そこらへんは個人の裁量なんで……いちいち管理もしてないし、知ってても誰も言わないッスね」
「金を貰って通してるってことだよな?」
「そうッスね。で、その金は酒と女に消えちまうんで、もう証拠も残ってないと思うッス」
「そっか……手がかりはなし、か」
う~ん、目の付け所はいいと思ったんだけどな。
ボクを拐った連中。
気になるは気になるけど、今はリサとルゥ。
それにボクの肉体とフィードを取り戻す。
それからテスを魔王に会わせることの方が大事だな。
あ、魔王。
そういえばエルフって長生きだよな。
まぁ、知らないだろうけど一応聞いてみるか。
「ねぇ、ディーは魔王について何か知らない?」
「は? 魔王? 魔王ってタナトアのことか?」
「タナトア? え? 知ってるの?」
「お主、知っているのか! 魔王タナトア様のことを!」
「知ってるも何もエルフの間では常識だぞ? 人間界にやってきた魔王タナトアは……」
ドガァ──!
轟音が鳴り響いて壁が、揺れる。
兵士の顔に戻ったドミーが素早く表に出ると、中に向かって叫んだ。
「ディーの姐さん! ワイバーンの襲撃ッス!」
応援ありがとうございます!
5
お気に入りに追加
978
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる